苗床オーディションから暫く後。新たな迷宮核として胎内迷宮アポリオンが加わった事で、業深迷宮の運営はより緻密かつ精密になり、バビロンの死後滞っていた部分もほぼ完全に解消した。
いや、むしろ全盛期を超えたと言って良い。バビロン不在ではあるが、勇者襲撃以前よりも迷宮の勢力は増している。
そして、イゥアやセルゥと言った広大な『胎内世界』の持ち主が現れた事で迷宮のキャパシティは増大しており、アバドンはこの機を活かすべく、新たな魔物の開発に乗り出す事にしたのである。
「と、いうわけで、みんなに集まってもらったんだけど」
「私思うんだけど、並列化してるんだしみんなの考えはわかるんじゃないかな」
「個体差を尊重したいという事なのでは?」
「個体差も何も私は生まれたばかりなんですけどね」
アバドン、アビス、アップグルント、アポリオン。4人の迷宮核が一堂に会したその目的は、『各自が魔物化したら面白そうだと思う生き物』の持ち寄りだ。
アビスの言う通り、記憶を並列化できる迷宮核同士ならわざわざこうして集まる理由はないのだが、単純にアバドンが集まりたかったのである。
それは他の迷宮核たちもわかっているので、文句は言いつつも皆思い思いの生き物を持ち寄っていた。
「じゃあ初めは……」
「言い出しっぺのアバドンで」
「賛成」
「意義なし」
「むぅ。……まぁ良いや。私が魔物化させようと思うのはこれだよ」
そう言って、アバドンが空間から取り出したのは、生きた山羊だった。
「この前周辺の村襲った時に手に入れたんだけどさ。何かに使えないかなって」
「まぁ、迷宮核知識によれば家畜としては優秀みたいだし良いんじゃ無いの?」
「異議無し」
「……並列化してるんだし、このやりとり茶番では?」
「雰囲気は大事だよ! じゃあ次はアビスね!」
暗に茶番と認めつつ、ちゃっかり進行役を担うアバドン。その促しに応じてアビスが持ち出してきたのは、蛞蝓だった。
「ナメクジかぁ」
「この迷宮ジメジメしてるし生息環境としてはアリだよね」
「でも、広義の蟲だし魔淫蟲系になるかも?」
「それはやってみなきゃわからないんじゃない? 次はアップグルントね」
「私はこれかな」
「うわなにこれ」
「カギムシ?」
カギムシ。プニプニのムカデの様な生き物である。頭に触手があったり、手触りがベルベットっぽかったり、口から粘液を発射したりと中々の珍生物だ。
「よくそんなの捕まえたね?」
「近くの森にいたみたい。最近は迷宮の外を探索してる子も多いから」
「見つけてきて貰ったと」
「そういう事。私たちは迷宮から離れられないしね。……アポリオンは何を魔物化させるの?」
「これ」
「……何? この、瓶の中にいるの?」
「アリ」
「……あ、本当だ。1匹いる。ちっさい」
「森のどんぐりの中にいたんだって。女王だけ持ってきた」
「なるほど。さて、全員の分が揃ったんだし、さっそく始めようか」
「全員でやる必要は流石にないでしょ」
「個別申請はシステムに変な負荷かかりそうだし、代表でアバドンがやって」
「了解」
————第1225号迷宮より魔物創造プログラムの起動が申請されました。
————邪神により承認されました。魔物創造プログラム、起動。
————『山羊』『蛞蝓』『鉤虫』『蟻』を魔物化しますか?
————魔物化開始……成功。『魔女山羊』『蛞蝓姫』『魔鉤虫』『人喰蟻』を作成しました。
「魔女山羊は1段回目でもう淫系統なんだ。……おっぱいでっか」
「見た目的にはかなり山羊だけどね」
そう評される通り、魔女山羊の外見は、2足歩行の山羊というべき外見であり、乳房が人間同様に胸に移行している以外は概ね山羊である。
それ以外で言えば、蛞蝓姫はまだ淫系統ではないものの、女性的な雰囲気がある。見た目はデカい蛞蝓なのだが体高が上昇しており肉体に生じたヒダがまるでドレスの様に見える。シルエットだけ見れば、ヴェールを被った女性に見えなくもないので、こんな名前なのだろう。
一方、魔鉤虫と人喰蟻は、それぞれ大きくなっただけである。と言ってもその巨大化率は中々であり、共に犬ぐらいの大きさにまで成長している。これは両者が『意外と獰猛な虫』である点が影響しているのだろう。要は何かを襲う魔物としての才能があるのだ。
だが、今や業深迷宮において初期段階の魔物に役目はない。変異を遂げたばかりの4体は、即座にアバドン達によって淫気、精気、そして瘴気を注入されて、強制的に淫系統へと変異を遂げた。
————規定の瘴気と経験を蓄積した為、『魔女山羊』『蛞蝓姫』『魔鉤虫』『人喰蟻』が進化します。
————『魔女山羊』は【黒山羊姫】に進化した!
————『蛞蝓姫』は【湯女蛞蝓】に進化した!
————『魔鉤虫』は【百足淫蟲】に進化した!
————『人喰蟻』は【娼蟻】に進化した!
流れるアナウンスと、目の前で変異する魔物達。
その出来栄えを喜びながら、アバドン達は新たに生まれた4体に、あらかじめ用意したそれぞれ別の個室へと移動を命じる。
個室の中には、牧場産の少年達が入れられており、魔物達は此処で実地評価を受けるのだ。
* * * * * *
だがその四肢は毛深く、脚には蹄を備えており、五指を備える両の手も、その指先にはやはり『蹄』のような硬い角質が備わっている。
異界の知識でいえば、女性性を強化したバフォメットとでも言うべきだろうか。しかし、黒山羊姫に羽はない。
では単なる獣人なのか? と問われればそれは否だ。黒山羊姫は魔物であり、明確に淫系統である。
その証左として、個室に入った彼女がその中に居た少年に視線を投げかけたその瞬間、少年の頬は朱く染まり、その陰茎は屹立する。
黒山羊姫は、その全身から争い難く甘い香気を放っているのだ。その芳香は、葡萄酒のそれに近く、酒精のように周囲の生物を酩酊させ、同時に発情させる。
そして、前述の通り彼女の乳房は大きく豊かである。その大きさはもちろんだが、山羊の特徴を残したその胸は長く、ピンと天を向いた巨大な乳首が特徴的だ。人間の乳首と異なり円錐状に尖ったそれは、下品な表現ではあるが『胸から包茎チンコが生えている』ような見た目をしている。
「こんにちは、坊や」
そう話しかける黒山羊姫の声は女性としては低く太い声。
だがなんとも言えない色気があり、蹄の音をカツカツと鳴らして歩み寄るその姿には妖艶な魅力がある。
嗅ぐものを酩酊させる甘い体臭も相まって、彼女にあてがわれた少年は既に蕩けた顔を晒して口を半開きにしており、自身を軽々と持ち上げる黒山羊姫に抵抗する気力は無いらしい。
そんな少年を備え付けの寝台に押し倒して、黒山羊姫はさっそく交尾を開始した。ふかふかの黒い体毛の中に埋もれた女性器で少年のチンポを飲み込んで、軽やかに腰をくねらせるその動きは、淫蕩な売女のそれだ。
だが、それだけでは止まらない。少年からの精気を貪り、子宮に熱い子胤を飲み込みながら、黒山羊姫はその巨大な乳房から透明な『母乳』を垂らし始める。
甘く、灼けるような、媚毒と酒毒の入り混じったその匂い。
黒山羊姫の母乳は、エタノールと媚薬の混合物なのだ。そして、愛液を含めた体液すべても同様に酒気を帯びている。
故に、普通に考えれば彼女との性行為は『失敗する』はずなのだ。
酩酊は『性的感覚も含めた』全ての五感を薄弱なものに変えてしまい、脳がまともな処理をできなくなる状態なのだがら。
だが、そうはならない。彼女の体液には酒精と同じかそれ以上に濃い媚毒が含まれているので、『性感覚だけは完璧に機能する』のである。
つまり、相手は『性的快楽以外に何も考えられない酔っ払い』にされる。
「あ゛ッ……ぎぃッ♡ おぉおぉぉ、い゛ッぐぅぅぅ♡」
「あらあら、坊やったら楽しそう♡ でもそんなに叫んでいたら声が枯れてしまうわ、ほら、私のおっぱいで喉を潤しましょう?」
そう囁いて、その長乳首を喘ぐ少年の口内に挿入する黒山羊姫。だがその言葉は欺瞞だ。蒸留酒並の度数を持つ黒山羊姫の乳で喉が潤うわけがない。
だが少年は、もうまともな判断ができる状態ではなかった。両方の乳首がその口内にぎゅうぎゅうに挿し込まれれば、夢中でそれを舐めしゃぶり、溢れる酒を飲んでしまう。
もはやそこまで行くと酒毒で死にそうだが、媚毒を含んでいるせいか精気は漲っている為、死ぬ事はない。
ただ、極限の酩酊の中で、訳もわからず快感を貪り続けるという体験は脳を変質させる。脳内で酒精と快感が連結されればもはや中毒になってしまうのは自明だ。
元々牧場産なので少年には人生らしい人生がない、というのは幸いだったのかもしれない。もし真っ当な人間ならば、酒に溺れ、快楽に溺れることで自我が腐っていく感覚を感じていただろう。
どうしようもない飲んだくれを生み出し、堕落させる黒山羊姫。その姿はまさに、サバトの黒山羊の如く邪悪で、淫奔な酒の神の如く頽廃的であった。