あの、恐ろしい、おぞましい出来事が、私の中に、思い出される。
恐怖、混乱、戦慄、身の毛もよだつような、拷問。
私の闇が、どこまでも広がる、この上ない、畏怖。
「僕は、褥を、完了できない、不能者なんだよ。」
声が、震える。
あのおぞましい時間を、僕は今から、エティに語らなければならない。
エティ。
僕は。
消えてしまいたいとさえ、願ってしまう。
「詳しく、お話していただけますか。」
エティの、やさしい目が、僕をまっすぐ、とらえている。
こんなにも、エティは、僕にまっすぐな目を、向けてくれている。
僕は、語らなければ、ならない。
「…二年ほど前に、隣国の姫との縁談ががあった。だが、その褥で、私は、一切たぎることがなく、姫は侮辱を受けたと、たいそうお怒りになってね。破談となってしまったのだよ。」
隣国の姫は。
とても派手な、王女だった。
物言いがとても苛烈で、初対面から僕のことを見下していたようにも、思えた。
僕は、石像のエターナル・プリティ・ロリータのような、微笑みを絶やさない、やさしい女性を、心から望んでいたのだが、それは叶わず、人当たりのきつい姫が僕の伴侶として選ばれ、やってきた。
姫は、僕のどこが気に入ったのかわからないが、婚姻を了承した。
二人で過ごす時間が、増えていく。
いつまでたっても、僕の話を、聞き入れる気配が、ない。
「ユーラシア殿下!もっと私をおほめなさい?あなた女性を悦ばせるのがへたくそすぎますわ?!」
「何をしていらっしゃるのかしら!私が一人でここにいるというのに!」
「気の利かない王子が、王になるというのですか?無理ですわ!」
何を言っても、すべて僕を否定する言葉で終わる。
なぜ、縁談を断らなかったのか、いまだに不思議に思う。
そして。
いよいよ婚姻するという前日。
寝屋を共にすることとなった。
誓ったとき、朝陽が輝いていれば、永遠にその愛が輝くという伝説も、残っている。
寝屋を共にすることについて、僕は不安しか感じていなかった。
なぜなら。
僕は。
あのおぞましい日から、一度も滾ることなく、生きていたから。
女性に欲を感じることなど、一度もなかったのだ。
ただでさえ、僕は姫に対し、良い印象を持っていない。
できるはずが、なかったのだ。
姫は、僕の陰茎を散々触り、自らの素肌をこすりつけ、憎まれ口をたたくその唇を僕の体中に這わせた。
しかし、僕は滾ることはなく、ただ、なすがままで、夜が明けた。
外は、土砂降りの雨で、雷が鳴り響いていた。
姫の怒号が飛び、僕は宮殿から追い出されることとなった。
姫は、この国よりも少しだけ大きな国から来ていた。
肌をさらしたというのに、滾ることもできない不能者に、王の資格はないと、王をはじめとする国の代表者が集まる席で、大々的に公言された。
姫を糾弾する者はいない。
僕は、直ちに、追放された。
「僕は、姫に恥をかかせた、出来損ないとして、王子の名を奪われ、ここにいる。」
僕には、弟がいる。
第二王子だ。
弟は、奔放な性格で、女性を常に横に置いている。
血筋は、弟に任せておけば良いのだ。
王家の堅苦しいしきたりなど。
出来損ないの僕など、不要なものなのだ。
「みじめだろう?」
何もできない、ただの、出来損ない。
「ぜんぜん。」
エティは、僕の言葉に、即答した。
思わず、見つめてしまう。
この出来損ないの僕を、認めてくれると、言うのだろうか。
誰も、誰一人として、僕を擁護するものなど、いなかったというのに!
驚愕する僕を、そっとエティが、なでてくれた。
ポン、ポン、ポン…。
幼き日に見た、母上の面影を、感じた。
泣き止まない僕を、宥める時、いつも母上が、こうしてくれていた…。
「同情、してくれるというのか…。こんな、幼子が…。」
胸がいっぱいになる。
僕よりもかなり小さい、エティ。
なのに、こんなに愛溢れる、やさしい手を、惜しげもなく、差し伸べてくれている…。
「何か、昔、褥でいやなこととか、あったんじゃないですか?」
エティが、僕の傷に、触れようとしている。
未だ乾くことのない、グロテスクな、生傷。
触れようとするたびに、おぞましさが闇を呼び。
今まで触れようとすらしなかった、僕の最大級の、心的外傷。
「昔…。そう、昔の話だよ…。」
話してしまって、いいのだろうか。
話して、僕は、どうなるというのだろうか。
何も変わらず、ただ生傷を深くするだけなのではないか。
血が噴出して、止まらずに、このまま息絶えてしまうのではないか。
エティ。
僕の、エティ。
僕は、君に、話してしまっても、いいのだろうか。
涙が、零れる。
あの日、あの時の、恐怖の涙は、未だ乾いてなど、いないのだ。
むしろ、溢れんばかりだ。
「お話、して下さい。」
エティの、私を見つめる目が、とても真剣だから。
話しても、いい、だろうか?
話を、聞いて、くれるのだろうか。
あの日以来、声に出せず、一人胸の内に閉じ込めてきた、僕の、思い。
「あれは、僕が、16の歳になったころ、だ。」
意を決して、話を、始める。
心の奥底に、押しやって、忘れたふりをしていた感情が、今、僕の外へと、出る。
エティは、聞いてくれるだろうか。
「すでに精通のあった僕は、性交と、いうものに、興味、津々、だった。」
自らの経験を、すべて話して。
「宮殿の噴水に設置されている、エターナルプリティロリータの石像で、毎日懸想をしていたころだ…。」
エティは。呆れてしまうかもしれない。
「僕は、褥の教育の日を、心から、楽しみにしていた。」
けれど。
エティなら。
「そして、その、実施、の…日。」
聞いてくれると、思えるから。
愛情深い、、エティ。
「てだれの、褥、教育、係の、女性が、僕の、寝、室、に、来た。」
僕に差し伸べてくれた手が。
「僕のッ…陰、茎を、刺激し、大きく…育て、上げると、係の…女性は、衣服を…脱いだ。」
震える僕の手を、包んでくれているから。
「そして、せいきをなめるようしじをだした。」
おぞましい記憶を今。
「僕は、とても、そこを、どう、しても、舐める、気、に、なれず、」
外に吐き出し…
「…う、ッ…グ…。」
ダメだ、強烈な、吐き気がっ…!!
「ここ、ここに吐いてください!!」
エティが、何やら器のようなものを呼び寄せた。
僕は、その器の中に、激しくえずいた。
「う、っうぇぇえええ・・・・・・・。」
ほとんど食事をしていない僕の胃液が、吐き出される。
さっき飲んだ、ぬるい水が、吐き出されたのだな。
…飲まなければ、よかった。
「さ、お口をこれで、潤して下さいませ。」
吐くのに必死だった僕に、エティが何かを差し出した。
さわやかな香り…。香りに気を取られていると、柔らかな布で、口元を拭われた。
…温かい。
エティの、温かさが、染み入る。
不快さの消えた僕の唇に、冷たい器があてられた。
自分で出す、ぬるい水とはまるで違う、冷たくて、さわやかな、水。
これは…いったい?
「あ、ありがとう、この、飲み物は…?」
「魔法のお水です。」
「魔法の、水・・・。」
冷たい水が、僕の喉を通ってゆく。
冷たさが喉を通り抜ける心地良さに、驚いた。
「おじ様が、ご自身を取り戻すための、魔法がかかったお水、です。」
「僕が…?自分を、取り戻す・・・。」
僕は、自分を、失くしてしまっていたという事なのか…?
それを、エティは、再び、与えてくれるという事なのか…?
「続き、お話、できますか?」
僕は、変われるというのだろうか。
こんなにも、過去に囚われて、みじめに孤独な毎日を過ごしている僕が。
「女性の性器は、血をすったヒルのようでしたか?不快なにおいがしましたか?毛むくじゃらでしたか?」
あの夜の、僕の恐怖の対象。
あの恐ろしさを、エティは、共有してくれるというのか…?
あの恐ろしさを、エティは、知っているというのか…?
エティ!
君は、君は…!
「!!!・・・ああ、そう、そうだったんだ。」
あの日の出来事が、僕の中に、よみがえってくる。
恐ろしく醜悪で、不快な、肉の暴力。暴虐。
「僕の毎日見ていた、エターナルプリティロリータの、果実のような、桃色の、閉じられた蜜肉は、どこにも、見当たらなかったんだ、…どこにも。」
僕の思い懸想したものはどこにもなく、ただ、凶暴な、醜い肉の攻撃を受け続けた、あの日。
「褥係は、僕の子種を、採取してくるよう厳命されていた、のだよ。」
石像で、あれほどまでに滾り、解放していた僕の熱が嘘のように静まり返り。
「めちゃくちゃに、陰茎を、なぶられた、よ。」
変化の無い陰茎は、ただ乱暴に、刺激を通り越した打撃を与えられた。
「顔の上に、無理やり、座られて、無理やり、舐めさせられてっ・・・。」
倒れ込む僕の上に、肉の攻撃は勢いを緩めることなく、追撃を重ねる。
「僕は、吐きながら、泣きながらっ・・・」
出せ、出すのだと、怒号の中、僕は怯え続け。
「失禁してしまって・・・。」
出るものが違うと、さらにひどい加虐が始まり。
「逆上、した、褥係、に、朝、まで、虐遇を、受けて…。」
意識を失わんとしていたところに、執事が来て。
「朝、僕の様子を見に来た、執事が、僕の目の前で、褥係を、拷問、して…。」
褥がどういうものなのか、知ることができなかった僕に、手本を見せた執事。
「ぼろぼろになった、褥係を、そのまま、陵辱して、殿下、これが褥ですよと…。」
僕をあれほどまでに痛めつけた、醜い肉が、執事の陰茎で穢されてゆくさまをまざまざと見せつけられて。
「血だらけの、褥係が、白く染め上げられていくのを、僕は、僕は…。」
赤い血と、執事の放った白い精液が、混ざり合っていくのを目の当たりにした僕は。
性の在り方に、激しい嫌悪を抱くようになり。
今の今まで、一切滾ることなく、過ごしてきたのだ。
たった一人で。
誰とも、触れ合わずに。
「おじさま…かわいそう…。」
エティは、こんな僕のために、涙を、流している。
大きな空色の目が、涙で揺れている。
ああ、エティ。
君の涙が、僕のために、流されているなんて。
「…こんな、不出来な、僕を、かわいそうだと、言ってくれる…の、か…。」
こんな、僕を、憐れんでくれると、言うのかい?
「おじ様は、何も悪くありません!!!」
エティの泣きぬれた笑顔が、僕に突き刺さる。
こんなにも、真心が伝わってくる。
こんなにも、僕を見つめてくれる。
こんなに情けない僕を、まっすぐ見つめてくれる。
涙にぬれる、エティの美しさに、陶酔した。
エティが、尊くて、もう、何も考えられない。
エティしか、見えない。
エティしか、見たくない。
エティ、エティ、エティ!!!
僕は、君を、君を。
本当に、本当に!!
愛してしまった、みたいだ…!!
「あのね、おじさま、わたしは、こんなに小さいから、まだ、いろいろとできないことも多いけど、できることを毎日続けていったら、できることの幅が広がっていくのよ。一緒に、褥、やろ?できないことがある者同士、いっぱい試行錯誤して、いっぱいできること、増やしていこ?そして、幸せなセックス、いっぱい、しよ?一緒に、喜びを、追及、しよ?ね、お願い。」
エティが、僕に言葉を投げかける。
エティは、これから、きっと僕に、たくさんの言葉をくれるはずだ。
エティがいてくれたら、きっと僕は生きていける。
エティがいるだけで、こんなにも僕は、胸がいっぱいじゃないか。
エティ。
僕のもとに来てくれて、本当にありがとう。
エターナル・プリティ・ロリータ、あなたは確かに、存在した。
僕のもとに、こんなにも素晴らしい少女を、使わしてくださった。
この少女がいたら、僕はきっと。
大切なエティを、そっと抱きしめる。
…ああ。
だめだ、もっと、抱きしめたい。
エティを抱きしめる、手に力がこもる。
僕の、エティ。
僕だけの、エティ。
エティが、僕を抱きしめ返してくれた。
僕は、うれしくて、また少しだけ、涙をこぼした。