ゲッコウガとルチャブルの馴れ初め話
第一話:①
『秋の野に咲きたる花を指折り搔き数ふれば
萩の花 尾花 葛花
季節がよく反映された、曇りなき碧天。
透徹して美しかったあの日を、つい昨日のことのように思い出す。
***
男衆が巨大な鳥籠を運び込んできたので、何事かと目を見張る。
聞けば、此度より交易の約定を結んだ国からの献上品だという。
檻とはいえ、随所に金細工が施された目もあやな逸品。「姫様が鳥獣を愛でる御方と聞き及んでのことでしょう」と、女房が言い添えた。
確かに――きらびやかな囲いの中にあって少しも見劣りしない、華麗な色彩をまとう一羽が存在感を放っている。
鳥と聞けば納得する両翼を備えてはいるが、すっくと二本脚で立つ姿はやや人型に近い。初めて目の当たりにする姿だ。この土地には生息していない種であることを踏まえても、否応なくこちらの興味が掻き立てられる。
彼は一声だって鳴きはしない。暴れない。そういえば、この場へ運び込まれるさなかも、籠は大いに揺れただろうに騒ぐこともなかった。落ち着きはらって静かに佇んでいるように見えるが、あるいは、怯えて竦んでいるのだろうか。
確かめようと近寄るも、依然、鳥は沈黙を貫いていた。
全体に丸みを帯びる小柄な体躯。頭部は色とりどりで美しく、薄緑の中に交じる嘴先の朱や隈取の黄色、冠羽の橙が麗しい。翼も上品だった。表が蘇芳で裏が
「おまえは綺麗だね」
声をかけると、琥珀色に煌めく双眸と視線が
渡来の疲れも感じさせない澄んだ
このような相手を幽閉して飼い殺すなど――嗚呼、愚の骨頂だ。
「今から扉を開けよう」
慌てふためくのは背後の女房たちだ。「姫様!」と狼狽した声が鼓膜を弾いたけれど、聞こえぬ振りを決め込んだ。
対照的に、彼は冷静である。何を企んでいるのだろうと、こちらの一挙手一投足から思惑を見抜こうとするように観察してくる。目の動きが、それを物語っていた。
「私はね、確かに鳥が好きだ。
でも、それは翼を悠々と広げて自由に生きる姿あってこそのもの。閉じ込めて占有したいわけじゃない。
…おまえを生まれ育った土地から引き離したのは我ら人間だ。恨みもあろう。それを承知で虫のいいことだと呆れるかもしれないが、…後ろの女たちは無関係だよ。外へ出ても、どうか危害は加えないでおくれ」
言い聞かせながら、開け放つ。
しばらくは身じろぎもしない鳥であったが、こちらが辛抱強く待ち続けているうちに、やがて慎重な様子で身を屈め、畳の上に出てきた。
強張った身体を解すようにばさりと一度羽ばたいたあと、じっと見つめてくる。逃げ出すような素振りは、未だ見せない。
「異邦の生き物であるおまえがこの国で生きていけるか保証はしてやれないが、外の世界へ出ていきたいならそうするといい。
近場には豊かな森もある、好きにしなさい。…もし私のもとに留まるつもりなら、その間はきっと珍重すると約束しよう」
触れるよ。
告げてみたが威嚇はされなかった。噛まれることも、つつかれることもなく、伸ばした手は受け入れられた。
そのまま頭部を撫でてみると、わずかに目が細められる。
そうすると、幾分か、愛嬌のある顔つきになるのだった。