※この作品はR-18です。

キノの旅 Girls' journey   作:わしはトマトが嫌いじゃ

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 釣りにハマっているけど季節柄全然釣れない。初夏まで待てばいいんだけど、その間やきもきさせられる時間がつらいっす。


第十八話 軍艦の国・a

 夏特有の暑い日差しの中、それでも涼しさを感じさせる潮風が吹きさす切り立った崖の上で、二人の旅人と二台のモトラドが止まっていた。そのうち二人と、話せるモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)一台の意識は、全員海の向こうに見える“それ”に向けられていた。

 

「昨日の野営した時は暗くてわからなかったけど……」

 

「朝日が昇ったらまあびっくり」

 

「東の海に巨大な『船』が浮かんでいましたとさ。めでたしめでたし」

 

「勝手に話を終わらせないでよエルメス」

 

 昨日の夕闇の中で同じ場所で野営をしたキノたちが、海の上に浮かぶ『船』に気づいたのは朝目覚めた直後のこと。とりあえず朝食をとった二人とつまんなさそうに眺めていた一台は、その後はあの『船』についてどうするか話し合うことになった。

 どうするかと言っても、『船』を目指すか、放っておいて道なりに進んで別の国へ向かうかの二択ではあったのだが。

 

「うーん、それにしても便宜上『船』って言っているけど、本当にあれ海に浮かぶ、あの船なのかな? 全長が一キロぐらいあるけど」

 

 エルメスの疑問通り、その『船』は通常の海の上を進む船とは一線を画するほどの巨大さを誇っていた。細長く流線型の船体は黒光りする金属で造られていて、船の中央部に塔のように起立する巨大な艦橋は戦闘を行う艦の特徴を備えていた。

 

「前に巨大な船の国に行ったことはあるけど……それとは全然形が違う。あの『船』のほうがよっぽど船らしい」

 

「うーん……あれ? あの甲板に当たる場所にあるのって、確か砲塔だよね? 砲弾を撃つための」

 

 手持ちの双眼鏡で観察していたカエデが、『船』前方に乗っている三つの棒が突き出たいくつかの平べったい建物のようなものを見つけた。『船』そのもののサイズと比較したら、砲塔の大きさは小さく見えがちだったが、それでも実際はかなりの大きさだという事が分かる。

 

「回転砲塔搭載型の、大口径主砲だね。口径は少なくとも砲身の中に人一人が入れそうなほどはありそうだよ」

 

 エルメスが大まかな予想を立てる。

 

「うわー、私たちの武器じゃ太刀打ちできないわよ。キノ、逃げなきゃ」

 

「逃げる必要はまだないし、撃たれると決まったわけじゃないよ」

 

 そしてキノは少し考えるそぶりを見せ。

 

「向こうの岬まで移動しよう、もっと『船』まで近づける」

 

「どのみち道なりに進むもんね、りょうかーい」

 

 ひとまず、一行の方針が決定した。

 

 

 

「改めてみると本当に大きいな……」

 

「でも分かったことがあるよね」

 

 移動先の岬から『船』までの距離は、双眼鏡を最低倍率にしても視界全体がその巨体で埋め尽くせるほどにまでなっていた。

 

「やっぱりあれは船だよ。しかも敵の船を攻撃する軍艦。たぶん長距離から砲撃するための戦艦だね。大きさはけた違いだけど」

 

「あんな主砲で撃たれたらひとたまりもないだろうな……」

 

「でっかい砲塔が三つに、一回り小さいのが二つ。全部三連装砲で、更に無数の副砲や対空砲がハリネズミみたいについているよ。しかも、全部ピカピカでいつでも動けるようになっているみたいだね」

 

「こんな大きい船が、一隻だけぽつんと沖合にいるのはなんでかしら?」

 

 カエデの疑問にそれは分からないけど、とエルメスが言い。

 

「疑問に答える人ならいるみたいだね」

 

 と続けざまに答えた。

 

「?」「?」

 

 何のことかわからない二人だったが、すぐにエルメスの言いたいことを理解することが出来た。

 沖の方、つまり巨大戦艦の方向から、一隻のモーターボートがかなりのスピードでキノたちがいる岬へ近づいて来たからだった。

 ほんの十分程度で、岬の先端にボートが接岸し。

 

「旅人さん、ですね? 我が国へようこそ!」

 

 ボートの船首に乗っていた若い男が、元気よく挨拶した。

 

 

 

 乗り物も含めたすべての荷物を船に載せた二人は、海面を滑るように進むボートの上で揺れながら遭遇した男性――入国審査官に聞いた。ボートには二人乗っていて、もう一人が船の操舵を行っていた。

 

「つまり――あの戦艦はあなた方の国であると?」

 

 初めて乗る船に興味津々でそれどころではないカエデに代わり、キノが代表して質問した。

 

「その通りです。二十三年前に建国され、以来ずっとあの軍艦の上で暮らしています。正式な名前がありまして、『ギルバート級戦艦』と言います。建造した国家で特に高名な海将の名前だったとか。昔に海沿いの軍事国家が造船して、他にも同型艦や、たくさん種類の軍艦が作られました」

 

「これだけの大きさの船を作るなんて、その国の造船技術は大したもんだねぇ」

 

 エルメスが素直に感心した。

 

「この艦級はかつての祖国の中でも最大の大きさを誇っていました。内部には町を模した居住区画もあり、自給自足も可能としています。動力は水素利用式タービンで、甲板と一体化した高効率ソーラーパネルで生み出した電気で水をくみ上げ、電気分解を行って水から水素を取り出します。ドック入りせずとも修理できる機材等も充実しているので、実質単艦ですべてまかなえてしまうのです!」

 

「かつての、祖国……とするともう、あなた方の国は……」

 

「はい……祖国で起こった試作高性能爆弾による事故により、各地へ出動していた軍艦に乗った軍人と船を残して、かつての我が国は消滅しました……。破壊規模はすさまじく、国の跡地はクレーターとなり、円形型の湾になったと」

 

「そりゃとんでもない兵器を作っていたもんだね、でも、生き残った人で、新しく地上で国を作ろうとは思わなかったの?」

 

 エルメスの素朴な疑問に、審査官は笑いながら答えた。

 

「我が国が滅んだ理由である爆弾は、地続きであった隣国との戦争のために使われる予定だったものです。つまり、そもそも隣国に攻め入らなければならない理由がなければ、そんな兵器を――悲劇を引き起こすことはなくなります」

 

「だから、軍艦の上での生活を選んだと?」

 

「そのとおりですし、そもそも必要もありませんでした。ああ、先ほども他にも多種多様の軍艦が作られたと言いましたが――今でも立派に海の上を航海していますよ」

 

「つまり?」「という事は……?」

 

「はい、我が国……すなわちわが艦隊は、総勢百五十六隻からなる国家なのです!」

 

 そして、審査官は近づいて来た『ギルバート級戦艦』を背にして。

 

「ようこそ首都部へ!」

 

 両腕を広げ、自慢げに宣言した。

 

 

 

 乗り込んだ巨大戦艦の貨物搭載室兼、揚陸艇収納室についたキノたちは、再びその船の大きさに呆気にとられることになった。

 

「船の中に船がある……」

 

「全然揺れない……」

 

「見てよ、車が走ってるよ。どうやら船体の内部に一本太いのが引かれているみたいだね」

 

 フォークリフトやトラックが行き来している所を背景に、再び審査官から説明が始まった。

 

「この、『ギルバート級戦艦』は全部で三隻存在し、年に一度首都機能が移動する持ち回り制となっています。今年は本艦ですね。先ほど百五十六隻あると言いましたが、大半は巡洋艦や駆逐艦からなる防衛部隊で――ああ、巡洋艦は戦艦より一回り小さいもの、駆逐艦はさらにそれより小さい船と考えていただければ結構です――実際に国民が安定して居住できるのはこの『ギルバート級戦艦』だけです」

 

「つまり、国民の大半がこういった型の戦艦に住んでいると?」

 

「大体国民全体の七割が三隻に分かれて住んでいますね。ちなみに本艦には八千六百四十五人暮らしています。半分が船の航行に関わる人たちですが」

 

 管理人の説明に一区切りがついたところで、ちょうど送迎用の武骨なデザインの車が現れた。その後ろにはもう一台、小型のトラックがついてきている。

 

「これよりキノさんたちが宿泊する居住区まで移動します。エルメスさんらモトラドは後ろの車の荷台で運んでいきますね」

 

「おや、別にモトラドで走ってもいいんじゃないの? あっ、排気ガスが出るのがダメとかかな? この船の乗り物水素エンジンみたいだし」

 

「いえいえそうではなく、我が国はその性質上地上からのお客さんを招き入れることは稀でして、もれなく入国者には国賓対応をせよという伝令があるんですよ。まあ、逆にそれを嫌がるという人もいないわけではないんですが……これも仕事の内ですのでご容赦ください」

 

 そうしてキノたちは排気ガスが出ない乗り物に乗って、住民の大半がいる居住区まで文字通りまっすぐ向かった。

 

「機械の中にいるみたいだ」

 

「国賓だって、キノ。これは燃料とかぼったくれるチャンスだよ」

 

「それは……もしもらえるのなら貰うけど……」

 

「あはは。残念ながら買い物に関しては、ご自身の財布からお金を出すことになりますけどね。財政的に余裕があるとは言い難いので」

 

「残念」

 

「そう言うことは、ボクやエルメスの前だけで言うようにしてね」

 

「はーい」

 

 そんなやり取りをエルメス抜きでやっている間に、居住区に到着した。巨大と言っても一キロ程度なので、車で移動すればすぐだった。

 

「ここが居住区です。わが国民、すなわち船員の家族が暮らしています。みなさーん! お客さんのモトラド乗りさんたちですよー!」

 

 車から降りたら後半そう叫んだ審査官の声に、金属の壁の向こうで遊んでいた子供たちや付き添いの母親、老人たちが集まってきた。土地柄、というより船柄の関係で客人が訪れるのは稀なためか、興味津々なまなざしを向けていた。

 

「これは……」

 

「みんな同じ格好」

 

 国民の着ていた服は、子供から大人まで殆どが全員青い作業服のような格好だった。そう、男の大人たちが着ている、恐らくこの国の海軍兵の服装。

 

「衣類や生活必需品などは多様なデザインを量産するほど艦内スペースが余っているわけではありませんので、輸入をしたものを除いたすべてが軍属の人間とほぼ同じ規格のものとなっています。輸入品はどれも高いので、基本的に国民は軍人と似たような服装になります」

 

「海上生活の弊害だね。この国の経済とかとかはどう回っているの?」

 

 荷台からトラックの運転手の手によって降ろされながら、エルメスが審査官に質問した。

 

「主に我が国の艦隊運営能力を他国に『貸し出す』ことによる対価が、主な外貨の入手源ですね。海賊や他国の船を警戒する国に雇われる、国がらみの傭兵稼業っていうやつです。常に艦隊の半数が沿岸警備に駆り出されていますよ」

 

「これまた特徴的だね」

 

「まあ、それが原因で悩みの種がないわけでもないんですが……おっと、次は宿泊のための区画にご案内いたします。荷物を置いたのち、この船の艦長に挨拶していただきますが、よろしいでしょうか? 昔からの伝統でして」

 

「ボクは構いません。カエデは?」

 

「さっきからワクワクが収まらないの。こんな大きな船の船長さんってどういう人か興味あるわ」

 

「右に同じー」

 

「ありがとうございます! あっ、ここからは少し歩きますので、ついてきてくださいね!」

 

 そうして審査官の案内のもと、キノたちは船のさらに奥に進んでいった。

 




 今回出た軍艦のイメージしている形は、旧日本海軍で使っていたものとそっくりと考えてもらって結構です。その手のゲームにもはまっていて、どうしても日本の船を使ってしまうのです。
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