数日後の夜、ライはアジトにあるゼロの部屋を訪ねていた。今後について、相談するために。
「急に相談とは、改まってどうした」
「報告も兼ねているんだ、それと君の意見も聞きたくてな。上司として、それと『友人』としての君の意見を」
「ふむ…ならば、仮面は外そう。『友人』として、お前の話を聞こう」
ゼロは仮面を外し、ルルーシュの顔が現れた。
「では早速だが、多分驚くと思う。その…カレンと、結婚する事にした」
「はぁ…!?」
流石のルルーシュも想像しなかったのか、目を丸くした。
「そ、それは本当か?確かにお前達の噂は、黒の騎士団や学園で聞いてはいたが、展開が早過ぎないか?」
「それは自分自身でも思っている、だが事実なんだ。彼女と一緒に歩んでいこうと、決めたんだ」
「そう…なのか。いや、突然で驚いたが、めでたいよ。黒の騎士団にとっても、エースの二人が結ばれるというのは、モチベーションの向上に繋がる。
そして友人としても、幸せな門出とは嬉しいものだ。おめでとう」
優しい笑みを浮かべたルルーシュに祝福され、ライも笑顔で答える。
「ありがとう。これからも特区の発展のために、カレンと一緒に力を尽くすと約束する」
「よろしく頼むよ、だが無理はするな。もう、お前一人の人生ではないのだからな。それで相談とは、結婚に関係するものか?」
ルルーシュが本題を切り出し、ライも続いた。
「そうだ。まず本拠地を学園のクラブハウスから、特区に移したい。それと名残惜しくはあるが、学園から離れようと思う」
「ふむ。学園を離れるか…二重生活への不安か?」
「不安はない、今までだって騎士団との二重生活だったからな。ただ、特区の方に本腰を入れたいんだ」
「お前は仮入学だったからな、学園を離れる手続きなどは容易だろうが、会長達が寂しがるな。生徒会メンバーへの、表向きの理由はどうする?」
「そこなんだ、相談したいのは」
ライは頷くと、座っているソファから少し身を乗り出した。
「僕達の結婚を、理由に出すかどうかだ。記憶の手掛かりを探す旅に出るという理由なら、実に簡単だ。だがそれは僕個人の理由であって、今回はカレンも一緒だから…」
「おい待て、カレンも同じタイミングで離れるつもりなのか?」
「ああ、すまない。説明不足だったな、カレンも正式に退学するつもりでいる」
するとルルーシュは、軽く溜息をついた。
「そうだな。確かにお前一人だけが抜けるなら何とでも言えるが、カレンも一緒にとなると、理由付けが面倒になるか。
彼女は病気療養を表向きの理由にして、別々に離れたらどうだ?結婚を理由にしてしまうと、式はどうするだの、どこで暮らすだの、パーティーを開くだの、色々うるさいぞ」
「やはり、それが無難か。だが可能であれば、世話になった人達だから、せめて結婚の話だけはしておきたい」
「なるほどな…そうだ、お前はIDを持っていなかったな」
「あ、ああ。それが理由になりそうなのか?」
「ああ、少し重い内容にはなるがな」
ルルーシュはニヤリと笑うと、続けた。
「お前達は結婚を約束したが、お前がIDを持たない素性の知れない奴である事を理由に、本国にいるシュタットフェルト家の当主、つまりカレンの父親に強く反対され、二人の仲を引き裂かれそうになった。
そこでお前達は、病気療養と記憶探しを表向きの理由にして学園を去り、駆け落ちを決意した。これなら、生徒会メンバーへの口止めが必要になるが、結婚の事は伝えられるだろう」
「おお…流石だな、君に相談して正解だった。学園の方は、それで何とかなりそうだ」
驚くライを眺めながら、ルルーシュは得意気に笑う。
「ふっ、お安い御用だ。俺も何かあれば助け舟は出すが、スザクにも根回しが必要だな。話を合わせられる奴は、多い方がいい」
「そうだな、明日の会議で会った時に、話してみる」
「しかし、二人同時とはな。カレンも学園に思い入れがあるとは思えんとはいえ、卒業まで待つという選択肢は最初からなかったのか?」
「いや、それなんだが…今度は『ゼロ』である君に関わってくる話だ」
「こちらでの話か、何だ?」
するとライは顔を赤らめ、言いにくそうに口を開く。
「カレンは親衛隊長であり、紅蓮のパイロットだ。黒の騎士団でもエース格だから、君も信頼を置いてるだろう。
だが、その…結婚するという事はだな、いずれは子供が産まれる可能性も出るわけで…」
「…な、なるほど。戦力ダウンの可能性があるから、ゼロとして受け入れて欲しいと」
ルルーシュが少し顔を赤くして尋ねると、ライは頷いた。
「まあ、今はブリタニアとの戦闘はなくなり、特区に反対する勢力を掃討するくらいしか、ナイトメアに騎乗する機会もない。それに藤堂をはじめとした旧日本解放戦線のメンバーもいるから、そちらは何とかなるだろう。
親衛隊長としての俺の護衛は、お前か藤堂のいずれかに任せる。無論、妊娠がわかるまでは彼女にやらせる。これでどうだ」
「ありがとう、カレンに伝えておく。流石に子供の事は、本人も言いにくそうだったから。
しかし、いいのか?君としては、手駒が多い方がいいだろうに」
「どういう意味だ?」
「いや、穿った見方なら謝るが、自分だけの軍隊を持ち、ギアスまで手に入れて、日本を解放するため『だけ』にそこまで必要なのかと思っただけだ」
「やれやれ、勘のいい奴だ」
ルルーシュは苦笑すると、目付きが鋭くなった。
「その通り、俺の本来の目的は、ある男への復讐だ。そのためにギアスを手に入れ、ブリタニアに対抗できるだけの力を求めてきたんだ」
「単なる復讐でそこまでするとは、壮大な計画だな。相手が誰なのかも想像が容易だが、ならばカレンという手駒を簡単に手放すのは、君としては不本意なのでは?」
「以前の俺なら、そう思っただろうな。だが、少し気が変わったんだ」
ふとルルーシュの目付きが、優しいものに変わる。
「特区日本の式典が成功したというニュースを聞いて、ナナリーが泣いて喜んだんだ。『これで、少しでも誰かの血や涙が流れなくなるなら、とても嬉しいです』と、本気で泣いていたんだ。
俺はそれを見て、自分が本当に願っていたのは復讐ではなく、ナナリーが笑って過ごしてくれる世界だったんだと、気付かされた。
俺は鬼になったつもりで、なり切れていなかったんだ。C.C.にも己の甘さを指摘されるが、確かに俺は甘かった。だが、ナナリーの想いを踏みにじる事は、俺にはできない」
「ルルーシュにとって、ナナリーは一番の存在なんだな。昔、大切な存在を自分から手放してしまった僕が言うのも何だが、彼女とはずっと向き合って、大切にしてあげてくれ」
「そのつもりだ。そのためにも特区を軌道に乗せて、ナナリーが望む優しい世界を現実にするんだ。だから、お前とカレンにはこれからも働いてもらうぞ」
「当然だ、よろしく頼む」
二人は固く手を取り合い、笑みを交わすのだった。
ちょうど同じ頃、アッシュフォード学園内にある大浴場には、カレンとミレイが一緒にいた。
休日の大浴場には二人しかおらず、広い浴槽に二人は並んで浸かっている。
「はー、落ち着くわー」
伸びをするミレイをチラッと見て、カレンが口を開く。
「あの、会長?私が持ち掛けた相談に、休日にも関わらず応じてくれたのは感謝します。だけど、それがどうしてお風呂になってしまったんでしょうか?」
「そりゃあ、誰にも聞かれたくない相談とあれば、すぐにでも応じてあげたかったからね。それに、それだけ重要な話とあれば、緊張しちゃって言葉が出にくかったりするでしょ?
そこで、誰もいないであろう休日の学園、しかもお風呂というリラックス効果も得られる場所で、しっかりゆっくり話し合おうって考えたのよ」
「はぁ…ま、まあいいですけど。それじゃあ、話しちゃってもいいですか?」
「どうぞー、何かしら?」
カレンはミレイを見ながら、恐る恐る話し始める。
「えっと、まだ生徒会のみんなには言わないで欲しいんですけど、その…ライと…け、結婚する事にしたんです」
「ええぇーっ!ほっ、本当に?おめでとうー!」
「キャッ!?」
ミレイに抱き着かれ、カレンが目を白黒させた。
「やー、前からお似合いだとは思ってたし、『それだけ仲良くてまだ付き合ってないの?』ってやきもきしてたからさー、同じ生徒会メンバーとして嬉しいわ!」
「あ、ありがとうございます…」
「てかさー、急展開じゃない?いきなり結婚話なんて、いつの間にそこまで進展したわけ?」
「ま、まあ色々ありまして。色々あった中で彼に惚れ込んじゃって、その…ずっと一緒にいたくなって…」
「なるほどねー、ライに『一生、僕のお世話係主任でいてくれ』とでも言われたのかしら?」
「いっ、言われてません!いくらライでも、シチュエーションはともかく、そんな変なプロポーズの言葉なんか…はっ!?」
うっかり口を滑らせてから、カレンは口を閉ざした。だがミレイはいたずらっぽい笑みを浮かべ、カレンに迫る。
「ふぅーん、シチュエーションには不満があった、みたいな言い方ねぇ」
「あっ、いやその…」
「まっ、深く掘り下げるのは止めといてあげる。困ってる顔を見るのは、楽しいんだけどね」
「はぁっ…ど、どうも」
流石にシチュエーションは話せる内容ではなかったので、ミレイの追及を逃れたカレンはホッとしていた。
「えっと、それで…なんですけど、結婚と同時に学園を退学しようと思ってるんです」
「えっ、辞めちゃうの?卒業まで待たずに、すぐにでも結婚生活に入りたい程好きになっちゃった?」
「そんな感じ…です。すみません、生徒会もあるのに勝手な事ばかり言って」
「いいのいいの。元々カレンを生徒会に引き込んだのも、強引だったからね。仕事なら他のメンバーで何とかするわ」
ミレイは笑うと、さらに続ける。
「でもカレンが辞めるとなると、ライも一緒に学園を離れちゃうのよね?」
「もちろん、そうなります。時期はまだ決まってませんけど」
「そっかー、寂しくなるわね。それで、どこで暮らすとか決まってるの?」
「それが…」
カレンが、言いにくそうにミレイの方を見る。
「とりあえず、ブリタニアには行く予定はなくて」
「あー、そう言えば仲が良くないんだっけ。じゃあ、こっちで暮らすの?」
「えっと、みんなには言いにくいんですけど、特区日本で暮らすつもりです」
「あらっ、特区に行くの?」
「…あまり驚かないんですね」
カレンが意外そうな顔をすると、ミレイは笑った。
「貴方が、というより貴方とライが決めた事でしょ?なら私は、それを尊重するだけよ」
「ありがとう…ございます。やっぱり会長は、他の人より少しだけ、本音が言いやすいです。だから少しだけ、本当の事…お話ししておきます」
カレンは表情を引き締め、続けた。
「私のお母さんは…日本人なんです」
「えっ、つまり貴方は…」
「はい、日本人とのハーフです。心は日本人と言っても、差し支えないくらいです。でも生徒会のみんなは好きですよ、それは間違いないですし、本当に感謝しています。
でも、一部だけでも日本が復活したなら、やっぱりそこでお母さんやライと一緒に暮らしたいんです」
「そうだったのね。ブリタニア人の私が何を言っても、謝罪や慰めにはならないだろうから、これ以上は止めておくわ。
だけど、お母様と一緒に暮らしたいって事は、仲直りできたって事なのね。本当に良かったわ、お母様に結婚の事は?」
「まだ言ってません、今はちょっと療養してて。でも話したら、きっと喜んでくれると思います。
あっ、この事はみんな…特にニーナには、内緒にして欲しいんです。やっぱりまだまだ、日本人とブリタニア人の間には、偏見や恐怖感が残ってるので」
「わかってる。凄く難しい問題だから、私の中に留めておくわ」
ミレイが頷くと、カレンが申し訳なさそうに頭を下げる。
「すみません、会長にばかり色々と」
「いいのよ、貴方が本当の事を打ち明けてくれただけで、私は嬉しいわ。しかし、生徒会のみんなに何と説明しようかしら」
「そうですね。私も、お世話になったみんなには、結婚の事だけでも伝えようかなって」
「ふむ…ねえ、ライってIDを持ってなかったわよね」
「ええ、それが何か?」
カレンの問い掛けに、ミレイがニヤリと笑う。
「だったらさ、駆け落ちしちゃわない?」
「かっ、駆け落ちですか!?」
「二人は結婚を決意したんだけど、IDすら持たないどこの馬の骨とも知れない男に娘はやれんと、本国のお父様に反対され、二人は駆け落ちをする事にした。
生徒会には結婚の意思を伝えて秘密を守ってもらい、学園への表向きの理由は別に用意する。これならどうかしら?」
「な、なるほど…ありがとうございます会長、それなら何とかなりそうです」
カレンが礼を言うと、ミレイはカレンの頭を撫でながら言った。
「お役に立てて、良かったわ。じゃあ、時期が決まったら教えてね。結婚記念とお別れ会を兼ねた、パーティーをしたいから」
「わざわざそんな…いえ、ありがとうございます。ライと話し合って、お知らせしますね。それと、いずれライからも同様の相談が来ると思います。今日は、別の場所に行ってて」
「了解、ちゃんと彼からも聞いておきたいし。多分、貴方達なら大丈夫だろうけど、二人で一緒に幸せになりなさいよ」
「はい!」
二人はその後もしばらくの間、ゆったりと風呂を楽しんだのだった。
「そう、ゼロからは了承がもらえたのね。良かったわ」
それぞれの用事を終えた後、ライとカレンは電話で互いの結果を報告し合っていた。
「ミレイさんも、受け入れてくれて良かった。カレンが日本人である事も含めて、君自身から話せたんだな」
「ええ、貴方の口からも話を聞きたいって言ってたから、一度会長と話してあげて」
「もちろんだ。しかしゼロもミレイさんも、駆け落ちを理由にする事を提案してくるとはな」
「ふふっ、面白い偶然よね」
カレンは楽しそうに笑ったが、ゼロの正体を知っているライは、ルルーシュとミレイが同じ事を考えるという結果を、密かに微笑ましく感じていた。
「じゃあ、明日は特区の方で会議があるし、スザクやユーフェミア殿下に相談してみるか」
「そうね。じゃあ明日は早いから、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
二人は電話を切ると、明日に備えるのだった。