※この作品はR-18です。

キノの旅 Girls' journey   作:わしはトマトが嫌いじゃ

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 今回の話は、ちょっと自分でも途中からわけわかんなくなってしまった味があるようなないような話です。でも一応投稿します。書いたんだもの。


第二十七話 箱の国

「こんにちは。旅人さんは、この国の裏側を見たいとは思いませんか?」

 

 キノたちは白衣を着て黒縁眼鏡をかけた、いかにも科学者らしき男から、公園で突然そんなことを聞かれた。両手はもちろん、白衣やズボンのポケットにも特に何も入ってないことを見て、キノたちは少なくとも敵意はないと判断した。

 

「はい? 裏側も何も、キノたちは今日出国するけど」

 

 モトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)のエルメスが、キノとカエデに代わって返答した。

 

「旅人さんは、この国へ二日前に訪れ、堪能した。しかし、同時に退屈だとも思っていましたよね?」

 

「なぜそうと言い切るのですか?」

 

「わが国では、“観察”は非常に得意な分野でありますので。入国した旅人さんたちの下に、こうして滞在の最終日に直接訪問するのです」

 

「はあ……えっと、国の裏側というのには多少興味はありますが、そうやってお誘いを受けたら最後、二度と戻ってこなかった人の話はよく聞きます。ですので、ボク達はこれで。いこう、カエデ」

 

「はーい」

 

 そう言って立ち上がろうとするキノたちに、わあっと慌てて科学者は制止しようとした。

 

「ま、待ってください。お時間は取らせませんし、あなたたちの身の安全も保障します。これは、わが国で旅人さんたち全員に行う習わしなのです」

 

「……どう思う?」

 

 キノはエルメスに相談した。

 

「まあ、二人が決めたらいいよ。このおにいさんの熱意は本物らしいし。危険はとりあえずないと思うよ。どの道キノがいなきゃこっちは動けないし」

 

「カエデはどうする?」

 

「私はキノの行くところはどこへでも、だからね!」

 

「……聞く意味もなかったか」

 

 そうして数秒間考えたキノは。

 

「……出国まであまり時間がありませんので、手早くお願いします」

 

「ありがとうございます!」

 

 科学者は深々とお辞儀をした。

 

 

 

「これから向かいますのは、この国でもっとも古くからある建物です。定期的に補修と改築を行っていますので、外観は新しいんですけどね」

 

 そう言って科学者が案内した場所は、さほど広くない国の中央にある、広い敷地を持った研究施設だった。

 

「あの中に見せたいものが?」

 

「正確にはその地下、ですけどね」

 

 そう言って科学者は守衛に首から下げた身分証のようなものを提示して、さらにカードも機械に差し込み、そして前もって決められていた様子の長い合言葉をさらさらと言うと、ようやく重たい鉄の格子の門が開いた。

 

「ちなみにここで身分証を偽装したり、合言葉を間違えると重犯罪者として捕まります。懲役十年です」

 

「正規の科学者が間違えたとしても?」

 

「そもそも科学者は、そんな記憶違いは起こしませんよ」

 

 真面目そうな顔でかなり物騒なことを言った科学者は、お客さんですと守衛に伝え、守衛が詰め所の通信機で研究所と連絡を取ってからどうぞと二人と一台を中に入れた。

 

「すごい厳重だね。よく見たら塀の上にあるワイヤーって高圧電流を流しているやつでしょ?」

 

「ええ、死にはしませんが、しばらくは動けなくなるほどの電流です。それだけこの施設は重要なのです」

 

 そして科学者に率いられて、正面門から研究所までの長い道を歩くキノたち。

 

「いっそうのこと走らない?」

 

 長さのあまりエルメスがそう提案した。誰も同意しなかった。

 

 

 

 そうして建物の中に入る。中は目に悪いほどの白一色の壁、天井、床で、少しの汚れも見落とさないような作りになっていた。

 

「エレベーターで下に降ります。少し気圧が変化するのでご注意ください」

 

 エレベーターも徹底とした白塗りで、やはり汚れ一つない。

 

「随分と清潔ですね」

 

「内外の物質の出入りは、極力避けたいので。降りたら簡単な消毒を行いますのでご了承を」

 

「なんだかとんでもないところに来ちゃったかも……ねえキノ、私たち人体実験とかされないよね?」

 

「されないと思うし落ち着いて」

 

 自分たちの置かれている状況にソワソワするカエデ。とりあえずキノはカエデの手を握った。

 

「……」

 

「ん、どうしたのカエデ?」

 

「な、何でもないよエルメス君!」

 

 キノの体によって手をつないだことが見えないエルメスは、茶化すでもなく興味本位で聞いたが、決してカエデは明かさなかった。

 

「はい、到着しました。消毒ルームを通り抜けたらマスクが配られるので必ず着用してください」

 

「わかりました」

 

 研究員の指示通りに、消毒ルームに入るキノたち。エルメスは機械部品の塊なので、別ルートで消毒される。

 

「はい、それでは目を閉じてください。開けたら痛いですよ」

 

「痛い……? うわっ!」

 

 中に入って扉が閉まると急に壁のノズルから、霧状の消毒液が噴き出した。

 

 

 

「どっかで見た映画のワンシーンになるところだったわ……」

 

「目を抑えて、悶え苦しむやつだね。あれは面白かった」

 

 全身に消毒液を噴霧された二人は、その向こう側で先に消毒が済んだエルメスと合流した。わずかについた泥汚れ等も洗い流されて、すっかり新品同様になっていた。

 

「見てよキノ、これだったら昨日わざわざカエデに洗車してもらう必要はなかったね!」

 

「よかったね、エルメス君。次からはなるべく研究所にお邪魔するようにしようね」

 

「うーん、どうせお邪魔するなら整備工場のほうがいいかなあ。オイル交換とか修理とかしてくれるし」

 

「あっ、車両整備用の区画なら存在します。自分は入ったことはありませんけどね」

 

 後から消毒室に入った科学者が出てきて、二人と一台の案内を再開する。相変わらず白いだけの殺風景な世界だったが、天井の明かりがどことなく薄暗い印象を二人は受けた。

 

「この扉の向こうが、お二人に特に見ていただきたい場所です」

 

 そう説明を受け、プシュッと空気が抜けるような音とともにスライド式のドアが開く。扉の先へと足を踏み入れたキノたちの感想は。

 

「化石の博物館で見た場所に似ている……」

 

「ひろーい!」

 

「えっと、発掘現場?」

 

 エルメスの表現は言いえて妙で、箱型のすり鉢状に地面が掘られており、できた土壁のある程度の高さの間隔ごとに足場が作られていた。いわゆる露天掘りの形式に似ている。足場の上、または穴の底では、土埃にまみれた青緑色の作業服を着た人間が、みな土壁を少しずつ道具で削っていた。

 

「そうです。地下には同じようなエリアが複数ありますが、ここが最大規模です」

 

「いったい何を掘っているんですか?」

 

「これからお見せします。ついてきてください」

 

 移動が再開され、右側に伸びる通路に入る一行。

 

「昔、この地で国を興したご先祖様は、畑を耕そうとしたところある奇妙な箱を掘り起こしたそうです。のっぺりとして、金属なのかそれ以外の物質なのかもわからないものでした」

 

「奇妙な箱?」

 

「最初に発見されてからも国内の各地で続々とそれらが掘り起こされました。どうやらわが国が建国される前にいた先住民が、意図は不明ですが埋めたようです」

 

「箱、ということは中には何が?」

 

「それは――ああ、この部屋です」

 

 目的の部屋の前に到着した科学者は、持っていたカードを差し込んで扉を開けた。

 

「箱には蓋はついてはいませんでしたが、強度的にはさほど堅牢なものではありませんでした。工具を使えば、缶詰のごとくあけられたのです」

 

 中に入った研究者が、振り返って手ぶりで“それ”を示した。

 

「これはあくまで一例ですが、皆さん驚かないように――」

 

 正方形の部屋の中に、二人と一台が続々と入る。部屋の中央にはこれもまた正方形のテーブルがあり、その上には少し深さがある白い皿に入った指先でつまめる程度の大きさの丸いチョコレート菓子が山盛りになっていた。

 

「箱には様々なものが入っていました。一見すれば身近な食べ物、日用品から武器、どういった理由で作ったのかわからないものまで、統一性のないものでした。目の前のチョコレートもそうです」

 

「埋まっていた箱から……それは確かに奇妙ですね。ですが、見たところ普通のお菓子のようですが……」

 

「キノさん、カエデさん、お二人のうちどちらでも構わないので一つ、食べてみていただけますか? 味に問題はありませんし、きちんと検証されたので大丈夫ですよ。何なら自分も一緒にいただきますが……」

 

「私が食べます! キノの手を煩わせる真似はさせません!」

 

「は、はあ……? えっと、ではお好きなものを……」

 

 カエデの熱意に押された科学者は、狼狽しつつもチョコレート菓子の入った皿を差し出した。

 

「得体のしれないものを、よく食べるね」

 

「だってお菓子好きだし」

 

「理由が安易すぎる……」

 

 皿から一つつまんで、ぽいっと口に投げ入れるカエデ。口を数秒動かし、溶けたそれを味わった後、唾液とともに飲み込んだ。

 

「うん、いたって普通のチョコレート」

 

「では、今度はこの場でジャンプしてみてください。軽くでいいですので」

 

「ジャンプ? ……えいや、あれ?」

 

「えっ?」

 

「はあ?」

 

 科学者の指示通りに跳躍するが、そのあといつまでたっても地面に着地せず、むしろどんどん離れていく。やがて、天井にカエデの頭がぶつかった。

 つまるところ、カエデは空中浮遊している。

 

「いたっ、えっ、ナニコレナニコレ!? 私浮いてますわよ!?」

 

「口調が少しぶれているよ。でも、これはいったい……」

 

「よかったじゃん、空を自由に飛びたいって前に寝言で言ってたし」

 

 キノは驚き、エルメスは呑気に冗談めかして言う。

 

「いつ言ったのよそれ。っていうか下ろしてー!」

 

「大丈夫ですよ、一分たてば効果は切れます。しばらく無重力状態を楽しんでください」

 

「そ、そうなんですね……できれば前もって教えてほしかったです!」

 

「これは失礼しました。実際に体験してもらったほうが説明しやすくなると思いまして」

 

 科学者の言葉にキノは合点がいった。そして冷静に推理する。

 

「なるほど、つまり箱から出てきたものは、何らかの不思議な効果を持ったものであったんですね?」

 

「その通りです。ちなみにこのチョコレートは今見ていただいたとおり、『食べたらその人物を惑星の重力から解放する』という効果です。一個につき一分ですけどね」

 

「じゃあ残念だけどモトラドには効果はないね。口がないんだもん」

 

 大して残念がるような口調ではないエルメス。走るのが好きなエルメスは、浮かんでもタイヤが空回りするだけなので魅力度は低かった様子である。

 

「箱からは出てきたものはこのようにただ“面白い”と思えるようなものばかりではありません。『いつ動き出すかわからない殺人人形』や『撮られた人間が消失して写真に閉じ込めるカメラ』、中には人間に敵対的な生物が入っていたケースがありました。こちらは死傷者が出ています。むしろ安全といえるケースはあまり多くありません」

 

「では、この施設の意味は、それらの危険な物品を安全に保管しておき、研究するためにあるということですね?」

 

「はい、国家予算の数割がこの研究所に割り当てられています。それだけ重要度が高いのです。……おっと、そろそろカエデさんの効果が切れる頃ですね」

 

「……? カエデ、どこに――うぷっ!」

 

 ちょうどキノの頭上で浮いていたカエデが、チョコレートの効果がなくなったことにより床に真っ逆さま。下にいたキノを下敷きにした。

 

「ご、ごめーんキノ、無重力って動きづらくって……」

 

「……」

 

 顔がカエデの両胸に埋もれているキノは、何も声を発することはできなかった。

 

 

 

「さすがに脅威度が高い発掘品はお見せすることができません。我々もまだ解明しきれていない能力がありますので。実物を見せられるのはあれだけです」

 

 再び採掘現場に戻ってきた一行は、目下で作業員が働いているのを眺めながら科学者からの説明を受けていた。

 

「今までいくつ発掘されたのか、知っていますか?」

 

「現在百二十九品発掘されて、完全に機能を把握して安全が確保されているのが三十一、研究中なのが六十九、人間にとって危険、もしくは敵対的なものが二十九です。今後もどんどん発掘されていくと思います」

 

「チョコレートだけでもびっくり仰天だったのに、それが百個以上あるなんてねえ。上の町はいたって普通だったけど」

 

「それはもう、あれらの不気味なアーティファクトから国民を守るのが、我々の使命ですからね。明日も自分も業務にとりかかりますよ」

 

「あのさ、ひとつ気になったんだけど――」

 

「はい」

 

「危ない生物が入った箱って、よく中から壊されなかったよね。缶詰みたいに開けられるって言っていたし」

 

 エルメスの言う通り、発掘された品は十分不思議なものであったが、それらを封印していた箱もまた謎が多い代物だった。

 

「どうやらあの箱は、物体の活動を停止させる効果を持っているようなのです。まるで時間が止まったかのように」

 

「時間を、止める」

 

「あの箱が」

 

 そうですと、すでに上面が開けられた――と言うより開いた箇所を仮に上とした――箱を手に取り、さっきの説明のとおりののっぺりとした質感の、肌色の表面を撫でた。

 

「試しに何の加工も施されていない野菜を、一年にわたって溶接した箱の中で保管しました。再び開けてみると中からは入れた当時そのままの、新鮮そのものの野菜がありました」

 

「保存技術の革命だね。へんてこな道具含めて、それらを作った人たちってどんな技術力があったのかな?」

 

「今となっては発掘品を調べて、想像することしかできません。起源をたどることはほぼ不可能なので」

 

 箱を置いた研究者に、キノは思い付きである質問をした。

 

「ところで、時間が止まっていると表現しましたが、それは危険なものも同じように作用するのですか?」

 

「はい、封入されている間は、その物体の活動は完全に停止します。我々が国を興す前からこの地域の安寧が保たれていた説明がつきます」

 

「では……そのまま箱を閉じたままだったら、必要以上の危険を冒さなかったのではないですか? わざわざ開ける理由は?」

 

「……そもそも、なぜ我々が旅人さんにこのことをお話しするか、わかりますでしょうか?」

 

 質問を質問で返した科学者の問いに、キノたちは頭をひねって考える。しかし。

 

「ボクには……わかりません。その意図は想像できません」

 

「右に同じー」

 

「うーん……知ってもらって、じゃあ終わりですっていうわけじゃないと思うけど……やっぱり、私にもわかりません」

 

 全員が白旗を上げた。

 

「それは世界を守るためです。こういう国があるんだということを、知ってもらいたいためなのです」

 

「……」

 

「……」

 

「はえー、大層な理念だね」

 

 キノたちは黙って聞く。エルメスは例外であるが。

 

「他国が発掘品のことを知れば、それを利用しようとたくらむ輩が出るかもしれません。かと言って、わが国がもし事故滅亡し、すべての発掘品が世に放たれてしまった場合、世界が終わる可能性もなくはないんです。その場合は対策するための力がある勢力が必要になる」

 

「……」

 

「その矛盾を解決するために、わが国では時々訪れる旅人さんにこの施設のことを知ってもらい、そして、次に行く国でこのことを、話してもらいたいのです。最初は与太話だと受け止められるでしょうが、異変が起きたら『あの話は本当だったんだ』とすぐさま対策を立ててくれるかもしれません。もちろん希望的観測ですが、それ以外方法がなかったのです」

 

「じゃあ、箱を開ける理由は? どうして研究を続けるの?」

 

「研究し、異常性を把握することそのものが、この国の使命なのですから。たとえ危険を冒そうとも箱はあけます。だって――」

 

 科学者が穴の底を見ながら――そこで今まさに巨大な箱が発掘されている光景を目にしながら。

 

「守るというのは、脅威がなければ成り立たないでしょう? 箱に納めて外から守られていた、あれらと同じように。私たちは箱になりたいんです」




 キノの旅っぽさを追求しようとした結果がこれだよ! 作者本人も完全に理解しきれていないお話って果たしていいのか……? 次はシンプルなのを書きたいっす。
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