俺たちの冒険はこれからだ!ってやつ。
『次はどこに行くんだ』
「そうですねー…今まで忙しかったし、のんびりしたところでバカンスを楽しむのもありですよねえ…」
タブレット端末で旅客船のページ眺めていると、ルチャさんが覗き込んでくる。
「やりたいことリスト」の中に「旅行で他地方制覇」とあるので、手始めに温暖な土地にでも行くかなあと思っていたところ……なんだけど。
「ていうか、本当に一緒についてくる気なんですか?別にいいんですよ、野生に戻ってくれても」
そう投げかけると、ぽすんと姫が膝の上に乗ってきた。
『水臭いことを言うな、あるじ殿。旅は道連れというだろう?』
あらまあ、姫ったら。可愛い笑顔を振りまいて嬉しいこと言ってくれちゃって。
この瞬間から、僕ァ彼女と一緒に南国のビーチで追いかけっこしてみせるんだ…と、心に決める。
『おまえと一緒にいたら退屈せずに済むからな』
姫君の発言に同意しつつルチャさんも明るく笑いかけてくれるし、…はー…、トレーナー冥利に尽きるわ。このふたりが傍にいてくれたら薔薇色ハッピーライフ…、……、…え?あとひとり?いたっけ?
だってねえ…、コウガくんにいたっては『てめえなんざ知ったことか』って、鼻であしらうんですよ?どう思います?次いで『拙者はルチャブルについていくだけでござる』と、…まあ、いずれにせよブレのない回答を吐くわけで。や、分かってんの。大丈夫。こいつに可愛げとか皆無だし。
『ただ、…獣とはいつの世も金食いだからな。金銭的な負担をかけてしまう件は申し訳なく思う』
養われる側としての謙虚さを持ち合わせ、細かに配慮できる姫君ゆえの着眼点だった。もう、そんなこと気にしなくたっていいのに。気持ちは受け取っておくけど、僕にだってちゃんと甲斐性はあるんですからね!
目を伏せる彼女の憂い顔を晴らさなければと、僕は胸を張って「ご安心ください」と言うつもりだった。なぜかコウガくんの方が『こいつの預金残高には余裕があるから大丈夫だ』と先んじたんだけどね。解せぬ。
はいィ??? 何で知ってんの???
奴はこちらの表情を見て嘲笑し、『ネットで確認してるときのおまえが無防備なだけだ』なんて平然と言い放った。背後からオンラインバンキングの取引を盗み見てたわけですか。最低だ。挙句、追加された台詞が『頼むぞATM』。ホントさァこのクソ蛙。そういうとこやぞ。
『さっきから鬱陶しいんだよ、前振りが。御託はいいからさっさと全員分の乗船券を買え』
「へぇー…それがパトロンに物を頼むときの態度なんですか。上等上等。おまえだけ貨物扱いにして別便で送ってやんよ。ぜってールチャさんと一緒にしてやんねー、泣き濡れて指くわえてろボケが」
売り言葉に買い言葉、口汚い応酬。手加減しねーぞコラ。もう心置きなく言葉で殴り合えるんだぜ、こちとら。
…ッたく、いよいよ僕も焼きが回ったかなあ。
罵りあいながら笑ってしまうだなんて正気の沙汰じゃなかろうに、ざっかけない遣り取りを楽しんでしまっている。
万年反抗期のコウガくん。彼をなだめるルチャさん。抜かりない総括とフォローを行うお姫さま。へらりと間隙を縫っていく僕。
変わらない光景。変わらない日常。
何も特別なことはない、ありふれたしあわせのかたち。
「君」を差し置いて僕だけが幸せを感じてしまってごめん―――みたいなことは、適当じゃないんだろうな。それはあまりに独り善がりで、ともすれば洒落臭い発想になりさがる。
僕は「君」だ。だからたぶん、…これからも「君」を幸せにするためには、僕が幸せでないといけないんじゃないかって、そう思うんだ。自惚れでも何でもなくて、僕の幸せを一番に願ってくれていた「君」だからこそ、僕はその想いに応えたい。
さて…、だったら、空席照会でもかけるとしますか。
気分がいいからチケットを大盤振る舞いしてあげますよ。別にコウガくんが言ったからじゃないんだからね。勘違いしないでよね。
出発地。到着地。乗船日。宿泊等級。バイク搬送――最後に「利用者数」を。
「これで、決まり!」
『大人1』『ポケモン3』を入力し、検索ボタンを指先で弾いていく。