貴族令嬢の恋は前途多難、だからメイドも周りも苦労する 作:木桜 春雨
「すみません、お父さん」
謝罪の言葉にヴァージルは仕方ないと困った顔をしたが、深く追求はしなかった、息子の言い訳、いや話によると、あの女性は貴族、王族の人間ではないかと噂し合い、何故、商人のヴァージルと一緒なのか、あの場にいた皆が噂し合い、どうしても気になってしまったのだという。
親しい間柄なのですか聞かれて、どう答えるかと迷ったとき、自分を見つけた数人が男性が近寄ってきた。
「ヴァージル、少し話を聞かせて貰うぞ」
「あの女性に関して詳しい事は聞かない、下手したら不敬罪に当たるからな」
傍で見ていた息子のアリョーシャは父親が数人の男性に囲まれて質問攻めにあう姿を複雑な気持ちで眺めていた、皆、商人としては一目置かれる人物ばかりだ、正直、父親の事を、それほとは思ってはいなかった、決して大きいとはいえないが、そこそこに成功した商人だと思っていた、なのに、今、自分の中でくすぶるような感情は、なんだろうと思ってしま
う。
あの女性が父親の隣に立ち、腕にそっと手を置いていた姿を見たとき、言葉が出ずに、ただ息を飲んだ。
そして、いけないことだと思いながらも比べてしまったのだ、自分のパトロンとなった貴族の女性とだ、あまりにも違いすぎると、女性のそばにいたメイドは父に接している態度は女主人に対すると変わりない、父は、それほどの人間だったのか、今更のように思ってしまう。
「宝石、飾り細工の職人で腕のいい人間を知らないか」
ヴァージルの言葉に周りの男達は不思議そうな顔をした、だが、ネックレスの鎖の汚れを取り、金具を付け替えたい、細かい作業だからというと、もしかして、あの一粒真珠のかと聞かれてヴァーヘジルは胸ポケットからハンカチに包んだ物を取り出した。
「おい、いいのか、見せて」
「盗まれでもしたら」
「これは市場に出すことはできんだろう、少し見せてくれないか、いや、おまえさんの手に持ったままでいい」
一人の男が鑑定用のレンズを取りだした。
「間違いない、天上の淑女だ、まさか、ここでお目にかかるとは思ってもみなかった」
ぽつりと男が呟いた、その一言に宝石に詳しくない一部の人間がまさかという顔になった。
「天上、まさか、ヴァレンティナの奥方の」
「彼女は亡くなる時、譲ったと噂されている、皇族の彼女は、この真珠以外、どんな宝石も身につけなかった、鉱物の宝石、石と違って真珠は生きているという人間もいるくらいだ、だから、盗まれたとしても主人の元に戻ると言われている」
「ヴァージル、いい職人を探すんだ」
「勿論だ、それにしても生きているとは、大袈裟では」
「色だよ、さっき女性が身につけていたときとは少し違う、俺は見てたからな」
皆に囲まれ、質問攻めにあう父を息子はただ、離れて場所から見ていた。
「時間があっという間に過ぎてしまったわ」
「それでも一時間は御一緒してましたよ」
ロベルタの言葉に女性は、がっくりと肩を落とし、また会えるわよねとメイドに尋ねた。
「勿論です、あの真珠で次回の約束は取り付けたも同然です、ほほほ」
あの真珠は大旦那の恋人から譲られた物だ、孫が生まれたという話を聞いた高貴な女性が送ったものだ、厳つい顔の男で、どこが良かったのかと思うが、相手の女性は黒髭に夢中だったらしい。
「結婚は、無理よね」
ぽつりと呟いた一言にロベルタは思案した、自分一人では心許ない、勿論、協力者が必要だ、執事の、タダ、気になることが一つ、あのヴァージルの息子の顔だ、ストーカーの顔に似ているなど。
年齢からして、多少、無理がと思うが、いや、もしかしてと思う、これから先、色々とあるのだが、先の事はあまり深くは考えないほうがイイかもしれない。
そしてちょっと半端に思えるかもしれないが本編は、ここで幕を一端、閉じることとなったのである。
長編にするには少し疲れてきまして、ここで一端幕引きとさせて頂きます。