「受験お疲れ様、智也くん」
「真奈美のほうこそお疲れ様。本当に世話になった」
二月。大学受験が終わった次の土曜日、二人は真奈美の部屋で慰労会を開いていた。
といっても大げさなものではなく、ただ一緒にお茶を飲みながらおしゃべりをするだけだ。だが、勉強で張り詰めた日々が続いていた二人にとっては十分なご褒美だった。
「ううん。私はちょっと手伝っただけ。頑張ったのは智也くん本人だよ」
テーブルの向こうの真奈美は笑いながらそう謙遜する。その顔を窓から差し込む沈みかかった夕日が照らしていた。
今日は休日だからいつもの制服姿ではなく、普段は見られない私服を身にまとっている。白いニットにベージュの長いスカート。派手なものではないが、落ち着いた彼女の雰囲気に良く似合っていた。
「いや、その手伝いがなかったら途中で挫折してたと思う。ほんと真奈美には感謝しかないよ」
「あはは、そうかな。でもそういってもらえると私もうれしくなっちゃうな」
なんでもないことのように言っている真奈美だが、相当な労力をかけたはずである。自分の受験勉強もあるなか、智也の勉強を教えて、時には自作の課題まで作成して、と途中で投げ出しても文句など言われないほどの負担だ。
それでも真奈美は献身的に智也の面倒を見続けた。そして智也もまたそんな真奈美の期待に応えようと努力をし、先日の受験では確かな手ごたえを感じられたのだった。
「はー、とりあえずこれで合格発表までは自由か」
とりあえずはひと段落したことに安心して、背後のベッドに背中を預ける。
「あ、だめだよ油断しちゃ。もしもって時のために最低限の勉強は続けないと」
「あー、やめてくれ真奈美。もし落ちた時のことなんて考えたくもない」
天を仰いで大げさにかぶりを振ってみせる智也に、真奈美はしょうがないなと苦笑をこぼした。
「まあ、智也くんすごく勉強頑張ってたし、少しくらい羽を伸ばしても誰も怒らないと思うよ」
「ん……そうだな。自分でいうのもアレだけど俺にしてはそこそこやったと思ってる」
「そうそう。だからその……これからはもう少し恋人らしいこと、しようね」
真奈美は視線を隠すように伏し目がちにそう言った。
「あー……うん、そうだな。勉強ばっかでなんもそういうことしてこなかったもんな」
言いながら付き合ってからの約二か月ほどを思い返す。受験最優先だったから、真奈美との思い出というとまず一番に机に向かい合ってノートを開いている記憶が出てくる。
恋人らしい思い出と言えば、一緒に登下校したり、その時に手をつないでみたりとその程度。あとはいわゆる”仲良し”くらいで、それもさほど多くない。
「ふふ、なんか嬉しいなぁ。これからいろんなことしようね」
そう言って真奈美は無邪気に笑った。
その笑顔を見て、智也は自分の胸がずきんと痛むのを感じていた。その理由は妹との肉体関係だ。妹のためとはいえ、真奈美への裏切り行為なのは間違いない。
「ああ。楽しみだ」
頭に浮かんだそれをかき消すように、智也は精一杯笑ってそう言った。
智也とて、真奈美への好意は噓偽りのないものだ。献身的な姿や、智也にだけ見せる笑顔が彼は好きだった。
だが、妹の唯にも愛情はある。当然だ。長年一緒に過ごしてきた家族なのだから。
形の違う二つの気持ちは、どちらか一方をそうそう切り捨てられるものではなかった。
「あの、智也くん? どうしたの?」
「え?」
「なんか元気なさそうな顔してるよ。大丈夫?」
後ろ暗い気持ちが顔に出ていたようで、真奈美が心配そうに智也の顔を覗き込んでいた。
「ああいや、平気平気。受験の疲れがまだ少し残ってるのかもな」
その視線から目を逸らしてごまかす。
「ほんと? もし辛いようだったら病院に行ったほうがいいんじゃないかな」
純粋に心配してくれている真奈美の言葉が胸に突き刺さる。
いたたまれなくなって、智也はお手洗いに立とうとした。
「あ」
だがそこで、一階の玄関が開く音が聞こえてきた。
「お母さんだ」
足音だけでわかったようで、真奈美はそう口にした。だが智也がその顔に目を向けてみると、彼女は珍しく動揺した様子をしていた。
心配して声をかけようとしたが、その前に真奈美が口を開いた。
「ここで待ってて。多分、忘れ物取りに来ただけだと思うから」
有無を言わせない口ぶりに、智也は黙ってうなずくしか出来なかった。真奈美はそれを確認すると、静かに立ち上がって部屋を出ていった。
いつもは見せない真奈美の焦燥した様子。母親についてなにか不都合なことでもあるのだろうか。普段から真奈美は母親と智也を会わせることを避けているきらいがあった。
以前、智也は一度だけ母親と顔を合わせたことがある。高校一年生の頃、初めて真奈美の家に上がった時だ。
正直、あまり愛想がよかったとは記憶していない。真奈美も年頃の女の子だから、男を家に上げるのを良く思っていないのかもしれない。
「真奈美! また男なんか連れ込んで!!」
いきなり一階から怒鳴り声が聞こえてきた。その声は真奈美のものではなく、母親のものだった。
やはり自分という男を家にあげているのが気に入らないのか、と智也は考えたが、それであそこまで怒鳴るのは変だと思った。
謝りに降りていったほうがいいのでは、と思い腰を上げる。だがドアに手をかけたところで、逆効果になるかもしれないと考えた彼は、こっそり覗いてみることにした。
音を立てないように部屋から出た智也は、階段から一階を見下ろした。階段を降りてすぐのところに真奈美の後ろ姿が見える。その先にいる母の姿は智也からは見えなかった。
「ごめんなさい」
真奈美が母に向けたであろう謝罪の言葉を発する。だが、それは普段智也と接するときのものとは全く違う、無機質な声だった。
「あんた本当にわかってんの!? 誰のせいでこんな暮らししてると思ってるの!!」
ぱん、と乾いた音が家に響いた。真奈美の髪がはらりと揺らぐ。
母から平手打ちを受けた真奈美は、少しだけ頬を抑えるそぶりを見せた。だがすぐにまた無感情な声で「ごめんなさい」と口にする。
「それなのにあんたときたら勝手に男連れ込むなんて何様のつもり!?」
真奈美の謝罪がまるで聞こえていないみたいに、母から彼女への罵倒は続く。それはおおよそ母が娘に投げかける言葉とは思えなかった。
そしてしばらくすると気が済んだのか、踵を返して出ていった。
「あんたなんて所詮汚らわしい売女よ」
最後に吐き捨てるようにそんな言葉を残して。
ばたん、と玄関が閉まったあと、智也はさっきまでの衝撃的な光景に呆然としていた。
「あ、智也くん……。見て、たんだ」
気付けば、真奈美は階段の上の智也を見上げていた。取り繕うような笑みを浮かべて。
「あ……悪い、真奈美。覗くような真似して……」
「ううん。謝るのは私」
みし、と木が軋む音を立てながら、真奈美はゆっくりと階段を上がってくる。そして智也の前までくると、悲しげな目で一瞥して彼の横を通り過ぎた。
「あんなとこ見せちゃってごめんね……。イヤだったよね」
智也に背を向けたまま真奈美は言った。どう声をかけたものかと智也が逡巡している間に、真奈美は続ける。
「智也くんにだけは見せたくなかったのにな」
少しだけ震えた声。それを抑えるように両手で自らの服を握りしめていた。
智也はそんな真奈美を少しでも慰めようと、固く握られた右手を左手でそっと包んだ。
「……とりあえずさ、部屋、戻らないか」
「……うん」
ずず、とお茶をすする音だけが部屋に響く。今日は珍しく智也が淹れた。
いつもの通りテーブルに向かい合って座っているが、その視線は一度も交わらない。お互いなんと言ったらいいかわからなかったのだ。
「……あのさ、真奈美」
だがいつまでもそのままではいられないと、智也は勇気をだして口を開いた。
「いつもその、親からああいうこと言われてるのか?」
聞こうか迷った質問を投げかける。
真奈美はようやっと智也の顔を見た。そのまま口を開きかけたが、すぐに口を結んで目を伏せる。
「こういうこと突っ込むもんじゃないんだろうけど、もし俺にできることがあるなら助けになりたいんだ。……余計な世話かもしれねぇけど」
「そんなことないよ。ありがとう、気遣ってくれて」
そう言って真奈美は笑った。だがそれは智也からもわかるくらいの作り笑いだった。
「……そうだね。今日みたいに怒鳴ることは少ないけど、優しくされたことはもうしばらくないかな」
優しくされたことはない、という言葉は、控えめな表現であることは明らかだった。寂しげな真奈美の微笑みがそれを伝えていた。
「それは──いつからなんだ? いくらなんでも真奈美が物心ついた時からそうだったってことはないんだろ?」
「うん。元々は時々怒ることはあるけど普段は優しい、”普通のお母さん”だったよ」
その頃のことを思い出したのか、少しだけ真奈美の表情が和らいだ。だがすぐに影が差した。
「変わっちゃったのはお父さんと離婚したときから」
そこで真奈美は一呼吸置くと、正面の智也を真っすぐに見据えた。そしてテーブルの下でぐっと拳を握って言った。
「智也くん。いまから智也くんが失望するようなこと言うけど平気?」
真剣な顔だった。智也はどんな話をされるのか少しだけ不安な気持ちを覚えたが、目を逸らすわけにはいかないと、「構わない」と頷いた。
「ありがとう、智也くん。……ねぇ、智也くんは私と初めてしたときのこと、覚えてる?」
「もちろんだ」
約二か月前。二人が付き合うきっかけになった出来事だ。忘れるはずがない。
「私ね──あのときが初めてじゃなかったんだ」
精一杯の勇気をふり絞るように真奈美はそう口にした。
だが、予想だにしていない告白に、智也は驚きを隠せなかった。
「ごめんね……がっかりだよね」
真奈美はそう言って俯いた。前髪に隠れてその瞳がどんな色なのかわからない。
「いや、でも……真奈美は美人で性格だっていいんだし、今まで相手がいても──」
「違うの」
智也の言葉を遮って真奈美は言った。
「私……わたし、レイプされたことあるの。お父さんに」
「え……」
言葉を失った。あまりに衝撃的な真奈美の言葉に思考が完全に止まった。
よほど口にするのがつらいのだろう。真奈美の身体はわなわなと小刻みに震えていた。
「私が中学二年生の頃、私がお父さんと家に二人のときに突然襲われて、女の私じゃ抵抗できなかった」
涙ぐむ真奈美の声。そのあまりの痛ましさに智也は止めようとしたが、真奈美がそれを視線で制した。
「それからも時々求められるようになって、私も途中から抵抗しなくなった」
震えながらも淡々と真奈美は自分の隠していた記憶を語る。智也がそこに口をはさむ余地はなかった。
「──でもすぐにお母さんにバレて……それからすぐに離婚。そのときからお母さんはあの調子」
「な……どうしてだよ。真奈美に非はないだろ」
思わず苛立ちが口に出ていた。
「お父さんね──私が誘惑した、ってお母さんに言ったんだって。だからお母さん、私のこと恨んでるの。自分から夫を奪った女だから」
だから「売女」などと罵っていたというのか。智也は彼女の両親に対する怒りが沸くのを感じていた。
「違う、って何度も言ったんだけどね。お母さん、信じてくれなくて……お父さんのこと本当に大好きだったみたいだから」
話し終えて、真奈美は一つ息を吐いた。それがすべて話したことによる安堵なのか、それとも後悔なのか、智也にはわからなかった。
「ごめん……こんなこと聞かされて、幻滅したよね」
「そんなわけあるか。真奈美が何か悪いことしたわけじゃねぇだろ」
怒りを露にする智也に、真奈美は「ううん」と首を横に振った。
「誰かに助けを求めることはきっと出来たと思う。お母さんじゃなくても、学校の先生とか、そういうことの相談窓口とかさ。私はそれをわかってて相談しなかったから」
自らを恥じるように、真奈美は自身の片腕をぎりぎりと握しりめる。
「お父さん、普段はとっても優しくて『理想の父親』って感じで、すごく幸せな家庭だった。だからそれを壊したくなかったの。……でも結局ぜんぶ壊れちゃった。馬鹿だよね。誰でもいいから頼っていればもう少し違う結果だったかもしれないのに」
真奈美はそう言って自嘲気味に笑みをこぼした。
「馬鹿なわけあるもんか。今あるものを壊したくないって思うのは当たり前のことだろ」
智也は妹の唯のことを思い出していた。学費のために自らの体を犠牲にしていることを隠していた唯が、どことなく真奈美と重なる。
「……そう、なのかな」
それでもやはり罪悪感は消せないようだが、その体から少しだけ緊張は抜けたようだった。
「ありがとう──智也くんは優しいね。少しだけ気持ちが楽になった気がする」
真奈美は目尻に少しの涙を浮かべつつも、いつもの優しげな笑みを見せた。
いつも見ている表情なのに、なぜかとても久しぶりに見たように錯覚してしまう。
「……そうか。そんならよかった」
少しだけ照れくさくて、智也はぽりぽりと頭をかきながら答えた。だが、智也は心の奥底でほっと安堵の息を漏らしていた。
ひとまず話がひと段落して、しばしの沈黙が訪れる。もうすっかり日も沈んで、外から聞こえてくる音もほとんどない。
お茶でも淹れ直そうかと口にしかけたとき、先に真奈美が口を開いた。
「ねぇ、隣行ってもいいかな」
「え……ああ、別に構わないけど」
ありがとう、と真奈美は礼を言うと、座布団から腰を上げると智也の左隣に座った。肩が少し触れあう。
その距離の近さにどきまぎしてしまう。すると真奈美は軽く智也の肩に寄りかかってきた。さらに真奈美は、猫のようにすり、と頬を擦りよせる。
彼女が普段見せない、甘えるような態度。
「智也くん──今日は一緒にいたいな」
一抹の寂しさを孕んだ声。そのままの声色で真奈美は続ける。
「わがまま言ってるのはわかってるけど──だけど、なんだかそばにいてくれないと不安なんだ……」
その寂しさが、触れている肩を通って智也に伝わってくる。
智也はその言葉に返事をするかわりに、そっと真奈美の肩を抱いた。ぴくん、と真奈美の身体が震える。だが、すぐに力を抜いてその身体を智也に預けてきた。
「真奈美──」
智也が真奈美に顔を向けると、同時に彼女もこちらを向いた。必然的に絡まる二人の視線。あとは言葉は必要なかった。
「ん──」
ふたつの柔らかいものが触れあう。まるでそうであることが当たり前のようにぴたりと重なる感覚が気持ちいい。
そのまま軽く啄みあう。お互いの唇の感覚を確かめ合うように。甘い快感をなんども味わえるこのキスが真奈美の好みだった。
いつもであればこのキスを何度も繰り返すのだが、今日は違った。
「ん、は……っ、ねぇ、智也くん……舌、入れて……私の口のナカ、めちゃくちゃにしてほしいな……」
ひどく切なそうな声。深い接吻を求める真奈美の瞳は飢えてすらいるような色が見受けられる。
「真奈美……っ!」
肩に回した手でその体を抱き寄せて唇を奪った。そして真奈美の望み通り口腔に舌を突き入れる。彼女はそれを待ち受けるように唇を開いていた。
ちゅぶ、とぶつかる濡れたもの。それをぬるりと擦り合わせて絡ませた。唾液でねばついた舌は、縫い付けられたみたいに密着してくる。
「んっ……ン、ふ、うっ……ぁ、ふ……んっ、ぁ……っ!」
その一体感が気持ちいいのか、真奈美はぬちゅりと舌が擦れ合う度に甘い声を漏らしていた。その声が、もっとしてと誘っているみたいで、智也はますますその行為に夢中になっていく。
肩を抱いていた手を真奈美の頭に回して、ぐっと引き寄せる。当然のように互いの粘膜はさらに深く繋がる。
智也はより奥に差し込んだ舌で、真奈美の口の中を全て舐めとっていく。真奈美の言葉通り、口内をめちゃくちゃにするみたいに。
「あっ……ん、ぁ、ンっ、んんっ、ァ、ふ、ぅ……っ!」
弾けるような水音ともに、真奈美の声もさらに色香を帯びていく。
すると、ただされるがままだった真奈美の右手が智也の太ももに触れた。そして撫でるみたいに滑らせると、智也の少し膨らんだ部分に触れた。
勝手に智也の身体が跳ねる。真奈美はそのまま慣れた手つきでベルトとジッパーを外して、くい、とその下の下着を引っ張った。
びん、と勢いよく顔を出す智也の勃起したもの。真奈美はそれを躊躇なく握ると、上下に扱いてきた。その動きは激しく、貪るような手つきだった。
「んっ……! ふ、ぁ、ん、ンっ、は……っ、ァ、んっ……!」
それと同時に、真奈美は繋がっている唇と舌でも強く智也を求めてきた。さっきまでとは反対に智也の口に自らのものを突き入れて、智也の口内を犯す。
智也もその真奈美の獣のような接吻と手淫に我慢できず、右手で真奈美の胸を鷲掴みにした。
「ふぁんっ!」
驚いたのか、軽く身体をのけぞらせて真奈美が喘いだ。
「あはは……ごめんね、わたし今、すごく感じやすくなってるみたい」
「あ……悪い。ならもう少し優しくしたほうがいいか?」
「ううん、平気。……それより、智也くんも私のあそこ……触ってもらってもいいかな」
はぁ、と熱い吐息を漏らしながら真奈美は言った。
「触り合いっこ、したいな」
もう一度唇を合わせる。当然ディープキス。
そしてそれと同時に真奈美のスカートをめくり上げた。そして、もどかしそうにもじもじとしている脚の間に手を這わせた。
「は、ぁんっ……! ん、ぁ、ンむ……!」
触れると同時に声を上げて感じる真奈美。
下着の割れ目があたる部分はもうぐしょぐしょだった。その様子に、下着の上からだと足りないとわかった智也は、その薄い布の下に手を滑り込ませた。
そこから伝わるむわりとした熱気。その源に指を触れさせると、簡単にナカに飲み込まれていった。
「あっ……! ん、は、ア、あんっ……ぁ、ん……っ!」
くちゅくちゅとそこをいじると、こらえきれないものが真奈美の口からこぼれ出る。そのせいで唇が離れてしまう。
真奈美はそれを惜しむように、必死に舌を突き出してきた。すがるようなその行為に、智也も同じように舌を出して真奈美のものに触れさせた。
そのまま舌先だけでちろちろと舐めあう。じれったい快楽。それを満たす様にお互いの性器を慰め合う。
「ぁんっ、はぁ、っアっ、好き……っ、ん、あっ……!」
お互いの下半身から伝わる快楽が、時間も、さっきまでのことも全て忘れさせる。二人の瞳は相手のことしか映していない。
智也のものを扱く真奈美の手は、すでに先走りでどろどろになっていた。その手でカリのでっぱりを引っかけるように扱かれると、震えるほどの快感が全身を襲う。
智也はそんな快楽を与えてくれる真奈美を悦ばせようと、秘部に突き入れた指をにゅぷにゅぷと抜き差しする。膣肉をかきわけるような愛撫に、真奈美の吐息はどんどん荒くなっていく。
「はぁ──っ、はぁ、は、あ……あ、智也くん……」
ふと真奈美が舌を離してきた。その目はもう快感に溶けていて、少し前までの悲しげな色は隠れていた。
「挿れて、ほしいな……わたしもう智也くんのこと──欲しくて欲しくてたまらないよ……」
潤んだ瞳で真奈美は言った。その口からはどちらのものかもわからない唾液がだらしなく垂れている。そしてはぁはぁとこぼれる吐息に含まれる真奈美の色香は媚薬のようだ。
「ああ、いいぞ、真奈美……」
こく、と真奈美は頷くと、ゆっくり腰を上げた。さっきまでの行為の余韻か、脚が少し震えていた。
真奈美はそのままする、とスカートを落とした。露になる真奈美の下着は、薄い水色をしたレースのショーツだった。
やや過激なそれが恥ずかしいのか、真奈美はそれもそそくさと脱いで床に落とした。
「あ、あの、智也くん……脱いでるとこそんなに見られるとさすがに恥ずかしいよ……」
「あっ……! わ、悪い、真奈美!」
顔を赤く染めて恥じらう真奈美に、慌てて背中を向けた。そして智也も立ち上がって下に身に着けているものを脱いだ。
そして真奈美のほうに振り向く。
「ま、真奈美……その恰好……」
真奈美はベッドに手をついてこちらに臀部を向けていた。いわゆる後背位の体制。
「うん……今日は後ろからしてほしいな」
顔だけこちらに向けてそう口にした。
するときはたいてい彼女がリードする形だから、珍しいなと智也は思った。
突き出されている真奈美の尻の前に立ち、両手でそれを掴む。真奈美は胸が大きいからついそちらに目が行きがちだが、ヒップの大きさも負けていない。肉付きがよくて、揉んでみると確かな弾力に富んでいる。それでいてしっかりと引き締まっているのがより魅力的だ。
その割れ目に添わせるように性器を触れさせると、その熱に真奈美の身体がぴくんと反応した。その動きで尻の肉がふる、と揺れるのが扇情的だ。
悪戯心で少しだけ擦ってみる。滑らかな真奈美の肌と弾力に受け止められて、そのまま射精するまで擦っていたいとさえ思う。
「んっ……ねぇ、智也くん……そんなにされると、その、切なくなっちゃうから……早く挿れてほしいな……」
そういってこちらを見つめてくる真奈美の瞳は情欲の雫で潤んでいた。
「ああ。……あ、いやその前にゴム付けないと──」
一度真奈美から離れようとするが、引き留めるように真奈美に性器を掴まれる。
「今日はいらない。──智也くんの直接感じたいの……出すときは好きなところにかけていいから……」
お願い、と真奈美が見つめてくる。
少し迷った末に智也はわかった、と頷くと、真奈美の秘部に狙いを定めた。先端が入口に当たって僅かな水音を立てる。
物欲しそうに蜜を漏らしながらひくつく穴に、ずん、と腰を押し込む。
「ん、あっ……!」
どろどろに濡れた蜜穴が、亀頭を飲み込んだ。柔らかい肉の感触に甘えるように、そのまま肉棒を挿入する。
抵抗はほとんどなかった。締め付けはきついのに、突き進む先端に抗う力は全然ない。
「あっ、ぁ、あ、んん、あは、智也くん、のおちんちん……奥まで入ってるの、わかるよ……」
脚をがくがくと震わせながらも真奈美は嬉しそうにそう言った。
「真奈美、もう我慢できないから──」
「うんっ……いい、よ……ぁ、ん、そのまま好きなだけおまんこ突いて……」
誘惑するような真奈美の言葉。それに誘われるがまま、ぱんっ、と欲望をそのまま真奈美にぶつける。
「んあっ!」
嬌声とともに、びくん、真奈美の体が反り返る。快楽によがるその姿に、智也の我慢などまったく効かなかった。
がっちりと押さえつけた尻に激しく腰を打ち付ける。乾いた音と一緒に真奈美のいやらしい声が部屋に響く。
「あっ、あん、や、は、ぁんっ……! あ、ふあっ、すご……あっ、これ、いつもとちがう、とこっ……あっ、ぁあん、おっ、あたって……! アっ、きもち、いいっ……!」
滑らかな髪を振り乱しながら喘ぐ真奈美。一突きするたびに尻の肉がぶるん、と揺れて情欲を加速させる。
それと同時に肉棒を包んでいる媚肉のカタチが変動するのがたまらなく気持ちいい。ぐちょぐちょに濡れたその肉ひだは、四方八方から違う刺激を智也に与えてくる。腰を振れば振るほど異なるカタチの快楽がやってくるそれに、智也が夢中になるのは当然のことだった。
真奈美はそんな智也をさらに悦ばせようと、自らも腰を上下に揺さぶってきた。単純な抽送でも気持ちがよかったのに、そこに真奈美の動きが加わると快楽は何倍にも膨れ上がる。
「真奈美っ、それ、やばいっ……!」
「んっ、あっ、ともやくん、もっ……アっ、んっ、きもちいんだ、ね……んっ! ぁあっ、ん、はぁんっ、ねぇ、ぁ……もっと、きもちよくなってっ……!」
ゆさゆさと尻の肉が揺らされて、容赦なく射精を煽られる。
それを少しでも紛らわそうと、智也は反り返った背中を守っているニットをたくし上げた。白くて汚れ一つない真奈美の背中。そこに見えるブラジャーのホックをぷち、と外した。
そして智也は真奈美に覆いかぶさると、ゆるんだブラの隙間から両手で乳房を包んだ。
「ひゃっ! あっ、だめ、ぇ、アっ、いまおっぱいさわられたら、ふぁ、あんっ!」
ぎゅ、と力を入れてみると、もうたまらないといった声を上げて真奈美が反応した。
その反応があまりに可愛くて、智也の中の加虐心がくすぐられる。腰を打ち付けるたびにぶるぶると揺れるその乳房を鷲掴みにして何度も揉みしだく。
すると、乳首を弄っているわけでもないのに、真奈美はびくびくと身体を痙攣させる。
「あっ、おっ、や、ぁんっ! はぁんっ、とも、や、くんっ、アっ、だめっ、あんっ、おっ……! そんな、されたら、あっ、あんっ、はぁっ、こわれ、ちゃうっ、よぉ……!」
初めて見せる真奈美の乱れきった姿。膣奥を突かれる快楽と胸をいじめられる気持ちよさで、理性など吹っ飛んでいるようだった。
智也もそんな真奈美と同じように、一心不乱に真奈美の身体を求める。真奈美の感触を全身で感じるように覆いかぶさって、気が違ったみたいにごりごりと子宮口をえぐる。
その二人の性交は、さながらけだものの交尾だった。
「あっ……あんっ、や、ぁうっ……! ともやく、ん、アっ、んっ、わたし、も、う……っ、ンっ、イっちゃう、ぁんっ、はぁ、おっ、イっちゃう……っ!」
急激に締め付けを増す真奈美の膣肉。射精を求めるようなそれに導かれるまま、どろどろの精液が昇ってくる。ばん、と肌と肌がぶつかるたび、それはかさを増していくようだった。
「あっ! イク、イクっ、イクぅうっ!」
びくびくと雷に打たれたみたいに真奈美の体が痙攣して絶頂を迎えた。ぎゅう、とこれ以上ないほど生殖器が締め付けられて、智也も我慢できなくなった。
「ぐっ、まなみっ……!」
ぎりぎりのところで引き抜いた。ぬぽん、と先端が真奈美から抜け出した瞬間に、どくん、と白濁が放出された。
「あっ……! あっつい……んっ、あは……ともやくん、の、ぁん……せーえき、いっぱい、かけられて、る……」
びゅくびゅくと際限なく精液が吐き出される。勢いよく飛び出したそれは、真奈美の尻にびちゃん、とかかって、美しい肌を汚していく。
その光景があまりに淫らで、射精中だというのに一層興奮が増してしまう。
「は、ぁ──あ、すっごい、出したね……」
ようやく射精が終わったころ、真奈美はくた、とベッドに倒れこんだ。だが尻はこちらに突き出されたままで、その肌をどろどろと白濁が脚まで伝っていく。
「ああ……さすがに自分でもびっくりしてるよ……」
智也は自分の白濁で汚れた真奈美の尻を見ながら答えた。
「あ……拭くから、ちょっと待っててくれ」
智也は傍らに置いてあるティッシュボックスから二、三枚取ると、肌を汚している精液を拭きとった。
「ん……ありがとう、智也くん」
真奈美はそういうと、身体を起こしてベッドに腰かけた。まだ少し余韻が残っているのか、僅かに身体が震えていた。
その横に智也も腰かける。一度射精して冷静になった智也が何と言おうか考えていると、真奈美がこちらを向いて口を開いた。
「ねぇ、今夜は泊っていってくれるんだよね……?」
「ああ、今日は一緒にいるよ」
真奈美の手を握って答える。
「ごめんね、わがまま言って」
「構わねえよ。あんな話されたあと一人にしとくなんて俺もイヤだ」
真奈美はその手を握り返しながら、優しく微笑んで「ありがとう」と礼を言った。
「じゃあ、その、もう一個わがまま言ってもいい、かな」
「いいけど……あ、できる範囲で頼む」
もちろん、と一言。
「もっと智也くんとえっちしたいな。──今日のこと、全部忘れちゃうくらい」
僅かに顔に陰りを見せる真奈美。
「……ああ、それで真奈美が少しでも楽になるなら、喜んで」
真奈美は智也の言葉に微笑んだ。そのまま続きを、と考えた智也だったが、ふと妹のことを思い出した。もうだいぶ遅い時間だというのに、連絡一つ入れていない。
「その、真奈美、悪い。家に連絡入れてもいいか?」
「あ、うん、もちろん」
さんきゅ、と軽く会釈をして、テーブルに置いてあったスマホで妹に電話をかけた。
『もしもし、兄貴?』
「あ、唯か?」
『なにしてんのこんな時間まで。もうすぐご飯なんだけど』
唯は不機嫌そうな様子だった。
「悪い。今日泊まってくるから、母さんにも伝えてくれるか?」
『まあいーけど。……彼女んちでも泊まってくんの?』
血のつながった兄妹だからなのか、なかなか鋭い。
「……そうだけど。なんか文句あるかよ」
『別にー? それじゃもう母さんに呼ばれてるから切るね』
ああ、と通話を切りかけたが、ひとつ気掛かりを思い出した。
「あ、ちょっと待て唯!」
「なに?」とめんどくさそうな返答が返ってきた。
「その、今日はいるのか?」
いる、というのは母親の彼氏のことだ。
『……いるよ。一緒に夕飯食べに来てる。でも別に大丈夫。母さんだっているしさすがになにもしてこないよ』
「そうか……ならよかった」
少しだけ不安を残しつつも、ほっと胸を撫でおろす。
『じゃ、ばいばい、兄貴』
「ああ、じゃあな、唯」
別れの挨拶をして通話を終了した。
「悪いな、真奈美」
「ううん、大丈夫だよ」
真奈美はにこ、と微笑むと、遠慮がちに身体を寄せてきた。
「……じゃあ、シて──智也くん……」
真奈美の瞳の奥には、既に情欲の炎が見える。それは真奈美の言葉ですぐに智也にも燃え移った。
お互いに身体を寄せて抱きあう。そして向かい合った顔がゆっくりと近づき、やがてその距離はゼロになった。