料理に自信が無い2人がどうにかこうにかできる範囲で戦っているその頃。
傾国堕誘のテビウは、意外にも迷いなく調理を進めていた。
……ゾンビって料理できるのか? そんな疑問が観客や審査員にあったのは言うまでもない。だが実際出来ているのだ。
その種は簡単。彼女は今までに食った人間の脳味噌から、情報を得ているだけのこと。
彼女が捕食してきたのは、女冒険者たち。高級料理と言われれば難しいが、家庭料理であればテビウは数十人分のノウハウがあるのだ。
そんな彼女が最初に取りかかったのは、迷宮でよく取れる『鯉』を使った料理だ。と言っても片栗粉をまぶし、香草と共に唐揚げにするだけなのだがこいつが美味いのである。
大事なのは下拵えだ。一般的には泥抜きが挙げられるがテビウは泥抜きをしないで調理する。
というのも、鯉は死ぬとすぐに臭みが出る魚だが、逆にいえば超スピードで処理してしまえば臭くならないのである。
頭をブン殴って気絶させ、速攻で首を叩き切って真水で血抜きをし、鱗をつけたまま即座に捌いてしまうのが重要だ。
だが焦ってはいけない。苦玉と呼ばれる胆嚢には毒があるし、粘膜にも臭みがある。腹の中は丁寧かつ手早く洗浄していかなければならない。
そのような下処理を行えば、鯉は身もしっかりとした、可食部の多い優秀な食材に変わるのである。
そんな鯉の唐揚げを作りながら、テビウは更なる料理を作るべく『腕を生やした』。肉塊操作の応用で生み出した複数の腕を用いた、並列調理。手際が良いという次元ではなく、物理的に手が多いという圧倒的な優位を以って、テビウは多品目の調理で勝負に出た。
まずは主食。新鮮なザリガニと泥抜きしたイケチョウガイを使った赤米ピラフ。
ピラフ、或いはポラウと呼ばれる類の料理は本来は異世界の物。だが類似の炊き込みご飯文化自体は、この世界にも存在している。こちらではキュケモスという名だが、米文化が異世界から輸入された迷宮内ではもっぱらピラフ扱いだ。
ザリガニに関しては、説明するまでもないが、業深迷宮の温暖な環境と豊富な栄養によって大きく成長したザリガニ達は身が詰まって実に旨い。味わいとしてはロブスターやオマールエビと呼ばれる海産のエビに近く、カニとエビの中間とも言える甘く濃厚な味わいだ。
そしてイケチョウガイ。これはイシガイの仲間で、淡水性の大きな二枚貝だ。淡水真珠を生成することから、装飾品を求める人間たちが養殖しているというが、この世界の一般家庭においては中身の方が珍重される。二枚貝らしい、ダシの効いた旨味を味わえるとして、炒め物に使用されるのだ。
それらを使ったキュケモス、もといピラフはネミツ湿地帯近辺では名物的な料理である。
作り方は簡単。まずは食材の下拵え。泥抜きは前日の晩に行うのが基本だが、今回は時短の為に泥抜き手順無しで調理していく。
では泥はどうするのかといえば、直接除去してしまうのだ。一般家庭にはあまりに贅沢だが、抽出魔術で消化管や水管の泥を根こそぎ絞りだしてしまえば泥は残らない。
そうして強引に泥を抜けば当然生体にストレスが掛かるが、それを知覚する前にすぐ〆れば問題無いのだ。具体的にいうと泥抜きと同時に殺す。
その後はどちらも殻から身を取り出し、軽く炒める。軽く火が通ったら一旦取り出してフライパンに性豪鼠娘の母乳バターをたっぷり溶かし、ザリガニの殻を炒っていく。
そしてそれも取り出したあと、水を吸わせた赤米をザリガニの香味が移ったバターで炒め、その間に炒った殻を挽き、鍋に移して出汁を煮出す。
米が透き通ったら、ザリガニ出汁に塩、胡椒、唐辛子を加えたスープを注ぎ込み、ザリガニの身、イケチョウガイの身、野菜として蓮根、蓮の実、パプリカ、そして香味付けにカルダモン、クミン、クローブ、ナツメグを乾煎りして挽いた特製スパイスを振りかけて、炊き上げる。
あとは米が炊ければ完成だ。
そして、米が炊けるその間に更なる調理を行なっていく。
続いての品目は今まで魚介が続いているのでバランス取りも兼ねた肉系。
水辺には大抵存在する『鴨』を使ったスープ料理だ。旨味の強い鴨肉を使ったスープは質素な味付けでも美味しい。味や香りの強いピラフや唐揚げで染まってしまう口内を優しく労ってくれるようなそのスープ。
作り方は簡単。玉ねぎを炒め、そこに鴨のガラから取った出汁を加えて、塩をたっぷり振って一夜干しにした鴨肉を入れ、煮込む。
こうすることで、塩分と共に旨味がスープに抽出されるのだ。そうして出来上がったスープは、玉ねぎの甘味が優しい、美味しいものになる。
そんなスープの支度も済みそう食事としてはもう十分な豪華さだ。しかしテビウは、まだ調理の手を休めない。
だが、今までの料理と異なるのは、次なる調理にはテビウの身体を使う事だろうか。
調理に使うのはその豊満な爆乳おっぱい。と言っても、切り落として食材にする訳ではない。あくまで調理に使うのだ。
そして食材として用意されたのは、パパイア、マンゴー、バナナにパイナップル。どれもスティックやチップ状のドライフルーツに加工されている。
それらを、一本一本丁寧に、テビウは自身の乳腺へと挿入して行く。種々のフルーツが、乳腺をこじ開けて一つ、また一つと乳のなかに呑まれて行くのはハッキリ言って異様だ。
だが、テビウは進化したとはいえ娼腐系魔物。その体内はドロドロの発酵媚毒液と今まで食らった人間が液化された物が入り混じる粘液質であり、人間とは根本的に構造が異なる。元は人間の死体だが。
そんな彼女の体内でも、おっぱいというのは中々の重要器官である。拡張された内部空間を持つそれは人間のそれとは異なり、完全な風船状。外側の皮以外は全てが発酵母乳のタンクなのだ。
媚毒入りの母乳が絶えず発酵と濃縮を繰り返しており、その強力な内圧がテビウのおっぱいを膨らませているのである。そして時折、限界を越えた発酵ガスが媚毒と共に乳輪腺から僅かに漏れ、なんとも言えぬ芳香となるのだ。
その中に投入されたドライフルーツは、高い圧力によって水分を浸透されてふやけつつ、乳房内部で行われるヘテロ乳酸発酵——ブドウ糖から乳酸と炭酸ガスとエタノールを生む発酵——によってじわじわと分解されていくのである。
娼腐の頃から体内に宿していた乳酸菌もまた、宿主の進化に応じて進化しており、傾国堕誘のテビウともなれば、その体内に宿す乳酸菌も魔物と呼べるものになっている。きわめて高い発酵のサイクルにより、フルーツは次第に蕩けて乳に混ざってしまうのだ。
それらと発酵母乳のミックスされたテビウの特製ミルクは、俗にケフィアなどと呼ばれるそれに近い。
ケフィアは乳酸による独特の酸味、炭酸とアルコールの刺激など、なかなかに癖の強い食品だ。
だがテビウの乳の場合は混ぜ合わさったフルーツ由来の果実の香気が刺激的な乳酸の匂いをまろやかにし、更に馬乳酒と違って大量の媚毒が含まれていることで全体的な印象としては味も香りも非常に甘い。
栄養ドリンクとしても非常に優れており、発酵によって生産されたビタミンCを多量に含み、乳汁のタンパク質はアミノ酸に分解されていて旨味も強い。
また大量の乳酸菌が腸内環境を劇的に改善してくれるため、お通じも良くなる。これに動物の生き血を加えれば完全栄養食なのだが、味が酷いことになるので今回はあくまで超甘口ケフィアとして添えるのみだ。
そんなゼリーじみたケフィア母乳がビュルビュルと絞り出される光景は、まるで乳腺という乳腺から射精しているように見える。
濃粘液質かつ白濁したそれは、控えめに言ってザーメンに似ているのだ。
そんなケフィア乳を小鉢に絞り、生のフルーツを添えれば、最後の一品、発酵乳のデザートが完成だ。
栄養的にもバランスの良い、しっかりした料理を仕上げ、提出したテビウ。見栄え的にも参加者の中では屈指の物となった彼女の料理もまた、アバドンの裁定を受けるべく、提出された。
第三種目こそ勝ちを狙いたいという意欲が滲む、豪華な品目はどのように評されるのだろうか。