※この作品はR-18です。

精喰らう姫   作:Z ERO

21 / 35
轟く獣声 一 (足尾のヤマアラシの姫)

空は雲一つない青空に満ちているが、その下にある洋館は言い知れぬ暗さに満ちていた。

 

僅かな光が灯る部屋で和装姿の男は沸騰するビーカーを真剣な目で見ていた。

 

「コレはなぁに?」

 

その横から同じビーカーを見て和装姿の女が声をかける。

 

「あぁコレはね? 姫の声の転換をクグツの身体を介して出来る様にする薬品でね?

今までクグツでの生成や身体に突き刺す形じゃ無いと実現出来なかったし」

 

「私が言っていた事、やってくれたんだ」

 

和装の女は説明を聞くと嬉しそうに微笑んだ。

 

「興味があったからね。興味がね...」

 

和装の男は表情一つ変えずに眼鏡を動かすと椅子に深々と座った。

 

「それで、今はその準備段階中で...」

 

「それがヤマアラシなのね。あの子色々危ないけど大丈夫かしら...」

 

女の心配に呼応する様に木々の鴉が鳴いた

 

----------------------------

 

 

夏の匂いが仄かに香る栃木の足尾、山奥の中に置かれた何十年も前に閉鎖された銅山に竜巻のような騒音が轟き、牛に似た鳴き声が草木を震わせる。

 

「モオォォォォォォォォォォッ!!」

 

廃墟を破壊しながら現れた竜巻の正体は背中にヤマアラシの針に似た巨大な槍を蓄えた水牛に似た頭部を持つ山の様に巨大な化け物だった。

 

その化け物が残したであろう足跡の近くには大きな槍に貫かれた血染めのツナギが何着もばら撒かれており、その被害を物語っている。

 

その近くの小高い山の上、化け物の姿を捉える20代後半の男が1人。

 

「やっぱりヤマアラシか...此処で止めないとな...」

 

   剣

 

男は左手首に巻かれた鬼の顔をしたブレスレットを開き、3本の弦を鳴らす。ブレスレットを額に翳せば、額にブレスレットの物と酷似した鬼の顔が浮かび上がる。

 

男の身体に向けて藤色の稲妻が落ち、男は光に包まれ...

 

   鬼

 

「しゃあっ!!」

 

左腕を振り下ろした時には藤色の身体をした一本角の鬼へと変わっていた。

 

       剣

       鬼

 

「今日も...一丁やったりますか!」

 

剣鬼は意気揚々と叫ぶと側に突き刺されていたギターに似た剣を構えると山から鳥の飛び降りる。

 

「っ!? おっとっと...」

 

砂利道に着地した剣鬼はよろけてしまうが直ぐに体勢を整える。

 

(あれっ疲れか...? まあ一昨日から魔化魍は5体も相手してるもんな...。でもやらなきゃな...)

 

己を奮い立たせる様に剣を構えれば黒い化け物に向けて駆け出した。

 

「モオォォォォウ!!!」

 

化け物は鬼の存在を感知すると背中に蓄えた槍を虫ケラを殺すかの様にミサイルの如く打ち出す。

 

「でやああああっ!」

 

剣鬼は構えた剣を振り回して槍を弾き返せば、化け物の脚に向けて刃先を突き刺そうとする。

 

「フッ!」

 

「うわっ!?」

 

その時、左から女の声と共に脇腹に謎の打撃が入り、剣鬼の身体は化け物の身体から離れた所にまで吹き飛ばされる。

 

「あれ? 童子達は既に倒された筈じゃ...」

 

ふらついた視線と思考を合わせて見据えた先には獣の顔と黒色のマフラー、黒い身体とけむくじゃらの腕をした人間にた姿の怪物が一体仁王立ちしている。胸下を見ると女性的な膨らみがあるので妖姫だと確信した。

 

(そうか...倒したって言っていたのは怪童子だけか...でも待てよ? 残ったのはヤマアラシだけとも言っていたし...それになんか姫の声が女の様な...?)

 

思考を巡らせるために一瞬でも動きが止まると妖姫は砂利道を掛け、左手で鬼の胸ぐらを掴み持ち上げる。

 

「鬼め...我の番をよくも...!」

 

「ちっ...こりゃ大変だな」

 

剣鬼は掴まれた手を振り解くと妖姫の荒々しい拳や蹴りを剣で受け止めていく。

 

「我が子の邪魔はさせない」

 

妖姫は剣鬼の一瞬の隙をつく様に怨念の籠った声で鬼の頬を己の右拳で殴り付ける。

 

 

 

腕っ節の強い妖姫の力は強く、疲労も相まって剣鬼は再び砂利道を転がる様に吹き飛ばされる。

 

「次は此処を射抜くぞ...」

 

妖姫は劣勢の鬼に向けて程よい膨らみの左胸に親指を当てて挑発をする。余程鬼に対しての憎悪が大きいのだろう。

 

「せやあっ!!」

 

剣鬼は最後の力を振り絞り、手に持っていた剣を妖姫に向けて力任せにぶん投げる。

 

「ふん」

 

妖姫は鼻で笑うと己に向けて飛ぶ剣を軽く避ける。

 

「モ゛オ゛ォ゛ォ゛ッ゛!!!?」

 

ところがその剣はヤマアラシの右脚に突き刺さり、傷口から噴き出した白い血が黒い毛や地面を染め上げる。

 

「!?」

 

妖姫はヤマアラシの慟哭に振り向くと酷く焦った表情で一目散に駆けつけて脚に突き刺さった剣の持ち手に手を掛けると引き抜こうとする。

 

しかし刃先は足元に深々と突き刺さっており、妖姫1人の力では暖簾に腕押しだった。

 

「....仕方ない、お前は近くの湖で傷を癒せ」

 

妖姫は諦めた様な声でヤマアラシに告げる。

ヤマアラシは心配する様に泣きながら妖姫に顔を向けた。

 

「心配はいらない。必ず鬼を倒して、里をお前の針で満たしてやるからな?」

 

妖姫の言葉に押さえる様に、ヤマアラシは傷を持つ足を引き摺りながらその巨体を湖に向けて動かし始める。

 

 

ヤマアラシの姿が見えなくなると、妖姫は子供の脚を傷つけた鬼に目を向ける。剣鬼は力を使い果たしてしまい鬼の姿から人の姿に戻っていた。更に衣服は変身時の雷撃で焼かれてしまい全裸の状態になっていたのだ。

 

「その前に...」

 

裸の男をみやると妖姫の身体は黒く波打ち、首元のマフラーが膨張し身体を覆う。数秒も経たない内に、その姿は木こりに似た風貌をした長い黒髪が印象的な若い美女に変わった。

 

姫と呼ばれる女は男の背中をブーツの履いた右脚で踏みつけると口を吊り上げながらつぶやいた。

 

 

「私の子宮を、お前の子種で満たしてやる」

 

黒髪から覗く瞳は妖艶さに満ちていた。

書いて欲しい姫を募集します

  • 奥多摩のヤマビコの姫
  • 奥久慈のイッタンモメンの姫
  • 藤岡のオオアリの姫
  • 秩父のオトロシの姫
  • 下野のヌリカベの姫
  • 鎌西湖のウブメの姫
  • 小菅のヤマビコの姫
  • 大月のオトロシの姫
  • 日光のバケガニの姫
  • 足尾のヤマアラシの姫
  • 東雲のオオナマズの姫
  • 大洗のバケガニの姫
  • 大洗のアミキリの姫
  • 浅間山のウブメの姫
  • 浅間山のヤマアラシの姫
  • 旭村のドロタボウの姫
  • 猿橋のバケネコの姫
  • 榧ノ木ヨロイツチグモの姫
  • スーパー姫
  • 洋館の女
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。