ねェ 振り向いて こっち向いて
さみしい さみしい
連れてきた子は、みんな同じような反応をする。
くすんくすんとすすり泣くばかり。
なんでなのかなあ?
痛い思いをさせないように優しくかかえあげてきたつもりなのに。
ただ、じっと見つめてるだけなのに。
大事に育てられている証が、あっちにも、こっちにも。
頭のてっぺんから尻尾の先にいたるまで、ふわふわと柔らかく整えられた毛並み。毎日欠かさずブラッシングをされているんだろうなあ。清潔にしてもらってるんだね。おいしいエサだって貰えるんでしょう?
はちきれんばかりに、飼い主からの愛情が詰め込まれた存在。
そうか。
だから泣くんだね。
ボクに怯えて泣くんじゃないんだね。もう飼い主と会えなくなるのがさみしくて泣くんだね。
だから、キミの涙は今この瞬間も美しい。
まるでアローラに広がる
ヒトとキミとの間にある麗しい絆。
キミを選んだボクに狂いはなかった。今回も上玉だ。キミは、とても綺麗。キミが飼い主を想うたびに輝きを増すものが、キミの、もっともっと奥にあって、ボクはその光に魅せられて、欲しくて欲しくてたまらなくて、だから、キミを捕まえたんだ。
星のかけらをまぶしたみたいな、ぴかぴかとまたたくキミの魂。
魂が発する
いいなあ。
いいなあ。
ボクとキミとでは何が違うんだろう。
どうしてキミは愛されてるんだろう。
どうしてボクは捨てられたんだろう。
『 帰りたい 』
キミが呟く。
連れてきた子は、みんな同じような要求をする。
ぽつりぽつりと泣き言を落とすばかり。
『…考えてあげないこともないけど』
なんて言えば、どんな子でもすぐに、縋るような目をしてボクを見上げてくる。経験で分かってることだけど、さみしい。
誰もボクと一緒にいようとはしてくれない。
だから、ボクはもうすぐ、キミをお腹に入れることになるんだ。
『キミが、ボクを満足させられる何かを差し出せたならね』
そう付け加えると、途端に、おろおろする。何も珍しくはない。これも、いつものこと。
いたいけで、愛らしくて、愚かな、ボクのターゲット。
生きて帰りたいのだろうし、そうなると、自分の命以外で何を渡せばいいのか、咄嗟には思いつかない子がほとんどだ。これが人間だったなら、金銭をはじめ色々な選択肢があるんだろうけれど、勿論、ボクはそんなものに用はない。
『何もないよねえ?
あるはずがないんだ。だって、ボクがもらって満足するものなんてたった一つだけなんだもの』
ボクはキミの魂が欲しい。
キミが怖気づいて一歩後ずさったから、ボクは埋め合わせるようにして一歩近づいていく。
ダメだよ。離れちゃ。
獲物の抵抗を、ボクは許さない。
『知ってる?
むかーしむかしのお話。アローラから遠く離れた王国に、血の伯爵夫人と呼ばれた人間がいたんだよ』
名門貴族の生まれで、教養に富んでいたという彼女。だけど、聡明な淑女というだけでは、恐ろしげな異名がつくはずもない。彼女が戦慄の逸話と共に人々の記憶に残ったのは、自身の美貌を保つために異常なまでの執着を見せ始めたことがきっかけだという───
『そのエピソードを知ったのは、低俗なテレビ番組を観たからなんだ。ちゃちな怪談にふれて出演者が大袈裟なリアクションをとる、くだらないものだったよ。でも、紹介された話自体は妙に印象深くてさ。それで、覚えてるんだ。
彼女はね、あるとき、侍女のしでかした小さなミスを咎めて折檻したんだ。侍女は出血してしまうんだけど、その際に、飛び散った血液が伯爵夫人の手の甲にかかった。当然、拭き取るだろう?すると、血を拭き取った後の肌が、とても美しくなったように思えたんだって。
それを目の当たりにした彼女はこう考えた。
若々しい処女の血があれば、自分は美しくいられる───…』
己の末路が分かってしまったのか、被食者はわなわなと震えだす。
もう言葉を発することもない。呼吸困難に陥っているようで、泣き濡れてぐちゃぐちゃになった顔を更に歪めながら、口からひゅうひゅうと掠れた音を吐き出している。
『…───突飛な考えだ。でも、ボクはその飛躍の仕方が嫌いじゃないよ。
彼女が若い娘を手当たり次第にさらって、生き血を搾り取って、その血を溜めた浴槽に身を浸すことを習慣化したのだって、彼女の真剣さが伝わってきてむしろ好ましいくらいさ』
嗚呼、勘違いしないで。
彼女が乙女たちに施した残虐行為をキミに課そうというつもりじゃないんだ。
あんまり酷いことをすると、せっかくの魂も曇ってしまうから。
大丈夫。
大丈夫だよ、一瞬で済ませてあげる。
『ボクはキミみたいに綺麗になりたい。
綺麗になりたいから、綺麗なものをいっぱいいっぱい摂取することにしてるんだ』
キミの魂を素晴らしい宝石へと研磨した深い愛に祝福を。
ボクは高らかに讃歌しよう。
『 E lei no au i ko aloha……あなたの愛を花環のようにこの身にまといましょう』
キミの魂も鮮やかな一輪の花。
ボクが今までにたくさんの魂を繋ぎ合わせて作ってきた
うふふふ、ふ。
それじゃあ、心を込めて───いただきます。