うまくいかなかったけど。
「利根にしてもそうなんだが、筑摩の艤装の一部とはいえ、その服はどうにかならないのかね」
「利根姉さんの御御足が露わになるのもどうかと思って、スリット部分をもう少し縫ってみたりもしたのですが……」
「が?」
「艤装修復の際に、服も必ず元の状態に戻ってしまうみたいで……妖精さん達は『様式美』と言うのですが、艤装の力を発揮する上での、制限の一つのようです。それに、利根姉さんは、スリット部分を短くすると動きにくいと言うのでどうしようもなくて」
「……女性提督の採用が進むのも分かる気がするぞ。他の者のスカートの短さといい、どうにも目の毒に過ぎる」
「でも、利根姉さんは危なっかしい娘のようにしか思えない、と提督は仰るではありませんか」
「やんちゃ娘だな、アイツは」
「姉さんには絶対に聞かせられませんね、ふふふっ」
執務室奥の仮眠室は既に寝室として調度が整えられ、檜風呂も併設されてしまった。食事は艦娘と共同の食堂で取れることもあり、士官専用寮に帰ることはめっきり回数も減った。私服を着るような休日も、多忙の中でどれほど前のことか忘れてしまっている。
友誼のある連中に聞いても、概ね似たような生活であるらしい。甲斐甲斐しく日替わりの秘書艦に朝から晩まで付きっきりで世話をしてもらう奴らもいる。その代わり腎虚になりそうとも聞くが、それも自業自得であろう。
「人のことは言えんか」
互いに生まれたままの姿で、ある程度拭き取ったものの、筑摩は私の、私は筑摩の汗や体液が付着した状態で、寝台に寄り添って横になっているのだから。
「提督、どうなさったのですか」
「同僚を笑えんと思っていた。筑摩の合意の上で、俺と君はこういう関係になっているが、同僚には複数の部下に手を出している者もいる。女性の中に上官の男性が一人、あり得ん話ではないかもしれんが、大っぴらに出来る話でも無い。刺した刺されたという話もあるぐらいだからな」
「……私と、こういう関係になったことを後悔されていますか?」
「無いな。強いて言うならば、私は年老いていくのに、君は解体しない限りずっとその姿であるのが、寂しくは思う。老いていく自分を見られるのは、少し怖い」
「解体されれば、艦娘として過ごした記憶も失うと聞きます。利根姉さんと共に過ごした記憶も、提督に出会い、こうして愛して頂けていることも、忘れるだなんて」
切欠は『脚』だった。第二改装が施される前から、私は彼女の脚の虜だった。脚フェチという奴だ。彼女の次に私は長良、続いて神通の脚が好きだが、これは余談だな。
鍛えられた大腿四頭筋、ハムストリングス、腓腹筋の上に程良く脂肪が乗った『むっちり美脚』という奴だ。モデルなどでよくある『ほっそり美脚』にはあまり反応しない私は、訓練で鍛えられた彼女達の脚に魅入られているといっても過言ではない。
新しい艦娘が赴任するたびに、何気なく『脚』に視線をやる癖のある、そんな私に不信感を持ったのが筑摩だった。
『一体、この人はどこを見ているのか、と思いましたから。下世話な男性なら、胸やお尻の辺りに目が向く方が多いけれど、提督の視線はどうにもズレているし、性的な視線というよりは憧憬の感情が出ていましたから』
よく見ているな、という話なのだが、利根に対しても私は筑摩ほどに無いにせよ反応をしてしまっていたらしく、利根大好きの筑摩が目さどく気づいたのだ。
訓練の後のストレッチの時間を多く取るように義務付けしているのも、部下達の美脚を守る一環で、身体、特に脚のむくみを取るのは大変に重要なこと。入浴時間も緊急時以外は制限せず、また、負担のかかる清掃担当の手当を厚くして、大浴場等の入浴時間を長く取れるように手配していた。
それの評判が部下達には良かったらしく、体調管理に人一倍気を使う司令官という評になって──筑摩の評も少しずつ良くなった最中、利根の言い出した一言が俺達の今の関係を生んだ。
『提督よ。我輩は本当にお主を気に入ったぞ。戦いが落ち着けば、我輩の婿にしてやろう!』
利根からすれば、男女のそれではなく、弟にしてやろう、ぐらいのつもりであったのは間違いない。私が知る彼女は色恋沙汰には縁のない、というか、その点については無知な少女であった。だが、これに慌てたのが筑摩だ。
姉大好きの彼女が、私の身体を好きにしていいから、無知の姉には手を出さないでとなり──初めて、筑摩の脚に触れさせてもらった時には、感動のあまりに震えてしまって、筑摩を困惑させてしまった記憶もある。
そんな筑摩の人身御供に、また勘違いした利根の一言が決定打となる。
『なんじゃ、お主は筑摩が気に入ったのか。ならば、吾輩の弟ということだな! うむ、それも悪く無いぞ! 筑摩、幸せになるのだぞ!』
利根は青葉を巻き込み、筑摩は周りから私とのケッコンカッコカリから逃げられない状況へと追い込まれる。私も筑摩の感情を考えろと叫ぶが、それも照れ隠しと解釈され。優秀な航空巡洋艦である彼女の練度も高かったのが、この時ばかりは仇となり……これで、よく愛想を尽かされなかったものだ。
「君に恨まれなかっただけでもありがたいと思っているのだ。ここまで想ってもらえた私は果報者だな」
結局、指揮下の部下達の熱狂の上に、俺と筑摩は政略結婚に近い形で、ケッコンカッコカリの儀式を執り行い、専属秘書艦として殆ど生活を共にすることとなり、緩やかに情を積み重ね、結局、男女関係は事実となったわけだ。
なんせ美脚を保ち続ける筑摩は、括約筋もしっかり鍛えられており、肌を重ねれば、私の劣情をあまつことなく引き出す名器を持っていた。夢中になった私が彼女に強い情を持つのには、大して時間は必要としなかった。
「私は、まず利根姉さんを大切にしてくれる方、というのが、絶対に譲れない条件でした。私と夫婦になったとしても、利根姉さんが隣にいるのを良しとしてくれる方で無ければ」
「放っておけるわけがあるまい。何とも、危なっかしい義姉上だ。実力は確かなのに、驚くほど童女のように振る舞うところがある。こっそりダメコンを乗せてから随分と経つが、未だに気づいていないと言う辺り、私と筑摩二人でしっかりと見ておかなければならんな」
「そう迷わずに仰って頂ける提督だからこそ、私も惹かれたのですよ」
唇を重ねる筑摩に静かに応え、俺達は枕元の明かりを完全に落とす。これ以上は、明日に響く。ただ、意識が落ちる前に、彼女の温かさを感じながら、一つ聞いた。
「横須賀の少将、出世頭と称される方からの秘密裏の話。どう思った?」
……眉唾モノの話だが、裏を取ってみるべきか。筑摩には話してある。彼女の考えも聞きたかった。
「山井少将、ですよね。AL/MI作戦の立役者で、四十を越える年を数えているのに、青年将校の風貌を保ち、あの方の秘書艦も陽炎型の浦風さんですが……なんというか、特殊な艦娘ですし」
駆逐艦にありながら、戦艦並みの火力を持つとか、そういう話ではないが……指揮能力が非常に高く、浦風でありながら浦風にあらず、それが彼女の評。
「司令官としての権限を既に持っているとか、艦娘提督としてのプロトタイプになるとか」
「浦風に見えない浦風、という評判もある。会えば分かるというが。どうにも胡散臭いし、確実に裏がある話だろう」
「本土最西端の泊地司令官とも繋がっている噂もありますね、実験部隊としてよく聞きますが」
「赴任した艦娘が他の泊地や鎮守府へ行かなくなるという呪いがあるとか、恐ろしい話だ。本土防衛戦で山井少将の元で、戦功をあげたからか、表立って言う者は少なくなったが。また、資材供給で貢献してもらっている拠点も多いからな、強くは言いにくいだろう」
「そうで……あっ」
「どうした?」
「ふふ、中から提督のものが垂れてきてしまいました」
窓から入る月明かりに照らされ、妖艶に笑う筑摩に──私は、睡眠時間が削られることを忘れ、再び、覆いかぶさっていくのだった。