第4特異点ロンドン――当初、次の特異点が19世紀のロンドンであると聞いたときは、これまでの特異点とは異なり、技術が発展した近代の街並みと活気のある人々を想定していた。しかし、その実態は立香が想定していたよりもはるかに陰惨で退廃的なものだった。街全体が霧で覆われ、自動人形(オートマタ)やホムンクルスといった怪物が路上を闊歩している。立香一人で街中を歩けば、30分ももたずに、命を落としてしまうことは間違いなかった。たとえマシュが一緒でも、安全は保障されない。
立香とマシュは特異点修正の手がかりを探すため、霧がかかった街の中をあてもなく歩き出した。
しばらく霧の中を彷徨ううちに、立香の耳に、幼い少女のクスクスという笑い声が入ってきた。
「…マシュ、今の声聞こえた?」
「い…いえ…私には何も」
自分よりも聴覚に優れたマシュに声が聞こえなかったことで、立香は耳に入ってくる声が幻聴だと考えた。しかし、幻聴のはずの声はだんだん大きくなってくる。まるで声の主が近づいてきているようだった。不思議なことに、幻聴が大きくなるにつれて霧が濃くなっている様子だ。最初は、10m先が見えないぐらいだったが、今では3m先の様子もわからない。何とかマシュとはぐれないように、互いの手をつなぐが、2人は完全に方角を見失っていた。霧が深くなるにつれてこみあげてくる嫌な予感に、立香の手が汗ばみ、緊張で鼓動が早くなる。その感覚はマシュも同じなのか、立香の手を握るマシュの手が震えている。何かが近づいてくるような気配を感じ、緊張が高まっていく。不意に立香の右手の令呪に、何かが触れた。次の瞬間――
「薙ぎ払え!」
若く野性的な女性の声とともに、霧が雷で消し飛ばされる。霧が晴れると先ほどまでの気配は消え、手に触れていた感触も消えていた。しかし、霧が晴れる直前に、立香の耳には幼い少女のささやきが残っていた。――おかあさん――声の主は確かにそう言っていた。
「お前ら、何者だ?」
立香が声の主について考える間もなく、先ほど霧を払った女性が声をかけてきた。立香よりも身長は低かったが、その眼光は鋭く、見られているだけで委縮してしまいそうだった。全身にまとった甲冑と手にした剣、そして先ほど霧を払った雷から、彼女がサーヴァントであることは明らかだ。自分たちを救ったことから、彼女に敵対する意思はないと判断した立香は、自分たちの素性を話す。
彼女は、最初は興味なさそうに立香達の素性を聞いていたが、立香達の目的がこの時代を修正し、ロンドンを救うことだと知ると、自らをモードレッドと名乗り、協力を申し出てきた。モードレッドの提案で、立香とマシュは彼女が利用している隠れ家に向かうことにした。
隠れ家に向かう道中で、モードレッドが先ほどの霧について説明する。
「あの霧には、殺人鬼がひそんでやがるんだ。これまで何人もの市民が霧に飲まれて、解体された姿で出てきた。お前らもあのままなら間違いなく死んでたな」
「霧の中の殺人鬼って…もしかして、サーヴァント?」
立香の問いかけにモードレッドは頷く。
「ああ。アサシンのサーヴァントだ。オレも何度か交戦したが――奴の姿の記憶が残らねえ。」
「姿が見えなかったから?」
「いや、姿は見たんだ。霧を払うと奴は逃げやがった。だが奴が逃げてからどうにも思い出せねえんだ。奴がどんな姿、どんな声だったかがな――ただアサシンだってことだけは覚えてる――と、着いたぞ」
モードレッドと会話をしているうちに、一行は彼女が利用している隠れ家に着いた。モードレッドが乱暴にノックをするとドアが中から開かれ、温厚そうな青年が迎え入れる。
「おかえり、モードレッド。そちらの人たちは?」
「こいつらは藤丸とマシュ。この街の異常を修正するために未来からきたらしい」
モードレッドの簡潔な紹介に続けて立香がモードレッドの時と同様に自分たちの素性を説明した。
「それは大変な旅だね。僕の名はヘンリー・ジキル。大したことはできないが、せめて疲れが取れるように、紅茶と寝室を準備しておくよ」
立香の素性を聞いた青年はジキルと名乗り、リビングに彼らを案内した。ジキルが淹れた紅茶を飲んで、一息ついた立香達は、今後の方針について話し合う。まずは、ロンドンを覆う霧の謎を解明する必要がある。そこで、ジキルの提案により、非凡な頭脳を持つフランケンシュタイン博士の孫に知恵を借りることにした。立香が方針を固めた頃には、すっかり夜も遅くなっていた。フランケンシュタイン邸への訪問は翌朝として、立香とマシュはジキルの屋敷で寝室を借りる。ベッドに入ると、レイシフトの疲れもあったのか、立香はすぐに眠りについた。
夢の中で、立香はロンドンの街を歩いていた。街は現実と異なり、活気付き、多くの民衆が出歩いている。――シルクハットをかぶり、スーツを身にまとった紳士風の男性、煤で汚れた服装の炭鉱夫、そして派手な服装で娼婦と思われる若い女性――彼らは立香に気付く様子もなく、各々の用事に夢中になっている。街の様子を観察しながら歩いていると、いつしかモードレッドと合流した場所の周辺に足を踏み入れていた。見覚えのある建屋の前で足を止めると、右の手のひらを誰かに握られた。驚いて右を向くと、銀髪の幼女が手をつないでいた。
「おかあさんとはぐれちゃったの。おにいちゃん、いっしょにさがして」
泣きそうな表情で訴える幼女を見て、立香は彼女が迷子だと思い彼女に付き合うことにした。
「大丈夫だよ。一緒にお母さんを探そう」
立香の言葉を聞いて、幼女はぱっとうれしそうな表情を浮かべる。
「ほんとう? ありがとう!」
幼女は立香に礼を言うと、彼の手を引いてトコトコと歩き出した。立香も彼女の歩幅に合わせてゆっくりと歩く。幼女はにぎやかな大通りが苦手なのか、裏道に入っていく。大通りから1本裏道に入ると、一気に人の気配が無くなった。人の気配が無くなったことで、立香は不安を感じた。
「本当にこの道でお母さんに会える?」
立香が尋ねると、幼女は満面の笑みで頷いた。
「こっちであってるよ! おかあさんのにおいがするもの」
裏道に入ってから、急に幼女の歩みが速くなった。さっきまでは足取りを合わせるのが大変なぐらいだったのに、グイグイと立香の手を引っ張って進んでいく。その速さは徐々に上がっていき、最初はゆっくり歩いていた立香も、早歩きになり、小走りになり、やがて走り出さなければ追いつけなくなった。幼女に、危ないからちょっと止まって、と声をかけても彼女は気にせず走り続ける。幼女の歩く速さが速くなるにつれて、周囲の様子も変わり始めた。周囲の建物がだんだん朧気になっていき、建物と曇天の空が一体化していく。明らかな異常に、立香は幼女の手をふりほどこうとするが、手が離れることはなく、今にも立香を引きずらんばかりの勢いで幼女は駆けていく。周囲の景色はもはや原型を残しておらず、色合いも暗くなっていた。立香が、これ以上速く走れないという速さに達した瞬間、立香を引っ張ていた感触が消えた。いつのまにか幼女は姿を消していた。
立香が足を止めて周囲を見回すと、狭いトンネルの中にいた。遥か前方にトンネルの出口と思しき明かりが見える。足元は泥を踏んでいるように、柔らかい。壁に手を当てると、こちらは土でできているのか、じっとりとした感触がした。後方を振り返ると、暗い闇が続いている。現状を打破するためには、前に進むしかなさそうだ。立香は壁に手を当て、転ばないように慎重に進みだした。
立香が歩いていると、突然、地面と壁が振動した。立香が驚いて足を止めると、振動はすぐに止まった。足を止めてじっとしていると、再び振動が起こった。どうやらトンネル内は脈動しているようだった。立香は、転ばないように気をつけながら歩き続けた。徐々に出口の明かりが近づいてくる。突然、出口の明かりが暗くなった。目を凝らすと、出口から何かが迫ってきていることが分かった。出口から迫ってくる何かは、高速で動いているのか、どんどん大きくなる。やがてその正体が明らかになった。それは、先端に鋼鉄の爪がついた巨大なかぎ爪だった。爪が閉じれば、立香を容易に捕獲できるサイズだ。迫ってくるかぎ爪に脅威を感じた立香は、踵をかえして全速力で駆け出した。泥に足を捉われながらも必死で駆ける立香だったが、思うように進めない。みるみるうちにかぎ爪が迫り、遂に追いつかれてしまう。かぎ爪が爪を開き、立香を掴んだ。立香はかぎ爪から逃れようとするが、鋼鉄の爪は無情にも閉まっていく。立香の全身の骨がみしみしと音を立て、内臓が圧迫される。立香は大声で悲鳴を上げるが、かぎ爪の動きは止まらない。終いには立香の全身の骨が砕け、内臓が破れて――立香は絶命した。
「うわぁぁぁぁ!」
自分の悲鳴で立香は飛び起きた。全身にぐっしょりと汗をかいている。悪夢にうなされたのか、呼吸も荒い。
「先輩、大丈夫ですか?」
マシュが心配そうな顔で立香をのぞき込む。立香の悲鳴でマシュも目覚めたようだ。
「大丈夫。大丈夫だよ、マシュ」
半ば自分に言い聞かせるように、立香はマシュに告げた。恐ろしい夢を見ていた気がするが、所詮は夢だ。現実には何の影響もない。時間を確認すると夜明けまではまだ時間がある。立香は今度こそ体の疲れを取るため、マシュにおやすみと告げて再び眠りについた。
翌朝、立香とマシュとモードレッドは、留守をジキルに任せてフランケンシュタイン邸に向かった。道中で何体か自動人形に出くわしたが、モードレッドが容易く打ち払った。フランケンシュタイン邸に到着すると、不自然なことにドアが開いている。立香は、家主に悪いと思いながらも屋敷に入ることにした。屋敷の中を進んでいくと、広間に出た。広間で椅子に腰かけている人物を見つけ、声をかけようとした立香は驚いた。その人物は、無惨にも胸から腹にかけて切り開かれて殺害されていたのだ。切り開かれた胸からは肋骨が飛び出し、内臓がむき出しになっている。
「モードレッド…この人…」
「ああ、こいつがフランケンシュタインの孫だろう。ん?」
フランケンシュタインの孫の遺体を観察するモードレッドが、あることに気付く。遺体の胸に手を突っ込むと、本来あるはずのものが無かった。
「…心臓がない。藤丸、こいつは魂喰いだ。サーヴァントの仕業だ!」
「魂喰いだって!?」
立香も魂喰いについては知っていた。サーヴァントが限界する魔力を維持するために、人の肉体を喰らって魔力を供給する手法だ。問題はこれをやったサーヴァントがどこにいるのかだ。遺体にはまだ温もりが残っている。加害者のサーヴァントはまだ屋敷に潜んでいる可能性がありそうだ。一同に緊張が走る中、ウゥという呻き声が部屋に響いた。声の主を探して部屋を見渡すと、再び呻き声が聞こえた。音の主を探していると、部屋の隅にある巨大な箱に行き着いた。箱は金属でできており、何本もの太い管が箱につながっていた。モードレッドと目が合った立香がうなずくと、モードレッドは手にした剣で箱のふたを乱暴に跳ね上げた。箱の中から何が飛び出してもよいように身構える一同だったが、何も飛び出しては来ない。遅る遅る箱の中をのぞくと、花嫁衣裳を身にまとい、角をはやした紅毛の少女が横たわっていた。少女は先端に球体がついたロッドを抱えて眠っている。うなされているのか、時折歯ぎしりをする。先ほどの呻き声は、彼女の寝言だったのだ。彼女がなぜ眠っている、あるいは眠らされているのかは不明だったが、この屋敷にいた以上は事態を知っているかもしれない。
「おい、起きろ。起きろよ」
モードレッドが軽く頬を叩くと少女は目を覚ました。前髪で隠れて見にくいが、青と金のオッドアイのようだ。少女は立香達を視認すると、ロッドを手に持ち、跳ね起きた。
「ウゥゥゥ!」
立香達をにらんで、唸り声を上げて威嚇する。
「あいつを殺ったのはお前か?」
モードレッドが遺体を指さして質問すると、少女は初めて遺体に気付いた様子で、箱から飛び出した。一目散に遺体に駆け寄り、その顔を確認すると怒りと悲しみの混じった叫び声を上げた。ロッドを構えて立香達に敵意を剥き出しにする。
「ウゥゥゥ!アゥゥ!?」
「おいおい、そいつを殺ったのはオレ達じゃねえよ」
「フランケンシュタインさんは私達が来た時には、亡くなっていました。私達も犯人を知りたいです」
少女と意思が通じ合うのか、モードレッドとマシュが語り掛けると、少女はロッドを下ろして少し落ち着いた様子になる。
「お前、あいつが殺されたとこ見たか?」
「ウゥ、ウゥ」
モードレッドの問いに少女は首を横に振る。どうやら彼女が眠っている間に惨劇が起きたようだ。
「見てねえんならしょうがねえな。お前も一緒に犯人を探すか?」
「アゥ、アゥ」
半ば冗談の発言だったが、少女はモードレッドに、ついてくるという意思を見せた。さらに自身の顔を指させて何かを伝えようとする。
「マジかよ! おい、藤丸。こいつ、血の匂いで犯人を追えるってよ!」
少女の意図が伝わったモードレッドがうれしそうな声を上げる。
「彼女に犯人まで案内してもらおう」
立香も少女を連れて行くことに賛成する。フランケンシュタインの孫を殺害した者と、ロンドンの怪異に関連性がないとは思えなかった。
「しっかしお前、何であんな箱の中で寝ていたんだ? あと、名前あるのか?」
これから同行する少女に、モードレッドが疑問をぶつける。モードレッドの質問に、少女は身振り手振りと呻き声で答える。少女のジェスチャーから、彼女に関する情報が得られた。彼女は、先々代のフランケンシュタイン博士によって作られた人造人間である。彼女を生み出した博士は、彼女に人の心がないと嫌いながらも、研究成果ではあったので封印して眠らせていた。だが、彼女を見つけたフランケンシュタインの孫は、彼女を教育すれば、心を与えられるのではないかと考え、彼女の封印を解いて、人の心について教育していた。花嫁衣裳も、その一環で与えられたものである。人造人間である彼女は、時折メンテナンスが必要であり、メンテナンス後はエネルギー供給のために眠る必要がある。今回の惨劇は、その間に起こった出来事だったのだ。
「なるほど。お前も色々あったんだなぁ。でも名無しってのはいまいちだな。よし、お前のことはフランと呼ぶぞ。いいだろ?」
「アゥ、アゥ」
少女の話を聞いたモードレッドは彼女をフランと呼ぶことにし、彼女も同意した。立香とマシュもモードレッドのネーミングに賛成だった。短く呼びやすく、可愛らしい彼女に合っている。
フランも加えた一行は、早速犯人の追跡を開始する。屋敷を出ると、フランが空気の中から血の匂いを嗅ぎ取って、血の匂いが濃い方向に進んでいく。犯人は屋敷を出ると、すぐに人通りの少ない細い路地に入っていったようだ。フランの嗅覚を頼りに、一行は迷路のようなロンドンの路地を進んでいく。匂いが濃くなってきているのか、フランが方向を決める時間が短くなっていく。
――もうすぐ犯人に追いつける――そう思った矢先に、一行は行き止まりにたどり着いた。血の匂いもそこで途切れてしまっているらしく、フランも戸惑っている。血の匂いが途切れているということは、犯人が近くに潜んでいるのかもしれない。一行は周囲を見回すが、壁に覆われているばかりで、人が隠れられそうな場所はない。仕方なく一行が来た道を戻ろうとすると、遠くからガシャン、ガシャンという規則正しい足音が聞こえてきた。
「チッ! オートマタが近づいてやがる。藤丸、マシュ、迎え撃つぞ!」
立香達が入った路地は1本道であり、隠れられそうな場所もない。少々リスクはあるが、立香はオートマタを迎え撃つことにした。モードレッドとマシュなら突破できるはずだ。サーヴァントではないフランは、あまり戦闘が得意でないため、立香の護衛も兼ねて後方に廻る。一行が身構えていると、ついにオートマタがその姿を現した。数は10体ほどで、2列に並んでいる。
「おおりゃあああ!」
元気な声を上げて、モードレッドが先頭のオートマタに切りかかった。手にした剣で切りつけると、バターでも切るかのようにオートマタの鋼の肉体を両断する。マシュも盾でオートマタに応戦し、殴りつける。瞬く間に2体のオートマタが葬られた。このまま行けば、問題なく片付けられる。そう思われた矢先、モードレッド達と立香達の間から、突如霧が発生した。霧はたちまち4人とオートマタを覆い隠した。
「クソ、アサシンの野郎か! こんな霧、払い飛ばしてやる!」
「ダメです! 先輩たちも巻き込んでしまいます!」
霧に視界を奪われ苛立ったモードレッドが雷で霧を払おうとするが、マシュが止めた。以前とは違い道幅が狭いこの路地では、立香達を巻き込んでしまう恐れがあった。モードレッドは舌打ちをすると、音を頼りにオートマタを1体ずつ片付けていく。
一方、フランと立香は互いに背中を預けるように身を寄せ合う。フランは周囲を威嚇するように唸り声を上げてロッドを構え、立香はいつでもガンドを打てるように準備をした。サーヴァントを相手に倒すことはできずとも、時間稼ぎならガンドでできる。
「ウアアアッ!」
突然、フランが霧の中にロッドを打ち下ろした。これまで途絶えていた血の匂いが、不意に濃度を増して現れたため、殺人鬼の存在を確信して打ち下ろしたのだ。しかし、打ち下ろした先に手応えはなかった。殺人鬼はフランの一撃を容易くかわしていた。次の瞬間、フランの左腕が切り落とされた。人工血液が飛び散り、フランが悲鳴を上げる。
「アァァァァァ!」
「フラン! 今、治す!」
立香は急いでフランに駆け寄り、治療の術式をかける。どうにか左腕の出血を止めることができた。フランは気丈にも立ち上がり、右腕一本でロッドを構えた。アサシンのサーヴァントといえど、攻撃の瞬間は気配を隠せない。先ほど同様に血の匂いと共に現れるはずだ。立香はフランの左側をカバーするように立ち、身構える。殺人鬼がどこに現れても、対応できるようにしているつもりだ。しかし、殺人鬼は予想もつかない位置から現れる。立香とフランの足元から現れ、背後からフランの胸を貫く。流石のフランもこれにはたまらず、膝から崩れ落ちるように倒れてしまう。
「フラン!」
立香は再びフランを治療しようとするが、背後から顔を布で覆われてしまう。布には特殊な術式が仕込まれているのか、立香は一瞬で意識を失った。
「ウゥ…」
地面に倒れたフランがかすかに目を開けると、立香を抱えて走り去る小柄な人影が見えた。少女を追いかけるために立ち上がることもできず、フランは意識を手放した。
「こいつで最後だぁ!」
音を頼りにオートマタを切っていたモードレッドが、最後のオートマタを切り伏せる。その直後、これまでの様子が嘘のように霧が晴れた。マシュが急いで立香達のいた方向に駆け寄ると、フランが無惨な姿で倒れており、立香の姿が見当たらなかった。
「モードレッドさん! フランさんが倒れています! それに…先輩の姿が見えません!」
「なんだと!? おい、しっかりしろ!」
モードレッドはフランを仰向けに寝かし、声をかけるが、フランの意識が戻ることはない。周囲を見回したモードレッドは、フランが手にしていたロッドを見つけた。ロッドをフランに抱かせてやると、フランがゆっくりと目を開けた。人造人間の彼女は、胸を貫かれても死ななかったのだ。
「何があったんだ?」
「…ウゥ…」
弱ってはいたが、フランは、殺人鬼に襲撃されたこと、立香を攫われたことを、申し訳なさそうに伝えた。フランから話を聞いたモードレッドは地団駄を踏んで悔しがり、マシュはショックで呆然とする。
「クソ! 全部アサシンの野郎の罠だったんだ。オレ達はまんまと嵌められたんだ!」
「先輩…どうかご無事でいてください…」
3人はフランの治療のため、一旦フランケンシュタイン邸に戻ることにした。フランケンシュタイン邸で、立香を攫ったアサシンの姿を確かめるため、フランが目撃した映像記録を確認したが、黒いもやのようなものが映っているばかりで、アサシンの外見は分からなかった。