内緒の我がテリトリーにて、自分以外の存在を許す。
単なる生捕りじゃァないさ。言わば、ルームシェア!
くつくつと笑い、ジュナイパーはひとり満悦である。
同居者との相性が重要になってくる行為だが、今回引いたのは当たりくじだ。手がかからず従順、大いに結構。ルチャブルは天秤の交渉を忘れてしまっているし(もっとも、これ以上交渉に適した材料なんて、もう残っていないだろうけれど)、目立って反抗的な態度も見せない。何か不始末をしでかせば、自身が罰せられるのみならず、代償として仲間に報復の矛先が向く可能性をきちんと想定しているらしい。これだから、優等生は。心根の優しい者ほど御しやすくて楽だ。
ジュナイパーは、くるりと住処を見渡す。
どこまでも果てなく続く骨の畑が視界を占める。
獲物として連れてこられた者に、一目で己の末路を理解させるという点では、これ以上わかりやすい光景もないだろう。誰しもが、己は食われるのだと、いずれ己が骨もこの畑の一部になっていくのだと身震いするはずだ。
しかし、ジュナイパーはルチャブルに手を出さない。
否、出せない、と言った方が厳密か。
魂がダメなら肉だけでも、というわけにもいかなかった。魂は
肉を先に
だから魂も肉も、同時に、丸ごと食らう。
この作法をずっと貫いてきた。
だが、今回のルチャブルはどうしようもない例外だ。
だから合わせて、自分も例外的な措置をとってみることにした。
観賞する、という試み。
結果として、これは非常に具合がよかったように感じる。
眺めるだけで本当に心は慰められるのだろうか。美しいものに接することで浄化される気分に浸れるのだろうか。最初こそ懐疑的だったものの、ルチャブル(の魂)が己の生活空間に常駐している状況は、思っていた以上に心地よかった。
気に入ったものがなくならずに傍に在る。寝ても覚めても美しいものが手元に在る。それだけで満足感が得られたのは嬉しい誤算だった。それなりに欲深い性格であるとの自覚があった分、尚のこと。今までの子たちも、連れてきてすぐに食べてしまったのはもったいなかったかも、と、(驚くべきことに、この自分が)多少なり反省したくらいだ。
いつもと違うことをしたからこその発見。実に新鮮な気分だった。
しかし、その状況を───当然といえば当然なのだが───ルチャブルは不審に思っているらしかった。強気にも『殺さないのか』『何のために連れてきたんだ』と問うてくる始末。もっともな疑問ではあるのだが、果たして『愛玩だよ』という答えに納得してもらえるかどうか。経験則で知っている。なぜだか、ジュナイパーの考えは他者と分かち合えることの方が稀なのだった。さして難解なことを言っているつもりもないのに、ジュナイパーの意見や発言を聞く者はいつも、しまいにはまるで気味の悪い生き物を見るような目つきになる。
どうしてなのかなあ。
ジュナイパーは、ずっと、首をかしげて生きてきた。
綺麗だね。キミのことが好きだよ。キミを特別な存在として選んであげたよ。ボクと一つになろうよ。って、伝えてるつもりなのに。
誰も喜ばないのはなぜなんだろう。
++++++++++
ジュナイパーと名乗るポケモンと過ごし始めて一体どれほどの時間が流れたのだろう。ほんの数時間?いや、もう何週間と経っている気もする。体内時計が全く機能しておらず、体感の振れ幅が極端だ。時を刻むための重要な部品が少しずつ抜き取られて使い物にならなくなっていく、そんな感じがしている。
自分がこの場にいる意味を何度となく尋ねてみても、明確な回答は得られなかった。返事はいつも具体性に欠けている。ジュナイパーから投げかけられる抽象的な言葉の端々を苦心して繋ぎ合わせるより他になく、…どうやら、ジュナイパーの基準に照らし合わせると自分は及第点、御眼鏡にかなった…と、いうことらしい。で、例外的に生かされている現状だ。気に入ったんだと言われようが欠片も喜ばしくないけれど。
殺される予定はなくとも、「今のところ」というだけの話だろうし、さて、いつ気まぐれを起こされるやら。それに、そこかしこに骨が散らばる猟奇的な場所に連れてこられ、濃厚な死の匂いが漂うにもかかわらず、平気な顔で居座れるほど図太くはない。この空間で暮らし続けることを強いられたら、そう遠くない将来、精神が音をあげて病むだろうという確かな予感がある。
キミの魂は美しい。ボクの傍にいて。
誘拐犯の隠れ家に到着した後、両眼に飛び込んできた骨の山に放心するルチャブルへ告げられた言葉だ。寄越された文言の一字一句、噛み砕くことも、飲み込むこともできやしなかった。このフクロウ、なんというタイミングで、なんという台詞をぶつけてくるのだろう。
ある程度の覚悟はあった。あった、つもりだった。ろくな目には遭うまいと身構えてもいたのだ、これでも。しかし、予想はまるで役に立たず、はるかに突き抜けたものが初っ端から襲いかかってくる。
この場で食い散らかされてきた者たちの怨嗟の声が聞こえてきそうな白骨の空間で、プロポーズまがいのことを言われるなんて。
シュールを通り越し、一周まわって最早恐怖でしかなかった。無論、心は揺れ動かない。ルチャブルにとって、ジュナイパーは「見知らぬ相手」なのだ。脈絡なく求められても感激できようはずがなく、面食らうのが普通の反応だろう。己で確認しようのない「魂」を引き合いに出されてもピンとこないし、「美しい」という形容詞だって上滑りだ。相手からの唐突な(そして意味不明の)賛辞で舞い上がれるほどおめでたくはない。加えて、ゲッコウガを痛めつけている現場を目撃しているし、まず第一印象は最悪の部類なのだが、この怪鳥はそうしたことには思い至らないのだろうか。
傍にいて───乞われるまでもなく、ルチャブルはそうせざるをえないのだ。忌々しい。縄や鎖には繋がれておらず、そうした拘束具がないのだから、当然、「逃亡」が頭をよぎった。しかし、逃げたら外界にいる
対するジュナイパーも、キミはいてくれるだけでいい、と、にこやかに語る。が、この要求が全く胸に響かないのは、双方性がないためなのだろう。異空間に連れ込まれてから向こう、実質、ルチャブルは単なる飾りだった。ただ相手の話を一方的に聞かされるだけだ。こちらは相槌に終始するのみで、意見が求められることはない。別に彼のために何かしてやりたいわけではないながら、しかし、この場にいる必要性や有用感を自分で感じられないとはこれほど虚しくつまらないことなのかと思い知らされた。
彼が口を開くとき、話題として頻出するのは、やはり「魂」の話だ。
ルチャブルにとって馴染みのない、非現実的な「魂」。ジュナイパーが今までに食べてきた「魂」。その、輝き、香り、色、形、味、温度、そして、舌触り───……印象深かったものでね、いつまでたっても覚えてるんだ。あれはまさしく、清泉の透明度。アメジストみたいな気高い光。感嘆のため息しか出てこない風味。お気に入りの音楽を聞くときの心地。哀愁漂うセピア色。はしゃぎまわる子猫。しゅわりと儚い氷菓子。遊園地で食べるポップコーン。降りそそぐ夏の木漏れ日。匠による一流の技がつぎ込まれているとしか思えない造形。口の中で弾ける幸福。花畑を駆け抜ける一陣の春風。星屑をまぶしたきらめき。可憐な花の茎みたいに華奢。ぽってりと濃厚なクリーム。気分屋な妖精。雪解けの水。ふと懐かしい気持ちにさせる。いつまでも深く吸い込んで堪能したい匂い。例えるなら雨上がりの森の中。一期一会の切なさ。午後の窓辺にあらわれる陽だまり。さながら初恋のときめき───……手元にある本を朗読するように、無制限に湧き出てくる数々の詩的な表現。しかしながら、それらは全て、食い殺してきた者たちに対する感想である。要するに、どんなに美味しかったのかを延々と聞かされるのだ。何の拷問かと思う。
いくら言葉で装飾を施そうとも、実態の惨たらしさは隠せない。むしろ、残酷な内容を美しく紡いで吟遊詩人のように詠うことの方が相手の狂気を強調し、よほどルチャブルをゾッとさせる。
ところが、当のジュナイパーは、怖がらせてやろう嫌がらせをしてやろうというつもりではないらしい。つまり、思考が理解しがたいのだが、どうもこのジュナイパーは、ルチャブルが自分の言うことに興味を持っていると、本気で思っているようなのである。それが証拠に、聞いてもらえることが心底嬉しいというように、毎度毎度うきうきと話しかけてくる。
本当に、こいつは、自分中心の目線で物を言うだけなんだな。
ルチャブルは、ずっと、文字通りに閉口している。決して聞き手の立場を思い遣ったりはしないジュナイパーの独りよがりで高圧的な態度に辟易しながらも、こうした手合いと接するのは初めてではないなと既知の感覚を持った。はて、いったいどこでと記憶をたぐるうちに、
───野生の理は弱肉強食だ。あらゆる場面で熾烈な競争が勃発する。身を守る術を知らないヒナ、あるいは体格の貧弱なポケモンは犠牲になりやすい。だが事実、食物連鎖の下位に位置する者として生をうけてしまった以上は立場を受容するしかない。生まれを選べないのは誰だって同じだし、生き抜くために尽力せねばならないのもまた皆の共通点だ。
けれど、そのあたりを履き違えて、小柄なポケモンたちを相手に横柄な態度をとり、脅して食糧を強奪するなど目に余る行為を繰り返す輩がいた。
ルチャブルは、小さなものたちが理不尽に虐げられている現場を目撃した場合、積極的に助けるよう心掛けていた。いくら厳しい自然界といえども、そのくらいの情けは普遍のものとしてポケモン間でも根付いている。
ただし前提として、ルチャブル自身は、狩る者だ。餌として標的になることもないピラミッド上位種であり、日頃庇い立てする小さなものたちを食うことだって、勿論、ある。彼らを食う傍らで彼らを憐れみもする、それはあくまでも自分が強者の側であるという余裕からくる両立なのかもしれない。偽善と言われたら、まあ、その通りなのだろう。だが「生きるために必要な分を必要なだけ」という矜持のもとで暮らしてきたつもりであるし、弱肉強食の基本原則からも逸脱した無益な殺生や不要な虐待を、ルチャブルは殊更に唾棄すべきものだと思っていた。
実際、捕食者であるルチャブルに一時的な助けを乞うポケモン───つまりは被食者たち───は多かった。周知であったのだ。捕食者とはいえ空腹時でなければ近付いても大丈夫。むやみに危害を加えてくるような乱暴な性格でもない。相手が何者であろうと寄せられた信頼には誠実に応えてくれる鳥なのだ、と。
よって、問題が生じれば仲裁に入ることが度々あったルチャブルなのだが、「度々」と表現してもよいほどにトラブルが頻発したのは、ルチャブルからいくら懲らしめられようと全く反省せずに厄介事を引き起こすふたり組───リングマとローブシンがいたからだ。森を跳梁跋扈する悪たれの中でも頭ひとつ抜けたいかつい体格と腕っぷしゆえ、かなり悪目立ちしていた。彼らとの衝突回数はもはや数えきれず、それなりに忍耐力のあるルチャブルでさえ「またおまえらか」「いい加減にしろ」と飽きがくるほど学習のない奴らだった。
肩を怒らせて徘徊し、周囲につまらぬいちゃもんをつけ、反抗すれば力にものをいわせて黙らせる。口を開けば真偽不明の武勇伝ばかり。内容も、そのほとんどが自分たちの悪事自慢だ。彼らから喧嘩をふっかけられた場合、よほど上手く立ち回って逃げないと痛めつけられること必至であったため、強力な技を習得していない進化前の非力なポケモンや争いを好まない穏和なポケモンなどは、彼らに目をつけられることを常に恐れていた。
そんな状況を、ルチャブルは不快に思っていたのだった。
日々の鍛練を欠かさないルチャブルには確かな実力が備わっており、相応の自信もあった。不良共にも臆せず立ち向かえたし、何度も退けては小さなポケモンたちを守ってきた。対するリングマとローブシンからは非常に煙たがられていたし、彼らにしてみれば、自分たちの半分にも満たない背丈のルチャブルに対戦で勝てたためしがない現実や、ふたりがかりでも思い通りに捩じ伏せることができないその存在に苛立ちがつのるのは必然だったといえる。
あるとき、彼らの蓄積された鬱憤が爆ぜ、鉄砲水のように堰をきったことがあった。「でかい図体でこれ見よがしに恫喝してみせたって、どうせ小鳥一羽に敵わないくせに」と、森全体に浸透し、陰からくすくすと忍び笑いが聞こえ始めてきていたことも火に油を注いでいた。そんな時期に、例によってルチャブルがゴロツキふたりの悪行を咎めたものだから、いつにもまして口汚く───思い返すだけで当時の憤怒が風化もせずに甦ってくるほど───罵られたのである。
挙げ句の果てに『雑魚からよいしょされて手軽に酔いたいだけ』と心ない言葉がくれば、さすがのルチャブルでも、たちどころに頭に血がのぼる。普段であれば与えるダメージの大きさから使うことのなかった格闘技で応戦しそうになった。偶然に通りかかったカイリキーが場を収めてくれなければ、武道に携わっている者としてあるまじき
カイリキーの対処は実にスマートだった。被害者である小さなポケモンたちにこの場を離れるよう伝えて避難させた後、隆々とした四本腕を器用に使いながらいがみ合うルチャブルたちの間に割って入り、『はいはい。そこまで。落ち着けよ御三方』と双方をなだめにかかった。
『まあ、なんだ。頭冷やそう。な?一緒に特訓でもするか?』
ふたり組は即座に、冗談だろと鼻で嗤った。だが、それ以上は突っかかってこなかった。カイリキーから気さくに笑いかけられたことで、毒気が抜けたらしい。やってられるかと負け惜しみのようなことを言い捨てつつも、感情的に激昂していた割には思いのほかすんなりと引き下がり、去っていった。
やっぱダメだったか。そう言って、カイリキーは苦笑する。『これを機に腹を割って話せたらよかったんだけどな』と、少し残念そうだ。緊迫した場を和ませるための戯れではなく、本気で誘う気でいたようだ。その穏やかな様子に、ルチャブルは平常心を取り戻す。
ルチャブルにはカイリキーの提案を断る理由がなかったし、何なら手合わせをしようと申し出た。結果、望むところだと快諾されたので、互いが存分に動けるよう、拓けた場所へ向かって歩き出す。
『あいつら、どうして悔い改めたりしないんだろうな』
連れだって進む道中、つい、愚痴っぽくなる。おまえでも肩を落とすことがあるのかと慰めるカイリキーは、ルチャブルがこぼした何気ない内容を、丁寧に拾いあげてくれた。
『過去と相手は変えられない、変えられるのはこれからの未来と自分だけ…なんてな。受け売りだ』
口調は軽やかながら、しかし暗に「期待するな」と言われた気がした。
『所詮、自分の身の振り方は自分で決めるしかないのさ』
カイリキーは静かな目でルチャブルを見てくる。ルチャブルが何度となく抗議をしてみても、結局リングマともローブシンとも折り合いがつかなかった日々を知っている表情だった。
『あいつらだって、本当は心のどこかで分かってるんじゃないのか。焦りを感じてたりもする…かもな。だがな、大体、悩むだけで終わるんだ。いるんだよ。現状を解決する気も勇気もない、ただ誰かに構ってほしくて延々と問題を起こし続けるっていう、どうしようもない連中が』
なかなか手厳しい意見だったので意外に思い、カイリキーの方を振り仰ぐと、彼はそのまま話を続けた。
『努力はしないくせに承認欲求と自己顕示欲が強いもんだから、周りにやたらと力を見せつけようとするんだよ。逆に言えば、そうでもしないと自尊心が保てないのさ』
認められたい。自分の価値を実感したい。だから発信する。己のことだけを、ただ、ひたすらに。
てっきり、進化する奴らは、進化を果たしたことそれ自体を己の自信へと換えているものだとばかり。ルチャブルは先入観がほどけていく感覚を味わった。
月日が経てば、待っていれば、いずれ進化を果たす…という単純なものではないことくらい、進化をしない種族であるルチャブルも知っている。ポケモンにとっての進化とは、心と体が飛躍的な成長を遂げたときに生じる神秘の現象だ。それを思えば、リングマにせよローブシンにせよ立派に進化を重ねているのだから、少なくとも、かつてはまっとうな暮らしを営んでいたはずなのだ。どこかで挫けてしまったのだろうか。ならば、至極勿体ない。彼らの恵体には有り余るほどの伸び代が秘められているのだし、退廃的で荒れた生活から脱すれば、洗練されて優れた武芸家となれるだろう。進化によって強化された心身あってこそ打ち込める鍛練もあるのだから。進化して終わりなのではなく、進化したからようやく始まる物事だって多いのだ。進化前ではままならなかった、より高度な方法でストイックに鍛えることが可能となったカイリキーのように。それに、リングマにいたっては、まだ進化の余地があるとの噂を耳にした。それが真実ならば、高みを目指すに十分な理由になる。威張りちらしている場合ではなかろうに。
『きっと、自分を取り巻く今の環境に不満なんだろう。こんなはずじゃない、正当に評価されてないって、周りの所為にしてな。だからといって、己のことを暴力以外で語れないのはお粗末だ』
奴らが根っから改心したそのときは、拳で語り合ってみたいものだな、と、カイリキーはサイドチェストのポーズを決める。むん!と力めば、見事に盛り上がって抜群の仕上がりを主張する三角筋。上腕二頭筋。大胸筋。ぐぐっとダメ押しの大腿四頭筋。均整のとれた肉体から放たれる圧倒的男性美を前に惚れ惚れとしつつ、ルチャブルも『拳で語れ』という彼の持論に同意した。
『筋肉は全てを解決する、だな』
『違いない』
相互に見合せて、笑った。同時に、ルチャブルにとっては、自分の行動を省みるきっかけとなる遣り取りだった。
あいつらの行為そのものを頭ごなしに叱りつけるだけでなく、どうしてそんなことをするのか、もっと深いところに触れて話を聞いてやれたらよかった。素直に吐露するとも思えないが、それでも、こちらの接し方を変えていれば違う反応があったのかもしれない───
…───そうか。俺には、似ても似つかないはずのあいつらとジュナイパーが、重なって見えてるのか。
この尊大なフクロウも、その実、自分に自信が持てなくて偉そうに振る舞っているのだろうか。虚栄で足元を支えているのだろうか。
ふとした回想から導かれた結論によって、ルチャブルは思わず問いかけていた。
おまえが魂を食べるのはなぜだ、と。
『なぜ?…なぜ、だって?
そんなの、決まりきってることじゃないか』
ジュナイパーは微笑む。言い方や笑い方は柔らかいが、どうにも、「なんという愚問であることか」と嘲っているように見えて仕方なかった。
『食べるってことは、同化するってこと。取り込んで己の血肉にしていくんだから。
ボクは、綺麗なものを吸収して、誰よりも綺麗な存在でありたいんだよ』
『……、…綺麗になりたくて、魂を狩ってきたのか。長い年月をかけてまで』
今までに聞かされたジュナイパーの自分語りにはかなりの過去を遡った内容も含まれ、察するに、彼は相当な老齢だ。しかしながら、このジュナイパーには老いさらばえている部分など少しも見当たらない。全身を覆う羽には今まさに生えかわったかのような光沢があり、荒れて毛羽立つこともなく、特徴的な頭部の木葉にしても青々としている。
容姿に関しては今のままでも秀でていると思うのだが、彼には物足りないのだろうか。
『おまえの言う「綺麗」って、何なんだ。どうして綺麗になりたいんだ』
ずっとジュナイパーに苛立っていた理由が、ようやく、自分でもはっきりと理解できた。
いつ満たされるかもわからない自己満足のために命を食い物にしているからだ。生存のための、必要最低限の狩りではないからだ。
手前勝手なエゴのもとで行われる無益な殺生や不要な虐待。それらは、ルチャブルが最も忌み嫌うもの。
絶えず、魂の摂取という
『綺麗に
だが、綺麗になることを目指してどれだけの時間を費やした?どれほどの
++++++++++
ジュナイパーは、くるりと住処を見渡す。
どこまでも果てなく続く骨の畑が視界を占める。
骨、骨、骨、骨。麗しの白。
自分はこれだけ美しいものを摂取してきたのだと思えて、充足感を覚えていた。こんなにも狩ってきたんだ。いっぱい、いっぱい、たくさん、たくさん、綺麗なものを取り込んできたんだ。
みすぼらしい墨色の小鳥は、いやに澄んだ目をして、彼自身の清らかな魂の輝きを両目に宿して、出し抜けに問うてくる。
不快な気分だ。胸の辺りがざわざわする。
こんなにも美しい魂を持った小鳥から、だからこそ気に入って傍に置こうと決めた存在から、目をそらしてしまいたくなる。
ボクは美しい、はずだ。
ボクは美しくなった、はずだ。
どうして今になって動機を訊かれるんだ。誰もそんなことを尋ねてきた者はいなかったのに。
なぜ?なぜかって?それは、もちろん、……。
───あれ?
ボクは。
…なんで綺麗になりたいんだっけ?