業深迷宮の拷問室。
この迷宮では珍しく苦悶と怨嗟の声が溢れるその場所に、今日もまた新たな犠牲者が運ばれて来た。
彼の年の頃は20代。筋骨隆々たる益荒男、むくつけき大男である。彼が此処に連れてこられたのは、優秀な技能を持つ人間の精神を拷問で破壊して、迷宮の戦力に変えてしまうのが目的だ。
いわば拷問の為の拷問。特に聞きたいことがあるわけでもない、破壊の為の行為が、彼に待ち受ける辛苦の全てである。
それはこの拷問室に於いてはいつもの事。狂性奴や淫角大妖鬼などが交代制で務めているこの部屋は、人格破壊だけを目的にしている。
いつもと違うところといえば、拷問官もまた人間であることだ。
本日の拷問官は、苦悶の求道者の幹部の一人、ミダシナ。
最近一族が増えたせいで『ミダ』が被り、『ベッチー』のアダ名で呼ばれる事の多い、被虐姫ミダベチの
彼女は100歳の老婆だが、脈々と受け継いだ超速再生の血統により、外見は6歳ほどの幼女のそれだ。しかし、惜しげも無く全裸を晒すその肉体は異形としか形容できないものだった。
全身の皮膚を内側から食い破る鉄の杭。その太さは1指、長さは10指程。十字状の断面を持つその杭はノコギリのようにギザギザと細かい刃を備えており、見るだけでも痛々しい。しかし、普通の人間なら死んでいるような状態で、彼女はにこやかに微笑みながら、その皮膚に血を滲ませているのだ。
「やあ、こんにちは」
「ひっ……!?」
異常者への嫌悪と恐怖から悲鳴を漏らす大男。拘束された状態でただ怯える事しかできない彼にとって、明らかにヤバい拷問室に居るもっとヤバいガキというのは怖すぎた。
人間の想像力は、時に自身に牙を剥く。雰囲気だけで既に、青年の心はへし折れそうだった。
「ふふふ、大の男が怯えて竦み上がっているのは可哀想だね。だが、申し訳ない。私は君を拷問する任を帯びている。諦めてくれ。————邪神式魔術プログラム、起動。
「ッッッッ!? ギッ————ぐぁぁああああああぁぁっっ!?!!?」
青年の突然の絶叫。
その原因はミダシナが唱えた魔術『藁人間』。ミダベチも愛用の、自分と他人の存在を魂を介して共鳴させる外法の呪術である。
それによって、ミダシナを骨や筋肉ごと貫いている無数の杭が齎す苦悶が、青年にも共有されたのだ。
だが、ミダシナとミダベチが決定的に異なる点は、その性癖。ミダシナは被虐性癖と嗜虐性癖を併せ持つサドマゾなのだ。
故に、ミダベチと違って共鳴相手を死なせてやるほど優しくない。
「私の『藁人間』はかなり深くてね。君の魂は既にこの手の中だ。さぁて、狂うことも死ぬこともできないまま、一緒に楽しい時間を過ごそうじゃあないか」
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ! だれか、誰か助けてくれっ!」
「こら、男だろう? 全身を杭で貫かれているぐらいで喚くんじゃあないよ」
最近の若者は全く、とでも言いたげなミダシナだが、おかしいのはミダシナの頭であって青年ではない。
しかし、その狂気を指摘するものはこの場には居なかった。
「さて、何をしようかな。……ああ、安心してくれ。君の肉体は五体満足な状態でバビロン様に引き渡すと決まっているんだ。優秀な技能持ちらしいね。だから君を直接は拷問しない。ああ、そうだ、脳神経が負荷に耐えられるようにこれを注射してやれと言われたんだった。よいしょ」
「何を……何を注射したんだ……」
「脳内麻薬の分泌を抑え、同時に脳神経を持続的に回復させる薬さ。苦しんで欲しいが、脳萎縮やらは勘弁なんでね。さ、じゃあ早速拷問に移ろうか」
軽い調子でそう言って、ミダシナはおもむろに拷問室に備えられた器具を物色し始める。
「この迷宮には先日越してきたばかりなんだが、なかなかどうして良い器具が揃っている。じゃあ早速……この可愛いのから行こうかな」
ミダシナが手に取ったのは、迷宮内では『蓮の蕾』と呼ばれている拷問具。多段展開する『苦悩の梨』とでも言うべきアイテムで、魔力を流し込むと花弁が開く、
使用方法は簡単で、肛門や女陰、或いは口に捻じ込んで魔力を流し、八重咲きの花弁を展開させるだけ。
鋭利な面はないが、強烈な拡張で肉が裂けるのが、この拷問器具の特徴だ。
そしてミダシナは、それを自分の肛門や女陰にセットして、ゆっくりと展開させていく。
「ッふ……♡ 良いなぁコレ。私の膣は狭いからグングンくる……♡」
「いぎぁああぁぁああぁあ……!!?!?」
拡張され、ブチブチと嫌な音を立てながら裂けるミダシナの両穴。お互いに同じ感覚を感じて居るにもかかわらず、ミダシナは顔を綻ばせて恍惚に蕩け、青年は涙と鼻水、涎を垂れ流しながら絶叫する。
「抜いてッ、外してくれッ、嫌だッ、ィタイイタイイタイ痛い!? 股が、股が壊れるッ……!」
「ククク、落ち着きたまえよ。君の肉体は無傷だぞ? しかし、そんなに
昏い嗜虐の色を滲ませたその声音。それに青年が気付くより早く、ミダシナは要望通りに『蓮の蕾』を抜いた。
もちろん、開いたまま。
「————ッカッ、くひゅッ……!?」
「あ゛ぁぁ♡ 堪らないな、これは。ほら見ろ、無理やり引っ張ったから直腸脱に膣管脱だ」
「頭、頭おかしい、おかしい、こんなの……」
「そう褒めるなよ。……だがこう股と尻でプラプラしては邪魔だなぁ」
そう言って体外に飛び出た直腸や膣をペチペチと弄びつつ、ミダシナは拷問室備え付けの鋭利なハサミを取り出すと何の躊躇いもなく自分から飛び出した内臓を切り捨てた。
「ぎゅぉ……ッ……!」
「んー、スッキリ。……? どうした、白目を剥いて。……ああなんだ、膣と直腸を切り落とした程度で悶絶したのか? もう再生したし、痛みは一瞬だったはずだがな。仕方がない、一旦休憩にしようか」
「はーッ……はー……ッ」
息を整え、苦悶に抗う青年。その全身から瘴気が溢れ、脂汗が全身を濡らしている。そんな彼に、ミダシナは優しい微笑みを浮かべて近寄ると、『藁人間』による肉体操作で口を開かせた。
「ふふふ、私の肉体は本体から切り離してもしばらくは生きていてな。疲れただろうし、精がつく様に踊り食いをさせてあげよう。……はい、あーん」
無理矢理咀嚼させられるのは、切り落とされた膣と直腸。グニュグニュと弾力のある筋膜と、生臭い血の味に青年は吐き気を催すが、強制的に動かされた肉体が、その意思に反してその人肉を飲み込んだ。
「ふふふ、疲れた顔をしているな? まだお腹が空いているんじゃあないか? ……そうだ、良い事を思い付いた、次の拷問はこれにしようか」
「も、もうやめて、やめてくれ……」
懇願する青年の頭をミダシナは優しく撫ぜて、その耳元で「やだ」と一言呟くと、青年の拘束を解いてその肉体を解放した。……無論、藁人間により、実質的には拘束されたままであるが。
そして、そんな彼の手に握らせるのは、良く研がれたナイフとフォーク。そして、操り人形の如くテーブルにつかされた青年の前で、ミダシナはテーブルの上にその身を横たえると、甘い声で囁いた。
「男の子はこういうのが好きなのだろう? 私を食べて♡ とかいう奴だ」
「ひっ……!」
引き攣った悲鳴は、これから自分が何をさせられるか理解してのもの。青年は目眩と吐き気に襲われ、全身全霊の意思で支配に抵抗しようとするが、全く問題にもされずに、青年の体は滑らかな動作でナイフを操り、ミダシナの腹を裂いた。
そして同時に、青年はナイフで腹を裂かれる痛みを覚えて悶絶する。だが、肉体は意のままには動かせず、頰を涙が伝うのみだ。
「ふふふ♡ まずは何処から食べたい? ああ、そうだな、子宮はどうだろう?」
そう呼びかけるミダシナの声に促された青年の肉体は、柔らかな脂肪をナイフで抉りながら子宮にフォークを突き立てると、そのまま肚の中からそのピンク色の肉を引き摺り出してかぶりついた。
「あぁんっ♡ 積極的だな、君は。……まあ私の術中なんだが」
「……」
「ああ、そんなに泣くなよ、子宮を喰われながら子宮を喰ってるだけだろう?」
そう言って笑うミダシナは、男に子宮と卵巣を完食させると、内臓を剥き出しにしたまま男に問いかけた。
「ふふふ、声の操作を返してあげよう。さぁ、私の味の感想は?」
「おえっ、ぐぇ……ゲホッ、なんで、なんで吐けない」
「私が許可していないからだな。食べ物を粗末にしてはいけないよ? でもまあ、生は好き嫌いもあるか。ごめんね」
そう言いつつ、ミダシナが手に取ったのは精製された酒精。消毒と拷問の為に用意されているそれを、ミダシナは自身の腹腔内へと注ぎ込んだ。
「ゔぁぁぁ!?!!?」
「ふふふ、次は塩胡椒にタイム、ナツメグを加えて良く馴染ませて……最後に蒸留酒を更に追加して……着火する」
「オッゴォォォォォッ!! ァアッー! ぉ゛ぁあ゛ぁぁッ!?!!?」
適宜蒸留酒を加えながら、自分の臓物をフランベするミダシナは、艶めかしく腰をくねらせて『調理中』の腹腔内に満遍なく火を巡らせ、しっかりと臓物を焼き上げる。
その激烈と呼ぶのも生温い痛みに青年は気絶と覚醒を繰り返し、血涙を流しながら悶え苦しんだ。
程なくして、しっかり焼きあがったミダシナの『モツ』を、改めて青年は食わされる事となった。……料理は得意なのか、味は生で食わされていた時より格段に良い。
だが、ミダシナの粋な計らいにより『こんがり焼けても痛覚だけは健在』という絶妙な再生を施されたその臓物を食う度に、青年を生きたまま内臓を喰われる苦痛が襲う。
そんな苦痛の中で、青年は勃起していた。……マゾに目覚めたわけではない。ただ、度重なる『死の実感』に、肉体が子孫を残そうと足掻いているのだ。
そして、ミダシナはもちろんそれを目敏く見つけると、速やかに肉体を再生させて、その幼い手で青年のチンポをしごき始めた。
「なんだ、私の子宮をコッチでも味わいたくなったのかな? ふふふ、良いよ、抱かせてやろう。……えーと、膣内の杭を引っ込めて、処女膜を再生させて……と。良し。じゃあ、良く味わってくれ」
「ヒッ」
「そう怯えるな。……ほら、入っていくぞ……♡」
勃起した陰茎が、幼女にしか思えない胎内に飲み込まれる感覚。同時に感じる、挿入感。そして破瓜の痛み。
青年は今、処女喪失を体感しつつ、同時に股間から伝わる快感に悶えていた。
苦悶続きの中で齎された快感は、青年のヒビ割れた精神に染み込み、彼は幾分か元気を取り戻す。
そんな中で、盛大な膣内射精を青年はきめた。きめて、しまった。
「ふふふ、久々の性交だったから多めに排卵してしまったよ。……じゃあ早速、君にパパになって貰おうかな」
「……! や、やめ……!」
青年の生死の声に構わず、練り上げた精気を子宮に集めるミダシナ。同時に幾つかの魔術を用いる事で急速に妊娠状態を加速させていくその胎内には、三つ子が宿っている。
そして、胎児の成長の先にあるイベントといえばひとつだけだ。巨大な腹を抱えて再びテーブルに乗ったミダシナが、カエルのように股を開くと、それは始まった。
「あぁ♡ 陣痛はやはり良い。女が得られる痛みの中で一番幸せな痛みだ。追体験する君もそう思うだろう?」
「ひゅ、ひゅ、かふっ、あ、あが……!」
もはや、声も無い。激烈な陣痛を体感し、骨盤を砕き、膣を割きながら赤子を産む感覚に襲われた青年は、ガクガクと痙攣しながら泡を吹いている。
その後、10刻を掛けて行われた分娩が終わる頃には、青年の思考回路は、役目を放棄して沈黙してしまった。
「うむ。良い仕上がりだな。バビロン様に引き渡そうか。……それと、この赤ん坊の世話も頼まねば。……見たところ超速再生は継承して居ないようだし、バビロン様に任せる方が良いだろうな」
そうして一仕事終えて伸びをしたミダシナは、後の始末を呼び出したバビロンの端末に任せ、休憩を取るべく大浴場を目指すのだった。