アズレン×ラスオリが正面衝突した世界で精液の奪い合いになったけど全員孕ませるから関係ないよね♥️ 作:みころ(鹿)
ーーー
翌日、男は執務室から締め出されていた。
男が休日をとらずに働きづめなのに気がついたシャングリラとベルファストが協力して男に休暇を言い渡したためである。
転移してから1週間と少し。いまだやるべきことは山のようにあり、男としては休んでいる暇など無かったのだが、二人の有無を言わさぬ雰囲気に今回ばかりは大人しく従うほかなかった。
「...」
本棟から外に出た男は深く朝の空気を吸い込み、グッと身体を伸ばしてから吐き出す。
急に降って湧いた休日であるため予定もなく、はたしてどう過ごしたものか。特に用事もなければ以前のようにKANSENたちとコミュニケーションをとるのが良いだろう。あるいはまだ付き合いの浅いバイオロイドたちと親睦を深めるのも悪くないかもしれない。
特に行くアテもなくぶらぶらと歩き始めた男は並木道の下を通り抜ける。散ったばかりの桜たちは青々とした葉をつけており、暖かな春の陽気を予感させていた。
だが実際は転移前の元の世界とこちらの世界では季節が数か月ほどずれており、もうしばらくすると夏がやってくるらしい。エアコン分の電力消費が増えることを考えると今から悩ましかった。
そんなことをぼんやりと考えていると、並木道を抜けていつのまにか母港の校庭にやってきていた。広い運動場にはサッカーコートがあり、その横にはテニスコートも併設してある。運動好きなKANSENたちが良く集まっている場所だが、まだ朝だからか誰も来ていない。
「...」
普段は賑やかな場所が静かで無人であるというのもなかなか乙なもので、男は良く言えば無心で、悪く言えばボケッとしながらサッカーコートの空洞を眺める。
とはいえそれも長くは続かず、10秒ほどで飽きて振り替えるとちょうどこちらに向かって歩いてきていた人物と目があった。
「あっれぇー?ザコ指揮官じゃーん!」
「あ、メスガキ」
犬も歩けばメスガキに当たる。並木道から歩いてきたのはユニオン所属の駆逐艦バッチだった。なでやかな金髪をツインテールにした彼女は一見すると小生意気なメスガキだが、他者に対し面倒見が良いというママ属性も持ち合わせている。
そんな彼女の今の格好は普段の小ギャルっぽい服装ではなく、白色のテニスウェア。肩にかけたスポーツバッグにはおそらくラケットが入っているのだろう。
すり寄ってきたバッチがからかう気満々の笑顔で尋ねてくる。
「なんでこんなところいんの~?もしかしてお仕事クビになった的な~?」
「まぁ、そんなところだ」
「えー!かわいそー!バッチが養ったげよっかー?」
「ロリのヒモはかなり業が深いな...遠慮しておく」
ほぼ定型文のようなやりとりを終え、今度は男からバッチに言葉をかける。
「バッチは練習か?」
「そう!テニススターは練習も手を抜かないからね!」
眼下でふんぞりかえるバッチが母港のテニスクラブに所属していることは男も知っていた。その実力がいかほどかは詳しくなかったが、朝一で練習に来るくらい熱心なのは解った。
「でも一人で練習できるのか?」
「サーブとかだったら一人でもできるし、しばらくすれば誰か来るんだけど...あ、なんなら指揮官が相手してくれてもいーよ?バッチとゲームできる名誉をあ・げ・る♥️」
突然のお誘いに男は少し考える。
確かに今日は運動靴こそはいてきてはいるが、生憎上は軍服であり、テニスに適した格好では...
男が断ろうとすると、バッチはクスクスと笑う。
「もしかして負けるのが怖いのかなぁ?ま、それもそうかぁ、弱っちぃ指揮官がバッチに勝てるわけないもんねぇー!」
「は?負けないが?」
何か彼女は勘違いしているようだが、普通に考えて大人の男性が子供に、それもメスガキに負ける訳がない。だというのにバッチは自分が勝って当然である...などと考えているようだ。
「ハンデいる?」
「いらないが?」
テニスコートに入った男はバッチからラケットを借りると意気揚々に構える。バッチには大人の強さをたっぷりとわからせる必要があった。
ーーー
「ザーコ♥️ザコザーコ♥️ザコしきかーん♥️」
数分後、普通にわからされた男は勝者であるバッチから無限に煽られていた。
まぁ当然の帰結とも言える。例え駆逐艦であってもKANSENと人では身体能力に差がありすぎる。
テニスというゲームでもそれは顕著に現れた。高速で走り回るバッチは楽々とリターンを返し続け、対して男の方は超スピードで打ち込まれるボールを追いかけているうちに完敗していた。
メスガキに大人は勝てないのである。
「よわよわ指揮官運動不足なんじゃないの~?子供に負けるなんて恥ずかしぃ~♥️...ザコ死ねっ♥️長生きしてから死んじゃえっ♥️♥️」
共に座ったベンチで、バッチに脇腹を小突かれながら男はわけてもらった水筒の水を飲む。軍服の胸元を開くと爽やかな風が吹き込んできた。
「じゃあ充分休んだところでー...もうワンゲームする?今度は利き腕縛りでしてあげる」
「いやあまり疲れすぎるのもな...実はやりたいことがあって」
「やりたいことって?」
「オルカに行こうかと思っていてな」
男がオルカという単語を出すと、それまで愉しげだったバッチの笑みがピタリと止まった気がした。
しかしそれも一瞬の見間違いだったようで、また普段通りの表情に戻る。
「ふーん、何しに行くの?」
「バイオロイドたちと交流しようと」
「交流かぁ...ねぇ、それってバッチもついていって良い?」
「別に良いが...練習はしなくていいのか?」
「うん、たまにはね。それによわよわ指揮官を一人にしてると心配だし!」
あまり考えず男はバッチの同行を許可する。視線を外したバッチの笑顔が、冷たい覚悟を携えていることに男は気がつかなかった。
ーーー
ユニオン寮のロビーにて男は椅子に腰かけていた。テニスウェアから着替えてくるというバッチを待っているのである。
すぐに戻ってくるという彼女を特に何もせずに待っていると、寮の中から一人KANSENが出てきた。
「む、指揮官」
中から出てきたのはエンタープライズだった。美しい銀髪を静かに垂らした彼女は男の姿に気がつくと、スタスタと歩み寄ってくる。
「待ち合わせか?」
「あぁ。バッチとだ」
「ほう、珍しいな」
目の前までやって来たエンタープライズは脇に挟んでいた書類束をピラリと掲げた。
「今から相談しに行こうと思っていたんだが、時間があるならここでも構わないか?」
「ん...まぁ少しだけなら」
「そうか。では地図作成の成果なのだが」
シャングリラとベルファストに働くことを禁止されたばかりだということを思い出したが、相談にのるくらいなら良いだろう。
エンタープライズに見せられた数枚の紙にはこの島の精密な地図の完成版と、それに付随する形で開発計画の要項がまとめられていた。エンタープライズ主導のチームにここ数日島の調査を任せていたが、どうやらある程度形になってきたらしい。
「なるほど、こう見るとけっこう広いんだな我らが島は」
「山や岩場といった場所を除いても有効利用できる土地はかなり多いぞ」
広大とまでは言わないが、何か設備をたてる分には充分な土地が確保できそうだ。
それから具体的な土地の特長について実際の地図を交えながら幾つか報告を受け、更にエンタープライズは続ける。
「今の伐採作業が終われば当初予定していた土地は確保できる。そこから畑を作る予定なわけだが、そこで相談があるんだ」
「...やっぱり専門家もなしに農業を始めるのは難しいか?」
「それは大きな問題じゃない。いやまぁ手探りではあるが、まったく手がかりがないわけじゃないからな。いつかは軌道に乗せられるだろう」
母港のアーカイブにあった農業関係の本を何人かの知識系KANSEN たちが熟読して、農業を始める計画をたてている。とはいえ知識を得るのと知識を実践するのとでは全く別物なので、始めてみないことにはどうなるかは解らないが。
「じゃあなんだ?」
「始めるための道具がない。さすがに手掘りで畑を拓くのは無理がある」
「あぁ...なるほど」
いくらKANSENが人の数倍の力を持つとはいえ手だけで広い地面を掘り返すのは現実的じゃない。
つまり農具が必要というわけだ。軍事基地である母港にはスコップが幾つかあるが、数も多くないしやっぱりここはクワなどが必要だろう。いやもちろんのこと最終的にはトラクターなどを導入したいが、そういった物を用意するのは時間がかかるし、手早くかつKANSENたちの身体能力を活かすなら手で持てる道具は悪くない。
そういった道具を手にいれる方法を思案する時に、真っ先に浮かび上がってくる姿が一人ある。
「そういう装備のことなら明石が...いや最近鉄虫の調査で忙しいと言っていたか」
工房の彼女である明石はここ数日引きこもって鉄虫の調査をしているらしいのだが、全く音沙汰がないのでかなり難航しているのかもしれない。
「とはいえ鉄虫のことは後回しでも良いし、なんなら一度中断させて」
「!...いや、敵の情報を知るのも重要だろう!明石は選択肢から外したい!」
「そうか?」
エンタープライズがやけに勢い良く言葉を切ってきたので、勢いに圧されて男は頷く。
どこか釈然としないながらも他の選択肢を男は考える。最も頼れる明石が動けない以上他の手段は限られてくる。いくつか頭の中に人物を思い浮かべていくと、すぐに最適解に思いあたった。
「フォーチュンに頼めば良いか」
「フォーチュンと言うと...バイオロイドの方の?」
「そうだ。今まで何回か装備を作ってみてもらったが腕は確かだぞ」
「なるほど」
バイオロイドたちの装備を取り扱っている彼女なら農業用の道具も作ってくれるかもしれない。
「オルカの工房にいると思うからとりあえずそっちの方に相談してみてくれ」
「わかった、行ってみるよ」
帽子のつばをくいと持ち上げて男に別れを告げたエンタープライズは書類片手にユニオン寮から出ていった。
その後姿を見送るとそれに立ち代わる形でちょうど寮の中からバッチが出てきた。普段通りのギャルっぽい服装で少女は腕を振りながら駆けてくる。
「指揮官くんお待たせー♥️待ったー?」
「いや大丈夫だ。行こう」
ーーー
バッチをお供にした男はわざと遠回りで、母港を1周するようにして浜辺を目指していた。
「すぐに行かないの?」
「せっかくだから母港の見回りもかねて散歩していこうかなと」
のんびりと道を歩いていくと様々なKANSENが目に入る。時に挨拶されたり抱きつかれたりしながらも男は散歩を続ける。
その中でも異質な集団が目に入り、男は思わず足を止める。それは私服の瑞鶴と、バイオロイドのノームとレプリコンの三人だった。
「あ、指揮官。おはよー」
「し、司令官!?おはようございます!」
ゆるく挨拶してきた瑞鶴に対してノームとレプリコンはガッチガチな最敬礼で挨拶してきた。
「おはよう三人とも。三人は...どういう集まりなんだ?」
珍しい集まりだと思ったが、尋ねてからそういえばこの前作戦で班になった三人であることに気がつく。
男の問いかけに瑞鶴はニコニコと答える。
「これから私の部屋でゲームして遊ぶんだ。指揮官も来る?」
どうやら前の作戦の時に一緒に遊ぶ約束をしていたらしい。
仲良きことは良きことかな。未だ完全な結び付きがあるとは言えないKANSENとバイオロイドであるが、こういったことから徐々に垣根を取っ払っていってくれたらそれ以上のことはない。
「...遠慮しておく。今日は君たちだけで親睦を深めてくれ」
今自分が行けばノームとレプリコンは萎縮してろくに楽しめないことだろう。社長と宴会するみたいなもんである。
「まずうちさぁ最初の火あんだけど...継いでかない?」
「いやです...」
何故か再び誘われたが再度断ると瑞鶴と二人は重桜寮へと向かっていった。
その背中を見送り男とバッチはまた歩き始める。
暫く母港内を見て回り、二人はオルカが停泊中の浜辺へと繋がる雑木林の前までやってくる。
「そういえばバッチはオルカに行ったことはあるのか?」
「一回だけねー。あの時は確か...テティスって子に会ったかな」
「あー...」
バッチと会話を続けながら雑木林の中を進む。
たいした距離のない林であるためすぐに抜けると浜辺へと着いた。白い砂浜は穏やかな日差しをそのまま柔らかく照り返し、波が寄せるたび心地よい水音をたてていた。
海面へと視線を移せば、停泊したオルカのオレンジ色の頭部が突き出ているのが見える。そしてその最寄りの波打ち際にはゴムボートが乗り上げ、その脇には二人のメイドが立って談笑しているのが見てとれた。
男とバッチがそちらの方に歩いていくと、気配に気がついたらしいメイド二人はこちらに向く。
その片方であるコンスタンツァは男の姿を認めると、驚いたらしく目を丸め、しかし男を迎えるためにすぐに姿勢を正した。
「おはようございます、ご主人様。本日はお休みだとチェシャーさんから伺ったばかりなのですが...違うのでしょうか?」
「にゃ?どうしてダンナ様がここに...もしかしてチェシャー聞き間違えたかにゃ?」
もう片方のチェシャーはしっぽをゆらゆらとさせながらこちらを興味深そうに見つめている。
それに対し軽く首を振った男は答えた。
「いやバイオロイドと交流しようと思ってな。休日は休日だ」
「んぉ。なぁんだ、ミスったかと思った~」
チェシャーがホッと胸を撫で下ろす。
反対にコンスタンツァはパッと華のように明るい笑顔を浮かべていた。
「それはみんなも喜びます!休日まで私たちのことを気にかけていただけるなんて...ご主人様はなんとお優しいのでしょうか...!」
「フフン。そうだよ、チェシャーのダンナ様は凄いんだから!」
「お前が調子に乗るのか...」
本人でもないのに自信満々に胸を張るチェシャーに少々呆れながら、男は興奮気味なコンスタンツァに苦笑いを返した。
ーーー
数分後、男はコンスタンツァのボートでオルカの船内に来ていた。
「それで、なんでついてきてるんだ?」
「うにゃ?」
男の側にはバッチに加え、コンスタンツァはともかくチェシャーまでついてきていた。
「ダンナ様のお付きとして...ってことならお仕事サボれそう...じゃなくて、お付きとしてお世話するためにゃ!」
「戻れ」
「嫌にゃぁぁ~!チェシャーはダンナ様の愛猫として余生を怠惰に過ごしたいのぉ!」
「動機がいちいち不純なんだよお前は!離せ!」
抱きついてくるチェシャーを力任せに振りほどく。そんなこちらの様をコンスタンツァはニコニコと見つめ、反対にバッチは不機嫌そうに見ていた。
「チェシャーさんもご主人様と大変仲がよろしいのですね...!」
「ちょっと指揮官!今はバッチとデート中なの解ってんの!?」
なおも絡もうとしてくるチェシャーを完全に引き剥がし、男はオルカの通路を歩き始める。
ついてくる三人と会話しながら通路端の階段を降りるとオルカの居住区画にまでやって来た。幾つものドアが並ぶ通路にはバイオロイドたちに個室が割り振られている。
さて誰かいないものかと男が通路を見渡すとちょうど近くのドアが開き、中から人が出てきた。
「ふぁああ...良く寝た...」
あくびをしながら出てきたのはグリフォン。今起きたばかりなのか全く身支度していない彼女は髪はボサボサに乱れ、だぼっとした無地のTシャツ一枚に色気なんて皆無の白いパンツ丸見えというとても人前に出れる服装ではなかった。
いや普段であればそれも許されるのだろう。ここに住んでいるのは同性だけだし、仕事のある日でも司令官である男はわざわざこの区画にまで来ないのだから。
「おはよう、グリフォン」
「おはよー。...ん?」
男が挨拶し、それにグリフォンも挨拶を返し、そして強烈な違和感に固まった。グリフォンは本来ならここにいるはずのない人物の姿を確認すると、次に最も見られたくない姿を最も見られたくない相手に見られてしまったことに気がつく。
「オワァァァァァッッッ!!??」
顔を真っ赤にしたグリフォンの全身が稲妻に打たれたかのようにはねあがる。転がるように自分の部屋へと戻ったグリフォンは奇声をたて、数分後にまた出てきた。
今度はいつもの戦闘服を着てきた彼女は肩で息をしながらドアの端を掴むと、男のことを涙目で睨み付けた。
「あんたっ...!あんたねぇっ...!なんでここにいんのよっ!」
「いかんのか」
「いかんのよ!」
男としては女所帯に囲まれた生活が長かったせいかパンツ程度ではもはや何も感じないのだが、グリフォンにとってはそんなこと関係なかった。
恥ずかしさと怒りを通り越し、赤くなったり青くなったりして最終的にぐったりと頭を垂れて落ちんこんだグリフォンだったが、すぐにその視線を男とその仲間たちに向け口を開いた。
「...それで?なんか用?」
特に用事はなくただ様子を見に来たと男が答えるとグリフォンは猜疑的な視線をこちらに向け、そして男が本心からそれを言っていることが解ると深くため息をついた。
「グリフォンは最近どうだ?悩みとかあるなら聞くぞ」
「別に。というかむしろ今までできなかったぶん鉄虫にミサイルぶちこめるだけで結構充実してるのよね、私。まぁあえて言うなら...オワァッ!?なんでもない!!絶対なんでもないから!!」
ちらりと一瞬だけグリフォンの視線が男の顔を見たが、また奇声をあげてのけぞって誤魔化した。
ふと見れば二度の奇声もあってか廊下を覗くバイオロイドたちが増えてきている。
このままグリフォンと話し続けるのも悪くないが、もっと多くのバイオロイドたちと交流したかった。
「ここで立ち話もなんだしレクリエーションルームに行くか」
「えっ!?あっ...ま、まぁ良いわよ」
グリフォンが頷き、男はいつのまにか大所帯になっている彼女たちとレクリエーションルームへと足を向けた。
ーーー
それから一時間ほどかけ、男はバイオロイドたちとの会話を楽しんだ。着任したばかりでまだろくにコミュニケーションをとれていなかったバイオロイドとも会話できたし、多少は親睦も深まったと男は考えていた。
ただ気になったのはバッチがあまり喋っていなかったことか。もっと積極的なイメージを男は持っていたが、バッチは男の側から動かずバイオロイドたちを見ているだけで自分から喋りかけるようなことはしていなかった。実は人見知りなのかもしれない。
「オードリー?いるか?」
そして現在、男は一度レクリエーションルームを離れ、最近救助されたばかりのバイオロイドであるオードリー・ドリームウェバーの部屋の前にまでやって来ていた。
一時間のうちでかなりの数のバイオロイドと言葉を交わせたが、全員ではなかった。今は個別にバイオロイドたちを尋ねている最中である。
「はーい!今手が離せませんのでご自由にお入りくださいませ!」
中からの返答に男はスライド式のドアを開けると、バッチとチェシャーと共に部屋の中に入る。ちなみにコンスタンツァは他の業務があるとのことで一度別れていた。
足を踏み入れた薄暗い部屋の中には、ありとあらゆるところに布がかけられていた。色鮮やかな繊維たちがひっそりと眠る空間において、唯一つけられた明かりの下には目まぐるしく働くミシンとオードリーの後ろ姿が見てとれた。
男たちが床に落ちている布を踏まないよう慎重にオードリーへと近づいていく。こちらをちらりと一瞥した彼女は手元の縫合作業は止めずに口を開いた。
「おはようごさいます司令官様。ちょっと今良いところですのでこのまま話しますがごめんあそばせ」
「まぁ良いが...」
本来なら失礼もいいところだが、オードリーの真剣な表情に男も彼女の作業を止めることは憚られた。
それに生地を縫合する彼女の作業が迷いなく滑らかで、見ていて感心してしまったからでもある。
「それで、ここに来てからどうだ?」
「あぁ、司令官様!ここは良いところですわ!鉄虫を気にせずお洋服作りに没頭できますし、何よりモデルに事欠きませんもの!」
どうやらオルカに来てからずっとこの部屋で服の作成作業をしていたらしい。
それが彼女にとっての幸せのようだが、しかしこの部屋の状況を見るに素直に祝福できないかもしれない。
「...もしかして、ここで寝泊まりしてるのか?」
「?...えぇ。私の部屋ですし、ここ。それにたくさんのお洋服ちゃんに囲まれて寝るのには慣れておりますから」
「...」
いくら走るのが好きと言っても永遠に走り続けることはできないわけで。オードリーが機械ではない以上休み時間を設けるべきなのだが、彼女の場合自室がそのまま仕事部屋なので世話がない。
頭を抱えた男はしばし悩んだ後に吹っ切れた。
「解った。お前専用の裁縫室をやるから仕事はそこでやれ」
男の言葉にオードリーの作業が初めてピタリと止まる。視線だけ振り返った彼女は驚いたように男のことをジッと見つめた。
「そこまで大きい部屋にはしてやれないがちゃんと機材は揃えてやる。ただしこの部屋ではちゃんと休むこと。良いな?」
「えっ、好き」
男の気遣いに、ポッとオードリーの顔に朱がさす。
立ち上がったオードリーは男の前にまでやってくると、改めて品定めするかのように男の全身を眺めた。興味深そうに男を見つめていたオードリーはおもむろに一歩踏み出すと、バッチが止めるのも間に合わず男の頬にチュッ...♥️とキスする。
そしてバチリとウィンクしてみせたオードリーはニッコリと笑った。
「お礼に今度司令官の服作ってあげるわね!」
「そうか。楽しみにしてるよ」
どうやらかなり親しみを持ってくれたらしい。
男にキスしたをオードリーはそのまま男を見ていたが、ふとその視線を横に向けるとオードリーを睨みつけるバッチの姿に気がつく。そして目を見開くと凄まじい勢いで手を伸ばし、バッチのことを抱き上げた。
「アンビリィーバボォォーーーーッ!」
「はっ!?ちょっ、ちょっと何よ!?何よいきなり!!?」
バッチを抱き掲げたオードリーが叫ぶ。
突然の奇行に抱き上げられたバッチはもちろん男とチェシャーも混乱していると、当のオードリーは興奮冷めやらぬ様子で息を荒らげながらバッチの姿を舐めるように見始めた。
「真珠みたいに綺麗な肌と、黄金色に輝く美しい金髪!あどけないながらも大人びた可憐さも秘めたキュートなお顔!ファビュラス!あなた今私が作ってる服のモデルにピッタリよ!」
「はぁ~~~~~~っ!?」
どうやらバッチはオードリーのお眼鏡にかなってしまったらしい。
「ちょっ...助けて指揮官!こいつアークロイヤルみたいなんだけど!?」
「いやアークロイヤルは失礼すぎるだろ...ともかく手伝ったら服を貰えるんじゃないか?」
「お゛ッ♥️くるくるっインスピレーションくる゛ッ♥️イグッ♥️」
「来るのか行くのかどっちかはっきりするにゃ」
「こんな変態の作った服願い下げなんだけどぉ!?」
がくがくと痙攣するオードリーの姿は確かに変態に見えるが、アークロイヤルのような真に迫る感じはない。恐らくふざけているだけだろう。
プロの仕事の邪魔をしてはいけない。男は出口へ足を向ける。
「せっかくオードリーもやる気出してくれてるんだし、服を貰える機会なんてめったにないんだから手伝ってきなさい」
「えっマジで置いてくつもり!?待ってよ指揮官!バッチがいなきゃ誰が指揮官を守ーー」
「さぁ忙しくなるわよバッチちゃん!まずはこれを仕立て直さないと!」
「嫌ァーーーーーッ!!?」
ーーー
拉致られた手伝いに行ったバッチと別れ、男はオルカの食堂へと向かっていた。
「ダンナ様~♥️チェシャーちょっとお胸が苦しいからぁ♥️そこらへんの部屋でご休憩♥️したいにゃあ♥️」
腕に抱きついたチェシャーが男の肩に頬擦りしてくる。
普段であれば空き部屋に連れ込んで一回パコっておくところなのだが、昨晩のパーティーで出しきった性欲はそうそう早く戻ってこなかった。
チェシャーを腕に抱きつかせながら食堂につく。
そろそろ昼食時である食堂にはそこそこバイオロイドたちが食事をとっており、男が入ると自然と注目が集まった。
とりあえず食事をと思っていた男だったが、それより前に一人のバイオロイドが歩み寄ってきた。
それはオードリーと同じく数日前に保護されたバイオロイドのソワンだった。どうやら食堂でずっと待っていたらしい彼女は碧眼を光らせ、静やかな表情で男を見つめる。
「お待ちしておりました、ご主人様」
「おはようソワン、身体の調子は良いのか?」
「えぇ。本当は保護されたその日に旦那様のために働けましたが...」
「いや、無理をされても困るしな」
保護してから男はソワンにメディカルチェックと数日間の休養を言い渡していた。
ソワンはどこか興奮したように続ける。
「ですが遂に、今日この時から。私ソワンは旦那様の食の全てに奉仕することができます」
「...ん?」
男がその言葉に違和感を覚える間もなく、ソワンは頭を下げる。
「既に仕込みは済んでおりますので、ご命令とあらばすぐに昼食をご用意させていただきますがいかがなさいましょう」
「あ、あぁ。なら頼もうかな」
元々昼飯を食べに来たので男はソワンに頷き返す。
それに彼女は美食コック型バイオロイド。オードリーしかりバイオロイドたちには本来の仕事をさせてあげたほうが良いのかもしれない。
「お任せください。旦那様が味わってきたいかなる食事よりも美味しい美食を提供することを約束いたします」
「...」
かなりのビッグマウスに反応したのは男よりもチェシャーだった。
普段男の食事を担当しているのは彼女たちメイド隊。それに対しソワンの言葉はともすれば挑戦状となる。目を細めたチェシャーは男の腕から離れると、微笑みと共にソワンに近づく。
「...ずいぶん自信があるみたいだし、良ければチェシャーが見学しても良いかにゃ?」
「本当なら犬猫を厨房に入れるなど言語道断なのですが...まぁいいでしょう。では旦那様、しばしお待ちください」
頭を下げたソワンが厨房の方へ向かい、チェシャーが恐らくスパイとしてそれについていった。
気がつけば一人になっていた男はとりあえず食堂の席へと向かう。長机の並ぶ食堂にはまばらにバイオロイドたちが食事しており、気になるのかちらちらと男のことを見ていた。
誰に話しかけたものか決めあぐねた男はとりあえず一番話しかけやすい位置にいたグリフォンに声をかける。
「よう」
「...よ、よう」
レトルトカレーを一人で食べていたグリフォンは突然喋りかけられ驚いたのか肩を跳ねさせ、次に落ち込ませた。
いちいちオーバーリアクションする彼女の仕草にも慣れながら男はグリフォンの隣に腰かけてみる。
「...」
「...」
お互いに喋りかけることもなく無言が続く。なんならカレーを食べることもやめてしまったグリフォンはうつむき、膝先を擦り合わせている。
こちらから喋りかけないとこのままだと判断した男はとりあえず話題を振ることにした。
「ところでグリフォンはKANSENの友達とかはできたか?前のパーティーには来たんだよな」
「...あー、まぁうん。ジャンバールさんとかと話したけど...友達ではないかも」
「なるほど。ジャンバールは猫とか好きだからそっち系の話題を振ると良いぞ」
「へー、そうなんだ...」
何故か緊張していたらしいグリフォンだったがいくつか受け答えしているうちにそれもほぐれてきたようだ。
それから二、三個ほど話題を変えながらグリフォンと会話を続ける。男からは母港について主に情報を出し、グリフォンはバイオロイドたちについて主に話した。
(それにしても...)
ふと男は隣に座るグリフォンの姿を見る。
そこにいたのは綺麗な金髪を肩の上辺りで切り揃えた美少女。しかしその身長に対し大きく膨らんだ乳房は雌を主張し、細いくびれとむっちりとした腰周りはいやらしい安産型だった。
むくむくと暫く復活しないはずのちんぽが反応する。片手に収まりそうにない巨乳を揉みしだき、自分のものにしたいという欲求が金玉の奥から沸き上がった。
男にとって女の胸とは揉みたい時に好きなだけ揉めるものにすぎない。だがグリフォンのおっぱいを揉むのは初めてであり、同時にバイオロイドに手を出している回数は男にしては少ないことに自分のことながら気がつく。
とはいえそれで止まる男でもなく、一瞬の思考の後グリフォンの胸を揉むためにその手を伸ばした。
「む、指揮官も来ていたのか」
しかし男の指先がその柔肉を捕らえる寸前、後ろから声をかけられ止められる。
振り返り見ればそこにいたのはエンタープライズだった。そういえば先に来ていた彼女は、そばに見慣れぬ猫耳美少女を連れて男の近くまでやってくる。
「あ、どうも司令官...」
その猫耳少女はペロという名前のバイオロイド。なんでも猫の遺伝子を組み込まれたバイオロイドらしく、白銀の綺麗な髪の合間からは三角形の猫耳が覗いていた。
初めて見る組み合わせに男が二人の間に視線を泳がせていると、それに気がついたエンタープライズが解説してくれた。
「ペロさんとはそこで出会ってな、一緒に昼食を食べることにしたんだ。指揮官は...ナンパ中か?」
「いや、普通に喋っていただけだ」
「そうか?グリフォンさんも気をつけた方が良いぞ、この人は気に入った女の子にはとりあえず手を出そうとするからな。はっはっはっ!」
こちらの頭に片腕を乗せてそう笑うエンタープライズの言葉を、実際彼女たちが来る直前まで手を出そうとしていた男に否定することはできなかった。
「ところで指揮官は昼食を食べてないのか?」
「あぁ、ソワンってバイオロイドに作ってもらってる」
「なるほど、じゃあ私たちも一緒に食べようかな。ペロさんはーーー」
どうかな、とエンタープライズが続けようとしたその時だった。
「ぎにゃあああああああああっ!?」
食堂に悲鳴が響き渡る。
「今のは!?」
「厨房からです!行きます!」
真っ先に反応したペロが厨房へ走り始める。ワンテンポ遅れてエンタープライズがそれに続き、更に遅れて立ち上がった男とグリフォンが二人の後を追った。
数秒とかからず男は厨房に足を踏み入れる。
広めに作られた厨房は清潔に保たれており、穏やかな光を反射しシンクは銀色に輝いていた。どこかから漂う美味しそうな匂いが食欲を誘い、そちらを見れば幾つかの鍋が湯気をたてている。
「こっち...です」
ペロの先導に従い四人は鍋の並ぶ方へと進む。そして棚と棚の合間の床に人影を見つけた。ぶっちゃけ声で解っていたが、そこに倒れていたのはチェシャーだった。
「チェシャー!」
エンタープライズが駆け寄り白目を剥いたチェシャーを介抱し始める。
どうしてこんなところでチェシャーは倒れたのか。周りには料理があるばかりで彼女が気絶する要素があるようには見えない。
「いったい何が...?」
「ふむ、どうやらその猫は無礼にも私の料理を『つまみ食い』したようですね...」
男の呟きに答えたのは後ろから現れたソワンだった。
調理中だったであろう彼女は男の隣にまでやってくると、冷ややかな視線をチェシャーに送る。
「私とご主人様の初めてに唾をつけるなんて許せない...いや、まさかそれが狙いで...?」
男は僅かに眉を寄せ、ぶつぶつと何か呟くソワンに尋ねる。
「つまみ食いしてなんで倒れる?...もしかして何か盛ったとか」
「まさか。料理人としてのプライドにかけて、私そのようなことは...」
「...」
毒の可能性を疑ったが、そもそもバイオロイドであるソワンは主人である男に危害を加えることができない。
ではなぜ倒れたのか。男が腕を組んだその時、エンタープライズの腕の中でチェシャーが微かに動いた。
「ゲホッ!ゲホォッ!?」
「チェシャー!」
男が駆け寄りエンタープライズからチェシャーの体を受けとる。男の腕に抱かれたチェシャーはゆっくりとまぶたを開けると、自らを抱く男の姿を見て瞳孔を開いた。
「ダ、ダンナ様...!」
「何も喋るな!今は安静に...」
「伝えなきゃいけないことがあるの...!」
チェシャーは泣きそうな顔で男の袖を握りしめ、震えるようにして訴えかける。
「あ、『アレ』は食べたらダメ...ダンナ様、帰ってこれなくなっちゃう...!」
「もういい、もう...!」
「...えへへ...チェシャー、ね...ダンナ様と会えて...幸せ...だったよ......」
その言葉を最後にチェシャーは事切れる。
男は腕に抱いた彼女の身体が脱力するのをどうしようもなく感じていることしかできなかった...
「まぁ生きてるんニャけど...ブベニャァ!?」
男が手を離しチェシャーの身体が床に激突する。
アホみたいな寸劇を冷めた目で見ていたソワンは、立ち上がった男に今一度声をかける。
「お楽しみのところ申し訳ありませんが、もう少しで料理が出来上がります。お運びいたしますので、ご主人様はテーブルでお待ちくださいませ」
「...あぁ」
あいも変わらず澄ました表情のソワンに男は頷いた。
ーーー
「ふーん、ペロちゃんっていうんだ」
「はい、初めまして...チェシャーさん」
食堂に戻ってきた一行は男を中心にして椅子に腰かけていた。
「ん?ペロちゃんってもしかしてメイド...?」
「あっはい、そうですが」
「キャラ被りしてるじゃん...あ、姉妹ってことにしとくにゃん?」
「すいません、実は既に姉がいまして...オルカにはまだいないようですが」
「じゃあ三姉妹ってことで」
「まぁ、それなら...?」
猫メイド同士でどうやらシンパシーを感じているらしく、二人は隣同士で喋っている。
腕を組んだ男は口を閉じてソワンの料理のことについて考えていたが、隣に座るエンタープライズに声をかけられた。
「あのソワンという料理人だが...なんだか怪しくないか?」
「うーん...毒は入っていなかったんだろ?」
「にゃ?確かに毒は入ってにゃかったけど...」
「...というか、じゃあそもそもなんで倒れたんだ?」
「そ、それは...とにかく!ダンナ様はあいつの料理は食べちゃダメにゃ!」
チェシャーがそう語気を強めたところで厨房からソワンが出てくる。サーブ用の荷台を押す彼女はそのまま男の近くにまでやってくると、深くお辞儀をした。
「大変長らくお待たせいたしました。このソワン腕を振るって調理いたしましたのでぜひご堪能ください。ご存じのとおり途中野良猫が乱入するトラブルはございましたが、料理の方にはなんの問題ございませんのでご心配なく」
そう言うとソワンは男に気取られないくらい薄くチェシャーのことを睨み付けた。
そして何事もなかったかのように荷台から幾つかの皿を持ち上げ男の前に置くと、次々と金属製のカバーを取り払う。現れた皿たちに乗ったそれは意外なものだった。
「中華だとっ!?」
炒飯や餃子、酢豚といった中華料理がそこには並んでいた。
「驚いたな、てっきりソワンの見た目的にフランス料理でも出てくるかと...」
「勿論フランス料理も作れますが、ご主人様がお疲れのご様子でしたので精のつく料理を用意させていただきました」
確かに男は昨晩のこともあり疲れぎみ。そんなこちらの体調を見抜いて料理を作ったとすれば確かにプロの自負も頷ける。
それに並ぶ料理もいかにも美味しそうである。近いところで言えば黄金色に焼き上げられた餃子は薄く油を見にまとい輝いて見えるし、炒飯はかぐわしい香りを漂わせその旨味を連想させた。
わずかに持っていた本当に安全な料理なのかという疑いが晴れる。思わず生唾を飲み込んだ男は急速に自分が空腹感を覚えてきていることに気がつく。思えば12時はとっくに回り、そこに来てこんなに美味しそうな料理を目の前にして空腹を覚えないはずもない。
男は箸を手に取ると早速餃子を食べることにする。
「いただきます」
箸で餃子をつまみ口に運ぶ。チェシャーやエンタープライズに見守られながら餃子を口の中に入れると、ゆっくりと噛み締めた。
緩やかな咀嚼が数回と続く。その場にいる誰もが無言で男のことを見つめる中、ついに男はごくりと餃子を飲み込んだ。そして男は箸を元の場所に戻すと、おもむろに立ち上がり近くに立っていたソワンの前にまで行くとその手をとった。
「...俺のために毎日餃子を作ってくれないか?」
たった一口で解らされる『美味さ』がそこにはあった。今まで食べてきた餃子が過去になり、思わず男に告白まがいのことをさせるほどの美味しさがただの一個の餃子に凝縮されていたのである。
「えぇ、喜んで。ご主人様がお望みならば餃子に限らずフレンチでも和食でもご用意させていただきます」
「うわぁ...こうなるから食べさせたくなかったのににゃ...!」
そしてこれこそがチェシャーが悲鳴をあげた理由だった。
軽くつまみ食いしただけでソワンの料理の圧倒的美味さを認識したチェシャーは、絶対男も気に入ってしまうだろうということも予測できた。要は男の胃袋が寝取られることが先に解ってしまったわけである。悲鳴ぐらいあげよう。
ふさぎこみ突っ伏したチェシャーと対照的に、いつもより興奮気味の男はソワンに喋り続ける。
「それと出来ればオルカの食事関係も任せたいと思うんだが...」
「ご主人様の命令とあれば、このソワンどのようなことでもする覚悟です。とはいえ込み入った話は後にいたしましょう。ささ、冷めてしまう前にまずは料理をお召し上がりくださいませ...」
「おお、それもそうだな!」
男は席に戻り箸を手に取る。絶品であることが確定してある料理たちを冷ましてしまうのはあまりに忍びない。
餃子をつまみ、これまた旨い炒飯を頬張る男はとにかく止まらない様子だった。そんな男の姿に耐えられなくなったエンタープライズが声をかける。
「なぁ指揮官、私にも一口くれないか?」
「あ、あぁ...良いぞ」
男が分けるのを少し躊躇うぐらいの料理をエンタープライズは食べる権利を得る。
早速エンタープライズは箸を手にすると餃子を1つ食し、目を見開いた。そして立ち上がるとソワンの近くまで歩いて行き、その手をとる。
「...私のために毎日餃子を作ってくれないか?」
「お断りします」
「そこをなんとか」
「お断りします」
思わずエンタープライズも告白まがいの(以下略)
エンタープライズに続きグリフォンとペロもソワンの料理を味見すると驚きを見せる。今まではレトルトや、良くてコンスタンツァの作る手料理が彼女たちの食べる限界だった。しかしこれからはそれも改善されることだろうし、なによりこの料理を食べたらそう簡単には戻れないだろう。
寄ってくるバイオロイドたちにも分け与えながら男は美食に興じる。
普段メイド隊が作ってくれる料理とて世間一般的には美味しいと分類されるもの。しかしソワンの料理と比べればそれも格が落ちると言わざるをえない。それほどまでにソワンの料理は隔絶した美味しさを持っていた。
黙々と食事に耽る男だったがやがて夢の終わりが近づいてくる。
最後の春巻を食べ終え、男は箸をチンと置く。残されたものは多大な満足感と幸福感。評価としては掛け値なしに最高峰であり、ソワンへの好感度も簡単に高まっていた。
そんな男の様子を見計らって、ソワンが声をかけてくる。
「お味のほどはいかがでしたでしょうか...?」
「あぁ、味も最高で...ヴッ...!?」
その時である、男が返答を返す途中で異変は起こった。男が胸をおさえテーブルに倒れる。突然の異常事態に周囲が固まり、次いで誰かの悲鳴が漏れた。
その中からチェシャーが男に駆け寄り、エンタープライズがソワンに詰め寄り胸ぐらに掴みかかる。
「貴様!やっぱり毒か何か盛ったんだな!?」
「いえ...私は本当に何も。それに私が毒を盛ったなら、料理を食べた他の方々も倒れているはずです」
「っ...じゃあいったいなんだと言うんだ!」
一理ある言い分にエンタープライズがその手を放す。解放されたソワンは変わらず涼しげな表情を浮かべながら、考え込むように顎先に指をあてた。
その後ろで男にも更なる変化が訪れていた。おもむろにふらりと男が立ち上がったのである。何かいつもよりただならぬ気配を放つ男は前傾姿勢で力み始める。
「ウオオオオオオォォォッ!!?」
瞬間、男の服が弾け飛んだ。上着は完全に弾けて上裸となり、下はパンツを残してズボンも爆散した。中から現れたのは筋骨隆々な肉体。いつもの2倍3倍はあろうかという筋肉が脈動し、パンプアップしているように見えた。
唖然とするエンタープライズにソワンが静かに告げる。
「ふむ、そういえば聞いたことがあります。別の私がお仕えしたご主人様が生来の難病にかかっていたそうなのですが、料理を食べた瞬間完治して健康体になったと...どうやら私の料理はご主人様と細胞レベルで相性バッチリなようですね。正直嬉しいです」
「ええい!そんなグ○メ細胞みたいなことあってたまるか!」
疲れた身体に最適な栄養素が供給されたことで男の身体はいつもより活性化しているらしい。
加えて男の身体はどうやら性的興奮も抱いているらしく、はいたパンツの真ん中には巨大なテントが張っていた。解りやすい勃起に事態を見ていた周囲のバイオロイドたちは顔を赤らめ、一部のエイミーレイザーのようなバイオロイドは逆に興味津々といった様子で見つめていた。
全身を色んな意味で励起させた男はゆっくりと息を吐き出すと、最初の行動としてグリフォンのことを指さした。
「オレ オマエ オカス」
「...アッ、えっ!?私ぃッ!?」
自分は関係ないし、とばかりに呑気にカレーの残りを食べていたグリフォンが急に指名され身体を跳ねさせる。それも突然のレイプ発言である。こんなん誰でも驚く。
「とにかく指揮官を正気に戻そう!手伝ってくれチェシャー!」
「わかったにゃ!ダンナ様覚悟!」
白目を剥いて幽鬼のように歩く男の前にエンタープライズとチェシャーの二人が立ちはだかる。
いくら元気になったとはいえ人とKANSENでは身体能力の差は明らか。それも二人がかりとなれば男に勝機があるはずもない。
二人が飛びかかり、同時に男の身体が揺らめく。
「にゃにぃぃぃっ!?」
「バカなッ!!?」
弾き飛ばされたのはエンタープライズとチェシャーの二人の方だった。加えて二人の服装は大破したときのように切り裂かれており、対して男の身体には傷1つ残っていない。
「まさかそこまで強化されているというのかッ...!?」
「インチキ効果も大概にするにゃあ!!?」
同時にエンタープライズの脳内に浮かんだのは「メスはオスに勝てない」という言葉。
男女平等の叫ばれる昨今であるが、生まれついての体格差だけはどうやっても埋めることができない。KANSENである彼女たちは普段は男よりも断然強いが、今だけはその真理が立ちはだかっている気がした。
ともあれKANSEN二人が行動不能になり、男を止める者はもはやいない。堂々とパンツにテントを張りながら男はグリフォンの前にまでやってくる。
まるで蛇に睨まれたカエルのように。男を目の前にして固まってしまったグリフォンはガタガタと震えながら男のことを見上げ、次にパンツを押し上げる逸物の形を見下ろして、もう逃げられないと本能で悟ったのだろう。
か細く腰を震わせた彼女は目尻に涙を浮かべ再び男を見上げると、震え声で嘆願する。
「あ、あの...その...せめて部屋で...」
精一杯の女の子らしい願いははたして理性なき男の耳に届こうか。
ずいと男が腕を伸ばす。ビクリと肩を跳ねさせたグリフォンはぎゅっと瞳を閉じ、来るであろう衝撃に備える。もし男に腰を掴まれたらノーチャンス。そのまま公開レイプの末に男専用の情婦になってしまうことは間違いない。
そして男の指がグリフォンへとかかる寸前、それは来た。
「そこまでよ!指揮官!」
食堂の入り口からかけられた声に男の動きがピクリと止まる。
振り返ったそこにいたのは見知らぬ金髪美少女だった。黄金色の金髪をツインテールに結った少女は白いフリルドレスのような、お嬢様学校の制服のような可憐なブラウスに黒くて清楚なスカートを身にまとい、キッとパンイチ男のことを睨み付けていた。
誰?と全員記憶を探る中で、チェシャーが目を見開く。
「ハッ!?まさかバッチ!!?...ってことはその服はもしかして...?」
「ええそうよ!オードリーに無理矢理着させられたの!」
そこにいたのは正真正銘バッチ。
普段はギャルファッションを好む彼女だが、オードリーはあえて清楚な服装を着せることに決めたらしい。まるで深窓のお嬢さまのような格好は明らかにバッチの趣味からは外れていたが、元々の素材が良いからか良く似合っていた。
新衣装を纏い気合い十分といった様子のバッチは男のことを睨み付ける。決意したその表情にこれからバッチが何をするか察したエンタープライズは、破けた自らの服を押さえながら叫んだ。
「待て、早まるなバッチ!今の指揮官の相手はお前には無理だ!それに負けたらせっかくのその服が...」
「ふん!心配ご無用よ!よわよわ指揮官に私が負けるわけないんだから!」
そう言うとバッチは食堂を横切り男の前へ立つ。
男も獣の本能か目の前の雌がただならぬオーラを放っていることに気がついたのだろう。バッチに向き直ると初めて構えをとった。
バッチも構え、両者の視線が交錯する。呼吸が深く行われ、同時に男とバッチは地面を蹴った。
「...」
目では捉えられない激突は、両者の位置が入れ替わる形で終わっていた。回りにいる全ての者が息を飲む中、果して倒れたのは...男の方だった。
雄に雌が勝てないという事象を真理とするならば、メスガキに雄が勝てないという事象もまた真理。行われた真理の上書きは男の概念武装を貫き、気絶させることに成功したのである。
「ぐふっ!?」
そして一拍の後にバッチの服が切り刻まれるかのように爆散し、バッチ自身も倒れた。
メスガキとは雌であるという前提条件によって成り立っている。即ち雌であることがメスガキであるための必要条件であり、雌である以上男の概念武装に触れた時点で負けることは確定していたのである。
「私のお洋服ちゃんがー!?」
遅れてやって来たオードリーが自分の作品が超常現象によって破壊されたことを発見し悲鳴をあげる。
倒れている者4名。喚く者1名。そのほぼ中心地に残されたグリフォンはキョロキョロと辺りを見渡すと呟く。
「いやなにこれ」
オチを考えず見切り発車したら納得いかずに数か月悩んでこんなん出ました。よいこのみんなはオチを考えてからかきはじめるやうにしようね。
あとオードリーのセリフ回しを修正しました。