※この作品はR-18です。

IZUMO2〜鬼畜ショタ性記〜   作:イズモ

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長くなりそうなので絶望の前編辺りです。
お気に入り、ありがとうございました!


白鳥琴乃・失恋処女喪失編 15

 部屋に満ちる空気を琴乃は重く感じていた。

 緊張で心臓はこれ以上に無いほどに高鳴っている。すっかり着慣れてしまった巫女服を纏いながら、目の前に座っているアマテラスを琴乃は見つめる。

 部屋の中にはアマテラスと琴乃だけではなく、ツクヨミとカグツチ、そして佐久夜もジッと静かに緊張した面持ちで座っている。琴乃にとって待ちに待った今日この日が訪れた。

 『鏡の精霊武具』を用いて自身が訪れた日を『過去視』で『見る』事になる日。

 今日この日の為に琴乃は霊力を扱う術を身に付けたのだ。

 深呼吸を琴乃は一度行ない、覚悟を決めたようにアマテラスに向かって頷く。

 

「アマテラスさん……お願いします」

 

「分かりました」

 

 アマテラスも琴乃に向かって頷き返し、札が張られた木箱を目の前に差し出した。

 『鏡の精霊武具』が納められている木箱。アマテラスは先ず封印の札を剥がし、ゆっくりと蓋を開けて以前琴乃も見た縁の辺りに装飾が施された円形の鏡が再びその姿を現した。

 

「っ!?」

 

 『鏡の精霊武具』を見た琴乃は思わず息を呑んでしまった。

 以前見た時には感じられなかった『鏡の精霊武具』が発する強い気配のようなものを、今の琴乃は感じる事が出来た。

 その様子を注意深く見ていたアマテラスは、琴乃が確かな成長を得たのだと実感し、複雑な思いに抱く。

 

(必要だったとはいえ、綾香さんの娘である琴乃さんに戦う術にも繋がる霊術を教えてしまったのは申し訳なく感じてしまう)

 

 本来、既に悪霊などの霊的存在の脅威が無くなったアシハラノクニで生きている琴乃にとって、治療の為もあったが霊的な技術を覚えるのは必要ない事。アシハラノクニに帰れば、琴乃が覚えた技術は必要が無くなり、嘗てはあの邪神ヨモツオオカミとさえ戦えた渚のように失っていくだけになる。

 だが、今だけはどうしても琴乃の力が必要なのだ。

 

「琴乃さん。先ずは『鏡の精霊武具』に触れて笛に霊力を送っていたようにして見て下さい」

 

「は、はい!」

 

 緊張しながらも琴乃は木箱の中に納められている『鏡の精霊武具』の縁に触れて、霊力を送り出す。

 すると曇って何も映せなかった筈の『鏡の精霊武具』が光り輝き、鏡の部分の曇りが消えて琴乃とアマテラスの顔をハッキリと綺麗に映し出した。

 

「映った……映りました、アマテラスさん!?」

 

「ええ、確かに映っています」

 

(私や姉さん、佐久夜が霊力を送っても何も映さずに曇ったままだった『鏡の精霊武具』が琴乃さんの霊力に反応した。やはり『無属性』の霊力が使用には必要なのですね)

 

 事前にアマテラスは、自身とツクヨミ、そして佐久夜の霊力を送って『鏡の精霊武具』が反応するか確かめていた。

 結果は言う間も出なく、『鏡の精霊武具』はアマテラス達の霊力では何の反応も示さなかった。

 鏡としての本来の役割も琴乃が霊力を送った事で漸く果たせるようになった点から見ても、『無属性の精霊武具』である『鏡の精霊武具』の使用には『無属性の霊力』が必要なのだとハッキリした。

 アマテラスは視線をカグツチとツクヨミに向ける。二人はすぐに察して頷いた。

 

「……では、次に手に持って構いませんから、先ずは里の全体を映せるかどうか確かめて見て下さい」

 

「わ、分かりました」

 

 許可を貰った琴乃は『鏡の精霊武具』を両手で持ち上げて、木箱から取り出す。

 そして指示に従おうとしたところで……。

 

(アレ? 何かしら?)

 

 琴乃は違和感のようなものを感じた。

 

(どうしてこんなに手に馴染むの?)

 

 まるで以前扱ったような印象を琴乃は感じていた。

 アマテラスに指示された事を簡単に出来てしまう。それを示すように『鏡の精霊武具』の鏡面に映っていた光景が変化し、上空から里を見渡している風景が映し出された。

 

「で、出来ました!」

 

「……確かに映っていますね」

 

「ああ、確かにこれは里だ」

 

「ええ、間違いないわ」

 

「琴乃さん! 凄いよ!」

 

 示すように琴乃が全員に見えるように『鏡の精霊武具』を持ち直すと、アマテラス達は鏡の部分を覗き込み、上空から里を見下ろすような形で映っている事に頷いた。

 

(効果は『千里眼の術』と同じもの。しかし、この里には結界が張られている筈……結界の内側に居たからなのでしょうか?)

 

(こういう時に『精霊武具』に一番詳しいリンドが居れば聞けるのに……何とかそろそろ記憶が戻った事に出来ないかしら?)

 

 アマテラスとツクヨミはそれぞれ考え込みながら、『鏡の精霊武具』を見つめる。

 琴乃からすれば簡単な事に思えるだろうが、結界が張られている里を上空から映し出している時点で異常なのだ。

 上空から発見されるのならば、空を飛べる悪霊や精霊によって簡単に里は見つけられてしまう。

 本来は結界によって上空から見ても里は見えない筈なのだ。なのに、『鏡の精霊武具』は里を上空から映している。

 

(気にはなりますが……里の外で改めて琴乃さんに試して貰う訳にはいきませんし……此処は先に進めましょう)

 

「では、琴乃さん。いよいよ貴女にとっては過去となる貴女がネノクニに来た当日の光景を映せるか試して下さい」

 

「……はい」

 

 待ちに待った時に、琴乃は真剣な顔をして『鏡の精霊武具』を持ち直し、再び自身を映している鏡の部分を見つめる。

 

「琴乃。無理はしないで良いわよ」

 

「ええ、幾ら使(・)え(・)る(・)とは言え、琴乃さんにとって初めて扱う『精霊武具』なのですから」

 

「分かりました」

 

(でも……出来そうな気がする)

 

 ツクヨミとアマテラスの言葉に肩の力を抜きながらも、琴乃は何処かで確信していた。自(・)分(・)は(・)『(・)鏡(・)の(・)精(・)霊(・)武(・)具(・)』(・)を(・)使(・)い(・)こ(・)な(・)せ(・)る(・)と(・)。

 

(お願い! 私がこの世界に来た日を映してっ!?)

 

 心の底から抱く強い願い。琴乃の強き願いに応えるように、『鏡の精霊武具』はその力を引(・)き(・)出(・)さ(・)れ(・)た(・)。

 

『っ!?』

 

 『鏡の精霊武具』が突如として光り輝き、琴乃の手から離れて宙に浮かび上がった。

 先ほど里を映した時とは違う反応にアマテラス達は咄嗟に身構えるが、『鏡の精霊武具』は力を発するのを止めずに、部屋の中の光景が一転した。

 

「こ、此処は!?」

 

 部屋の中に広がった光景に、カグツチは思わず立ち上がって周囲を見回す。

 広がった光景に在る物は、全てネノクニにある筈がないものばかり。だが、カグツチはその全てに見覚えたがあった。

 キッチンにテーブルに椅子など。暮らしている屋敷よりも確りとした造りの家。

 

「あ、貴方、此処は?」

 

「お、お父さん!? 私達どうなったの!?」

 

「アマテラス、佐久夜。落ち着いてくれ。多分、俺達が見ているこの光景は……」

 

「アシハラノクニのものよ」

 

 カグツチに続くようにツクヨミが告げた。

 ツクヨミも目の前の光景に見覚えは無いが、二週間以上アシハラノクニで過ごしていたのである程度の慣れは出来ていた。

 説明を聞いたアマテラスと佐久夜も冷静さを取り戻し、周囲を見回す。

 

「この光景がアシハラノクニのものなのですか?」

 

「ああ……内装は俺が知っているものと変わっているけど、此処は多分……」

 

「……猛さんと六介さんが暮らしている家です」

 

 今度は琴乃がカグツチの言葉に続くように答えた。

 カグツチ達が慌てて顔を向けて見ると、其処には目から涙を溢している琴乃が立っていた。その視線の先にいるのは……。

 

「えっ? ……琴乃さん?」

 

 キッチンに立って手際よく朝食の準備を進めている制服姿の琴乃がいた。

 

『もうすぐ朝御飯が出来るのに、猛さんたらまだ起きて来ない』

 

『じゃあ、お姉ちゃん!? 私がお兄ちゃんの事を起こしてくるよ!』

 

「……明日香」

 

 思わず懐かしさを感じながら琴乃は、過去の自分に声を掛けた相手である黒いセーラー服を着て、金髪の髪にピンクのリボンを二つ付けている可愛らしい少女-妹である『白鳥明日香』の名を呼んだ。

 

『お願いね、明日香』

 

『はーい! じゃあ行って来るね!』

 

『何時もすまないね、琴乃ちゃん、明日香ちゃん』

 

『あっ、六介さん』

 

『六介お爺ちゃん』

 

「じいっちゃん!?」

 

 光景の中の琴乃と明日香に続くように、カグツチは丸眼鏡を付けているが確りと鍛えている事が一目で分かる老人を懐かしい呼び方で呼んでしまう。

 

「この方が……」

 

「私の……」

 

「……ヒカルのお爺様」

 

 アマテラス、佐久夜、ツクヨミは、六介の姿をそれぞれ想いを抱きながら見つめる。

 やがて見ている光景の外で何か騒がしい音が鳴り響く。すると、先ほど出て行った明日香が先に部屋に入って来て、少し遅れて出雲学園の制服を着た茶色の髪の男性-『八岐猛』が入って来た。

 

「猛さん!?」

 

 想い人の姿を見た琴乃は思わず手を伸ばすが、スルッと伸ばした手は猛の身体をすり抜ける。

 

「あっ……」

 

『おはよう、じっちゃん』

 

『遅いぞ、猛』

 

 過去の光景でしかない猛は、当たり前の事だが触れようとした今の琴乃に気付く事無く育ての親である六介に挨拶をした。

 何とも言えない気持ちでアマテラス達はその様子を見つめるが、過去の光景は止まる事無く流れていく。

 

『もう高校生になったのだから、確りするんじゃぞ。学園でもたるんどるんじゃなかろうな? そんなんでは、今度も本(・)気(・)で(・)や(・)っ(・)て(・)も(・)剣(・)道(・)で(・)剛(・)君(・)に(・)負(・)け(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)ぞ(・)』

 

(剛ですって!?)

 

 聞き逃せない名前が六介の口から出た事にツクヨミは目を見開く。

 それはツクヨミだけではなく、アマテラスとカグツチもだ。

 

『お兄ちゃん、剛お兄ちゃんに負けちゃったの?』

 

『うん……まぁね』

 

『うわっ! 珍しくお兄ちゃんが暗くなってる!? お爺ちゃん、何があったの!?』

 

『新入部員同士での試合をやらせたんじゃよ。その時は猛も本気で参加しておったんじゃ。試合の決勝で剛君と当たってな。結果は猛のぼろ負けじゃった』

 

『そんな事があったんだ。でも、剛お兄ちゃんに負けるのなんて何時もの事だよね?』

 

『確かに何時ものことじゃ。じゃが、これまで猛は勝ち負けに拘らず、何処かで手を抜いておった。尤もその間に剛君は実力を上げて、猛が本気を出しても勝てないほどになっておったんじゃ』

 

『剛お兄ちゃん、凄い!?』

 

『……剛が強いのは分かってた事だろう?』

 

『たるんどるから負けたんじゃ!? ちゃんと本気で剣道に専念していれば、あそこまでボロボロに負ける事は……』

 

『まあまあ、六介さん、そう怒らないで』

 

「……琴乃。確認するけど、この光景は間違いなく貴女がネノクニに来た日の朝の光景なの?」

 

 少し落ち込んでいる琴乃に悪いと思いながらも、ツクヨミは大切な事なので質問した。

 

「……はい。間違いありません」

 

「そう……」

 

 試しに大よその位置でツクヨミが部屋の扉の在った場所に触れてみると、扉らしき感触が手に伝わってきた。そのまま横に動かしてみると、あっさりと扉が開く。

 僅かに顔を其処から出してみれば、見慣れた屋敷の通路が見える。部屋に戻れば、映された光景の中に立っている。どう言う訳か『鏡の精霊武具』は、鏡面の部分に光景を『映す』のではなく、部屋の中に光景を映(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。

 

(幻覚のようなものね。でも、まさか、声まで聞こえるなんて)

 

 通常では考えれないような出来事。

 しかも、琴乃の視点ではなく、客観的に見られるようにまでなっている。

 それを『鏡の精霊武具』は琴乃の想いに応えて、引(・)き(・)出(・)さ(・)れ(・)た(・)力(・)を用いて実行していた。

 

(まるで昔俺が見た『胎児の夢』みたいだ)

 

(これが『鏡の精霊武具』の『映す力』……ですが!? これは使(・)え(・)る(・)の領域を超えている!?)

 

 明らかに琴乃が『鏡の精霊武具』で行なった事は、この時点で使(・)い(・)こ(・)な(・)す(・)の領域に至っていた。

 しかも此れだけの事を行なっていながら、琴乃に疲れた様子は見えない。

 幾ら膨大な霊力をその身に宿しているとは言え、琴乃が『精霊武具』を扱うのは今が初めての筈なのにだ。

 明らかな異常事態にアマテラス達がどうすべきか考え込む中で、琴乃は涙を流しながら目の前に広がる光景を見つめる。

 

『ご馳走様、美味しかったよ、琴乃』

 

『うふふ、ありがとう、猛さん』

 

 何気ない日常。この日の朝の琴乃は、今日これから起きる出来事を何も知らない。

 一つ下の妹と共に母である綾香の代わりに、想い人の家の家事を行ない、学園に通って学ぶ何気ない日常。

 それがこの日に崩れてしまうなど、琴乃は夢にも思っていなかった。

 その間にも光景は流れ、猛、琴乃、明日香の三人は『塔馬家』を出た。

 

『じゃあ、私こっちだからもう行くね』

 

『気を付けてね、明日香』

 

『うん! お兄ちゃんとお姉ちゃんも気を付けてね!』

 

 中学三年生である明日香は、猛と琴乃と離れて自分が通う中学に向かって行った。

 出雲学園に通う猛と琴乃は歩道を歩いて、山の中腹にある学園に向かって行く。

 

「道が石で出来てる!? お父さん、この道って何!?」

 

「後で説明するから、今は待ってくれ、佐久夜」

 

「ええ……それにしても日付の話が出ませんね」

 

「忘れる事なんてないから、何かよっぽどの事情でもない限り話には出ないさ。じいっちゃんも朝はテレビとか付けないのは変わってないみたいだし」

 

「……すみません」

 

「いや、琴乃ちゃんが悪い訳じゃないから気にしないでくれ」

 

 懐かしい顔を見れた事に嬉しい気持ちはカグツチもあるが、目的はあくまで琴乃がアシハラノクニに帰還する為のイメージに一番必要なネノクニに来た日の日付。

 それが分からなければ、琴乃の願いである早期の帰還は叶わない。

 

「取り敢えず、学園に行けば日付も流石に分かる筈だ」

 

「はい、予定表とかあった筈ですから。後は授業の内容を見れば、曜日は分かると思います」

 

「よし、じゃあ、もう少しだけ見よう」

 

 心配な面はあるが、このまま確かめるだけで終わらせる事も出来ない。

 悩むような顔をしていたアマテラスとツクヨミも頷き、佐久夜も続いて頷くと、改めて光景に目を向ける。

 

『でも、明日香の言う通り珍しいですね』

 

『何が?』

 

『猛さんが勝ち負けに拘るなんて』

 

『いや、俺もあの時は自分でも驚いたんだよ』

 

『そうなんですか?』

 

『うん。普段は自分でも勝ち負けに拘るタイプじゃないって分かってるんだけど……あの時は剛に絶対に負けたくないって思ったんだ』

 

『どうしてですか?』

 

 何気ないやり取り。すぐに猛は答えるとこの時の琴乃は思ったが……。

 

(でも、違った)

 

『それは……』

 

『?』

 

 急に口を噤んだ猛の様子に過去の琴乃は首を傾げる。

 

(猛さんはこの時、何も答えてくれなかった)

 

 性格の為か。せっかくの二人っきりの登校であるにも関わらず、過去の琴乃は猛の後ろを付いて歩いている。故に過去の琴乃にはこの時の猛の顔は見えなかった。

 だが、『鏡の精霊武具』が映している幻影ではハッキリとその顔が見えた。

 

(どうしてそんな言い難そうな顔をしているの、猛さん?)

 

 何かを言い淀むような顔をしている猛の様子に琴乃は一抹の不安を感じる。

 幼い頃から付き合いがあり、今では家族に近い形で過ごしている相手にも言わない事に、琴乃が疑問と不安を募らせる中、一台のリムジンが琴乃と猛の隣の車道で止まった。

 

『やあ、猛、琴乃さん、おはよう』

 

『おはよう! 猛君に琴乃ちゃん!』

 

(っ!? ……剛に……汀!?)

 

 リムジンの窓が下がると共に黒髪の男性生徒-『大斗剛』と桃色の髪をポニーテールにして纏めている『倉島汀』が猛と琴乃に挨拶をして来た。

 

『おはよう、剛、汀』

 

『おはようございます、剛さん、汀さん』

 

「……琴乃? この二人は?」

 

 不自然に思われないようにしながらツクヨミは何気ない様子で琴乃に質問した。

 

「猛さんの幼馴染の剛さんと、お母さんの古い友人の娘さんで汀さんです。中学の時からの付き合いで、私よりも汀さんとは明日香の方が付き合いが長いんです」

 

「そう……」

 

(琴乃は剛と汀の知り合いだった……やっぱりこの二人のどちらか、或いは両方が『悪霊の救世主』の可能性が強まったわね)

 

 偶然ではあるが、琴乃が帰る少し前に聞こうとしていた人間関係が明らかになった。

 ツクヨミは問いかけるような視線を自分に向けているアマテラスとカグツチに向かって、微かに頷く。

 

(この二人が姉さんの言っていた『スサノオ』と『ヤマタノオロチ』の転生体!?)

 

(『大斗剛』君に『倉島汀』ちゃんか……)

 

 アマテラスとカグツチは表面上は何でもないように装いながら、しかし内心では驚愕しながらリムジンから降りる剛と汀の二人を見つめる。

 

『それで何の話をしていたんだい?』

 

『この前の新入生同士の試合の事だよ』

 

『ああ、あの試合か。あの時は本気で危なかった。何時になく向き合っていた猛から強い気迫を感じて、危うく負けそうだったよ』

 

『嫌味か? 結局俺のぼろ負けだったじゃないか』

 

『嫌味なんかじゃないさ。本当の事だ』

 

『猛君じゃ剛に勝つのは難しいよ。だって、家に帰ったら毎日僕と稽古してるもんね、剛は』

 

『そう言う事だ……練習試合とは言え、負けたりしたら汀にどんな目に合わされるか』

 

『頑張れ、剛』

 

 何処か人生に疲れた男子の雰囲気を発する剛の様子に、何かを察したのか猛は励ました。

 

『でも、今日も早いんですね?』

 

『ええ、まあ……此処最近悪夢に魘されることなくなったので、朝はすっきり起きられていますから』

 

(悪夢ですって?)

 

 聞き逃せない話題が剛の口から出た事に、ツクヨミ、アマテラス、そしてカグツチの三人の視線が剛に向く。

 夢と言う単語はそれだけ三人にとって重大な話題なのだ。何故ならば嘗てカグツチがネノクニのやって来る前にも、夢と言う形でアマテラスと出会っていたのだから。

 

『確か、かなり怖い夢だったんだよな』

 

『ああ、正直思い出したくもない夢だ。最初に『誰かが俺を呼ぶような声が聞こえて、其方に気が向いたと思ったら、背後から大きな大蛇に巻き付かれて、そのまま丸呑みにされるんだ』』

 

『こ、怖いですね』

 

『ええ……しかも、丸呑みされている時に声も聞こえて来るんです。『ワタサナイ、ワタサナイ。キミハボクノモノ』って……おかげであの悪夢を見ている間は、寝るのが怖くなりましたよ、琴乃さん』

 

『あははははっ! その大蛇さんってきっと剛の事が好きなんだよ。僕ちょっとその大蛇さんの気持ち分かるなあ』

 

『止めてくれ、汀』

 

 幻影の剛は心底嫌そうに呟いた。だが、この会話によって重大な事が判明した。

 

(……これでハッキリしたわ)

 

(ヒミコが求めている『悪霊の救世主』の正体は……)

 

(アイツの……『スサノオ』の転生体である『大斗剛』君か!)

 

 予想を超える成果をアマテラス達は得る事が出来た。

 ヒミコが求めている『救世主』の正体。その相手が、嘗てツクヨミと共に邪神ヨモツオオカミに仕えていたと同時にその息子であった『闘神スサノオ』の転生体である『大斗剛』だと明らかになったのだ。

 

(やっぱり私の行動が結果的にヒミコの邪魔をしていたのね)

 

 今の会話によって、何故ヒミコが琴乃を、正確に言えば剛と縁のある相手をネノクニに召喚したのかもツクヨミは察した。

 

(剛の傍に居る汀が、無意識に、或いは私が指示を出して剛へのヒミコの干渉を邪魔をした。これでじゃあ、ネノクニへの召喚なんて無理だわ)

 

(アシハラノクニからネノクニに『反魂の術』を用いて誰かを召喚する為には、その相手との強い縁が必要。そしてヒミコと剛君の間にあった縁の干渉を、姉さんが助けた汀さんが邪魔をしていた。これでは自らの縁を用いてヒミコは剛君を召喚出来ない。だからこそ、他者の縁を……琴乃さんと剛君の間にある縁を利用する事をヒミコは目論見、先ず琴乃さんをネノクニに召喚した……ですが、時間稼ぎの意味も込めて一年前のこの時代に召喚したとすれば……)

 

 そもそも『鏡の精霊武具』が無ければ、こうして『悪霊の救世主』の正体も、琴乃が早期にアシハラノクニに帰還を望んでも叶える事は出来なかった。

 早期にアマテラス達が琴乃をアシハラノクニに帰還させる危険性もあったが、一年後に召喚をヒミコが実行する前提が整っている以上、その間に世界崩壊の危険性は低い事は明らかになっている。

 実際、アマテラス達は琴乃が召喚された経緯を知れば、今のようにツクヨミか、或いは四聖獣の誰かを送ってアシハラノクニにいるヒミコの手の者の捜索を実行していた。

 そうしなければ、せっかく琴乃を帰還させる事が出来たとしても、同じ事が繰り返されるかも知れないからだ。

 とにかく、アマテラス達が最も知りたい情報を得る事は出来た。後は肝心の琴乃が来た日の日付のみ。

 

(それが明らかになったら、すぐに止めさせた方が良いわね)

 

 望めるのならばアシハラノクニにいる悪霊の手の者まで知りたいところではあるが、ツクヨミはチラリと過去の琴乃と汀が会話をするの中で、少し遅れて歩く猛と剛の会話を聞いている琴乃に目を向ける。

 

『猛。真面目な話だが……』

 

『何だよ、急に改まって?』

 

『……お前が何でこの間の試合の時に、何時になく本気になっていたのかは大体の想像はついている』

 

『っ!?』

 

『だから言うが……彼(・)女(・)とは余り学園では接触するな。あらぬ噂……いや、噂じゃ済まなくなりそうだが、学園では不味いだろう』

 

『……そ、そんなに分かりやすかったか?』

 

『俺にぼろ負けされた後に休んでいる時の様子を見ればな……まあ、親しい俺だから気付けたのもあるが、それでも気を付けておけよ』

 

『……ありがとう、剛』

 

『礼を言われる事じゃない』

 

(……二人は誰の事を言ってるの?)

 

 この時の自分は汀と仲良く歩いて話していて、猛と剛の様子に気が付いていない。

 

(もしかして、この時の汀さんは何かを察して私の注意を二人から逸らしていた?)

 

 客観的に見る事が出来た事で気付けた事実。

 過去の自分が気付けなかった事実が明らかになろうとしている事に、琴乃は不安を募らせていく。

 それに鼓音するように頭上に浮かんでいる『鏡の精霊武具』の力が、更に引(・)き(・)出(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)事にアマテラス達は、そして無意識に引(・)き(・)出(・)し(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)琴乃本人も気づけなかったのだった。




本作では猛が原作で六介に指摘された問題である本気を出しても、汀と家で毎日剣の稽古をしている剛には勝てません。
また、家庭内の問題も汀が同棲しているのと、父親も定期的に帰って来てるのもあって問題無し。剛君は御曹司の道を幸せに歩んでいます。将来、汀に尻に敷かれる運命を除けばですが。
また、猛を見てもツクヨミがもう一人の『スサノオ』の転生体だと気付けなかったのは、あくまで映しだされた光景なので魂とか見えないからです。

因みにこの時のリンドは青龍の部屋で青龍に口淫されながら気持ち良く過ごしていましたが、『鏡の精霊武具』が過去の光景を部屋に広げてしまった辺りで部屋の中が覗けなくなって困っていたりします。

次回こそ琴乃の失恋に到達です。
その後は漸く、漸く琴乃のエロに本格突入します!

アマテラス、佐久夜、琴乃の妊娠について。

  • 琴乃が堕ちた段階で孕ませる
  • 四聖の社全て攻略後に孕ませる
  • サヨ関連終了後に孕ませる
  • イザナミも加え、四人そろって孕ませる
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