青々とした天高く貼り付いている白い光が旭山の緑色の広大な田園照らし辺りの木々から蝉の鳴き声が騒々しく鳴り響く夏の午前、その中にあるまだ暗さが残る田の中で25歳ぐらいの男性が溜息をついていた。
「ふう...話は聞いていたが、やっぱ大変だな米作りって...」
「どうだい?会社と一緒で農業も楽じゃねえだろ?」
その隣の田から先輩と思われる初老あたりの男性が笑顔で声を掛けた。
「ええ、僕も薄々思っていましたがコレ本当キツいっすね...」
「まあ最初はそんなもんさ。なれりゃあ楽にはなるからな?」
苦笑いしながら頭を描く若い男に初老の男は“気にする事はない”と言う様に大口を開けて笑った。
「そうですね。まあ頑張ります」
「そうだな、慣れないとは言えこの田を立て直しはお前さん無しでは無理だったよ。ありがとう」
若い男が微笑した時、初老の男は腰を下ろした。
「まあ、お前さんも知ってると思うが、此処に来る前...まあ数ヶ月ぐらい前かな? 此処ら辺で農作業していた松川や大河やその他数十人が消えたんだ。あんなに元気で思い詰める事も無かったのにパッタリとだ...」
初老の男は肩を落としながら話していた。話に出ていた2人は子供の頃からの親友らしくその落ち込みようは並のものでは無かった。
「しかも、ある日田が酷く荒らされていた。苗もぐちゃぐちゃで、泥が道にまで飛んでいた...」
「でも、この日を境に神隠しはパッタリ止まったんですよね?」
「たしかに田を直した時やそれ以降農作業した中に消えた者はいなかったさ。だが村民やを何人も攫われた上に大切な田まで滅茶苦茶にされた。俺はそんな事したやつぁ神とは呼べねぇよ」
ふと初老の男は我に帰ると、暗い雰囲気を打破する為に若い男に問い掛ける
「あと話は変わるがお前さん、大月の御家族に御中元は送ったかい?」
「はい、最寄りの街のスーパーで申し込みましたよ。良いサラダ油を送っておきました。」
若い男が微笑し、初老の男が安堵したと同時に何処からかチャイムが響き渡る。正午の知らせだ。
「おっ、時間だ。じゃあ俺昼にすっから家に戻るな?」
「はい、坂井戸さんお疲れ様です」
坂井戸と呼ばれた初老の男は若い男に手を振りながら農具を持って畦道を駆けていった。
「いやぁ少し前に会社を辞めてここに来たけれど...まあ悲惨だったあの時はマシかな...良いもんだよ田舎の空の下で食べる弁当はさ」
田園に1人残された男は畦道の脇に座って手持ちの袋を開けようとした。ところが男はある事に気付く。
「あ...やべっ、弁当忘れちゃった...」
空の袋を目の前に男は愕然とした。今から戻ろうにも農作業により空腹状態の男には辛いもの。これでは誰もいない道で日射病で倒れてしまう。男の額の汗に冷や汗が混ざっていく中、どこか遠くから声が聞こえてくる。
「♪けーんけーんぱっ! ♪けーんけーんぱっ!」
その声は坂井戸の行った方向とは逆の方向からする。言葉は幼いが声質は成年一つ手前の女の様な雰囲気だった。
「あっ、もしかして...」
その声は男に非常に馴染みのある声だった。
その声は段々と大きくなり、その姿が木々から抜け出る様に姿を晒す。
「♪けーんけーんぱっ! ♪けーんけーん...あっ!お兄ちゃんだぁー!!」
森の中なら伸びる道から現れたのは着物の腹の部分を切り取り程よく付いた腹筋が見える、露出度の高さを除けば村人に見えなくもない服装をした少女だった。少女は男を見ると目を輝かせながら駆け出す。男の前で急停車すると持っていた着物と同じ柄の袋から小さめの箱を取り出す。
「お兄ちゃん!弁当持ってきたよっ!」
「ありがとう。助かったよ...」
男は安堵した表情で少女から弁当箱を受け取る。
「もぉ〜っ!お兄ちゃんったらぁ...いっつもウチがお出掛け忘れ物無いか聞いてくるのに自分が忘れちゃうの駄目でしょっ!!」
少女は頬を膨らませながら隣の男に怒りを向ける。
「ごめん...俺、うっかりしてたよ...」
「でもお兄ちゃんがご飯が食べられるから許しますっ!!」
少女は自信満々な顔でそう言えば男の隣にちょこんと座った。
「うん、本当にありがとう」
男は柔らかな微笑みを見せれば少女の頭を優しく撫でる。
「えへへ〜っ、嬉しいよ?お兄ちゃん」
少女は頬を緩ませながら目を細める。とても気持ちが良かったのだろう。
「ところでお前は何か食べたのか?」
「まだ食べてないよ!お兄ちゃんと一緒に食べたいから作ったの!」
そう言うと少女は袋から箱を取り出す。それは男の箱と同一だった。
「ん?そうか...?」
「うんうん、ウチ1人より2人が良いもんっ!お兄ちゃんもそう思うでしょ?」
弁当箱を両手に持ちながら少女は夏の太陽の様な眩しい笑顔を見せた。
「..そうだな」
男は納得した様に微笑めば弁当箱を開けて手を合わせる。少女もそれに続く
「いただきます」
「いただきまーす!」
2人の快活な挨拶が田園に響き渡った。
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ー俺は上司のイジメに腹を立て、数ヶ月前に勤めていた東京の会社を辞めてこの茨城県の旭村に来た。どれだけ不便だろうとあの嫌な上司や社会に囲われず伸び伸びと暮らしていけるだろうと思って、此処に骨を埋めようと村の空き家を安くを購入した。
だがそこで俺を待っていたのは....
「お兄ちゃんこんにちわ〜っ!」
変な和服を着た女の子だった。どうやら村民も詳しい事は分からず、本人にその事について聞いてもはぐらかすばかり。身体能力は高く、高い樹木を一気に登ったり、空中で一回転したり、まるで超人を見ている様だった。
そして彼女は何より幼かった。外見にはモデル雑誌やテレビで観る様な目を見張る様な大人な美人であるが、それに反して中身は公園や幼稚園で見かける無邪気であどけない子供そのままだった。何度も俺にちょっかいを出したり、歳が一回りも違う村の子供達と遊んだりとても大人に近い少女の行動には見えなかった。でも俺に懐いている事は確かな様で、ご飯を作る時も、風呂の時も、寝る時も、彼女は付いてきた。
少女の左の二の腕には「に」「し」「に」と読める様な模様があったが彼女はその模様を気にするどころか、触ることを促す様に言っていた。石鹸では落ちなかったので刺青だと思われる。
そんなこんなで生活をして行くうち、見ず知らずだったあの女の子との関係も兄妹に似た形になっていた。
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川のせせらぎが聞こえる森の中を、若い男と少女は歩いていた。昼食を食べ終わったのでこれから家に帰るらしい。
「美味しかったなぁ〜お弁当」
少女は左手首に付いている小さい数珠が紐で繋がれた様な装飾を回しながら満足げな顔をしている。
「ああ、お前も料理の腕を上げたな」
「でしょでしょーっ!!今度はウチがお兄ちゃんにとっっても美味しいご飯を作ってあげるからねっ!」
男の褒めに有頂天になりながら少女は当たりの道を器用に飛び回った。
草木の揺れ、蝉の鳴き、少女の声、平和を描いた様な森の中...しかしそこに聞いた事もない様な声が聞こえる。
「ん?こんな鳴き声の動物いたっけ?村の人には聞いていないから珍しい生き物なのかな」
男は立ち止まると不思議そうな顔で考え始める。
しかし、その鳴き声に敏感だったのは楽しげに飛び回る少女の方だった。今までにない程にピタリと動きを止めて瞳を閉じる。それが何かが分かったかのように開眼すれば男に向かってこう言い放った。
「お兄ちゃんは先に行ってて!ウチが見てくるから!」
「はっ?」
はじめての少女の反応に戸惑いを隠せない男、どう言う事だと聴こうと口を開けた時、少女の姿はもうそこには無かった。
唖然とする男に周りは、そよ風が小道を只々通り過ぎていた。
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男のいた道のそう遠くない所に滝の流れる高低差の少ない崖に囲まれた小さな池があった。人が滅多に来ないこの場所に不思議な音の源があった。
「ケパパパパパッ....」
蛙とも鳥とも付かない変な鳴き声を上げながら辺の何かを貪る、背中に亀のような甲羅を背負い、すっぽんの様な顔をした緑色の体表の人型の何か。
魔化魍、カッパである。
カッパの目の前には右手で血で錆びた刃物を持ち、
全身を白い石のような物で覆われた男のうつ伏せの身体があった。ズボンの部分が破かれており、肛門にあたる部分からは大量の血液が流れ出ていた。どうやらカッパは食事の為に近くにいた男を池に沈めて、好物である内臓を吸い食っていたのだろう。
「ケプゥ...」
嘴からゲップを出したカッパは食事の後の眠りに着こうとする。
「カッパさぁ〜ん!こーんにーちはー!」
しかしそれを遮るように何処からか自分を呼ぶ人間の声がする。
「ケパッ!?」
コレは珍しい、餌が自分の事を読びながらわざわざこっちに向かって来るのだ。しかも声から推測するに若い少女であり、内臓も上質で、嘴を合わせる肛門の味も絶品だろう。これで晩御飯の食べに狩りをしないで済むと上機嫌になったカッパは声のする方へと歩みを始める。
ビシャ!!
ところが声の聴こえた方とは反対側、つまりカッパの背中の甲羅あたりに何か濡れた物がぶつけられた。
「ケパパパパパっ!!!?」
カッパは狼狽えながら地面にすっころび、盛大に水飛沫を上げながらのたうち回る。何かをぶつけられた部分から甲羅が抉られる様な痛みがするらしい。
「カッパさぁ〜ん!こーんにーちはー!」
カッパが暴れる間も少女の呼び声はまだ続いている。
「カッパさぁ〜ん!」
「ケパッ!?」
カッパは驚愕した。呼び声とは反対の方向から全く同じ少女の声がする。信じられない様な顔で背中の痛みに苦しみながら首を振り回す。
「こっちだよぉ〜い!」
「ケッ...パアッ!!?」
天を仰ぐ様にギョロ目を向けたカッパは明瞭になった声のする方に首を向けたカッパは先程を超える驚き様を見せた。そこで手を振っていた少女は自分を育てた人間の女性そっくりの母に瓜二つの顔をしていたのだ。
「たっ!」
子供の様な掛け声を上げながら少女は宙返りをしながら崖を飛び降りると池の辺りに難なく着地する。
「カッパさんごめんね?でもウチのお兄ちゃんの邪魔をするかも知れないから...」
言葉とは裏腹に謝る気など微塵も無いほど明るい声色で両手を合わせて頭を下げた少女の明るかった顔に
「死んでもらうよ?」
黒い影が差した。
「ん〜〜〜っ! まっ!!」
少女は両手を離して腕を振り下ろすと口を閉じて力を込めた後、大口を開けてそこから泥の様な黒い塊をカッパに向けて弾丸の様に吐き出す。
「ケ゛ハ゛ア゛ッ゛!!!!」
顔に泥を真面に浴びたカッパは猛烈な痛みと共にジュワジュワ音を立てて溶け出す右目に恐怖を覚えながらより一層のたうち回る。
「ケ゛.....ケ゛ハ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!!!!」
しかし、やられたままでは行けないとカッパは闘志を燃やして立ち上がれば、喉が裂けんばかりの方向を上げながら少女へ襲いかかる。
「ほっ、とぉ!」
しかし少女に軽くいなされてしまう。それどころか右腕を掴まれて見事に一本背負いを決められてしまう。
少女は言葉すら発さず、泥まみれの顔をしたカッパを見ている。そして少女の衣服が縮みシュルシュルと首元に集まる。健康的な裸体は白い包帯で包まれた様な体表へ変わり、華奢な両腕は泥まみれの剛腕に、あどけなかった少女の顔は黒く表情の見えない泥人形へと変わっていた。
「じゃあカッパさん? 行くよぉ〜?」
仮面の如き不気味な顔から可愛らしい声を出しながら、ドロタボウの妖姫は右拳を握りしめると
「ケ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!!!!!」
壮絶な悲鳴をあげるカッパの顔に向けて乱暴に振り下ろした。
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