どうしても欲望の捌け口が欲しかった男の話。
※ 警告 ※
虐待に関する内容を含みます。閲覧の際はご注意ください。
……警察の発表によると、ポケモンを虐待したとする「ポケモン愛護法」違反容疑の件数は前年を上回り、統計を開始して以降最多、五年連続での増加となった。
特に直近数年で急増の向きがあり、担当者は「SNSなどの発信ツールが普及していることで悪辣な情報を目にする機会も同時的に増え、通報に繋がっているのではないか」と分析している。実際に、摘発件数の半数に関しては一般市民からの通報が捜査の端緒となっており、虐待をしている本人が投稿したSNS上の動画などを見て警察に連絡するケースが増えているという。
通報と摘発、被害ポケモンの早期発見と保護、それを可能にするのがSNSであるとすれば、つまり裏を返すと、痛ましい動画を投稿することで人々の注目を浴び、それが犯罪行為であろうと自己承認欲求を歪んだ形で満たす場として悪用されているのもまたSNSなのである。
自称「ポケモン虐待愛好家」らが次々に投稿する残虐極まりない動画。そして、投稿者の残虐行為だけでなく、それらを煽って面白がるネット上のギャラリーたちのコメントも問題視されてきた。匿名性の高さを隠れ蓑にしながら構築されているのは、より残忍な行為者が「天才」「神」と称賛される無秩序で異様な世界である。
「加虐者には、自身のフラストレーションをポケモンにぶつけていくうちに、それが快感に転化して、終わりのない虐待へと悪化するパターンが見られる」と専門家は語る。
「互いに挑発し合い、エスカレートして、歯止めがきかなくなる。そんな社会の病理的な部分が、ポケモン虐待に顕著に表れている」
今月に入って逮捕された一人の男性は、自宅の地下室でポケモンに対する虐待を行い、その様子の一部始終をデジタルカメラで撮影してSNS上に投稿していた。
「ネットで見た動画が忘れられなかった」「虐待行為に楽しみを覚えるようになり、動画を公開することが目的化した」と認定。「もっとやれ」といったコメントを見て、抵抗感が薄れていったと公判で述べ、ポケモン愛護法違反罪で執行猶予つきの有罪判決を受けている。
虐待動画を目撃してしまい、心に深い傷を負う人も。だが投稿そのものを規制する法律はなく、規制強化を求める声が上がっている。
虐待動画を見つけて運営会社が自主的に削除するケースも多いが、すぐ新たな動画が投稿される「いたちごっこ」が続いているのが現状だ……
――某日の新聞記事より抜粋
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僕は、フォッコの虜になっている。
フォッコなら何でもいいってわけじゃない。僕の、愛しの「フラムちゃん」であることが重要だ。彼女の艶やかなクリーム色の毛皮や、緋色の輝きを持つ珊瑚のような目、奇跡的なバランスで成立している四肢、胴体…何から何までが芸術品であり、間違いなく、彼女は神様が僕に与えてくださった世界一のポケモンだった。いつまでもいつまでもその姿を愛でたくて、彼女に贈った首輪のチャームには「変わらずの石」があしらってある。
どんなに疲労困憊だろうと、フラムちゃんを一目見れば癒された。彼女と紡ぐ些細な日常こそが僕の守るべきものだった。「いってきます」と家を出るときは目を潤ませながらも健気に僕を見送り、「ただいま」と言いながら扉を開ければ幸せそうな表情で駆け寄ってきてくれるなんて…これを愛しいと言わずして何だと言うのか。僕は彼女と共に生きていけるのならどんな苦労も厭わない。
それなのに、僕はこんなにもフラムちゃんが大好きなのに、愛しているのに、傷の一つもつかぬよう優しく触れてきたのに――その裏側で、彼女の愛らしいかんばせが苦痛に歪むところを見てみたいという欲求に抗えなかった。いつからだったか、彼女の悲鳴を聞きながら飲む酒はどんなに美味しかろうと夢想する癖がついた。フラムちゃんへの想いが強まることに比例して、殴ったり、斬りつけたり、刺したり、沈めたり、焼いたり、色んなことをしてみたいと切望するようになっていた。だけど、繰り返し繰り返し痛めつけたら、フラムちゃんは衰弱して死んでしまうだろう。それだけは絶対に許されないことだった。
どうにかして傷つけたいけれど、どうしても傷つけたくない矛盾の中で、僕はいくつかの解決策を模索した。SNS上では、実は検索をかければ驚くほどのポケモン虐待動画が投稿されていて、そのことを前々から知っていた僕は、それらをこっそりと視聴することで自分の不埒な欲望を抑制しようと試みた。しかし、自分も同じようなことをしたいという思いが深まるだけで、かえって気が狂うほどの興奮が僕の胸を焦がすのだった。
スケープゴートとしてもう一匹別のフォッコを購入しようと検討したこともある。実際にブリーダーの元を訪れたり、各種サイトを閲覧してみたのだが、……ダメだった。
何の魅力も感じなかった。
やっぱりフラムちゃんでなければいけなかった。僕はフォッコに苦痛を与えたいのではなく、フラムちゃんをぐちゃぐちゃにしたいのだと再確認しただけに終わった……はずだったのだが、実はこのとき、「再確認しただけに終わ」らなかったのだ。フォッコ関連でネットサーフィンをしていたことがきっかけで、僕は一つの理想を手にすることになる。
目についた「メタモンの里親」募集広告――実に、天啓だった。
僕は迷いなく応募をクリックした。一般に高給とされる手堅い職業に就いていたことや、ポケモンの飼育経験がプラスに働いたことで、希望は容易く通った。
「この子に変身できるかな?」
すやすやと夢の中にいるフラムちゃんを見せて、メタモンにそっと囁きかける。
フラムちゃんにメタモンを見せたら嫉妬してしまうかもしれないし、そんなふうにして彼女の心を傷つけるのは本意ではないから、僕はこっそり彼女とメタモンを引きあわせることにした。
メタモンは大変に優秀だった。僕が無意識のうちに「
じっとフラムちゃんの寝姿を見つめていたかと思えば、次の瞬間には、目を見張らんばかりの完成度で彼女の全てを再現してみせた。
精巧な人形などではない。
息をしている。心臓が動いている。生きている。殊フラムちゃんのことにかけては一切の妥協を許さない僕がすんなりと太鼓判を押す、遺伝子レベルでコピーされた「もう一匹のフラムちゃん」。
心置きなく虐げることができる、最高の遊び相手。
「歓迎するよ、メタモン。
君と出会えて、こんなに喜ばしいことはない」
僕はフラムちゃんに変身したメタモンをうっとりしたまま抱き上げて、防音仕様の地下室へおりていく。
「一番最初だもんね。記念すべき第一回目…。迷うなあ…。どうやって一緒に遊ぼうか」
慣れない僕にもできるだろうか。
思い描いていたことを、上手に形にできるだろうか。
気忙しく、カメラの位置やバッテリーを確認する。そわそわと落ち着きがなくなる。胸の高鳴りが治まらず、たとえば渡されたプレゼントの箱を開ける前の、膨らむばかりの期待に酔いしれる…あの感覚と酷似していて…嗚呼!嗚呼、こんなにも心が躍っている!まるで子どもの頃に戻ったみたいじゃないか!
作業台に並べられた楽しい道具たち。この日を夢見て少しずつ集めていたもの――ゴルフクラブや警棒をはじめとする鈍器、わざと切れ味を悪くした刃物類、針金や、ケトルの中で煮えたぎっている熱湯、洗剤液で満たされたプール、ガスバーナー…それら一つ一つが今から自分に試されていくのだと、フラムちゃん…もとい、メタモンは知らないままで、ニコニコと僕の次なる所作を待っている。