※この作品はR-18です。

業深迷宮日誌   作:黒山羊

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バトル展開はここまで!


死せるバビロン、生ける人間を走らす

 勇者の侵攻により、迷宮第一界層は壊滅。シヴリンとスペリオルはバビロンによってなんとか救出が間に合ったものの重傷による消耗で寝込んでおり、何より、バビロンが勇者一行を道連れに死んだ。

 

 それは業深迷宮史上最大の被害であり、王の死は迷宮の住民に深い悲しみと怒りを齎した。

 

 無論、アバドンとアビスというバビロンの子供達が無事である以上、バビロンはいずれバックアップから再生するのだということは、住民達にも分かっている。

 

 しかし、彼らの王が死の淵から蘇るのがいつになるかはわからない。そして一度死を経験したその苦しみと覚悟を思えば、『復活するから構わない』とはとても思えない。

 

 そんな集団心理から報復戦の機運を高めて暴走しつつある住民達を戒めたのは、バビロンへの忠誠厚き幹部達と、バビロンの妻であるアンナだった。

 

 曰く、王に救われたその命を投げ捨てるとは何事か。他に報復の手段があるだろう。

 

 そう説く彼らが対案として提出したのは、王の復活を促すべく、迷宮により多く、より高濃度の精気と瘴気を吸収させるというもの。

 

 そして、その為に今まで受動的であった迷宮への人間確保をより積極的に行う事だった。

 

 幸いな事に、迷宮周辺の兵力の半数は勇者軍として迷宮の中で死に果てており、警備や防衛にも穴がある。

 

 そんな町や村を極めて隠密に襲撃し、人間を攫うというのが、幹部達の言い分であった。

 

 要するに『馬鹿おめぇ、能無しみたいに正面から行くんじゃねえ、もっと悪辣に裏からやるんだよ』という事である。

 

 

 

 ————そして、この夜、ネミツ湿地帯の周辺地域は、魔王に手を出した報いを受ける事となる。

 

 

 * * * * * *

 

 

 迷宮の面々がまずはじめに手をつけたのは、核爆発によるクレーターの底に沈んだ迷宮の入り口を、クレーターごと水没させること。アバドンとアビスに迷宮の水位を調整してもらい、程なくして終わったその工作は、クレーターの外側の山のお陰で周囲からは気付かれず、元々湿地帯であるため違和感も薄い。

 

 そしてその上で、迷宮から這い出した粘海溟渤淫溢魔が、迷宮の外で湧水として湧き出る水脈に潜り込み、その内部をゴリゴリと拡張しながら突き進む。

 

 そして同時に迷宮を出た白泥淫魔達は粘海溟渤淫溢魔が掘り進んだ穴を補強しながら地下へと潜り、地下水脈へと到達。

 

 そのまま地下の水脈もトンネルのように拡張していき、迷宮から次々と這い出る粘海溟渤淫溢魔達を地下水脈へと誘導する。

 

 次に迷宮から出てきたのは、淫獄擁胎大猥蟲龍。直径10歩のその巨体をトンネルにねじ込み、地下水脈へと潜る彼らは、そこで大量の媚毒と麻薬を放出しつつ、待機する。

 

 そして夜までその作業が続き、いよいよ深夜、迷宮の魔の手が、周辺の村や町を無慈悲に襲い始めた。

 

 それは、突然の事。町中、村中の井戸という井戸から噴き出した粘海溟渤淫溢魔が一瞬にして町を飲み込み、人間や家畜を家々から引きずり出して、全てを井戸へと飲み込んだ。そして、その井戸の底で待ち受ける淫獄擁胎大猥蟲龍に飲み込まれ、繁殖ユニット化させられた人々はそのまま業深迷宮へと運ばれていく。

 

 それが、湿地帯近隣の地下水脈で繋がった全ての村や町で同時多発的に行われた街丸ごとを飲み込む超絶規模の誘拐劇だ。

 

 おまけに町や村の地下水脈にはキルカとセウロアがアバドンに頼んで生成させた殺生石——具体的に言えば砒素の結晶——を大量に投入し、生き物の飲用に適さないどころか飲めば死ぬ毒の水として汚染。迷宮のあるネミツ湿地帯は上流故に全く被害を受けないが、かといって湿地帯の水を飲めば媚毒にやられるという二重苦で、人間達を長期的に苦しめる。

 

 そんな鬼の様な報復の後、仕上げに白泥淫魔が無人の村と畑に火を放ちつつ、迷宮の為に作物の種子や種芋を納屋から回収。麦の種籾なども入手して、僅か数刻の内に完全に撤収する迷宮部隊の手並みは鮮やかと言う他なく、燃え盛る村々に気づいた周辺の都市から応援が来る頃には影も形も無くなっていた。

 

 後に周辺地域で『悪夢の夜』と呼ばれる事になったその日を境に、地下水を通じて毒を受け、家畜や農作物にまで壮絶な被害を受けた人類は、しばらく復興に追われ、迷宮に手出しを出来る余裕を失った。

 

 

 * * * * * *

 

 

 そして、攫われてきた人間や動物達はというと、まず動物達に関してはそれぞれに適した飼育小屋にひとまず移送してある。次に子供に関しては、責任を問うのは酷だとの判断から、幻覚剤と魔術で記憶を白紙化した上で牛角乳鬼に預けられ、赤子からやり直させる。

 

 その上で、残った『大人たち』に対しては、その悉くを『虜囚苗床』へと堕とし、強制的に精気と瘴気を絞り出す。

 

 一気に拡充された虜囚苗床区画において行われるのは、猟奇的で残虐な生殖改造。

 

 薬物と、拷問と、媚毒によって限界まで引きずり出された精気と瘴気は全てアバドンとアビスに捧げられ、バビロン復活の為の供物として捧げられる。

 

 だが一刻も早く王を帰還させるべく蠢動する迷宮の住民達は、まだ満足しておらず、次々に活動を開始している。

 

 

 もうしばらく、迷宮による反攻作戦は人類を苛む事になりそうだ。

 

 具体的には、バビロンが再び目覚めるまでは。

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