実在する『罪-TSUMI-シリーズ』、新作が出ました。
ジャケ買いの心理、分からなくはない。
中身の詳細を知らなくても、ぱっと見の第一印象がよければ、気になって商品に手を伸ばすことはあるだろう。お気に入りのイラストレーターが手掛けたデザインだから、とか、単純に色味や柄がインテリアとして使えそう、とか。新奇な部分に惹かれ、本来の用途とは全く違う目的で購入する…という点も、理解できる。
ただ、やっぱりさ。ろくすっぽ確認もせず衝動で…というのは、往々にして成功率が低い。
だから、用法・用量を守って正しくお使いください的な、あの、最低限の注意喚起には従っておくべきだと思うのだ。いかなる場合でも。
そうでないと、僕みたいに、らしからぬ凡ミスでげんなりする羽目になる。
当時――ホテルのオープンテラスが実にラグジュアリーで、そのムーディーな魅力たるや、ただ就寝と食事だけに終始する宿泊では勿体ないと思わせるほどだった。宿泊客としてせっかく各施設を利用する権利を得ているのだし、ナイトティー代わりに「ちょっとお茶でも」と洒落込みたい気分にさせられる。誘ってみれば、『なるほど、
ハーブティーあたりなら支障もなかろうと思っていた折、メニュー表をぱらぱらとめくっていた姫君が、何に目がとまったのかてちてちとちいちゃな前足を動かす。
えー…なにその仕草かわいい…と惚けつつ見遣れば、彼女は掲載された写真を示していた。綺麗に盛り付けられたアイスクリームの画像。ドルチェのページ。そういうところが女の子っぽいなあなんて僕は相好を崩しながら、重めのケーキってわけでもないし、このくらいの甘味ならちょうどいいかなと四つ注文することにして。
早い話が、この段階で僕はやらかして、いつぞやの二の舞になる。
もっとも、それを知るのはもう少し後になってからなのだけれど。
バニラアイスの上にかかるソースは妖艶な赤い色をしており、その見た目と芳醇な香りがロゼルの実を煮詰めたものであることを伝えてくる。散りばめられたアラザンが銀色に輝き、添えられた飾りとしてのゼリーも星型になっていて愛らしい――運ばれてきたのは、SNSに投稿すれば多数の「
ここが割と重要なので更に強調しておきます。実に美味しかったのです、はい。
ごく普通にスイーツとして楽しんでしまったので、誰しもが気付くのに遅れた。
ほとんど食べ終わる頃、三者がほぼ同時に「あれ?」という目で一羽に――ルチャさんに視線を向ける。お気に召したから黙々と食べていたのだとばかり…しかし、それにしては、どうも様子がおかしい。
ほわほわほわほわぁ…っと、彼の周辺に小さな花が舞っている。倍増しで。
いや~な予感がして、僕は改めてメニュー表の該当ページを開いた。
ふーん…アイスクリーム専用果肉酒をふんだんに使いました…と。『 シンプルなバニラアイスをカラフルに彩り、ドレスアップさせるための特別な果実のお酒。誰にも秘密にしておきたい、
ついでに?装飾のゼリーすら「ジェロショット」で?
あー、そーゆーことね完全に理解した(わかってない)
つまり、これは――うん、めっちゃくちゃに
ほら。抜け目ないもん。「察したぜ」って顔した万年発情忍者が行動を開始してるもん。ったく…、君のような勘のいい蛙は嫌いだよ。勿怪の幸いとばかりに『
「待たんかい」
呼び止めたところで何の抑止力にもならないだろうことは分かっていたが、僕はお利口さんなので、バカが相手でもとりあえず模範的な態度を取ってみせるのだ。えらくない?
「しけこむ腹積もりでしょうが、…へべれけな小鳥さん相手に無体を働くとかね、それはよくないと思うなー。…この際だからもっぺん言っとくぞ。好んで悪手を打つな。おまえのタイプ1は『水』なんだからな。『悪』は副次的なもんなの。わかる?」
途端、コウガくんは線目になり、ゆら~と舌の先を動かす。あっかんべーだ。コイツ、あっかんべーしてやがる。ホントさァこのクソ蛙。そういうとこやぞ。
挙句、意味ありげに『 デデンネ 』と姫に一声。はあ…、と彼女は聞こえよがしに大きく溜息を吐いた。
『仕方あるまい。留守中、よきに計らってやろう。…念のために訊いておくが、戻りはいつだ』
『愚問だな』
朝帰り一択だと言い残して、奴はドロンと姿を消すのだった。
***
『さて、…言い訳の仕様がないな。元はと言えば私が原因だ』
「何をおっしゃいます。よく確かめもせずに注文した僕にこそ圧倒的に非がありますよ。…トレーナーとしても面目ない。仮に、…誰かに食物アレルギーなんかがあったら事故に繋がるどころの話じゃ済まないわけですからね。今後は注意します」
『…おや。もう隠すのは止めたのか』
「別に、隠していたつもりもありませんけど。話せない前提の方が自然でしょ、…人間らしく振舞うなら」
いささかぬるくなったお茶に口をつけて、僕も先程の姫と同様に息を吐き出した。
あーぁ、…ついに甘えてしまった。……、……ま、いっか。
僕だって、たまには感傷的に吐露したいときもあるんですよ。寂しがり屋のおっさんなので。
『では、あるじ殿。居残り同士、世間話でもしようか』
急須の中身がなくなるまで。
そう言って、姫は、にっこりと笑った。
ふたりで茶会を仕切り直して以降、様々なよもやま話に花が咲くことになるのだけれど――どんなお喋りをしたのか、それはまた別のお話なのであります。