前話から数週間前の神隠し事件真っ只中の晴れの日、太陽の眩しさも弱く、蝉の鳴き声もまばらで、まだ黒い地が見える若々しい田が広がる中、畦道からあの少女の声が聞こえてくる。
「けーんけーんぱっ!けーんけーんぱぁーっ!!」
しかしその声を出している者は少女とは全く違う白いほっかむりを被り白い甚平に似た和服に身を包んだ高身長の成人男性だった。
大きな身体を振り翳しながら小さい子供の様な口調、更に若い女性の様な高く可愛い声で動く様は農作業中の村人すらいない田園と相まって異様な雰囲気を漂わせていた。
「うちの子はぁ...一杯増えたかなぁ〜?
みんなぁ〜っ!手〜を挙〜げて〜っ!!」
苗が無い田んぼに元気良く声を掛ける男、それに呼応する様に田んぼの泥水がボコボコと泡立ち始める。
「うわぁ..!!」
男は子供の様に瞳を輝かせた。
田んぼから泥だらけの剛腕が無数に浮き上がり辺りに不気味な呻き声を震わせた。
「うわあーいっ!増えたーっ!!! 美味そうなお爺ちゃんやおばあちゃんをたっぷり食べたから立っ派に育って一杯増えたねぇ〜!!」
沈みゆく手を観ながら地面を飛び跳ねながら大喜びする男。そう異様な服や男なのに女の声、そして言葉から分かる様にこの男は人間では無い。夏の魔化魍を育てる為に村人を餌にし続けていた怪異、ドロタボウの童子である。
「何何ーっ?うちの子増えたのー?」
はしゃぎ回る童子に甘えた様な口調な物の、少し低い男の様な声が掛かる。その姿は露出度の高い和服に身を包んだ女性だった。彼女は童子と共に産み出され共に魔化魍を育てているドロタボウの姫である。
「うん!増えたのーっ!!」
「うわぁーい!!やったぁーっ!!」
2人は仲の良い小学生の男女の様に抱き合いながら喜んでいた。そんな両親を見て子供が喜ぶ様に田んぼは泡を吹き出している。
「ところでさ、うち、ちょっとお話したいことがあるんだー」
手を取り合う中、姫は童子に向けて声を掛けた。
「んー? なになにぃ〜?」
童子は何の疑いもせずに自分より背丈が少し小さい姫に合わせる様に腰を屈めて話を聞く体勢をとる。
「あのね?.....
童子の耳に向けて姫は囁く、そして
「えいっ⭐︎」
右腕を妖姫と同じ黒く屈強な形状に変えると童子の頬に右ストレートを叩き込む。
「ぶへえっ!!」
童子は呻き声を上げながらドロタボウの潜む田んぼの隣にある苗の無い田んぼへ落下し泥飛沫を上げる
「どうしたの?」
純心な童子は何か起きたか分からず戸惑っている。姫は身体を揺らしながら話を始めた。
「ごめんね?実は近くのお家にいたとあるお兄ちゃんを見たときに...何か好きになっちゃったんだ...」
男の様な声で乙女のような事を口走る姫は
「たぁっ!」
畦道から飛び上がると童子に馬乗りになる。
「一緒に暮らそうと思ってもこんな低い声じゃ受け入れられないと思うの...むふー...だからぁ〜...」
姫は左腕も妖姫の物に変化させて童子の両腕を抑えつける。身動きの取れない童子に姫は残酷な別れを告げる。
「その可愛い声を貰うね?」
姫は大口を上げて前歯を煌めかせると童子の喉笛へ噛み付いた。
「うあああっ!!うふうえへええええっ!!!」
バシャバシャと田の泥を弾き飛ばしながら童子は踠き抵抗した。しかし腕力が強化された両腕で押さえ込み、喉元をむしゃむしゃ堪能する姫には敵わず、喉元からゴリゴリブチブチと固い物が砕かれ、肉が引き裂かれる音が響き、童子の白い体液が穴の開いた炭酸の様に勢いよく吹き出し、暗い泥水と混ざり合い始めた。
「ん〜〜〜っ!」
姫は嬉しそうな顔で上を向き、口をモグモグさせながら砕かれた声帯を喉を滑らせ胃の中へ通していた。その下では白眼を向いて機能を停止した童子の喉元は大きな喰い跡から白い体液が止めどなく噴き出している。
「はぁ...声かわいー♡」
再び口を開いた姫。その言葉通り声は童子の物になっていた。背の高い男に不相応だった声は女の身体へ移り、餌である人へと近づいた。
「みーんなー?」
横から父の声が聞こえて来る。ボコボコと泡立ちが大きくなり、育てているドロタボウが姿を現す。
「ウウウウウウッ....」
「ウウウウウウエエエッ...」
緑色の苗が頭部を覆い、全身が黒い色をした筋肉達磨が地の底から響く音を上げながら何十体も姿を表す。コレが村人を喰い続けてきたドロタボウである。その視線の先には
「一緒に遊ぼっか?」
泥と番の鮮血に塗れた非常に良い笑顔を向ける育ての親が戦闘形態である妖姫に変身しようとしている。それは目の前の怪物を完全に排除する殺意に満ちていた。
その後、田んぼでは少女の無邪気な声と怪物の唸り声と断末魔、泥水が辺りに飛び散る音のみが響いていた
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「少し遅いなぁ...」
男は森の中の道の横にある木陰に腰を掛けていた。一緒に暮らしている少女がどこかに行ってから数十分たっている。川のせせらぎに呑まれて欠伸をしていたら、後ろの雑木林からガサガサと草が揺らされる音がする。男は瞬時に腰を上げると物音のする方へ声を掛けた。
「もしかして...お前か?」
「お兄ちゃん...ただいまぁ...」
男の問いは正解だった。雑木林からヨロヨロと姿を現したのは”お前“と呼ばれたドロタボウの姫である。その顔にはいつもの元気いっぱいさは無く何処か疲れが見えていた。
「おいどうしたんだ一体...」
「ごめんねお兄ちゃん...ちょっと急ぎ過ぎたかも...」
心配をする男に辛そうな微笑みをみせながら姫は幹に手をつく。
「全く心配させやがって...」
「ぅふわあっ!」
男は呆れ顔ながらも姫を軽々とお姫様抱っこの形で持ち上げる。姫も予想外の行動に眼を丸くした。そんな中、男は姫の左手にある何かに気づく。
「お前が持ってるコレって...家に置いてあった小型ラジカセじゃ無いか?」
「うん...」
「でも何でお前が持っているんだ?」
首を傾げる男に姫はこう説明した。
「ほら、初めて会った時ウチがコレを触っているのをお兄ちゃんが見て使い方を教えてくれたじゃん。声をこの中に抑えて何時でも聞こえる様にとか...それが面白かったから持ってたの」
「そっか、楽しんでくれているなら問題無いな...」
説明に納得した顔で小道を歩き続ける男。余程嬉しかったのだろう。
しかし当の姫の目的は別にあった。
カッパを退治する際、既に顔が知られている自分は同族故に倒すのに手間をとる可能性があった。それを対策する為にラジカセの録音機能を起動させ、カッパを呼ぶ声を吹き込んだ。
『カッパさぁ〜ん!こーんにーちはー!』
カッパを油断させて、後ろから遅い掛かる戦略の為に小型ラジカセは使われたのだった。
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「やっと着いた...何回行っても慣れないなぁ...」
ぼやきながらも男は姫を抱えたまま目的地である家に到着する。昔ながらの木造建築タイプの二階建ての家であり幅も大きくい。田舎ならではの良物件である。
引き戸を開けて玄関を抜け、畳が敷き詰められた部屋に行き、轢かれた敷布団へ寝かせようとした時、男は姫を見て驚きの声をあげる。
「おいっ!? 身体が熱いぞ!?」
「うーん...うーん...」
抱っこされていた姫は身体を震わせながら下着の股間部分を濡らしていた。
実はカッパとの戦闘中、カッパの唾液が凝固した物体から発せられていたガスを吸い込んでしまい、それがドロタボウの姫には媚薬効果となって身体の自由を利かなくしていたのだ。
「そんな...早く応急処置を...!!」
男は姫を布団の上へ寝かせると下熱させる為に台所で水を汲もうとする。
「違うの...」
しかし、姫は力無い声を出しながらも身体を起き上がらせれば男の身体を自分へ抱き寄せる。そして姫は男にこう言う。
「お兄ちゃん、ちょっと話したいことがあるんだ...」
「えっ?」
状況が飲み込めない男をさらに深く抱き寄せ、胸を押し付ければ耳元で囁いた。
「お兄ちゃんってまだお嫁さんも彼女もいなくて子供もいないんでしょ?このまま寂しいままでいいの...?」
「俺は別に..だってお前がい」
「だったらね?」
男の応えに食い気味で反応すると姫はこう続けた。
「お兄ちゃんの美味しそうなおちんちん...うちのおまんこのご飯になってもらってぇ...可愛い子供、一杯作ろ♡」
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