貴族令嬢の恋は前途多難、だからメイドも周りも苦労する 作:木桜 春雨
ねえっ、あの人、いつも暗い顔つきね、人生不幸しかないって感じ、でもね、頭はいいらしいわよ、教授達の受けはいいみたいだし。
でも、陰気な顔つきだし、ぼそぼそと喋っているから、何を言ってるのか、よくわからないときがあるの。
一緒にいるとなんだか、こっちまで気分が沈んでしまうのよ。
それが子供の頃からのグエン・ストークの噂、いや、周りからどんな風に見られているかという評価だった、頭はいい、学校の成績もトップだ、だが、人付き合いというのを面倒くさがり、自分のやりたいことだけに集中して、他の事には見向きもしないのだ。
実家が貧しい訳ではなかったので上を狙えば、いくらでも上り詰める事ができた、だが、誰かに仕えたり、そうなると好きな分野の研究ができない、相手にへいこらと頭を下げなければいけない、そんなのはごめんだとばかり、自分で作ったポーションや薬を売って生活していた。
実家には相応の仕送りをしていたので両親が文句をいうことはなかった、あれは元々、ああいう性格だからと両親は思っていたのかもしれない。
次男なので家を継ぐとか、そういうことはない分、彼自身も自由勝手にしていた事が大きかったのかもしれない。
だが、離れていても親子である、両親は何度か、見合いの話を持ち込んだが、すげなく断られた。
世界は広い、難しい陰気な性格の息子でも付き合っている女性がいるのかもしれない、もしかして同性が好きなのかと思ったが、そんな気配もない家族同士でも腹を割って話す事は滅多にないので、真意は分からない、ところが。
「あの子、いるみたいですわ」
と妻から聞かされたとき父親は驚いた。
「そうなのか、だったら紹介ぐらい」
一目、相手の顔ぐらい見たいと思ったが、母親は恥ずかしいのかもと言われて、無理に聞き出す事はしなかった、だが、そんな事が通用するのは若いうちだけだ。
三十になり、半ば、四十を過ぎるとだんだんと両親にも焦りが見えてきた。
「相手がいるのなら、一度紹介して欲しいわ、お父様も若くないし、紹介だけでも、ねっ」
ネットお通しする母親の目に息子は逆らえなかった。
気になる女性はいた、だが、簡単には紹介できない立場の人間なのだ。
黒髭とあだ名される貴族から、自分の屋敷で研究をするきはしないかといわれたとき、グエン・ストークは迷った、貴族の行為を断って酷い目にあった研究者や宮廷魔術師の事を知っていたからだ。
だが、調べてみると、黒髭は貴族の中でもかなりの変わり者らしいということがわかった、王家から自分に仕える気はないかと打診させたときも断った、それも城に呼ばれて大勢の貴族の前でだ。
普通の貴族なら、そんな事をしたら不敬罪だと、首を跳ねられるか、獄門送りになっても不思議はない、だが、黒髭は王の言葉に考え、迷う様子も見せずに即答でだ。
「そうか、いや、無理をいってしまったな」
王は仕方ないと寛大に笑ってすませた、だか、後になって、そのときの顔色は普通ではなかったという、もしかして王は黒髭に弱みでも握られているのではないかなどと噂が広まった。
自分の実験室、部屋を与えられてたとき、流石金間のある貴族は感心してしまった、実験用の機材、必要な材料は頼めばいつでも十分過ぎるくらい、メイドや出入りしている商人達が用意してくれた。
(よほど、あくどい事をして、稼いでいるのかもしれない)
自分の雇い主なのだが、そう思ったのは彼女の孫娘を初めて見たときだ。
紹介されたときは、その容姿に驚いた。
でっぷりと肥えて、いや、太りすぎだろうというぐらい、丸々としていた、子豚なんて言葉は豚に失礼だ、しかも、顔中ニキビだらけで、なんとなく甘酸っぱい匂いもする、風呂に入っているのかと思うほどだ、だが、そんな女の子を黒髭は可愛いだろうというものだから。
「はあっ、元気そうなお子様ですな」
と苦しい言い訳で返したのだ、きっと毎日、贅沢な肉と菓子、果実水を飲んで食べて運動も殆どしたことがないのだろうと思った、ところが、その数日後、庭で一人の女性を見かけた。
屋敷に来て一ヶ月あまり、家人の紹介はされたが、見たことがない、客人かと思ったが、そばにいるメイドと親しく話している様子から、違うのではないかと思われる。
だから、メイドに尋ねたのだ。
「それなら、ジュスティーナお嬢様です」
一瞬、言葉が出なかった、三日前に孫のジュスティーナと紹介された少女とは似ても似つかぬというか、まるっきりの別人だ、唖然とする自分に、お嬢様は変装ごっこが好きなのですといわれて驚いた。
でぶっと肥えた、将来は立派な豚の丸焼きにでもなりそうな子供が変装していた、しかも、その容姿が。
(変わりすぎ、いや、変装が趣味って、一体、何をして)
次の日から研究、実験がすむとグエン・ストークは街に出た、変装したジュスティーヌの後をつけ始めたのだ、ストーカー誕生である。