サラッとカニバとかあるので注意だ。
業深迷宮において、食事というのはセックスに次ぐ娯楽である。
というかまあ、この世のどこでもそうだろう。生き物は兎にも角にも食事が大好きだ。
そして、美味しい食事を摂りたいと思うのも、全生物共通。味覚の差異はあれど、どんな生き物も旨いものは好きだ。
そんなわけで業深迷宮において、増えた食材を元に料理を作る機運が高まったのは当然と言える。
故に居住区には既にいくつかの料理屋があるのだが。……その中に一件、『珍味』『ゲテモノ』を専門に扱う店が存在していた。
『
そして、食い道楽に興味を抱く酔狂な数寄者たちは、今日もこの店を訪れるのだ。
「いらっしゃい。お客さん初めましてやね」
店を訪れる者にそう言ってニコリと微笑む割烹着の女性が、店主のヒツセ。カウンター席5つにテーブル席2つという、こぢんまりとした店の中は、いかにも『ゲテモノが売り』というかのように珍妙な内装が施されている。
天井から吊るされるのは、淫猥大邪蟲の干物。壁の棚には何かの液に浸けられた『瓶詰めの胎児』のように見えるものがずらりと並び、驚くべきことに『ボトルキープ』の札がかかっている。
実にアングラな雰囲気の中、カウンターに座った客に、暖かなお手拭きと共に突き出しが提供される。
壁に掛けられた黒板に記されたメニューによれば、本日の突き出しは『震撃蝦蛄のカニ酢風』。切っても再生する震撃蝦蛄の爪をもぎ取り、カニの爪酢のようにした一品。
鮮やかな紫色と白で構成された肉は少々食べるのに抵抗があるが、口に入れれば広がるのは芳醇なシャコの旨味と、蓴菜のつるりとした食感。
そして、その突き出しを摘まむ客の目の前に、次の品が差し出される。
『珍満庵』では、初見のお客には一律でコース料理を提供している。追加があれば別途壁のメニューから選べるが、突き出しから始まり、飯、汁物、向付、酒、椀盛、焼物、強肴、吸物、八寸、香の物、菓子と続くコースを食べてもまだ空腹なものはそういない。
これは、いきなり変な飯屋に来ても物が選べないだろうという配慮であり、その旨は店の前の立て看板にはっきりと書かれているのだ。
そして、順番から言えば次の品は飯。出て来たのは、子供用にも思える小さめの茶碗に盛られたご飯。迷宮産の米を土鍋で炊いた、存外正統派なご飯だ。
特徴と言えば、白くは無く赤い事だろうか。というのも野生種を元に栽培開始した為か、迷宮の米は赤米なのだ。しかしながら、そもそも迷宮の住人は『米は赤いもの』だと思っている。
『白くないなぁ』と悩んでいたのは、スマホ知識を元に米を探し出したバビロンとファントムぐらいだ。他の住人はそもそも赤くない米を知らないのである。
そして、そんな赤いご飯と一緒に出て来たのは、汁物。麻の実、大豆、米糀で仕込んだ味噌を元にした味噌汁で、タンポポの葉、茎、花が具として入っている。
味噌というのは、迷宮ではあまり食されない珍味の類。手間がかかり、仕込みにある程度発酵の知識が必要なため、インテリ層がバビロンから教わって『手前味噌』をひっそり作っているくらいだ。ましてや麻と大豆という組み合わせは独特で、あまり聞いたことがない。
そしてそんな味噌汁に口をつけてまず感じるのは、香ばしいナッツのような風味。これは麻の実によるものだろう。そして、具であるタンポポの甘みと、大豆の旨味。
初めて食する味噌の味をすっかり気に入った客は、次に向付へと箸を進めた。
が。そこで、漸くこの店のゲテモノらしさが牙を剥く。
そこにあったのは刺身にされた何かの肉である。だが、客の中の直感が、これがただの肉では無いと告げていた。
「……これは?」
「ああ、それ? 金玉の刺身やよ。レーニアさんの」
「妖精の金玉の刺身……」
「なんや聞いた話なんやけど、あの人、金玉が常に増殖するんやて。そんで何個か分けてもろとるんよ」
「想像が付かない……」
「まぁ。食べてみ? 精がつくでぇ」
そう言ってカラカラと笑う女将のヒツセ。彼女に差し出されたタレ——味噌の副産物である『たまり醤油』に薬味を加えたものらしい——つけて恐る恐る口に運ぶ。
人間に近しい妖精の肉を食う背徳感。業深迷宮においても、共食いは中々のタブー。苦悶の求道者の拷問官ミダシナは拷問対象に自らの子宮を食わせる趣味があるらしいが、まぁそのぐらいがせいぜいだ。
故に、『ゲテモノ』を求めてやってきた客でも多少は抵抗があったのだが。
「……白子?」
「そりゃそうやろ。白子やもん」
言われてみればそうなのだが、どこか納得がいかない。だが美味い。それに、不思議と下腹が熱を持ち、身体がポカポカとしてくるのだ。しかし、しかしだ。
「うぅん、共食い……」
「ああ、病気になるいう話、気にしとる? その辺はバビロン様がうまい事やってくれとるよ。当店では脱プリオン人肉を使用しております♡」
「病気にならなければ食べて良い、と言うのは違うような気が……いやしかし、魔王軍的には人間って基本的に食肉だしな……」
そう。魔王軍では人間を食べても特に白眼視はされない。邪教徒や知性のある魔物を殺して食べれば『軍規違反』という扱いで処罰はされるが、『友軍の殺害』が争点であって共食い自体は別に問題ないのだ。
だから、これはあくまで客の問題だ。今回は別に誰も死んでいない。レーニアが『金玉増えすぎちゃったからあげる!』と言って精子の出が悪くなった金玉を提供しているだけである。
————いうならば剪定した枝葉。誰も苦しまずに生まれた肉。それならば食べても問題ないよね……?
という理論でどうにかこうにか自分を納得させ、金玉の刺身を完食した客は、味噌汁で口の中の白子っぽい味を流し込む。
実際、刺身の味自体は美味かった。ゲテモノ食いは、葛藤と好奇心の鬩ぎ合い。こうでなくてはと思いつつ、胸の奥をムズムズと背徳感がくすぐるのは否めない。
そんな中、カウンターにドンと置かれたのは小脇に抱えられる程のガラス容器。ちょうど果実酒を仕込む様なサイズのそれは、酒樽に相違ない。
しかしながら、その中に付けられているのは、果実というか、赤ん坊だった。
緑色の胎児が漬け込まれた蜜酒。ゲテモノ屋『珍満庵』名物の『嬰児酒』である
「えっと」
「うふふ、ええ反応やねお客さん。びっくりした? 棚のあれは飾りやないんやで」
「……これは?」
「私の子。……うわぁ、ドン引きやん、あははは。冗談冗談、まぁ私の子言うのも強ち嘘やないけど、別に子殺しやない。これな、私の蕾やねん。もっというたら蕾の雌しべや」
淫精芙蓉樹の、蕾、その雌しべ。そう言われて、客は目の前で微笑むヒツセが『花の雌しべ』なのだと思い出した。
「そう、私みたいに咲くんもあるけど、咲きまくっても邪魔やろ? 蕾のまま枯れる予定の花もあるんや。そういうのを摘んで、蜜酒に漬け込んだんがこれ。手酌で悪いけど、自分で好きなだけ飲んでな?」
そう言って甘露杓子と酒器を渡され、客は恐る恐る、一杯注いで飲んでみる。
「……甘い香り、甘い味。うむ。美味い」
濃厚な花の香りを閉じ込めたその酒は、見た目のインパクトは兎も角、とても飲みやすい。
ちびちびとそれを飲み、次の料理を待つ彼の下に、いよいよ運ばれてきたのは焼物と椀盛。要はメインディッシュだ。
「これは?」
「淫獄擁胎大猥蟲龍の触手を木の芽焼きにしたんと、夜伽鵞鳥の卵で作った茶碗蒸しやね」
「木の芽というか……」
「うん、大麻。大麻の若芽やよ」
明らかにヤバいドラッグ飯である。だが、ゲテモノとしては中々お目にかからないレベルだろう。それに、とても食欲を唆る美味そうな匂い。
覚悟を決めて、ぱくり。木の芽焼きにかぶりついた客が、最初に感じたのは濃厚な旨味だった。ホタテの様な、タンパク質の甘み。上等な赤身牛肉の様な肉の旨味。竜の肉とはかくも美味いものかと、男は感動に打ち震える。そして、添えられた麻の葉のスモーキーな苦味と程よい青臭さが、口の中をさっぱりとさせてくれる。
そしてそのまま、茶碗蒸しも平らげた頃。胃で消化され吸収され始めた薬効成分が、ドラッグの威力を発揮し始めた。
「おおぉ……!?」
強烈な多幸感と全能感。感覚が鋭敏化され、食事の匂いも味も格段に増した様に感じられる。
そんな中で差し出された強肴は、轟震強姦大喇蛄のハサミ肉を使った天ぷら。突き出しで出てきた震撃蝦蛄の親玉だが、その味は高級な伊勢海老やロブスターに近く、もっちりとした弾力と共に無限に旨味が湧き出す逸品。
ドラッグが決まっていることもあり、脳を旨味に陵辱される様な錯覚すら覚えてしまう程だ。
天ぷら、酒、天ぷら。そこに続くは八寸として出てきた塩で炒った夢魔睡蓮の実と、夢幻淫紋蛸の蛸山葵。そして香の物として夢魔睡蓮の辛子蓮根。
酒は進み、腹もくちくなり、ほろ酔いの客はデザートに差し出されたルウシャ乳のミルクアイスを食べながら夢心地に浸る。
「極楽極楽……」
「あはは、喜んで貰えて何よりやわ。……さて、お兄さんはしばらく酔うてそうやし、その間にお勘定済ませてしまおか……♡」
そう言うと、にょろり、と触手を店の床に這わせ、ヒツセは女体花を新たに咲かせた。
一糸纏わぬその姿を晒す彼女が目指すのは、カウンターに座る客の足元。ズボンのボタンを外してパンツをズラせば、飛び出すのはギンギンにボッキしたおちんぽだ。
精がつくという言葉が生ぬるいほどの、媚毒料理の数々。そんなものを食べまくった客の金玉は破裂寸前で、濃厚なオス臭さを漂わせている。
その金玉を、美味そうに頬張りながら、更に咲かせた女体花で竿を咥えて、2人がかりの濃厚なフェラチオ。
喉奥まで竿を飲み込み、咽頭で亀頭を締めこんで、貪欲に射精を促すその口撃に、たちまちチンポは屈服し、白旗ザーメンを喉奥でブチまける。
だが、萎えない。摂取した媚毒は1発で萎える様な生易しい量ではない。
精嚢と精巣上体から無限に精液が溢れ出す感覚。トリップした脳みそにブチ込まれる根源的な快感。
射精という男にとって最高の快楽を味わい続ける客は、カウンターに突っ伏しながら、だらしない笑顔でビクビクと痙攣する。
そして、食べたものが全て精液になって出て行ったのではないかというほどの射精の後に、漸く男のチンポは解放されて、萎えたままヒツセの口内で清められてから、パンツの中に戻された。
「ふふふ、毎度おおきに。……あら、お兄さん気持ちよう寝てはるわ。……寝かしといたろか」
業深迷宮では一般的な精気決済。チャージ式ではなく直接チンポ払いというのは中々古風だが、これはあくまで男性向け。女性はもちろん端末から支払いが可能である。
だが、絶品料理の後の女将のお勘定フェラを目当てにやってくる男の数の方が多い。その結果、店の客層はふたなりや男に偏っている。
そして、言わずもがなリピーターが多い。
「女将さん、やってます?」
「あら、いらっしゃい。毎日毎日おおきになぁ」
「へへへ、女将さんに咥えて貰わなきゃ寝れない身体になっちまって」
「あら嬉しい。でも口説いてもあかんよ? ウチは皆のもんやさかいになぁ……♡」
ペロリと舌舐めずりをして、新たな客にそう答えたヒツセは、その料理の腕を存分に振るい、ついでに頭も存分に振って濃厚フェラをキメる。
常連客ともなれば最初から最後まで竿を咥えられながら、好きなだけ飯を食うスタイルが多く、店内は淫らなフェラ音に満たされる。
ゲテモノ屋珍満庵。今日も実に盛況なこの店は、まさに酒池肉林の様相を呈している。
業深迷宮らしい、イかれた空間なれど何処か和気藹々とした雰囲気のその場所は、住民たちの憩いの場として、今日も明日も明後日も、食事と酒とエロと笑顔に溢れていた。