午前中の授業を休んだカレンは、午後から登校して授業を受け、今は放課後を迎えていた。
「ん?あれは…」
遠くにライを見つけ、歩み寄ろうとしたカレンが、ピタリと立ち止まる。彼は室内プールに向かう途中であっただろう、水着姿の水泳部員の少女たち数人に、取り囲まれていたのだ。
「キャー、ついに見つけちゃったわ幻の美形!本当にハンサムじゃなーい!」
「ねえねえ、ライ君って言ったよね?連絡先とか、交換できる?」
「あー、抜け駆けずるーい!」
「いや、あの…」
ライは面食らい、対応に困っていた。一方のカレンはというと、二人の関係の進展具合から気持ちに余裕はあったものの、やはり少し面白くなかった。
「まったく、何なのよあの…」
「こーらー、貴方たち!」
カレンが膨れっ面をしていると、向こうから水着姿のシャーリーがやってきた。
「もうっ、ライ君が困ってるからその辺にしなさい!それと、そろそろ練習が始まるんだから、さっさと行く!」
「はあい、シャーリーってば真面目なんだからあ」
「ライ君、バイバーイ。また会いましょうね」
ライを取り囲んでいた水泳部員たちが、渋々去っていく。残ったシャーリーが彼に向き直ると、手を合わせて謝った。
「ごめんね、ビックリさせちゃって。あの子たちってば、最近は君の事で持ち切りでね、本物に出会えて舞い上がっちゃってたみたいなの」
「そうだったのか。どうすればいいのか、わからなかったから助かった。しかし、僕なんかに会ってそんなに嬉しいものなんだろうか。別に見た目は、普通の生徒だろう」
「うわっ、本気でそれ言ってる?君らしいけど、自分の良さに気付いてないのはもったいないと思うけどなあ」
肩をすくめるシャーリーに対し、ライは首を傾げている。
「おっと、練習が始まっちゃう。それじゃあ、また明日ね」
「ああ、練習頑張って」
シャーリーはライに手を振った後、チラリとカレンの方に目配せし、ウインクしてから去っていった。
「しまった、隠れてなかったから完全にバレてた…」
明日、この事でシャーリーに弄られるであろう事を想像して、カレンは頭を抱えるのだった。
その後、カレンはライに見つかり、二人で歩いていた。
「近くまで来ていたなら、声をかけてくれても良かったんだが」
「いやいや、あんな所に割り込んだら、また変に噂が立つじゃないの。それに、どうやって割り込むのよ」
「えっと、生徒会の用事なら違和感はないと思うが」
「うっ、そ…そうよね。言われてみれば、それで良かったんだわ」
余裕があるようで動揺があった事を自分で理解したカレンは、軽く額に手を当てた。
「ま、まあシャーリーに助けられたとはいえ、ライの方こそ早く離れたらいいのに。水着姿の女の子が、そんなに良かったわけ?」
「えっ、いや…別に水着姿は何とも思わなかったが、あれだけの人数の女性に囲まれて一斉に話しかけられたら、どうすればいいのかわからなくて…すまない」
「あー…ううん、私こそごめんね。あんな状況はそうないだろうし、面食らっても仕方ないわね」
その後、少しの間の沈黙が続き、カレンがポツリと言った。
「ね…ねえ、ライ。本当に水着姿を見て、何とも思わなかったわけ?」
「ん?何故だ?」
「ほら、この学園の水着って背中が大きく空いてるし、前もちゃんと覆ってるようで面積が小さいからその…ちょっと胸が見えやすかったりするじゃない?
他の部員たちは知らないけど、シャーリーもスタイルがいいし、結構目のやり場に困ったんじゃないかなって」
カレンに尋ねられ、ライは首をひねった。
「水着のデザインがどうかというのは、他の比較対象を知らないから、何とも言えないな。
ただ、目のやり場に困るようなデザインとは思わなかった事だけは確かだ。シャーリーのスタイルがどうかとは、関係ない」
「そ、そうなんだ。ありがとう…」
二人はしばらく並んで歩いた後、ライはクラブハウスへと戻り、カレンは黒の騎士団のアジトへと向かったのだった。
「水着…か、どこにやったんだっけ」
アジトの自室で、カレンはクローゼットの引き出しの中を漁っていた。
「入学した時に買って、病弱設定だから一度も授業では使わなかったのよね。
ゲットーにある小さな川で、気分転換に水遊びした時に着ただけだったかしら」
引き出しの底や奥を探り、カレンはようやく目当ての物を見つけた。
「ふう、あったあった。さすがにヨレヨレね」
水着を広げてシワを伸ばし、カレンはそれを見つめる。
「学園にいる限り、ライにこれを着ている姿は見せられない。けど、気になるのよね。学園の水着姿の私を、ライがどう思うのか。
別にこんな事、気にしなくて良さそうだけど…色々な事、一緒に経験したいから」
水着を手にして、カレンは立ち上がった。
「とりあえず、まだ着られるか試してみなきゃね」
カレンは服を脱いで、水着を試着するのだった。
それから数日後、翌日が休日であるその日に、カレンはクラブハウスにあるライの部屋を訪れていた。
そして夕食後のまったりした空気の中、彼女は口を開いた。
「あの…少し確認したい事が、あるというか…」
「ん?何だ?」
ライからの問いかけに、カレンはモジモジしながら答える。
「ほら、前に学園の水着のデザインは気にしてないって、言ってたでしょ?私が着た場合、どう思うのか気になっちゃって」
「カレンが着た場合…か。まあその姿を見た事がないし、自分でも想像はつかないが…気になるのか?」
「うん、何故か不意にそう考えちゃって。それでね、水着を持ってきたから、これから見てもらおうかなって」
「なるほどな。まあカレンの水着姿は、今まで学園指定の物でもそれ以外でも見た事がないから、興味がある。見せてもらおうか」
ライが微笑みながら言うと、カレンはホッとしたような顔で言った。
「じゃあ、ちょっと着替えてくるね。少し待ってて」
カレンはソファから立ち上がり、リビングを出た。その後ろ姿を眺めながら、ライは少しドキドキするのだった。
「お待たせ…ど、どうかな?」
戻ってきたカレンを見て、ライは息を飲んだ。水着は体にピッタリと張り付き、魅惑的なボディラインが強調されている。
さらに、深い胸の谷間は布地からはみ出ており、横からも豊かな膨らみが丸見えで、彼は顔を赤くした。
「す、凄いな。新鮮で、魅力的に映る。しかし、その…胸が見え過ぎじゃないのか。学園指定とはいえ、それは大丈夫なのか?」
「やっぱり、そう思う?病弱設定だから、入学した時に買って以来使わなかったし、引き出しの奥でしわくちゃになって、しかもサイズが少し合わなくなってたの。
ただそれを差し引いても、デザインが過激な気がするのよねぇ」
カレンが胸を両腕で隠しながら、恥ずかしそうに言う。
「だよな。正直、目のやり場に困る」
「そうなの?前にシャーリーを見ていた時は、それはなかったんでしょ?何か違いがあるの?」
するとライは、頬を指で搔きながら言った。
「君だから、誰よりも魅力を感じるんだ。一番愛する君だから」
「そう…なんだ。意地悪な質問になるけど、会長がもしこれを着ていたとしても、同じ魅力を感じたりしない?ほら、胸…もっと大きいし」
「ミレイさんがそれを着ようと、同じだ。尊敬こそしているが、友人や先輩としての敬愛であって、異性としてどうこうはない。
僕が異性として、性的魅力を感じたり共に歩みたいと願うのはカレン、君しかいないんだ」
「ライ…ふふっ、ありがとう。それと意地悪な質問して、ごめんね。やっぱり貴方を選んで、良かったわ」
ライに告白され、カレンは照れ臭いと同時に、心身が温かく幸せな気持ちに満たされるのを感じていたのだった。