より確実かつ、より高効率な精気と瘴気の収集。バビロン復活の為に掲げられたその目標に対し、幹部たちは様々な手段を講じている。
そんな中、錬金術師キルカが着目したのは、現状の『吸収効率の悪さ』だった。
業深迷宮に限らず、精気と瘴気の吸収に関しては、触手なりを体内に突っ込んでの粘膜接触が最も高効率とされている。
まぁ厳密には粘膜以上の接触として極細の触手を血管に突っ込むような魔物も僅かにいるが、それは媚毒の注入用が主で、エネルギー摂取の目的ではない。
しかしながら、淫系統魔物と獲物が直接接触する必要があるこの方式は、迷宮には向いていない。
誰も彼もがモズの早贄の如く迷宮の内壁に繋がれて接続するわけにもいかないからだ。
よって空気を通して空間に満ちるエネルギーを吸い上げる事で今まで業深迷宮が運営されてきたのだが、これはまぁは当然ではあった。
配下の魔物と人間、人間と人間、それらの組み合わせで発生する余剰精気を吸い上げるにはそれしかなかったのである。
しかし、これを解決する方策として今回キルカが提案するのが、『迷宮の端末を人体に移植する』というなかなか狂気じみた発想である。
今回の問題を解決する手段として、キルカは『極微細な迷宮核素材の粉末』を用意する事で対応したのだ。
それを可能にするのは、『全身が迷宮核』というアバドンの体質と、『バックアップから再生できる』という迷宮核三姉妹の能力。アバドンから髪の房を切り、バックアップから再生させると、迷宮核を複製できるのである。
もちろん、切り取った迷宮核は迷宮核としての機能は停止している。だが、『迷宮の一部としての性質は失っていない』という事を、キルカはいくつかの実験で証明している。
まず、迷宮の同意がなければ『そもそも並みのハサミでは髪が切れない』。そしてそれは切断後の髪でも同様。これは即ち、迷宮の一部として『防御力』が反映されている事を示唆する。
通常、破壊された迷宮のパーツは次第に瘴気に還元されるが、そうならないのは迷宮核という素材による性質だろう。
赤く輝く迷宮核は、迷宮という存在自体の本体。単なる構成物ではなく『魔物としての身体』である以上『死体や破片は残る』というわけだ。
そして陽炎のジェミーが持つ双剣がそうであるように、魔物の死体は魔力や瘴気を注ぎ込めば蘇生する。例え牙の一本であっても細胞が活性化し、魔物本来の力の片鱗を発揮するのだ。
また、元の魔物が生きている場合、その組織の破片は、元の肉体と共鳴する性質がある。これは魔物に限らず魔力を持つ生物にはある程度該当し、髪や爪を用いた呪術などはこの作用を利用しているのだ。
だが魔物はとりわけその作用が強く、魔に魅入られた鍛冶屋が邪竜の爪から生み出した剣が、次々と使用者を魔道に引きずり込む、というような伝承は広く知られている。
それらの特徴を踏まえて、キルカはこの迷宮核の欠片を粉砕し、赤く輝く顔料へと加工した。
この顔料を刺青として人体にブチ込む事で、迷宮と人体を接続し、より高効率なエネルギー吸収を可能にする。それがキルカの提案する『淫紋システム』である。
* * * * * *
そして。幹部の会議で承認されたその計画が人体実験の後に居住区で実行されてから、しばらくの後。業深迷宮には空前の淫紋ブームが到来していた。
「デザイン決まったから淫紋入れてきたの、見てみて」
「うっわ、エッロ……良いなあ。私も早く決めなきゃ。……でもデザイン難しいよなぁ」
「あー、私は彫り師さんにイメージ伝えていくつか図案作ってもらったんだよね。子宮とハートを組み合わせて、あと……ほら、ここ、クリトリスと陰唇にもハート入れてもらったの」
「ホントだめっちゃ可愛い」
「精気流すと結構明るく光るから、マンコがキラキラしてて良い感じでしょ」
「うん、超エロいし。……よっし、私も彫り師さんに相談しよ。おっぱいに入れたいんだよね。紹介してよ」
「良いよー! 私も今度おっぱいに入れてもらうし一緒に相談しよ」
「仲良い子誘ってみんなでお揃いの絵柄入れるとか」
「良いじゃん良いじゃん」
なんて会話が喫茶店で繰り広げられ、ガバリと股を開いた少女が公衆の面前でオマンコをパクパク蠢かせて淫紋を自慢する光景は、最近の迷宮では珍しくない光景だ。
そしてその一方で、男性もまた淫紋ブームを楽しんでいる。が、その楽しみ方は、なんというか、お馬鹿であった。
「見ろよこれ、シャイニングチンコだぜ」
「ぶっふぉっ、おま、馬鹿、げっふ、もう、バカお前、飲んでる時に見せんな、バカ、アホ」
「やったぜ」
「いやバカだろ、マジで。なんでチンコ光ってんの」
「全面に淫紋刻んであるんだぜ。ごま粒大のフォントで『ちんちん』って」
「ッふ……! ぶぁはははは、ヒィ、バカだ、バカすぎ、マジでアホだコイツ、フヒ、はははははは」
「やったぜ」
「いやー、すごいな、バカだなお前。消えないんだぞそれ。普通の刺青と違って、色素焼こうにもバビロン様の一部だから焼けなくて消せないって彫り師の姉ちゃん言ってたのに」
「やっちまったぜ」
「ぐっふぁ! ゲフッ、オェヒヒヒヒヒ……ダメだ、ぐひ、苦しい、イヒヒヒヒ……ファー、ふひひ、ゲホッゴフゴホッ……ヒーッ」
とまぁ、こんなやり取りでわかると思うが、バカなのだ。男は。
……まぁ正確に言えば、『他人に危害を加えないならやりたいことやって良いよ』という実に適当なルールしか課せられていない業深迷宮においては、男性の中の少年マインドを止められないらしく、子供っぽい男が多いのだ。
ちんこ、まんこ、おっぱいの3つのキーワードで小1時間無駄な会話ができるというのはある意味で幸せなのかもしれないが、モラルというか、気品はさっぱりである。
だが、男女問わず、淫紋は淫紋。精気を喰らって媚毒を吐き出す生きた刺青を輝かせた者たちは、淫紋に操られるかのように、体内で生成され続ける媚毒の捌け口を求めて、性交渉に耽る事となる。
路地裏の暗がりで輝く蠱惑の光。燃え滾る炎が刻まれた剛直に舌を這わせる女。その薔薇柄の乳房からは甘イキ母乳が滴り、パタパタと音を立てて、迷宮の水面を濁らせていく。
そんな光景が彼方此方で繰り広げられているのは、ある意味では今まで通り。だが迷宮に対する精気と瘴気の吸収効率は桁外れに高くなり、ロスなく注ぎ込まれたエネルギーが、バビロン復活用の貯蓄としてドンドン溜め込まれていく。
だが、この淫紋システム、精気を集めるのには向いているが、瘴気は微妙である。もちろん仕組み的に言えば瘴気もロスなく吸い上げられるのだが、ロス云々の前に淫紋システムは『エロ特化』。精気はたっぷり吸い上げられるが、瘴気はそもそも量が出ないのである。
それを解決するために、キルカは別途、迷宮核粉末とチタン合金を混錬し焼結させた『釘』を用意し、『苦悶の求道者』と『虜囚苗床』に対して使用している。
中でもこの釘を大層気に入ったのが、サドマゾ拷問ロリババアことミダシナである。
御歳100歳、外見6歳の彼女は、全身を鉄杭で穿っているという刺激的な外見で有名な苦悶の求道者のメンバーであるが、この度その鉄杭を全てキルカ手製の迷宮核粉末配合品に交換したのだ。
それに加えて、針や釘タイプの物を大量に発注しており、すっかり迷宮核素材のヘビーユーザーとなっている。
「ふふふ、堪らないね。貫かれた肉から命を吸い上げられるような感覚……。良い、実に良い。それにほんのりとした輝きも小洒落ていて良い」
そんな使用感報告にキルカが苦笑いしたのは言うまでもないが、ミダシナは何も『自分の為だけに』釘や杭を発注した訳ではない。
彼女は先日迷宮が報復攻撃で捉えた人間から拷問で瘴気を絞りあげるという重要な業務に就いており、効率的な搾取装置は業務上必要だったのである。
キルカ、ミダシナ、そして多くの住民達の協力と活躍によってエネルギー供給を向上させ、バビロン復活に向けて邁進する業深迷宮。
既にバビロン健在時を大きく凌駕する出力を得て、全力で自己強化に邁進する欲望の穴蔵は、常にその力を増し続けていくのだった。