厨二病注意。
中二の僕が異世界トリップしちゃった件
その日、僕は自動車に轢かれた。
冬の夕暮れ、すっかり暗くなった時間帯に、信号のない横断歩道を渡る僕を見落としたのだろう。速度オーバーの時速70kmで突っ込んできたワゴンは僕を盛大に吹き飛ばし、運の悪いことに頭から電柱にぶつかった僕は即死した————らしい。
「そんな不幸な君に、異世界で暮らす未来をあげよう」
そう言って来たのは、白いスーツに実を包んだ美青年。魂だけの僕には彼から放たれる強いオーラが見え、異世界の『聖神』であるという彼の名乗りを納得とともに受け入れた。彼が映像付きで語る僕の死は、僕の記憶とも一致している。
「その、神さま、僕を地球で生き返して貰えたりは……?」
「それは無理かな。贈り物と拝み倒しでどうにかこうにか、姉さんの管理する世界から死者の魂を1つだけコッチに呼べることになったんだ。だから君が異世界に行くのは確定というわけだね」
「じゃ、じゃあせめて、こう、向こうで生きやすい様には、ほら。異世界召喚だとチートとか、なろうとかハーメルンの小説であるじゃないですか。そういうのは」
僕の言葉に、神様はニコリと頷いた。
「ああ、それについては勿論さ。1つだけの魂なんだ、強化はドンドンしていこう。しかし、チート? が良く分からないから少し記憶を見せてもらうよ……ああ、成る程。君の記憶にある物語では異世界に連れて行かれる物語があるのか。そこで神からチート能力を貰う、と。いいだろう。そういう事なら君の求める能力を聞こう。ああ、君の行く異世界は君の考えている通り、魔物と人の争う、剣と魔法の世界だからね」
「本当ですか!」
僕は思わず歓喜の声を上げてしまう。アニメや漫画、スマホで読んでいた主人公になれるなんて最高だ! 中学2年生で死ぬなんて最悪だと思っていたけど、これなら楽しそうだぞ!
「喜んでくれて嬉しいよ。さて、何がいい?」
「えっと」
チート能力。色々と想像はできるけど、なんでも良いと言われたらなかなかに迷う。多すぎても自分で覚えられないだろうし……。あ、そうか。
「異世界でも地球のネットが観れるスマホと、あとそのスマホに僕のステータスが見れるアプリを入れてください」
「良いだろう。ただ、ネットは閲覧のみで書き込みは出来ない。世界間の相互通信をするには時間の同期やらが必要だからね。アプリは問題ないと思う」
「スマホは壊れない様に」
「もちろんだ。充電も不要にしておく」
「やった! えっと、じゃあ、最強の剣が欲しい! 斬りたいものだけを斬る様な」
「対象を選んで斬る剣か。了解した」
「あと、天候操作と、不老不死と、最強の魔力と、痛いのは嫌だし痛覚無効と、あ、お金に困らない金運とか、どんなご飯でも出せる道具袋とか。あ、自分の持ち物を奪われても取り返せる能力も。それと、無敵バリア。あ、でも回復とか強化とかは通すバリアがいいな。攻撃だけを弾く感じの」
「了解だ」
「あとは、外見は、長い銀髪で、左目が金、右目が赤色で、一見すると女に見える中性的な美形だけど実は引き締まった筋肉がある感じに……あ、怪力も追加で。名前はファントムね。あとやっぱりモテモテになりたいな! 可愛い女の子でハーレム作りたい!」
「良いだろう」
トントン拍子に能力が決まり、気付けば僕のステータスはこんな風になっていた。
『勇者ファントム』
職業:勇者・1級
固有技能:『異界閲覧機』『能力表』『随意切断剣』『天候操作』『不老不死』『魔力無限』『痛覚無効』『大金運』『無限糧食』『所有物奪還』『攻撃無効化障壁』『怪力』『魅了美貌』
「うん、これで良いや」
「そうか。では早速だが勇者ファントム。君には異世界に旅立ってもらう。人通りの多い街道の側に出現させよう。ああ、向こうの世界ではどんな言語でも会話の意志さえあれば意思疎通ができる。翻訳は気にしなくて良い」
「わかった! ……えへへ、楽しみだなあ」
「ああ、存分に楽しんできてくれ。君が活躍し、人間と魔物との戦いの光となる様に願っているよ」
そんな神さまの応援を受けた僕は、徐々に意識が遠のいて、ふわりとした落下の感覚と共に何処かへと落ちていく。でも、僕はその落下の感覚に、恐怖よりはむしろ期待をしているのだった。
* * * * * *
気付けば僕は、純白のロングコートに身を包み、街道の側に立っていた。遠くには大きな街が見え、暖かな日差しが街道を明るく照らしている。
周囲を眺めると、沢山の池がある。こういう地形はなんて言うんだっけ? 沼地?
「そうだ、スマホ。……えっと、ネミツ湿地帯、かな?」
水場があるってことは、神様の言った通り、人里は近いのかも。社会でインダス文明とかチグリスユーフラテス文明とかやったし。……あと2つはなんだっけ? アマゾン?
いや、まぁ、もう社会のテストはないんだけどさ。
なんの花なのかよくわからない花。見たこともない木。変わった色の蝶々。
そういったものの数々が、僕に異世界に来た実感を教えてくれる。
「でも、馬車は無いのかな?」
異世界と言えば、という感じで馬車があるものだとばっかり思っていたけれど。
街道にも車輪の後はないし……って、上か! 空に船が沢山飛んでるんだ! ……そっか、そうだよな。魔法で飛べるなら飛んだ方が一直線だもんな。ってことは、街道は本当に歩く為の道なのか。
……うーん。これ、地球よりも凄い世界なのかも。少なくとも、交通手段は。
「って、見惚れてる場合じゃないや。早く街に行かないと」
ようやく、僕は遠くに見える街を目指して走り出す。身体はすごく軽い。足も飛ぶ様に早い。
風を切って走る心地よさを感じながら、僕は希望を胸に街へと向かうのだった。