すまない、ホモ以外は帰ってくれないか!
男に生まれた事に、文句はない。なので、よく誤解されるが、僕は男が好きなだけで女性になりたいわけではない。
そう。ただ可愛い男の子が好きで、自分も可愛くなりたいだけなのだ。……理解してもらえるかはわからないが。
可愛さ。子供の頃は男も女も平等に持っているのに、男の多くは手放さざるを得ないもの。代わりに手に入る『格好良さ』や『逞しさ』は、僕にとっては無価値に映る。
フリルやレース、リボンのついた可愛らしい服。可愛い小物、ぬいぐるみ、編みぐるみ、フェルト細工にドールハウス。そんな可愛いものに囲まれて、いつまでも可愛く居られればどんなに幸せだろうか。
そして、そんな可愛い男の子を彼氏にできれば、もっと幸せだろう。
だが、そうは言っても男に生まれた以上、限界は近い。筋肉がつかない様に魔術系の道に進んでも、骨格自体が成長するのは止められない。
勉学に励み、錬金術師として研鑽を積んでも、精々が美容の薬を作るのが精一杯。外見の可愛さを美容薬で補い続けて、どうにかまだ、僕は『可愛い』僕で居られるのだ。
それでも少しずつ、格好良さが僕の可愛さを飲み込んで、大人の男になる事を強制してくる。可愛い男の子として生きたい。その欲望は日に日に増して行くのに、現実がそれを許さない。
そんなある日、僕は偶々再開した冒険者稼業の旧友から、一縷の望みを得た。此処より東にある第1225号迷宮こと、業深迷宮。媚薬の原料に溢れるその地には、若返りの妙薬なども存在しているらしい。
それを聞いた僕はすぐに冒険者組合を通じて依頼を出そうとしたのだが、その価格は法外なもの。なんでも難易度の急上昇により業深迷宮産の普通の素材も品薄なのだとか。
組合は頼れない。……ならばと僕が頼ったのは、邪教徒の一派、解放連盟の連中だった。
「僕は、可愛く在り続けたい。可愛い男の子と過ごしたい」
そう、自身の欲望を告げて、邪神に身を委ねたのだ。……人類もまさか、可愛さ欲しさに裏切る者が居るとは思わなかっただろうが、生憎と僕は本気だった。
そして、僕は今、業深迷宮に居る。
* * * * * *
見所のある錬金術師が、邪教徒として業深迷宮に帰属を願い出ていると『解放連盟』から教えられたバビロンは、その人物の情報を吟味した末に、受け入れを決めた。
「錬金術師か。邪教徒に転職しても頭の中の知恵が消える訳では無いし、是非とも手駒に欲しいな。……それに、可愛く在り続けたいという欲望、実に我が迷宮向きだ。……となると歓迎の相手は……そうだ、セウロア博士。実験体4号、あの『遠心分離された沼稚児』、アレの進化した……『沙汰童子』だったか。あれを使おう。準備を頼む」
「やれやれ。バビロン様は愚生を秘書か何かだと思って居るのではないか?」
「参謀を任せられる人材は希少なんだよ、この迷宮……。そういう点では、今度の錬金術師君が増えれば博士の負担軽減にも繋がるかもな」
「……やる気の出させ方が雑では? ま、いい。乗せられておいてやろう。……愚生は沙汰童子を呼び寄せておくので、バビロン様も面接の方を」
「よしきた。————では、邪神式魔術プログラム、起動。
受信術式の起動と同時に、邪教徒側の送信術式から送り込まれた錬金術師が、バビロンの眼前に召喚された。
可愛らしい、フリル盛りだくさんのドレスに身を包んだご令嬢……にも見える、青年。
淫系統特有の鋭敏な『性別判定能力』が無ければ見誤るほどに『可愛い』その青年は、どこか思いつめたような表情で、バビロンを見つめている。
「はじめまして。私は業深迷宮バビロン。君は————」
「僕はキルカ・セナワ。しがない錬金術師をしておりました」
食い気味にそう名乗るキルカの声は震えている。迷宮をかいして大量の瘴気と精気、そして淫気を食い続けているバビロンは、キルカより遥かに強い。
圧倒的上位者を前にすれば、緊張するのも致し方無いだろう。
だが、バビロンはそれを承知の上で、努めて明るく声をかけた。
「いやいや、そんなに畏まらなくても構わない。この迷宮はその辺りの上下関係は緩いからな。……さて、聖神を裏切り、邪神に与してまで欲しいものがある、と聞いたが。私は何を提供すれば良い? ——そして、君は何を提供してくれるのだろうか、キルカ」
「僕の全てを捧げます。……代わりに、僕に永遠の『可愛さ』を」
「それだけか? 遠慮する事はないのだがな? ……それとも、恥じらっているのか。……であれば安心するといい。今行っているのは確認だ。キルカ、君の欲望については解放連盟から報告を受けている。正直に言え」
「えっと……その、可愛い彼氏も欲しいです。はい」
ようやく肩の力が抜けたのか、照れたようにそう言うキルカに、バビロンは笑顔で頷くと、待遇についての説明を開始する。
「よろしい。……さて。形式的とはいえ願いを聞いておいてなんだが、もう此方で準備はしていてな。君には研究室一つと、専属実験助手兼恋人枠として『沙汰童子』をつける。……セウロア博士、連れてきてくれ」
呼びかけと同時に、迷宮内を走る配管からセウロアと共に現れたのは、『透明な液体で出来た美少年』と、『純白の粘土で出来た美少年』。どちらもフリフリのドレスに身を包み、可憐な顔立ちに微笑みを浮かべてキルカの元へと駆け寄ってくる。
それに思わず見惚れてしまったキルカは、流れる様な動きで自身の両脇に回り込んだ二体に対応できず、されるがまま腕を組んで頰を寄せてくる美少年達のスキンシップを受ける事になる。
それを見て、バビロンは悪戯な笑みとともにキルカに問いかけた。
「色仕掛けは人心掌握の基本……好みの性的対象を都合されて、嫌な奴は居ない。男女問わずな。……実際に体験してみれば、キルカもそう思うだろう?」
「ええ、まぁ、はい。魔物、ですけど、こんなに可愛い子なら、正直……嬉しいです、はい」
「魔物だが、か。ま、その内、我々淫系統魔物でなければ満足できなくなるだろうさ。……ともあれ、歓迎しよう、キルカ。君の働きに期待している。……以上、面接は終わりだ。後は自由に過ごしてくれ。私もそうする。……ああ、部屋に送ってやらねばな」
そう言って、バビロンが指を鳴らすと同時に、キルカの身体は両脇に侍る沙汰童子と共にふわりと浮いて、その場から消失する。
「ふいー。終わったー。……アンナのおっぱい飲みに行こう、そうしよう。あ、セウロア博士も自由解散で」
「うむ。……しかし、本当に愚生の仕事が楽になるのだろうな?」
「その筈だがな。……ま、キルカの働きに期待だ。……しばらくは沙汰童子との蜜月を過ごすだろうが、まぁ半月もすればその内仕事とセックスのバランスを見つけるだろうさ」
そう言って笑うバビロンに、セウロアがふと疑問を呈する。
「いや、流石にそこまで色ボケはしないのでは?」
その問いに、バビロンは大きく笑うとこう告げた。
「いや、童貞が3人、受け攻め交代制でホモセックスだぞ? 歯止めが効くわけ無いだろうに」