エロはないよ!
「は? え、嘘ぉ」
勇者出現。その一報を聞いたバビロンの第一声はそんな間抜けなものだった。
迷宮に程近いタビハの街に潜伏する邪教徒から齎されたその情報は、複数筋から裏の取れた確かなもの。
だが、勇者という『聖神側勢力の超兵器』がわざわざこんな辺境の迷宮に投入されるとは思いも寄らなかったのだ。
それに加えて、既知の勇者のどれでもない新勇者というのも、また問題である。手の内も読めないし、対応できる魔王もいない。
タビハで熱烈な歓迎を受け、既に冒険者として活動を始めているというのだから、近々迷宮にやってくることは確実。どうにかして対応しなくてはいけないのだが……。
「クソ、間の悪い時に来たな勇者め。アンナが産気づいたという時に……」
思わずそう愚痴をこぼしてしまうバビロン。まさに『良いニュースと悪いニュースがある』というような状況なのだ、愚痴も出る。
だが、そんなバビロンに、妻であるアンナは笑って答えた。
「あはは。んー、ねぇバビロン。そろそろ産んでも大丈夫ってだけで、今すぐじゃなくても産むの待てるよ?」
「いや、私が早く私とアンナの子に会いたいだけなんだけれどね。……どうしようか。今産める?」
「うん。赤ちゃんも準備はできてるし大丈夫。じゃあ、産むね」
実に気軽な応答。本来は母子ともに命懸けの一大イベントであるはずの分娩だが、アンナは自分の子ではないとは言え魔物に腹を貸し続けている出産のプロだ。
精気を整え、孕み、育て、産むという1日1万回の感謝の出産アクメを10年続けたその肉体。当初は1万匹の魔淫蟲を産むのに18時間を要したアンナも、今では1時間の内に1万匹の淫猥大邪蟲を産み落とす事が可能な神のおまんこへと肉体を昇華しているのである。
そんな彼女が筋力で大きく広げている膣口は、優に直径1歩はある。そして、その洞穴の様な膣の奥にある子宮口も針の穴ほどの締まりから人の潜れる大穴まで自在に開閉可能。
そんな超絶マンコを持つ彼女の出産は、赤ん坊が胞衣ごとスルスルと生み出されるだけの、瞬く間もない超スピード出産である。
だが、出産が容易であったとしてもその胞衣を破いて生まれ出た我が子に、バビロンは甚く感動し、その子を抱き上げて感嘆の声を漏らした。
透明な、宝石でできた赤ん坊。バビロンの胸に輝く迷宮核と同じ輝きを帯びたその赤子はまさに、バビロンとアンナの血を引く迷宮魔人。
パチリと目を開けてバビロンを見つめ、産声を上げる我が子に、バビロンは本能的に胸に抱いて乳首を含ませた。
「……ははは、出産の苦しみで愛着が湧くという人間の話は嘘だな。なんだろう。胸がいっぱいだ。ありがとうアンナ。うん。ありがとう」
「えへへ。産むのは慣れてるけど、私も自分の赤ちゃんは初めてだからちょっと不思議な気持ち。バビロンにそっくりな可愛い子だねぇ」
「ん? アンナに似て可愛い子だろう? ……しかし、こう、胸がいっぱいなんだが、この、これは、違う、感情だけでは…………」
「バビロン? ……あれ。なんだろう。私も胸がいっぱいに、この感じ……」
————例外処理条項発生。
——迷宮自動生成プログラム起動。
——条件照合。条件1、前回の迷宮生成より10年以上が経過……否。条件2、蓄積瘴気濃度規定値以上……否。条件3、他のダンジョンの勢力圏外……否。
——再照合。条件1、前回の迷宮生成より10年以上が経過……否。条件2、蓄積瘴気濃度規定値以上……否。条件3、他のダンジョンの勢力圏外……否。
——例外処理。条件照合スキップ。ネミツ湿地帯に迷宮が出現。迷宮管理擬似人格作成シークエンス起動。……起動失敗。人格が既にインストールされています。
——例外処理。思考要素数分析開始……5要素。要素分析開始……『悪辣』、『邪淫』、『外道』、『邪淫』、『陰謀』。
————第1225号迷宮と一致。対象を第1225号迷宮と登録……エラー。第1225号迷宮は既に存在します。エラー。第1225号迷宮は既に存在します。エラー。第1225号迷宮は既に存在します。
——上位権限により処理プログラムが停止されました。
————エラーログ送信。……アップデートファイルがインストールされました。アップデートを検証中。
————プログラムアップデート……完了。
————迷宮登録プログラム、起動。新規に発生した迷宮が登録されます。……対象の分析を開始。
————照合完了。第1225号迷宮核の子迷宮と判定。対象を第1225-1号迷宮核として登録します。
突如響き渡る、無数のメッセージログ。邪神が世界に組み込んだプログラムがまさかの事態にエラーを吐くという珍事は、迷宮と人の間に子供が産まれるという異常事態が、まさに異常なのだと実感させてくれる。
だが、アンナとバビロンの頭の中に響くメッセージは、まだこれで終わりではなかった。
————世界的偉業の達成により、対象『アンナ』および第1225号迷宮核『バビロン』に経験点が付与されました。
————職業経験の蓄積により『アンナ』は『魔母・初段』から『魔母・十段』に昇格しました!
————段位が最高位に達した為、職業が進化します。
————職業経験の蓄積により『アンナ』は『魔母・十段』から『魔太后・一級』に昇格しました!
————『アンナ』の職業技能『子宮内空間拡張・大』が『腹魔殿』に変化しました!
————『アンナ』の職業技能『精力絶倫・大』と『気功術・大』が『仙道』に変化しました!
————規定の瘴気と経験を蓄積した為、第1225号迷宮核『バビロン』が進化します。
————『バビロン』は【業深忘我・迷宮王】に進化した!
————新たな魔王が誕生しました! 魔王麾下の魔物が強化されます。
————『バビロン』と『第1225-1号迷宮核』は技能『複合大迷宮』を手に入れました!
長い、長いアナウンス。その果てに待ち受けるのは、存在の変革による莫大な力の発生。
アンナの場合、それは魅力の増加や外見の変化として現れた。
もはや並みの淫魔では太刀打ちの出来ない色香を纏った彼女は、魔物の母として一層強化されたその胎に独特な『淫紋』とでもいうべき模様を発生させている。
子宮を抽象化した紋様が13重に重なる図案は彼女が手に入れた技能『腹魔殿』の証。
一国が丸々収まる程に広大な空間を有する神の如き子宮が、空間位相をずらして同一座標に13個重なって存在するという『迷宮』のようなその構造は、迷宮の魔王の妻らしい能力と言えるだろう。
そんなに巨大な空間、本当に孕みきれるのか?
そう考える者も多いだろうが、そこはアンナ。胎内に宿る淫乱尾籠猥蟲竜のマンダラに積極的な産卵を命じて既に直径1歩の巨大卵をバカスカと産ませており、早速子宮のうち一つを竜の巣にする気満々である。
そして、腹に宿した無数の龍を育むのは『仙道』の技能。この技能自体は聖神配下、邪神配下を問わず入手可能な上位技能ではあるものの、『仙人』に至るまで道を極めるものは数少ない。
呼吸するだけで莫大な精気を練り上げるその技能は事実上の『不老不死』を実現しており、文字通り『霞を食って生きられる』存在へとアンナの肉体を昇華させている。
この『仙道』技能はアンナが常日頃から行っているバビロンとの激しいセックス——全身の穴という穴にバビロンを突っ込んだり、子宮にバビロン端末を入るだけ詰め込んだり——によって鍛え上げられた無尽蔵の性欲と際限のない性感追求が房中術の一種と見做されたが故のことであろう。
アンナは括りで言えばいわゆる『邪仙』にあたる為、断食などをする必要は無く、無理に霞を食って生きる必要は全く無い。
だが、ただでさえ呼吸で精気を生み出す仙道スキルの持ち主が、媚毒など食ってしまえばどうなるか。
その実例が、アンナの身体に纏われた物理的干渉力すら帯びた濃密な精気だ。
『触れる』ことすら可能なその『物質化した高エネルギー』はアンナの意に従って自在に流れ、子宮内に溢れる淫乱尾籠猥蟲竜の卵に浴びせかければ、即座に急成長し成体にまで引き上げられた無数の龍が子宮の中で爆誕する程淫魔にとって滋養がある。
当然ながらその精気の奔流を最も多く注ぎ込まれるのはバビロンに他ならない。
一方、そんなバビロンの進化による変化は、気絶という形で現れた。
アンナに赤子を手渡して、自身もその胸に埋もれるように倒れこんだバビロンは、迷宮としての進化の為に眠りにつく。
アンナの精気に親子共々包まれるその状態は、淫魔の本能が導き出したもっとも効率的な回復法。
そして、アンナの精気を吸い上げた1225-1号迷宮核とバビロンの迷宮核が共鳴し、同一の周期で魔力と瘴気と淫気と精気が入り混じるエネルギーパルスを迷宮全域に伝播させ始めた。
業深迷宮史上最大の変革。その影響は、程なくネミツ湿地帯全体に広がっていくこととなる。