ここでやっと童子が登場します。
地面を染めていた雪が解け、もうじき弥生の幕が上がる奥久慈の山林。
雲一つない青い空を鏡の如く一寸の違いもなく映し出す湖。
そこに人の影が見えないこの湖の周りの木々を駆け抜ける茶色い服装の男と白い服装の女があった。
常人じゃ乗っただけで折れてしまう様なか細い木々を難なく乗りこなしながら縦横無尽で進んでいく。
二人は慌ただしく進んでいたが、ほとりの地面にいたとある影を見つけると、枝の上で立ち止まり凝視する。視線の先にいたのは黒いジャンパーを羽織った若い男性だった。
「良い若者ですね・・・。」
茶色い帽子を被った顔立ちの良い男は若い女のような妖艶な声で言った。
「我々の子のお口に合う汁気を持ってそうですね・・」
白い被り物をした顔立ちの良い女が赤く染まった唇から男の老人のような低い声で言った。
子供への食糧を見つけたように微笑む二人は勿論人間では無い。捕食者の目をした男女の人妖「イッタンモメンの童子と姫」は仮の対象である男に気付かれぬように釣り下ろされるように音もなく滑空していった。
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「ふう、寒いなぁ・・・」
辺りで青空を映す湖を見ながら黒いジャンパーの男は白い息を吐いていた。
「我々の子が・・・」
男のような不気味な声を響かせながら姫が男の左端に降り立つ。
「ん?」
それに気づいた男は姫を鋭い目つきで睨む。
「お腹を空かせて泣いてます・・・」
反対側から女の声をした童子が静かに降り立った。
「・・・」
普段、怪しい二人を見た人間なら君の悪さに逃げ出してしまう。しかし男は逃げるどころか怖がる素振りも見せず、奇妙な衣装の二人を見回し続けた。
「「どうか・・・食べ物を・・・」
二人は男の反応など関係ないと姫は右足を前にあげ、童子は逆立ちをし両足をあげた。すると足先が触手のようにうねうねと伸び始め、男に向けて襲いかかった。
あわや男が拘束されてしまう、しかし・・・
湖畔の静寂を撃ち破るが如く銃撃音が鳴り響き、童子の黒い足先から白い液体が漏れていた。
「待ってたぜ、お前ら...」
自信に満ちた男の右手にはベルが削られたトランペットに似た銃が煙を吹いていた。
「くっ!」
童子は痛みに顔を歪ませながら両脚を下の長さに戻すと両手で地面を叩き宙へと飛び上がる。それを見ていた姫も同時にバク転をしながら宙を舞った。
中を舞う2人の衣服は首元に集約され、全裸となった肌は黒く染まっていく。男が武器を構えて立ち上がった時には2人の姿は白い顔をした怪物、怪童子と妖姫へと変化していた。
「鬼の汁気は...」
「どんな味...?」
地面に降り立った2体の怪物は男の正体に感づくと仮面から露出した口でこの男の味を予想していた。
「すまねえが、コレが俺の仕事なんでね」
男は懐から鬼の顔をした笛を取り出すと唇に当て、鋭い音を鳴らした。そして笛を顔の前に持ち上げると、一本角の鬼の顔が浮かび上がる。すると男の周囲に藍色の竜巻が巻き起こり、枯葉を巻き込みながら男の身体を隠していく。
「ハァッ!!」
男の力強い声が聞こえれば竜巻が病み、藍色の身体をした鬼が姿を表した。
「我らについて来れますか?」
妖姫は余裕げな口振りで鬼を見やると左脚で地面を蹴って飛び掛かった。
「せりゃ!」
鬼は少しも慌てず身体を捻らすと回し蹴りを繰り出し、妖姫の程よく実った胸に直撃させる。
「ぐっ!」
他の妖姫より比較的体重の軽いイッタンモメンの妖姫は簡単に吹き飛ばされてしまい、湖へと転がり落ちていった。
「ハッ!...フンッ!」
妖姫が弾き飛ばされたのをみるや怪童子はお返しとばかりに右脚を伸ばして鬼に攻撃を仕掛けようとした。
「フッ」
鬼は怪童子の攻撃を軽々しく交わすと怪童子に向けてトランペット型の武器の引き金を引いていく
「くっ! うっ...! ううっ....」
銃弾を留めどなく撃ち込まれた怪童子は全身からから白い液体を噴き出しながら後退していく。
鬼がトドメを刺さんと武器を連射モードに設定して構える。その時
「ピィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!!!!!!」
あたりから燕がそのまま大きくなった様な鳴き声が木霊する。その音源は湖かららしい。水面が揺れると大飛沫を上げながら何かが飛び出した。
「ピィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」
何かは大きい翼をはためかせ、空を飛び回っていた。青い背中に白い腹、エイの様な平たい体に鳥の鳴き声。口の下には赤い模様が広がっている...。コレが鬼の今回の駆除対象である魔化魍、イッタンモメンだったのだ。
青空を飛来する怪物を見やる鬼は武器を構えるとイッタンモメンに照準を向けると引き金を引いた。
「ピィっ!?」
イッタンモメンの腹部から白い液が噴き出す。どうやら命中したみたいだ。鬼は狙いを外さない的確な射撃でイッタンモメンに合計10発風穴を開けた。
しかしコレで空を飛ぶ怪物を倒せた訳では無い。鬼は腹部にある装備体に手を掛けるとバックルから謎の円盤を取り出し、武器の銃口に取り付けた。その形状は我々が目にするトランペットそのもの形であった。
鬼は深呼吸をした。自然の空気を名一杯、全身に力を行き届かせる様に。息を吸う音が止まれば鬼は口元に武器を構えた。
[音撃管 烈流]
レバーが倒されると金管楽器特有の黄色い音が鳴り。ベル状の部位から青い波流が放たれた。
「ピィィィィィィィッ!!!????」
イッタンモメンが突然悲鳴を上げ飛行速度がガクンと落ちる。傷を負った部分が赤く発光し、そこを起点にヒビが広がっていた。
イッタンモメンの身体には鬼石が撃ち込まれており烈流から発せられる清めの音に反応、イッタンモメンにダメージを与えていたのだ。
「へうっ!!? あ...ああっ...う゛う゛っ!!!??」
それは湖の下にいた怪童子も例外ではなかった。怪童子の身体にも鬼石が撃ち込まれており、女々しい呻き声を上げながら白い体液染めの足腰をガクガクと震わせていた。
「ピィィィィィッ!!!!!!!!!」
イッタンモメンは全身の痛みに苦しみながら空を暴れ回ると苦しめる元である音を放つ鬼に突進を始めた。その顔は獲物に食らいつく獅子の様であった。
「へえっ...!? ああうん!! くくくっ...!!!!」
怪童子も同じ様に鬼を仕留めるべくふらふらになった右脚を上げて触手の様に伸ばそうとした。
しかし、時すでに遅し。
鬼はトドメを刺す様に音を止めると、イッタンモメンの身体は鬼の目の前で爆散。怪童子もそれに巻き込まれる形で弾け飛んでいた。
「....ふぅー、終わったぁ...」
鬼のは烈流を下げて脱力する。周りでは恐ろしい妖怪と、それを育てていた怪物だった物が花吹雪の様に舞っていた。
それを少し離れた場所で見ていた黒い影があった。金色の杖を強く握りしめると黒い影はその場を後にする。
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「うっ...くぅっ...」
音撃戦士が魔化魍を浄めた数時間後、対岸では鬼に湖面に叩き落とされた妖姫が人間態である姫の姿に戻り、全身の白い衣服を水浸しにしながらよろよろと歩いていた。イカの形に似たフードも頭から外れて内部にあった長髪が水でびったりとその姿を晒していた。
闘いに疲れた身体を癒す為、側にあった木陰に腰掛けていると、枯れ葉を踏みしめる音がした。姫が視線を向けると、そこには黒装束の男が金色の杖を握り締めながら、唯一肉らしい部分が見える生気の無い瞳を鋭く光らせていた。
「私を...殺しに来たのですか...?」
長い前髪が乱れ隠されていた半面が明かされた姫は久方ぶりに両眼で相手を見据え、掠れた声で尋ねた。
「...」
男は言葉を発しない。その代わりとして左手で金色の杖を掲げれば、右手の平に黒い煙の様な物を出現させる。
育てる子供を喪った童子と姫はクグツの手で消される運命なのだ...。
その刹那、鋭い風を纏いながら放たれた白い触手が男の杖が歯切れの良い音を鳴らしながら男の杖を吹き飛ばす。死の瀬戸際に立たされた姫の脚だった。
「!!」
絶対服従する筈の姫が自分に攻撃する様を見て一瞬の同様は見せるものの、男はすかさず右手の煙で姫を土に還そうとした。
だがその一瞬の怯みを見逃さなかった姫は自らの脚を縮める事で急接近、右手で男の懐にあった溶液注入容器を掠め取る。
が影の動いた方向へ振り向くと、左の二の腕から白い体液を流した姫が木の枝の上で空の容器を片手に佇んでいた。
「私の方が、一枚上手でしたね?」
姫は自らの性別通りの穏やかな女の声で挑発すると、持ち前の怪力でガラス製の容器を握り潰した。
「もう私は貴方の所有物ではありません、ここでお別れです。」
姫はクグツに対して決別を宣言すると背を向けてその場を去ろうとした。
「........!!」
自分が作った人形に馬鹿にされるとは、クグツの身体に怨念が乗り移ったかの様に右手を乱暴に振り上げ、黒い衝撃波を放つ。
「うっ...!! ああっ!!」
それをまともに背中に受けた姫は苦しみの声を上げながら木から滑り落ち、地面へと力無く落ちていった。
「....」
クグツは一仕事終えた様に右手を下ろすと、姫が落下した場所とは反対方向へと音も無く歩いていった。
その様を見物していた鴉は、汚れた鳴き声をあげると湖へと飛び去っていった。
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異形による死闘が終わった数十分後、誰もいない森の中を歩く青年が何かをボヤいていた
「はぁ...今日は良いの生えて無いなぁ...」
青年はこの森の中で山菜採りに来ていたのだ。空っぽの籠を抱えてやる気の無さそうに溜息を吐くと視線を下に向けた。するとそこにいたのは白い服を着たずぶ濡れの女が辛そうに息をしながらうつ伏せに倒れていた。
「あのっ 大丈夫ですかっ!?」
青年は慌てた顔で女の下に駆け寄ると女の様子を確認する。
虚な目で青年を見つめる女の身体には乳白色の液が所々に付いていたが気が動転していた青年はコレが傷口から溢れた血液である事、そしてそれが彼女が人間では無い証であるという事には気が付かなかった。
「取り敢えず助けなきゃ...!!」
青年は山菜採りより目の前の人間の救助を優先するべきと考え、女性の身体を自分の背中に乗せると自分の居住地であるログハウスに向かう為に歩き出した。
姫は自身の胸で男の背中の温かみを感じると目を細める。
(新しい番が見つかった...)
姫の赤い唇の端から透明な雫が顔を出した。
書いて欲しい姫を募集します
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奥多摩のヤマビコの姫
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浅間山のヤマアラシの姫
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