寝台で眠るアンナに寄り添い、表層意識を低下させて内面的な事務作業に没頭していた『私』は、アンナの身じろぎする衣摺れの音で意識を表層へと戻した。
第1225号迷宮核『業深迷宮バビロン』として生を受けて10年。小さな洞窟から始まった私の一生は、常に最愛の妻『アンナ』と共にあった。
食うに困り、迷宮に迷い込んで呆気なく捕獲されたスラムの少女アンナと、初めて捕獲した人間に歓喜雀躍しつつさまざまな改造を施した私。
其処から始まった繁殖と情欲の日々は、私とアンナを共に成長させてくれた。
桜色の唇、豊満な肢体、閉ざされた目元の、長い睫毛。枯れ木のようだったスラムの子供の面影は、顔と身体に残るそばかすだけ。
そんな美しく育ったアンナの裸身が寝具の上で形を変える様は、無防備な色気に溢れ、否応無しに私の欲望を刺激する。
私の
そんな欲望を胸に抱きつつも、私はアンナの眠りを邪魔するまいと、彼女の睡眠中は事務作業に没頭する。
だが。
そんな私の自制を容易く破壊するのが、アンナという魔性の女、天性の毒婦である。『苗床』の上位職である『魔母・初段』に達してなお成長を続けるその肉体は、苗床として史上稀に見る逸材だ。
そんな彼女が『バビロン』というただ一体の迷宮を魅了しようと一途に肉体を磨いてきたとなれば、その対象である私が淫系統魔物の本能を抑えることは難しい。
「んぅ……ばびろん……もっとぉ……」
「————寝言で呼ぶのはあざとい。あとなんか『もっとぉ』とかエロいのもズルい。……だから私は悪くないのだ、うむ。……もう外も朝だしな、起こしても悪くないだろう。そうとも。うん。……。…………うん」
誰に言うでもない言い訳を漏らし、私は眠るアンナのたわわに実った双丘にそっと手を触れ、やわやわと揉み始める。
本質は迷宮であり、この仮初めの肉体すら金属と輝石で出来ている私にとって、本来『乳』というのは縁遠い存在の筈だ。それは有機的で、柔らかく、命を育む為のもの。無機質で、硬く、命を蝕む為に生まれた私とは対極に位置すると言ってもいい。
それ故なのだろうか。私はどうも、この乳房という器官に惹かれてしまう。
手に吸い付くような柔肌の触感。流動性に富みつつも弾力のある手応え。甘いミルクの薫りがするそれに顔を埋めれば、コリコリとした乳首が鼻先をくすぐる。
その桃色の突起を口に含めば、えも云われぬ安心感が思考を満たし、甘い母乳が私の石の臓腑を満たす。
吸えども吸えども飽きぬその果実。精気を貪る淫系統魔物としての幸福だけでなく、このように穏やかな幸福感を得られるというのは一体どういう摂理によるものなのだろう。
そんな疑問も、口内に溢れる甘い母乳と精気が流量を増したことでどこかに押し流されていく。……アンナが起きたようだ。
「おはよう、バビロン。今日も起こしてくれたんだね」
「いや、そういう訳では……おはよう、アンナ」
今日も迷宮の1日が始まる。……さて、哀れな犠牲者を迎えるべく、私も準備をせねば。
そう思って身を起こした私をアンナのしなやかな腕が抱き戻し、私は再び柔らかな女体の上へと軟着陸する。
「ね、バビロン。おはようのえっち、しよ♡」
「……ん。うーん……。……うん」
準備の開始は、しばし延期にしよう。
* * * * * *
夢魔睡蓮の蔦を斬り払い、魔淫蟲を踏みつけ、震撃蝦蛄の一撃を小楯で受け流す。
型通りかつ無骨かつ無難。そしてそれ故に実用的な戦法を駆使して、この日迷宮第一層を突破した少年。彼の名はリンガ。若くして二級冒険者にまでたどり着いた、冒険者組合の期待の新星である。
そんな彼は、今ようやく迷宮一層の最奥にある大部屋にいた夢魔睡蓮の群生とそこに潜む淫猥大蟲を倒し切って第二層へと足を踏み入れるに至り、その光景の変化に息を飲んだ。
第一層が『半水没した沼地の迷宮』であるなら、第二層は『広大な水没林に沈む遺跡』といった趣の空間であり、その光景は大きく異なる。
たかだか一層下っただけでそこまでの変化があるというのは迷宮以外の空間であればあり得ない事態だろう。
だが、ここは迷宮。異空間そのものを肉体とする魔物の体内。故に層が変われば環境もガラリと変わるというのは珍しく話ではない。
むしろ、水没という共通点がある分、まだこのバビロンは親切な方であるとすら言える。
「うーん、凄いな。……この分だと魔物も見たことないようなのが出るかも。気を引き締めて行かないと」
そんな独白を零しつつ、密林を進むリンガ。そんな彼の前に躍り出たのは、一匹の小鬼であった。思わず反射的に切り捨ててしまうが、その直後リンガは大きく飛び退る。小鬼を切った感触に違和感を覚えたのだ。
骨の感触がない、肉だけのナニカを切った感触。明らかに異質であった。
そしてその判断の正しさを証明するように、先程までリンガが立っていた場所を突き上げるようにして、水中から巨大な肉の蛇が現れた。淫猥大邪蟲。直径20指、長さは10歩にも及ぶ淫系統魔物の一種である。
リンガにとっては全く初見の魔物。だが、その存在が淫猥大蟲の上位種であるとすぐさま見切ったリンガは、思わず舌打ちを漏らす。淫猥大蟲の時点で、強力な再生能力を持っていたのだ。その上位種となればもはやリンガの実力では殺しきれない公算が高い。
さらに先程の小鬼に目を向ければ、其処に居たのは小鬼に化けていた淫泥魔。見事な陽動を決めたその淫魔は、得意げにヘラヘラ笑って迷宮の泥濘に溶け消える。
ここは逃げの一手。引き際を誤っては死んでしまう。そう判断し、リンガは淫猥大邪蟲から視線をそらさず、ジリジリと後退りしながら撤退を開始し————ドン、と何か柔らかなものにぶつかってよろめく事になった。
振り返った先には、緑の肌に包まれた腹筋。見上げれば大きな乳房が視界を遮り、その向こうには、こちらを見下ろす美しい鬼の顔。
やばい。
そう考えた直後、脳髄を揺さぶる強烈な咆哮がリンガを直撃し、彼は一瞬にして昏倒する。
そんな彼をひょいと担ぎ上げた大鬼は、獲物を取られて不満げな淫猥大邪蟲に軽く詫びを入れると、密林の奥へと消えた。
————迷宮第二層。そこに潜む進化した魔物を相手取るのは、まだ冒険者2級でしかないリンガには荷が重かったようである。
引き際というのであれば、小鬼を切り払った後、脇目も振らずに逃げていれば良かったのだが……そんなことは、後の祭りというものだろう。
* * * * * *
散歩の最中に何となく気が向いて二層と一層との境界付近に足を運んだら、可愛い男の子を拾えた。そんなラッキーに、彼女は幸運を齎してくれた神、大迷宮バビロンへの感謝の歌を歌う程度にはご機嫌だった。
彼女の名は『ローレライ』。中空の角で声を増幅し、魅了の声を放つ淫角妖鬼————の上位種の淫角大妖鬼、その更に上位種である『淫妖艶美大角鬼』にして、『淫妖太母・艶角鬼女王』こと迷宮の大幹部プルナの長女である。
要するに、強くてデカくて美人で巨乳で緑色な鬼だ。
その胸は巨躯を考慮してもなお大きく、大玉の西瓜以上の巨大な果実がたわわに実り、強靭な筋肉によってピンと上を向いている。
本来はもっと下層の所謂ボスクラスの存在である彼女だが、こうしてフラフラと気軽に上層まで散歩に出る事がある。
故にその存在はバビロン攻略に挑む最精鋭の冒険者達にも僅かながら知られており『徘徊する大鬼』として「出逢えば死ぬ存在」扱いをされているのだが……今日ようやく二層に到着したリンガにその知識を求めるのは酷だろう。
「〜♪ 〜♫」
鼻歌を歌いながら歩くローレライの周囲には魅了の魔術が垂れ流され、耐性のない存在は彼女に近寄るだけでその虜になってしまう。
この迷宮に存在する魔物は殆どが淫系統であるため問題にはならないが、それでも迷宮内に勝手に住み着いている小鬼などの野生の魔物は、フラフラと彼女の後を追い、ちょっとした行進が出来ていた。
だがそれも、彼女が自身の住まいのある第9層に至る頃にはなくなった。この領域になってくると、鼻歌に惑うような連中は居ないのだ。
そんな準幹部級の魔物達の居住区となっている第9層。
その一角にある自室についたローレライは、自室のベッドにリンガを寝かせると、ご機嫌な様子で戸棚を漁り、鋼鉄の首枷と鎖を取り出して手際よくリンガの首に鎖をつないだ。
そのもう一端を壁にある留め具にかけ、装備を紙でも破くように引き剥がせば、あっという間に壁に鎖で繋がれた下着姿の少年が出来上がる。
その具合を念入りに確認して満足したらしいローレライは、次に今度は何やら金属で出来た複数の工具や小さなリング状の貴金属類を取り出し、ベッド脇の机に並べ始めた。
それが終われば今度は机の引き出しからインク壺をいくつも取り出したり、戸棚の奥から蒸留酒の大瓶を取り出したりと忙しく準備を進めていく。
その最中、ベッドから響く小さな呻き声。……どうやら捕らえられたリンガが目を覚ましたようだ。
「ぐっ……あ……。……? ……ここは?」
「あ、起きた」
「ヒッ!? 大鬼! くそッ、逃げなきゃ……服は!? 鎧もない!? 剣も!? ちくしょうこうなったらとにかく逃げ————グエッ……!」
「あー! ダメだよ、首輪着けてるのにいきなり暴れたら。もー、お馬鹿さんだなぁ」
「ガハッ、ゲホッゲホッ、ゲッ、カフゥッ…………ハーッ、ハーッ、ハーッ……」
逃げようと跳ね起きたことで自ら首枷を締めてしまったリンガは、思いっきり噎せながら、ベッドの上で首を抑えてうずくまる。
だが少し呼吸が落ち着くと、背をさするローレライの手を涙目で払い除け、彼はベッドの端へ端へと鎖の許す限り逃げていく。
自分を一撃で殺し得る存在を前に平静を失った彼を責めることはできまい。無様に逃げ惑うことしかできないのも当然の状況だ。
そんな彼の恐怖の対象であるローレライは、そんな彼の様子を見て、ニコニコと微笑んでいるが————その笑みに酷薄なものを感じたのは、何もリンガの勘違いではない。
「ふふふ、可愛いなぁ♡ 私を見て怯えるその顔、その表情……これからどんな目にあうのか想像もできないけど、とにかく怖くてたまらないんだね? 良いよぉ〜♡ 良い顔だよぉ〜♡ ふふふふふ…………♡ じゃあ、君の期待通り、今からヒドいこと……し・ちゃ・う♡」
蕩けるような声と恍惚の表情でそう言うローレライは頬を蒸気させ、リンガの頬を掴んで顔を固定すると、実に美味そうにその涙と鼻汁を舐めとった。
……そんな目にあったリンガはもはや血の気の失せた表情でガチガチと歯を鳴らしながら、滂沱の如く流れる涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして恐怖に震えている。
頬は解放されたというのに、もはや蛇に睨まれたカエルの如く、その場から逃げ出すことすらできずにへたり込んでしまったのだ。
「ふふふ、大丈夫♡ ちょーっと色々痛い事するけど、死なないよ? キミは大事に、だ〜いじに、なが〜く飼ってあげるからね♡ うん、約束する。だって私、ずっとペットが欲しかったんだもん♡」
「ぺ、ぺぺペ、ペット……?」
「そう、キミは今日から私の飼い人間。……だから、まずはオシャレにしないとね♡ 大丈夫、飼い人間の世話は飼い主の義務だもん。ちゃぁんと責任をもってキミを最高にオシャレにしてあげる♡」
そう言いながら、リンガの下着に手をかけたローレライは、その凄まじい腕力で一瞬にして下着を引き裂き、彼を真っ裸に引ん剝いた。
その恐怖と恥辱に、リンガが「ッヒィ……!!!!!」と引き攣った悲鳴を漏らすのを聞いて幸せそうに微笑むあたり、どうもこのローレライという鬼はかなりの嗜虐愛好家であるらしい。
そして、震えるリンガを片手で軽く組み伏せたローレライは机の上からある器具を手に取り、その先端をリンガの顔へと突きつけた。
魔力を注ぎ込まれ、ヴィヴィヴィヴィと独特の振動音をあげて駆動するその物体は、リンガにとっては意味不明な恐怖の装置でしかない。
その先端から逃れようと必死にもがくものの、ローレライの力は片腕でも凄まじく、痛みを感じない程度に、かつしっかりとグリップされた頭部はピクリとも動かせないほどに固定されている。
そんな彼の額にローレライは慎重にその振動装置の先端を当て……そしてその直後、額に走った痛みに、リンガは恥も外聞も忘れて泣き叫んだ。
「い゛ぁぁぁあ゛ああぁぁああああ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!」
「わぁ♡ 元気いっぱいの可愛いお声だねぇ♡ でも今から刺青掘るから頭動かしちゃダメでちゅよ〜♡」
そう言いながら、ローレライは手際良く器具を操り、泣き叫ぶリンガの額に刺青を彫り込んでいく。綺麗にレタリングされた『ローレライ』の文字を装飾するように紋様を彫り、黒ベタとライニングは完了。続いて紅色や緑、青の顔料を用いて薔薇やハートマークに色を刻み込んでいく。
「あ゛ーッ! ゔぁッ! あああああッッ!!!!!」
「よちよち、痛い痛いでちゅね〜♡ おでこに迷子になっても大丈夫なように迷子札書いときまちたよ〜♡」
完全にリンガという個人を舐め腐っているのか、幼児語で語りかけるローレライ。だが額に飼い主の名入りの『花冠』を彫られた痛みで悶絶するリンガには、その煽りに憤る余裕はなかった。
しかし、本来刺青とは痛みを伴うとはいえここまで泣き叫ぶようなものではない。……普通の器具で、普通の部位に入れるのであれば。
リンガがここまで苦しんでいるのは、顔面という神経の鋭敏な部位に、魔物の皮膚にも使えるような高出力の器具で彫られているが故のことである。
だが悲しいかな、人体、それも『男』にはそれ以上に敏感な器官が存在しているのだ。
「はいはい、痛い痛いは嫌でちゅねぇ〜♡ じゃあ次は一番痛いところを先にすませちゃいちゅか〜」
「ヒィッ!? 嫌だッもうやだッ助けてごめんなさい何でもします助けて助けて助けてぁあああぁぁッッやだやだやだやだこっちに来ないで、それはもうやだ無理死んじゃう、無理だから無理無理無理————ッ!?」
喉から血を吐きそうな勢いで吠えるリンガ。そんな彼の四肢にローレライが呼び寄せた淫猥大邪蟲が手枷足枷の如く絡みつき、ベッドの上で指一本動かせないレベルまで彼を拘束する。
そして、ローレライの手の中の器具が次に狙いを定めたのは『一番痛いところ』。つまりは男性器————リンガの、まだ皮を被ったままの少年おちんちんであった。
「————ッッッッ!!!!!」
声のない絶叫。目と鼻から身体中の水分を迸らせ、激しく痙攣するリンガの様相はおおよそ正気のそれではない。というより、あまりの苦痛に、脳が精神を保護するべく自我をシャットダウンさせたのだ。
陰茎や睾丸の改造度合いという点だけを見れば、ローレライの父たるレーニア——10年前迷宮に囚われ発狂した妖精族の冒険者——の方が酷い。
彼は睾丸の増設や陰茎の強化などを度々受けており、脳改造のせいで自我が一部崩壊して陰茎が本体と公言するようになってしまっている。
だが、彼への施術は全て夢魔睡蓮などの媚薬を用いた『麻酔あり』。『麻酔抜き』で陰茎を改造されているリンガとは苦しみの度合いが大きく異なるのである。
現にリンガは既に何回か心臓が止まり、その度に速やかに蘇生されては悶絶し、また心臓が止まるという地獄めいた体験を現在進行形でしている。
————そうして半日ほど掛けて念入りに念入りに、身体のあらゆる場所に薔薇とハートをあしらわれたリンガの精神は、レーニアとは別方向に『崩壊』した。
ヒトという種は、理由なき苦痛、理不尽な暴力というものを恐れるように出来ている。『相手を怒らせたから殴られた』というのには納得できても、『特に理由なく殴られた』というのには納得できない。
それは形のない恐怖。対策しようの無い痛み。それはとても恐ろしいものとしてヒトに多大なストレスを齎す。————故に、ヒトは痛みや苦しみに『理由をこじつける』傾向がある。
『日頃の行いが悪い』『バチが当たった』『相手は酔っていたのかもしれない』『相手は狂人だ』『人違いで殴られた』。
それらに根拠はなく、恐らく的外れな原因だ。だがそれでもそう思うことで、人間は安心できる。理由があれば対策ができるから。
例えば、日頃の行いを改める、など最たるものだろう。意味はないが対策した気になれるし、かつ誰も損しない手段であることから、『理不尽な苦痛にこじつける理由』としては大人気である。
そして、リンガの脳髄もその例に漏れず、地獄のような苦痛に、理由を求めた。
そこにスルリと理由を差し込んだのは、他ならぬ『ローレライ』だ。
「痛い痛いでちたねぇ〜♡ でもこれは『キミの為』なの♡ キミは、『生まれた時から』私のモノ。私の『ペットになる為に生まれてきた』の。なのに今まで『お外をほっつき歩いてた』でしょう? これはねぇ、その分の『罰』なの。『悪い子にはお仕置き』しなきゃでしょ?」
もとより脳を犯すその魔声。それを用いた『理由づけ』による洗脳は、傷つきバラバラになったリンガの精神を歪な形に無理やり再構成し、二度と元に戻らなくする『悪鬼羅刹の所業』である。
だが、もはや、そんなことを思える機能はリンガには残っていなかった。
————僕が悪い子だったから罰を受けた。ペットなのにご主人さまの元に戻らなかったから、お仕置きをされた。僕は悪い子だ。だから痛い。お仕置きされた。
————痛いのは、いやだ。
————だから。
「ごめんなさい、ごめんなさい、僕、良い子になります、だから許して、許してくださいご主人さま」
「…………ぁはぁ♡
そう言ってローレライはリンガを淫猥大邪蟲の戒めから解き、壁に掛けてあった鎖を手に取ると、彼を床に立たせて自身も立ち上がる。
「……! ご主人さま! ご主人さま!」
「あぁ、ぴょんぴょん跳んでチューしようとして可愛いねぇ♡ でも上のお口には届かないねぇ? どうする? 仲直りのチューしなきゃダメだよ?」
それは明らかな嫌がらせ。体格が二倍半も違うローレライとリンガが口同士でキスするならば、ローレライ側からしゃがむほかない。にもかかわらずローレライは仁王立ちのまま、恍惚の表情でリンガを見下ろすばかり。
それでもなんとかキスをしようと背伸びするリンガの姿は滑稽であるが、彼は至って真面目で非常に真剣だ。そんな彼の前で、ローレライは『トントン』と指で自身の恥骨を叩きながら、もう一度繰り返す。そこはちょうど、リンガの顔の前だ。
「上のお口には、届かないねぇ?」
「っ! ご主人さま! 僕、ご主人さまのこっちのお口にチューします! んむぅ、んっ、んぷっ……」
「あんっ♡ うん♡ よくできました♡ これで許したげるっ……♡ んふぅ♡」
顔全体をローレライの女性器に押し付けるようにして、女性器にキスの雨を降らせるリンガ。ローレライの体格がリンガの二倍半というのは何も身長に限った話ではなく女性器も同じ比率で大きくなっている。
故にリンガは今、顔を大陰唇の中に挟み込んで、膣口とディープなキスを交わすことが出来ているのだ。
時折息継ぎをしてはまた女性器に潜り、キスをする。無我夢中でそれを繰り返すリンガは次第に肉体の苦痛がなくなり、キス、もといクンニリングスをする度に自身の失われた体力が戻って行くのを感じ、また快感を覚えるようになった。
それも激烈にだ。リンガの肉体は今血管の中を活力が迸り、脳はめくるめく天国のような快感を得て歓喜に打ち震えているのである。
それは媚薬効果と強壮効果を持つローレライの愛液の作用である。……が、その『キマりっぷり』は通常のそれを遥かに超えていた。
人の……いや、生物の肉体には『恒常化作用』というものが備わっている。それは『慣れ』として一般的に知られるものだ。
例えば麻薬の類。慣れるほどに量を増やさねばキマらなくなり、禁断症状が重篤化するが、これは恒常化作用により『麻薬が効いている状態が通常状態』となるように肉体が変化するためだ。
故に少量の麻薬では『通常状態』にしかなれず快感を得るためには前回以上の麻薬が必要になる。そして、麻薬の快楽がある状態を『基準値』に定めてしまうが故に麻薬が切れた状態を『苦悶』として感じてしまうのだ。
無論これは通常の麻薬の話であり、瘴気と精気と魔力によって構成される淫系統魔物の体液に『慣れる』事は出来なかったりする。
淫系統魔物の媚毒はこの『恒常化作用』自体を乗っ取り、『基準値を下げる』事でちょっとした快感も『天上の悦楽』として認識させ、ついでに精力をつけて生殖欲求を呼び覚ますものだからだ。
そしてリンガに起こったのは、この『恒常化作用乗っ取り』の媚毒を、拷問によって『苦痛があるのが普通』というふうに働き始めていた『体内基準値』に叩き込まれた事による、『基準値の下がりすぎ』であった。
ただでさえ下がっていた基準値を媚毒の効果によって極限まで下げられた事で、『媚毒効果でちょっぴり気持ちよく、精力剤効果でちょっと元気に』という程度である筈の現状が、『天上の悦楽と総身に漲る活力』として認識されてしまったのである。
そしてその尋常でない快感と活力が、リンガの中で『ローレライと仲直りした』という認識と紐づけられたこの瞬間、リンガの『洗脳』は完成した。
ローレライに刃向かう事で得た無限の苦痛と、ローレライに恭順して得た無限の快楽。
両者を学習したリンガの脳は、苦悶とはローレライへの叛逆であり、快楽とはローレライへの服従であると理解したのである。————そう、ちょうど犬がオヤツで躾けられるように。
「ご主人さまっ♡ ご主人さまっ♡ ご主人さまご主人さまご主人さまぁ♡ んぷっ、んちゅぅ……♡」
夢中でオヤツに飛びつく犬の如く、リンガは
より強く、グリグリと押し付けるようにローレライの緑色のマンコに顔をめり込ませ、舌どころか顔全体で彼女の膣内を舐め回すその様は、所謂『バター犬』に近い。
そしてその痴態は、ローレライに支配者の悦びと性的快感を覚えさせるに充分なものだった。
「ふふふ♡ 良い子でちゅねぇ♡ よちよち、ご主人さまでしゅよ♡ ……んッ♡ あぁん、クリ見つかっちゃった♡ ん、そう、良いよ、もっと吸って♡ んふ…………頑張って見つけた可愛い子には、ご褒美あげなきゃ、ねッ♡」
「ぶふっ♡ ご主人さまのお汁いっぱい噴き出してきたぁ……♡♡♡ お汁、お汁美味しいよぉ、気持ちいいよぉ、ご主人さまぁ〜♡」
「あぁ、可愛い♡ ふふふ、これですっかり私のペットだねぇ……そうだ、名前付けたげなきゃ。可愛い名前が良いよね、うーん……そうだ。うん。……ね、ポコちゃん。君は今日からポコちゃんですよー」
「うん、ご主人さま、僕、ポコちゃんになります……♡ ふふ……新しい名前……ご主人さまから貰った名前、大切にしますね♡」
そう媚びるリンガ改めポコ。その瞳の奥底にある苦痛への怯えを見透かしているローレライは昏く深い悦楽を感じずにはいられなかった。
淫系統の個体には珍しい嗜虐願望。それは苦悶から漏れる瘴気を食らう魔物の
故に、ローレライにとっても実は今回ポコを拾った事は幸運であった。淫系統魔物の群れの中で持て余していた嗜虐願望。その捌け口を得た事で彼女は今非常に満ち足りているのだ。
「ポコちん、ずっとずっと一緒にいようねぇ♡」
彼女に対し恐怖を抱き続けるだろうポコにとって、彼女のそばに居続ける事は無意識化での疲弊を意味する。
いくら口で「はいご主人さま!」と言っていようが、瞳の奥にいる怯えた『リンガ』は、ポコの一挙手一投足の裏に恐怖の色をにじませてローレライを愉しませてくれるだろう。
「……ああ、可愛い、可愛いねぇポコちん♡」
そう零しながらこれからの日々への期待に胸を高鳴らせるローレライの顔を見なかったのは、ポコにとって幸運だったのだろう。
自身の女性器に埋もれるポコを見下ろすその顔は、笑みと呼ぶには余りにも歪みすぎて居たのだから。