IZUMO2〜鬼畜ショタ性記〜 作:イズモ
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アマテラス達が暮らす里から遠く離れた場所にある小さな湖。
霊力に満ちて、月明かりに照らされる湖に薄絹一枚だけを着た長い銀色の髪の少女が祈りを捧げるように両手を合わせながら湖に身を沈めていた。
彼女の名は『ヒミコ』。彼女こそが現在のネノクニの神であるアマテラスとカグツチの命を狙い、ネノクニを陰から守護し続けて来たリンドの一族を滅ぼした悪霊の長であり、遥か昔人間だった頃の『四聖獣』達の主でもあった。その真の名は『徐福』。
彼女はリンドの一族との戦いによって力と率いる悪霊の勢力の半分以上を失い、状況を好転させる為にこの数ヶ月動いていた。
だが、側近である『麒麟』とオオナムジに命じたかの一族の遺産は見つけられず、勢力としての回復も一向に進まない。
その原因の一端には、これまでのヒミコのやり方も関わっている。何せ従わなければ、ヒミコはその相手を滅ぼし、力を吸収するというやり方を繰り返していた。その弊害に寄って、知恵のある悪霊や人間はヒミコから隠れている。新たに加わった悪霊もいるが、大抵の者は獣と変わらない知恵しか持たず、ヒミコの護衛として残っているミナカタも、軍の立て直しに苦労していた。
そんなヒミコに残された手段は自らの希望であるアシハラノクニからの『悪霊の救世主』召喚。その為に湖に身を沈めて精神をヒミコが集中させている時……。
「っ!? ……これは……一体?」
突如としてヒミコは、不可思議な縁が自身と誰かとの間に結ばれた事を感知した。
「……確かにこれは私の呪力に寄る呪いの縁……ですが、このような呪いを誰かに施した覚えは……」
それはヒミコの覚えのない呪いの縁。何故ならば、『ヒミコは反魂の術を用いてアシハラノクニからまだ誰も召喚していないのだから』。
正体を探る為にヒミコがその呪いの縁に干渉した瞬間……。
「っ!? ……なるほど。そう言う事でしたか」
呪いの縁に紛れて伝わって来た思念に、ヒミコは全てを悟った。その呪いに込められていたのは、
その思念から伝えられた情報を知り、ヒミコは安堵の息を吐く。差し迫っていたネノクニの神であり、自分達の最大の敵であるアマテラスとカグツチが僅かな間ではあるが、自分達に対して積極的に動けない事が分かったからだ
「予想外でしたが、私達に猶予は出来ました。後はこの猶予を活かせるかどうか……この手段は私達にとっても諸刃の剣なのですから」
意味深な言葉を発しながら、ヒミコは湖から上がり、自身の配下達が待つ場所に向かうのだった。
「……ぅん……朝?」
保健室の窓からカーテン越しに差し込む光に、ベットで眠っていた琴乃は目を覚ました。
ゆっくりと目を擦りながら起き上がり、自分が入る場所を見回して落ち込む。
「……やっぱり夢じゃないのね」
「ええ、そうよ」
「っ!?」
誰も返事しないと思っていたのに返答が帰って来た事に琴乃は驚き、慌てて声のした方を見てみる。
其処には保険医の先生が座る席に座っている男物の着物を着た美女-『ツクヨミ』がいた。
驚いて呆然と自身を見つめている琴乃を、安心させるようにツクヨミは柔らかく微笑む。
「そう警戒しないで。貴女に危害を加えたりはしないわ。私はツクヨミ。昨夜貴女が会った佐久夜の伯母よ」
「佐久夜さんの……」
言われてみれば確かに佐久夜にツクヨミは似ていた。
(でも、伯母さんと言う割には少し若いような?)
琴乃の見たところ、ツクヨミは十代後半から二十代前半。佐久夜と一緒に並べば、姉妹と言われても違和感を感じないほどにツクヨミは若かった。
「ところで、貴女の名前は白鳥琴乃で良いのよね?」
「あっ、はい。私は白鳥琴乃です」
「じゃあ、琴乃って呼ばせて貰うわね。アシハラノクニでは後半の方が名前なんでしょう?」
「そうですけど……あの……」
そう言えばと言うように琴乃は保健室を見回し、昨晩寝る前まで一緒にいてくれた佐久夜を探す。
「佐久夜なら別室で休んでいるわ。私が引き継いだ後、
「はぁ……(もしかして、私が休んだ後もあの悪霊と呼んでいた鼠や蜘蛛と戦っていたのかしら?)」
琴乃の見た限り、佐久夜は妹の明日香と同い年かもう一つ下ぐらい。出会った時に他にいた桂香と言う女性は、自分よりも年上そうだったが、最後の一人であるリンドに至っては明らかに年下。
そんな人達が明らかに人外の化け物と戦っているだけで、琴乃の常識からすればあり得ない事だ。
そう琴乃が考えていると、保健室の扉の向こうから声が聞こえて来る。
「失礼します、ツクヨミ様。朝食を持って来たんですけど……」
「入って来て構わないわ」
「では、入らせて頂きます」
入室の許可が貰えると共に、噂をすればと言うように昨晩琴乃が出会った内の一人、桂香が朝食らしきものを乗せたお盆を持って入って来た。
「おはようございます、ツクヨミ様」
「おはよう、桂香」
「アシハラノクニから来られた方に朝食をご用意しました」
「そう。琴乃。朝食よ。昨日の夜から貴女、何も食べていないんでしょう?」
「あの、でも……」
「別に遠慮しなくて構わないわよ。桂香も、変な物は入れてないでしょう?」
「勿論です。ただアシハラノクニの方に味が合うかは自信が無くて……」
「其処は我慢して貰うしかないわね。ほら、琴乃。お腹は空いてるんでしょう?」
言われて琴乃は思わずお腹を押さえてしまう。ツクヨミの指摘通り、昨晩から何も食べていなかった琴乃は、お腹が空いていた。
「あっ、じゃあ頂きます」
「どうぞ」
桂香から手渡されたお盆を受け取り、琴乃は恐る恐るお盆に乗っていた箸を使って先ずはおかずである山菜やキノコの炒め物を食べてみる。
「あっ、美味しいです」
アシハラノクニのような凝った料理の味ではないが、薄い塩味で健康にも良さそうなので病弱な琴乃には口に合っていた。
「良かった。おかわりもありますから、どうぞ食べて下さい」
「ありがとうございます……え~と」
「そう言えば名乗っていませんでしたね。私は桂香。アマテラス様達にお仕えする巫女です」
「白鳥琴乃です。白鳥が名字で、名前が琴乃なので。琴乃と呼んで下さい……桂香さんは、その本物の巫女なんですか?」
「本物も何も、偽物の巫女なんているのでしょうか?」
ネノクニにとって巫女とは神や精霊に仕える重要な役職。
何せ悪霊と直接戦う役職でもあるのだから、騙りで巫女を名乗ったりすれば命が本気で危ないのだ。
桂香は一緒に持って来ていた急須に手を伸ばして、お茶を湯呑みに注いで琴乃に差し出す。
「はい、琴乃さん。煎じたお茶です」
「ありがとうございます」
(アレは……リンドが力で生み出した薬効の葉のお茶ね)
様子を見ていたツクヨミは、桂香が琴乃に飲ませようとしている茶の正体を察した。
早速リンドが陰で琴乃を得る為に動き出した事をツクヨミは悟るが、何も言わない。実際、今桂香が差し出している茶は治療効果が優れている。
その薬効の植物もリンドは発生させられるので、里の近くに自生させて今では薬の元の一つとして里で使われている物なのだ。
そんな事をツクヨミが考えていると、琴乃が何かを訊きたそうにツクヨミに顔を向けて来た。
「何かしら、琴乃?」
「あっ、いえ、その……佐久夜さんのお父さんは、私と同じアシハラノクニの人だって聞いたんですけど……」
「ええ、その通りよ」
「……じゃあ、あのもしかして帰れなかったんですか? 佐久夜さんは帰る方法があるって教えてくれましたけど」
「
「アマテラスさん……」
(最も、アマテラスに会っても貴女はすぐには帰れないけどね)
昨晩の内にツクヨミは、リンドが言っていた琴乃に掛けられている呪いを調べていた。
(リンドの言う通り本当に厄介な呪いを掛けられてるわね。これじゃあ呪いを解かない限り、『反魂の術』を使っても、この子はアシハラノクニへは帰れない)
邪神ヨモツオオカミに仕えていた元悪霊の将であるだけに、ツクヨミはアマテラス以上に呪いの類に関しては詳しい。
琴乃に掛けられている呪いは、心身に影響を及ぼす類ではないが、『反魂の術』を無効化させる力を持っている。その上……。
(確かに変な呪いの掛かり方なのよね。すぐに解けそうにも見えるし、解けないようにも思える。本当にリンドの言う通り変だわ)
琴乃に掛けられている呪いは、確かに効果を発揮しているが、その呪いの掛かり方が歪なのだ。
(他にもリンドが言っていた
そうツクヨミが思っていると、保健室の扉が開き、眠そうに目を擦っている佐久夜の背を押す穂乃香が入って来た。
「佐久夜様! 確りして下さいよ!」
「だってまだ眠いんだもん」
「今日は朝には里に向かうって事になってるんですよ! もう、どうしてそんなに眠そうなんですか!?」
「うぅ、ごめん、穂乃香」
身嗜みも整え切れていない佐久夜に穂乃香は注意しながら、ツクヨミに顔を向ける。
「ツクヨミ様! おはようございます!」
「おはよう、穂乃香。何時も通り元気ね」
「はい! それが私の取柄ですから! あっ! 貴女がアシハラノクニから来た方ですね。私、桂香ちゃんと同じでアマテラス様に仕えている巫女の穂乃香って言います!」
「え~と……し、白鳥琴乃です」
「白鳥琴乃ちゃんですね!」
「穂乃香。アシハラノクニでは名前の方が後ろに来るらしいわよ」
「じゃあ、琴乃ちゃんで良いんですね!?」
「は、はい!」
元気一杯だと言うように話しかけて来る穂乃香のテンションに、琴乃は気圧されながら返事を返した。
そんな琴乃の様子に、申し訳なさそうに桂香が話しかける。
「ごめんなさい、琴乃さん。穂乃香には悪気はないんです。穂乃香、もう少し落ち着いて話しかけないと」
「ごめんなさぁ~い」
元気一杯だった様子から打って変わり、落ち込みながら穂乃香は琴乃に謝罪をした。
「あっ、大丈夫ですからお気になさらないで下さい」
「そう。良かった。ごめんね。アシハラノクニの人って私達の里だとカグツチ様みたいなえい……」
「穂乃香」
「あっ……」
(どうかしたのかしら?)
桂香に強めに名前を呼ばれて口元を両手の裾で押さえた穂乃香の様子に、琴乃は首を傾げた。
疑問に思って問いかけようとしたところで……。
「賑やかなのは良いですけど、穂乃香。佐久夜様をお連れしたんだったら、私とリンドにばかり運ぶのを任せてないで手伝って欲しいんですけど。貴女が皆で食べたいから此処に来ようって言ったはずですよね」
開いている保健室の扉の向こうから、両手にお盆を持った護が入って来て穂乃香に不機嫌そうな視線を向けた。
「護ちゃん! ああっ、ごめんなさい!」
「もう私とリンドで運んで来ました。あっ、ツクヨミ様の分もありますけど」
「ありがとう、護。頂いて行くわ」
精霊であるツクヨミに食事は必要ではないが、せっかくだからと思ったのか受け取った。次に護は桂香に次の御膳を渡す。
そして護の後に一つだけお盆を持ったリンドが入って来て、眠そうに船を漕いでいる佐久夜の前に置く。
「佐久夜お姉ちゃん。朝食だよ」
「うぅん……ありがとう、リンド」
「じゃあ、穂乃香。お詫びとして食事を作る場所に用意してある私とリンドの分をお願いね」
「え~と、護ちゃん。それだと私の分は何処に?」
「食事を作る場所に在るからもう一回行って来てね」
「ふぇ~ん! 護ちゃん、お慈悲を!?」
「……ふぅ~、だったら気を付けてね。じゃあ、行きましょう」
「ありがとう! 護ちゃん! 大好き!」
穂乃香と護は微笑みあいながら、保健室を出て行った。
その様子を見ていた琴乃は、すぐ傍にいる桂香に話しかける。
「な、仲が良いんですね?」
「ええ。でも、今は穂乃香の方が弄られましたけど、護は護で大変なんですよ。ああ、見えて木登りとか好きで、良く森に行くんですから」
「木登りを!?」
見た目に反して行動派な護に、琴乃は目を見開いて驚いた。
驚く琴乃に、手持ち無沙汰になったリンドが近寄って来る。
「昨日は挨拶出来なくてすみません。僕は佐久夜様の従者見習いを務めているリンドと申します」
アマテラスに仕える巫女達から教わった従者としての作法を行ないながら、リンドは頭を下げた。
まだ幼く見えるのに確りとした礼儀作法に、琴乃は一瞬驚くが、すぐに自身も頭を下げて自己紹介する。
「私は白鳥琴乃って言いま……えっ?」
「ど、どうかしましたか?」
いきなり自分の顔を見て固まった琴乃に、リンドは驚きながら質問するが、琴乃はジッとリンドの顔を見つめる。
(……似てる。背格好が、あの夢の中の男の子に……)
夢の中では顔が朧気なのでハッキリとは断言できないが、琴乃はリンドが最近見ていた『自分が年下の少年と結ばれて愛を誓う』夢の中の少年と似ていると気が付く。
「あ、あの……もしかして、何か失礼な事をしてしまいましたか?」
「あっ! ……ごめんなさい。そうじゃないの。その……似たような子を私の世界で見たから」
「僕に似たような子ですか?」
琴乃の言葉にリンドは首を傾げる。
当たり前だが、リンドは純粋なネノクニ生まれだ。アシハラノクニになど行った事がない。
しかし、琴乃の様子から何かを隠している事を悟ったリンドは、素早く食事をしながらも様子を窺っていたツクヨミに視線を飛ばす。
(ええ、分かってるわ)
視線の意味をツクヨミは察して、リンドの指が桂香を指している事にも気が付く。
(監視が必要って事ね。まっ、それ以外にも目的があるんでしょうけど、私も同意見だし)
「桂香」
「は、はい、ツクヨミ様」
「私はちょっと先に里に戻る事にするから、貴女が琴乃と一緒に馬に乗って里に戻って来なさい。代わりの巫女は私が里に戻って葉子に伝えておくから」
「分かりました。穂乃香と護には私の方から伝えておきます」
「任せるわ。食べ終えたし、先に行くわね」
フゥッと音もなくツクヨミの姿が消え去った。
「えっ!? き、消えた!?」
いきなり人が目の前から消え去った事に琴乃は目を見開き、口元に手を運ぶ。
そんな琴乃を落ち着かせるように、漸く起きたのか佐久夜が説明する。
「落ち着いて琴乃さん。伯母様は人じゃなくて精霊なの」
「せ、精霊?」
「うん、そう。初めて見るから驚くのは無理ないけど。このネノクニでは人や悪霊の他に、精霊と言う存在もいるの。ツクヨミの伯母様は精霊で、他にも此処にはいるよ。昨日話していた蔓さんがその精霊で……」
何処にいるのかと問いかけるように佐久夜は桂香に顔を向けた。
「蔓様でしたら、学び舎の周囲の悪霊が入って来られないように警戒されています。後で穂乃香と護も合流して、周囲の悪霊を減らす事になっています」
納得したと言うように佐久夜は頷くが、その様子を見ていた琴乃は、戦いの話を平然としている二人の様子に不安を抱く。
(私、やっぱりとんでもないところに来てしまったの……お母さん、お父さん、明日香……猛さん)
改めて自身の置かれている状況に不安を感じ始めた琴乃は気が付かなかった。
自分が夢の中の少年と似ていると感じたリンドが、憂いを帯びた自身の顔と制服に隠された肢体を見回している事に。
「ようこそ、ネノクニへ……私がこの里の長、アマテラスです」
案内された屋敷の中で、琴乃はアマテラスとカグツチ、そしてツクヨミに佐久夜と対面していた。一緒に里へと帰還した桂香とリンドはこの場には居ない。
出雲学園での朝食を終えた後、ツクヨミの指示通り桂香が琴乃と一緒に馬に乗り、佐久夜はリンドと共に馬に乗って、穂乃香と護に見送られながら学園を出て、『妖やかしの森』を通り、琴乃は隠れ里に連れて来られた。琴乃にとっては人生初めての馬上だったが、それを堪能している余裕はなかった。
帰還を果たすと共にカグツチが出迎え、久方ぶりのアシハラノクニの制服を見て懐かしそうにしていたが、それどころではないと理解しているので急いで屋敷に向かった。
屋敷に着くと共に桂香は巫女頭への報告の為に別れ、リンドも何か用事でもあるのか他の巫女に呼ばれて何処かへと急いで連れていかれた。
その時に佐久夜が不機嫌そうな様子を見せていたが、今の琴乃に気にしている余裕はなかった。
そして会談の場へと連れて来られた琴乃は、其処で自身を帰還させられる相手だと教えられていたアマテラスと対面を果たした。
(この人が佐久夜ちゃんのお母さん。そして私を元の世界に戻す事が出来る人)
神秘的な美しささえ感じられるアマテラスだが、やはり琴乃が一番気がかりなのは、自分が元居た世界に戻れるかどうか。
「し、白鳥琴乃です」
「琴乃さんですね。この度は大変な事に巻き込まれてしまったようですね」
「は、はい……あ、あの私が此方に来た理由とかは?」
「残念ですが、私達にも詳しい事は分かりません。私達が知っていたのは、悪霊側が『救世主』をアシハラノクニから呼ぶかもしれないという不確かな情報だけなのです」
「悪霊の……『救世主』?」
意味が分からないと言うように琴乃は呟いた。
実際、琴乃が見た悪霊と呼ばれる者は、巨大な鼠と蜘蛛。しかも、その鼠や蜘蛛に襲われたのだから。
「悪霊にも区別があるのです。琴乃さんが見た悪霊は低級の類に分類されます。ですが、これが高位の悪霊となれば人の姿を象り、知性を持つようになるのです」
「俺達はそんな高位の悪霊達と戦っている。そいつらの最終的な目的までは分からないが、間違いなくネノクニとアシハラノクニに大きな災いを呼び起こそうとしているんだ」
言いながらカグツチの脳裏に浮かんだのは、今はこの場には居ないリンドの姿。
『世界の理を守護する一族』であるリンドの一族は、悪霊を率いるヒミコによって滅ぼされてしまった。
そして今、目の前にアシハラノクニから召喚された琴乃までいる。しかも……。
(ツクヨミの話だと……琴乃ちゃんはもしかしたら……)
カグツチの脳裏に嘗て共に戦い、アシハラノクニで暮らしていた時は姉のように想っていた女性の顔が浮かんだ。
一瞬聞くべきかどうかカグツチは悩んだが……。
(いや、此処は聞いておくべきか。少しでも琴乃ちゃんの不安を晴らしておかないと。呪いの件もある)
昨夜の内からアマテラスとカグツチは、『宝貝』を使ってツクヨミから大体の事情は報告されていた。
その中で琴乃には呪いを施されている事も聞かされている。その事実を知らせる前に、少しでも琴乃の不安を減らす意味も込めてカグツチは口を開く。
「琴乃ちゃん。君に聞きたい事があるんだけど、良いかな?」
「な、何でしょうか?」
「そんなに不安そうな顔はしないでくれ。俺が君と同じようにアシハラノクニから来た事は、佐久夜とツクヨミから聞いていると思う」
「は、はい、聞いてます……あの、カグツチさんは……帰れなかったんですか?」
「いや、違うよ。俺は
「名前を変えて」
「ああ、だけど、君の不安を晴らせるかもしれないから、アシハラノクニでの名前を教えておくよ。アシハラノクニでの俺の名前は、『塔馬』。『塔馬ヒカル』だ」
「えぇぇぇっ!? 『塔馬』って……もしかして『六介』さんのご親戚の方なんですか!?」
「ハハハハハッ! もしかしてと思ったけど、やっぱりじいっちゃんと知り合いだったか」
懐かしい祖父であり、同時に実の父でもあった相手の名を聞いてカグツチは懐かしそうに微笑んだ。
「あっ! そう言えばお母さんが前に、六介さんにはお孫さんが二人いて、一人は私がまだ六介さんと知り合う前に外国に行って、もう一人の方は学生時代に遠いところに行ったって言っていたような……もしかしてそれは……」
「ああ、多分俺の事だ……(そうか、美由紀は外国に)」
生き別れになった妹の現状を知ったカグツチは、一瞬複雑そうな顔をした。だが、今は妹の事を気にしている場合ではないと話を続ける。
「君のお母さんは『綾香』さんで良いんだよね?」
「は、はい! そうです、『白鳥綾香』。結婚する前の名字は『橘』です」
「まあ……本当に綾香さんの娘さんだったんですね」
琴乃とカグツチのやり取りを聞いていたアマテラスも、懐かしそうに微笑んだ。
「アマテラスさんも母の事を知っているんですか?」
「ええ……あの日。この人が私の村にやって来た日に、貴女のお母様。綾香さんも一緒に村に来たんです」
「お母さんも……この世界に……でも、それじゃあ!?」
母親がネノクニに来ていた事は驚いた琴乃だったが、その母親がアシハラノクニに居る事を思い出して笑顔が浮かんだ。
元の世界に戻れる方法が確かに存在していると分かったからだ。だが、嬉しそうに微笑む琴乃に、アマテラスは申し訳なさそうな顔をする。
「琴乃さん。落ち着いて聞いて下さい。確かに貴女が元の世界に帰る方法はあります。そして私にはそれを行なう事が出来るのですが……少々時間が必要なんです」
「どうしてですか?」
「それは……」
「呪われているのよ、琴乃。貴女は」
「……えっ?」
言い淀むアマテラスに変わって、ツクヨミが琴乃に告げた。
一瞬、何を言われたのか分からずに琴乃が固まっていると、話を聞いていた佐久夜が慌ててツクヨミに問いかける。
「お、伯母様!? 琴乃さんが呪われているって、本当なの!?」
「佐久夜。注意深く琴乃を霊視して見なさい。変な掛かり方をしているせいで気付きにくいけど、確かに呪いが琴乃から見えるわ」
言われて佐久夜は琴乃をジッと見つめ、やがて琴乃の周囲に黒い淀みが渦巻いている事に気が付く。
「っ!? 本当だ……でも、この呪いって一体?」
巫女としての修業の一環で呪術とかも学んでいるのである程度の呪いの類を知っている佐久夜だが、琴乃に掛かっている呪いには覚えがなかった。
「佐久夜。貴女が分からないのも無理はありません。この呪いは本来ネノクニに生きる者にとっては、何の意味もない呪い。ですが、ネノクニからアシハラノクニに帰還する事が出来る『反魂の術』を無効化出来てしまう呪い……琴乃さん」
「は、はい!?」
「落ち着いて聞いて下さい、貴女には『死者でいる事を強制する呪い』が掛けられています」
「『死者でいる事を強制する呪い』?」
どう言う意味なのか分からず、琴乃は首を傾げた。その意味を説明する為に、アマテラスは口を開く。
「先ずこのネノクニは『死者の世界』と言われています。アシハラノクニは『生者の世界』。そして二つの世界を唯一渡る術である『反魂の術』は『死者』に分類されるネノクニの人間を、『生者』に分類されるアシハラノクニへと送る術。つまり、『死者を生者に返す術』。或いは『生者を死者に返す術』なのです」
「死者でいる事を強制されている琴乃は、どうやっても生者には成れない。心身に影響を及ぼす呪いではないけど、その分『反魂の術』を無効化するという一点において、これほど効果的な呪いはないわね」
「そ、それじゃあ、私は!?」
元の世界に戻れないのではと、琴乃は不安に駆られて悲痛そうな顔をした。
そんな琴乃を安心させるように、アマテラスは説明する。
「落ち着いて下さい、琴乃さん。確かに呪いのせいで、今すぐに貴女をアシハラノクニに帰還させる事は出来ませんが、呪いを解けばすぐにでも帰れます」
「……解けるんですか?」
「ええ、勿論。ただ少々厄介な呪いなので、詳しく調べる為に今しばらくこのネノクニにいて貰わねばならないのです。その代わりと言っては何ですが……綾香さんと連絡だけは取れるようにします」
「えっ? お母さんと連絡を?」
「はい」
アマテラスは頷くと共に、事前に用意していたのか小さな小箱を取り出して開けた。
琴乃が覗いてみると、其処には綺麗な二枚の貝殻が入っていた。
「この呪具は『宝貝』と呼ばれる物です。効果は離れた相手と会話出来る事ですが、その距離は世界を隔てようと関係なく会話を行なう事が出来ます。これを使ってアシハラノクニにいる綾香さんと連絡を取ります」
「でも、どうやって?」
話を聞く限り、アシハラノクニに行くのは今は自身には使えないという『反魂の術』だけだと琴乃は考えて、カグツチ、佐久夜、ツクヨミの顔を見回す。
もしかしたらこの場にいる誰かに頼むとか琴乃が考えていると、アマテラスは一枚の貝殻をツクヨミに差し出す。
「姉さん。これを綾香さんに届けて貰えませんか?」
「仕方が無いわね」
アマテラスとカグツチと違い、綾香とは明確に和解はしていないので少々思うところがあるツクヨミだったが……。
(綾香と会った事がある桃花は、自分の子供の面倒で忙しいし……それに)
意味深な視線を自身にアマテラスとカグツチが向けている事に、ツクヨミは気が付いている。
(分かってるわ。アシハラノクニに来た琴乃が呪われていた理由。それはつまり、アシハラノクニにヒミコの手の者がいるという事)
神秘が薄れたアシハラノクニに、悪霊の手の者がいるとは普通では考えられないが、ツクヨミには心当たりがあった。
(オオナムジは確かに人間を手懐けて、里に送り込んで内側から崩壊させる手も使っていた)
その事を考えれば、事前にアシハラノクニに配下の人間を送って悪霊の『救世主』を捜索している可能性がある。
人間ならば、例え神秘が薄れていようとアシハラノクニで活動する事が出来るのだから。
その事を踏まえれば、力を取り戻し、カグツチと『真の契りの儀式』を結びあった事で四聖獣を超えたツクヨミが向かうしかない。
(帰ってきたら、たっぷり私を抱いて貰うからね、ヒカル♥)
「じゃあ、行って来るわ」
「気を付けてな、ツクヨミ。あっ、でも綾香さんの住んでいる場所って分からないよな」
「大丈夫よ。綾香の気配なら覚えてるから、術で調べれば良いし。分からなかったら、貴方の『お爺様』に聞くからね」
「じいっちゃんに……」
アシハラノクニでカグツチの祖父となっている『塔馬六介』。
その正体は、カグツチにとって実の父親でもあるアシハラノクニの神『イザナギ』だった。
嘗てイザナミはカグツチを『夢を紡ぐ力』で産んだ後、アシハラノクニにいる自身が愛している相手であるイザナギにカグツチを送ったのだ。
本来は不老不死で老いる事がないイザナギだったが、アシハラノクニから神秘が薄れた影響なのか今は老人になっていた。
だが、それでも神と言う事に変わりはなく、イザナギならばツクヨミが力を使えばやって来るはず。或いはツクヨミがその気配を探して会いに行けばいい。
「あ、あの!? 六介さんだったら、今は剣道部の顧問をしています!」
「じいっちゃんが剣道部の顧問? 出雲学園の理事長は辞めたのかい?」
「はい。もうずいぶん前に理事長は辞めて、今はその昔の伝手で剣道部の顧問をしています」
「そっか。なら、ツクヨミ。もし綾香さんが見つからなかったら、アシハラノクニの方の学園を探せばじいっちゃんは見つかると思う」
「分かったわ、カグツチ。それじゃあ、今度こそ行くわね」
「頼む」
「お願いします、姉さん」
「伯母様、お願いね」
「お願いします……ツクヨミさん」
カグツチ、アマテラス、佐久夜、琴乃に見守られながら、ツクヨミはその姿を消失させ、ネノクニとアシハラノクニの境界を越えて渡ったのだった。
アマテラスの屋敷の奥部屋。
その部屋の扉の前には武器を携えた巫女が数名に座り込んで、警戒に当たっていた。
彼女達もまた、リンドの手によって『疑似契りの儀式』を結ばされ雌犬巫女に堕とされた者達。
この奥部屋の寝所の中には、リンドと『真の契りの儀式』を結び、里の者達にも子を宿してる事を知られている四聖獣の一人『青龍』がいる。
以前はお腹に宿る子の父親であるリンドの部屋で過ごしていたが、臨月が近く、その力の大半を失っているばかりか、宿している子が母親である青龍の力を更に吸収しようするので、里の中でも強い霊脈が下を通っているこの部屋で青龍は一日の大半を過ごすしかなくなっていた。
この青龍の寝所に入れるのは、アマテラス、ツクヨミ、巫女頭の葉子など女性が主。カグツチも部屋の入口の前までしか来れず、部屋の中には余程の事情が無ければ入れない。
唯一男性で自由に出入り出来るのは、青龍と『真の契りの儀式』を結んでいて気を送れる相手であるリンドのみ
ネノクニで崇められている青龍が居る場所として、神聖ささえ感じられるが……。
パンパンパンっ! じゅぶじゅぶっ! どじゅぶっ!
「ああぁぁん♥ リンドさまぁっ♥ あんっ♥ はっ♥ はげしすぎです♥ んあぁぁぁっ♥」
中で行なわれていたのは、神聖さなど感じさせない淫猥な行為。閉ざされた部屋の中には雄と雌の淫臭で満ちていた。
部屋の主である青龍は敷かれた布団の上で淡色系の髪を振り乱し、顔を淫猥に蕩けさせながら番の雄が与える快楽に溺れている。妊娠し、臨月が近い事もあって豊かさを増した乳房とお尻を揺らし、片足を抱えられる測位の体勢を取らされながら犯されていた。
「んはぁぁぁっ♥ ほ、ほんとうに激し過ぎますぅ♥ こ、子が驚いて起きて♥ ひああぁぁっ♥」
厚みを増した膣肉で己を孕ませた愛しい番の雄の剛棒を咥え込み、青龍は嬌声を響かせる。
「フフッ、おかしいね、青龍? 僕は子が気を欲してるって聞いたから急いで来たんだ、よっ!」
ごりゅっ!
「んおぉぉっ♥ あっ♥ あぁぁぁっ♥」
出産に向けて準備が進んでいる子宮口を剛棒が叩く衝撃に、青龍は顔を仰け反らせた。
「も、申し訳ありません♥ はっ♥ はっ♥ リンドさまの気配がすぐ近くにあるのを感じて耐えられませんでした♥」
本当に不安を感じていたと言うように、青龍は快楽に蕩けた顔をしながら不安からの涙を浮かべていた。
青龍自身お腹の中に宿り、胎内で成長していく我が子の存在を父親であるリンドと共に何よりも幸せを感じていた。先に桃花が産んだ李花を抱かせて貰った時は、何れ抱く我が子を想って天に昇るような心地だった。
だが、ある日、青龍は自分の力が減少どころでは済まず、急速に失われている事に気が付いた。
その原因は胎内に宿っている我が子。そもそもリンドの一族と青龍達四聖獣四人が盟約を交わしたのは、二千年以上前。当時ならばリンドの一族は精霊の血の方が濃かった。
だが、二千年経過した間にネノクニの内で邪神ヨモツオオカミが力を増すにつれて、精霊と言う強大な力を宿す存在の減少を恐れたリンドの一族は此処数百年の間、人間の方を伴侶とするようになっていた。
無論、ただの人間ではなく、今のリンドのように強い子が為せると見極められた相手とだ。
しかし、どちらにしても人間の血の方が濃くなってしまった影響で、青龍の子が『精霊』として産まれる為のエネルギーが必要だった。
その事実に気付いた時には、既に遅かった。ある日、青龍は突然倒れ、その身を消滅するかしないか寸前まで胎内に宿っている子に力を奪われ出したのだ。
慌ててアマテラス達は、里の中でも一番霊脈の力が集中しているこの部屋に青龍を運び、子の父親であるリンドに気を送らせる事で安定を促した。
(こんな事になるなら青龍も『アシハラノクニの学び舎』に居させるべきだった)
或いは本来青龍がいるべき洞窟ならば問題は此処まで大きくならずに済んでいた。
『アシハラノクニの学び舎』同様に霊地としては破格。其処からエネルギーを吸収すれば、だが、暗い洞窟の中で子を産み育てるのは、親として思うところがあったので拒否してしまった。
ならば同じ破格どころか、それ以上に霊地として優れている『アシハラノクニの学び舎』ならばと思うが、既に青龍は自力で空を飛べず、屋敷内を歩く事しか出来ない。
最悪の場合はリンドの部屋にある転移陣を使う事も考えたが、転移陣は使用者の霊力が必要。使用する事も今の青龍には出来ないほどにその力は落ちていた。
「ごめんね、青龍」
もしかしたら子を産み落とすことなく自分は消えてしまうのではと日々不安を感じている青龍を安心させるように、リンドは自分の子種で膨らんだのではなく、確かな生命を宿して丸々と大きく膨らんでいる青龍のお腹を優しく撫でる。
手のひらから確かに伝わって来る我が子の鼓動にリンドは優し気な笑みを浮かべた。
「リンドさまぁっ♥」
優しい番の雄の名を愛し気に呟きながら、青龍も一緒に自身の膨らんだ腹部を撫でる。
この一時が青龍にとって何よりも心地いい時間だった。ネノクニに迫る危機も、嘗ての仲間が起こしてしまった所業も忘れ、ただ愛する番の雄との心地よい時間。
だが……そんな時間を破壊するのもまた番の雄だった。
「でもね、青龍」
「ひあっ♥」
リンドの片手が以前よりも大きさを増した乳房を握った。
内部に蓄えられているもので重量を増しながらも、決して形は崩れず、程よい弾力と柔らかさが握っているリンドの手に伝わって来る。
「駄目だよ、僕に対して子を利用した何かをするのは、ねっ!」
「ひいぃぃぃぃっ♥」
ブシュオォォォッ!
思いっきりリンドの手が青龍の乳房を握った瞬間、乳首から白い濃厚な液体が勢いよく噴き出し、部屋の中に甘い香りが広がった。
更には止めていた腰も振り出し、顔を仰け反らせながら母乳を噴いている青龍を責め立てる。
「あぁあああっ♥ リンドさまっ♥ りんどさまぁっ♥」
すっかり開発されつくした乳房は母乳を噴くのも気持ち良いのか、絞られる度に青龍は歓喜の嬌声を上げ、雄の突きこみに膨らんだお腹を揺らして喘ぐ。
今の青龍を見て、嘗ての四聖獣として二千年の間ネノクニを守護していた彼女と同一人物だと思える者は少ないだろう。
(あぁっ♥ 私はもうこの方の番の雌♥ この方にされること全てが嬉しくて仕方がない♥)
お腹の中に子がいると分かっていても、リンドの剛棒を欲する事は止まらず、青龍は為すがまま犯されていく。自身も僅かながら腰を揺すり、柔らかな膣肉を締め付けて射精を促そうとする。
自らの番の雌の淫靡な求愛に興奮したリンドは、力強く、しかし、決して青龍に強い負担をかけない絶妙な動きで腰を振る。
「青龍! 青龍!」
「リンドさまぁ♥ りんどさまぁっ♥」
淫靡ではあるが確かな愛がリンドと青龍の間には存在し、やがて快感に耐えられなくなった剛棒が膣内で膨張するように膨れ上がり、大量の白濁液が子宮内に向かって射精される。
どびゅびゅびゅびゅびゅびゅ―――っっ!!」
「あはああああぁぁぁぁんんっ♥」
ぶしゅぅぅぅぅっ!!
リンドが張り巡らしている空間作用の力が無ければ、部屋の外にまで響き渡っていたと思えるほどの大きな嬌声を青龍は上げながら豊満な乳房から母乳を大量に噴出し、更には潮まで噴いて痙攣を繰り返す。
その表情は淫猥に蕩けきり、口元も笑みで歪んでいた。もうすぐ子を出産する母親がするとは思えないほどに淫靡な雌としての青龍の顔にリンドは自身の顔を近づける。
「んちゅっ♥ れるっ……ぢゅるぢゅるっ♥」
近づく顔に青龍は即座に反応し、自らも顔を近づけて唇を重ねてディープキスを行なう。
自らの体内で挿入されたままの剛棒が一向に萎えず、まだまだ愛する番の雄との一時が続く事に期待しながら。
アマテラス、佐久夜、琴乃の妊娠について。
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