今作の決着のつけ方には賛否があろうかと思いますので、まず、読む前に自衛なさってください。
①ヴィラン役は極刑。
②主要キャラクターが刑の執行に携わる。
つまり「残酷描写に耐えられない」あるいは「推しポケが手を汚すなんて絶対に無理」という御方は、読まない方がよろしいかと思われます。自己判断と自己責任を以て閲覧しましょう。
『
魔王とはいつの世も
まさか魔王に魔王ぶつけてくるたァ思うまいよ。ねえ?
それが証拠に、カーカナは突発的な出来事に何の対処もできておらず、まともな攻撃の一つも繰り出してはこない。目玉をぽろりと落っことすんじゃないかってくらいに見開いてこちらを凝視しているが、それは敵を分析しようという知的な動機による仕草ではなく、ただ、緊張と怯えから目を離せずにいるだけだ。精神的なゆとりは皆無ってことでしょうか、よしよし。追い詰められた経験のない王者こそかえって窮地で脆いと聞くけど、本当だね。
というかさ、そもそも、ドッペルゲンガーが縄張り内に土足で無断侵入してきた挙げ句に好き勝手まくしたててる明らかやべー状況で、しかも「退治」なんてワードが出てきてるのに、すぐさま「にげる」のコマンドを選べない時点で終わってるんだわ。
いや、バカじゃないのは分かってんのよ。今だって、何かしら考えてる、考えまくってるんだと思う。いっそ過剰なほどに。只今現在、僕 = 彼だから思考の手順が手に取るように分かる。
でも、対策立てようったって無駄弾なわけ。
浮かんだ選択肢のどれを取ったらいいのか、それを決定する思考の瞬発力も判断力も鈍ってんならお話にならないんだから。
不測の事態を咄嗟にはさばけない、実にジュナイパーらしい生態を遺憾なく発揮している魔王様である。もの見事に泥沼にはまってくれた所為で、どんな一手を講じればいいのかまとまらないらしく、フリーズ状態。作業を並走させすぎて機能停止に陥ったコンピューターみたいだ。
いいよ、いい感じだよカーカナ!
気分はカメラマン。被写体が、こちらの理想とするポーズや表情をきちっと作ってくれてるみたいに、物事が思い通りに進んでいる。
この場における僕の役割は、実は三つしかない。
一つ、不意討ちで奴に揺さぶりをかけ、決して冷静にさせないこと。二つ、カーカナの身柄を錯乱状態のままで
こちらの思惑なんて知らなくてもいいんだよ、うん。
魔王様は、なーんにも知らなくていい。些事だもの。
たとえば、度重なるルチャロスで腑抜けのポンコツと化したコウガくんに『このうつけ!しゃきっとせんか!!』なんて「しゃーんなろー!!」よろしくばちこーん!と姫君が雷パンチ炸裂させてビリビリしびれる喝を入れてることだとか。知られざる秘密基地の座標を教えてくれた
『あなたからしてみれば、訳が分からないでしょうね。それでいい。混乱にからめとられたまま、唐突に襲われる恐怖をその身に刻んで果てなさい。今までの犠牲者たちと同じように』
派手に登場してみせたものの、なんと主役級の僕は、あくまで陽動と撹乱の係。
クライマックスでおいしいところをかっさらう、言わば、
さあ。準備は万端。カーカナというオワコンをサ終しようではありませんか。
『いっときの戯れだったにせよ、必殺の地雷を踏んだわけですから不可避の末路です。どうぞ爆散を』
++++++++++
奴がひとたび翼を振ると、異国の御伽噺に出てくる芭蕉扇さながらに「暴風」が荒れ狂う。凄まじい風圧を前にして、開眼は困難だ。点でもなく線でもない、こうした広域の「面」攻撃は避けがたく、高威力の飛行技をまともにくらってしまった。
吹きすさぶ猛風にあえなくもみくちゃにされ、それなりの巨躯を自負していた全身が呆気なく投げ出されていく。まるで粗雑に棄てられゆく人形みたいな有り様だ。
ぐわんぐわんと、風にあおられながら脳みそまで掻き回される所為で眩暈がする。視界がぼんやりと霞みはじめた頃になってようやく、働きを鈍らせている頭が、辛うじてある事実に思い至った。そうだ。そうだった。この技の追加効果は「混乱」。ただでさえ正常な判断が下せずに形勢がぐらついているのに、ここにきてまだボクを壊すつもりなのか。
こんなはずでは。
さっきから、このフレーズだけが胸中を巡る。
思考回路はぐちゃぐちゃだ。何の指示も行き渡らず、だから、身体も上手く動かせない。
───今までに、捕獲だ駆除だと追いかけ回された経験が何度かある。でも、残念ながらボク以外はおよそ愚かな者ばかりで、そんな輩が何を思いどう行動するのか読み解くことは容易く、だから、「想定外」のことに出くわす機会なんてほとんどなかった。過去に手強い相手がいなかったといえば嘘になるけれど、少しでも面倒に感じたら、霊界の住処に引っ込んでしまえば無事は確保できていた。誰も追跡できない場所だったのだから。
それなのに。
それなのに。
ダメだ。今はどう足掻こうとも混乱の収拾がつかない。
あいつだ。あいつが来てから、不吉が漂いだしたんだ。
正体不明、完全なる想定外、イレギュラーなあいつが。
もう一羽のボク?ルチャブルの奪還?ならば敵対者?退治?誰を?ボクがやられる?先攻するか?技はどうする?こいつのタイプは?本当にボクと同じ?何が効く?嗚呼面倒な。なぜこの場所がバレた?どこから割り出した?どうやって辿り着いた?……精神はおびただしい疑問符に埋め尽くされて、迂闊なことはすまいと慎重になったことがかえって裏目に出て、平常心を取り戻す糸口が掴めないままだ。
『…ッ、……ぅ"……』
イニシアチブなどというものは、とうに消え失せている。
嵐に弄ばれ、果てには、べしゃりとコンクリートの床に墜落した。
…コンクリート?
羽毛が感知する空気の違いで分かる。ここは外界だ。無理矢理つくりだした霊界の裂け目から、外界へと突き落とされたのだ。
『うおっ、マジでおいでなすったぜ』
知能を欠片も感じさせない、軽薄な物言いが癇に障る。
はっと顔を上げてみれば、倉庫らしき空間の棚という棚に、ぎっしりと、小判と猫目が不気味な光を帯びて瞬いていた。
にゃああぁ"、と、不穏な合唱が始まり、下品なヤジや口笛が飛び交う中で『姐御ォ、こいつ、ホントに、これから食っちまってもいいンすよねェ?』と意味不明の確認がまざった。
は?食う?
食われる?
…ボクが?
彼奴らに?
まるきり決定事項であるかのような言い様が、またもやこちらから沈着を取り上げる。
5W1Hで説明してくれ。
なぜボクの意思を抜きに話が進んでいく?なぜ与り知らぬところでボクの殺生与奪の権限が他者に渡っている?いつ、だれが、なんのために、こんなバカげた計画を発案したんだ?
しかも、『そうだ』とボクを獲物に認定し『切り分けてもらうからお行儀よく待っていろ』と返答する声があるではないか。
目を凝らすと、一匹のネズミが、段ボールの上から生意気にも見下ろしてくる。
正気か?
食物連鎖の最底辺にいる小娘のくせに、捕食者の頂点にいるこのボクの命を転がそうとしているだなんて。
何のジョークだ。
笑えないんだが。
『…心せよ。亡霊を装ひて戯れなば、亡霊となるべし…だな』
おまえは今から本物の亡霊になるんだよ。
ネズミが、静かに口を開く。なにがしか発言する度にヒゲの先から微かに放電しており、それを眺めることに併せて、こちらの力が抜けていく。ボクが退化していく。
「怪電波」だと気付いたときには、既に何もかもが手遅れだった。
『散々食べ散らかしてきたんだ、最期は食べられる側の痛みを知るといい』
『あらあらあら!そうと決まったらすぐにでも解体よね!』
これといった抑揚のない話し方をしたデデンネとは対照的に、きゃはは!と何ら空気を読まず頭の悪そうな笑いを披露したのはゲンガーだった。
『なんだかこの間みんなで観た映画みたいじゃない?ワクワクしちゃう!』
心底楽しげに、その赤い目を歪ませて嗤っている。
『ぶちん、ぶちん、って足の指を切るところから始まるのよね。タイトル、何だったかしら?』
『ホステルだよ』
ゲンガーを呆れたように見つめるミミッキュが、『スプラッタごり押しのやっつけ感も、調子こいてシリーズ化するなんてありがちな展開になったのも含めて、B級の典型例だったな』と、どうでもいいことを付け加える。否、どうでもいいこと、だったはずだが、次の瞬間には続けざまにとんでもない催促を言い放った。
『ま、なんだ。
これからB級の再現がなされようが何だろうが、とにかく「皆様お待ちかね」ってのは間違いねーな。ほれ、早いとこやっちまいなよ蛙の
映画で
『言われるまでもない』
声帯を震わせることで氷雪を吐き出しているのではないかと感じるほどの、極寒の声がした。直後、その声を追いかけるように、我が身が焼けつくような痛みに襲われ、堪らず絶叫する。
脚。
脚に、激痛が。逃げ、…あ、ぁあ"?立てない?…断たれた?腱を?本当に?一瞬の迷いもなく、こんなにもあっさりと、生き物に刃をいれることができる奴がいるのか?
ひた、ひた、と、わざと足音を響かせて近付いてくるのは、見覚えのある
『弱肉強食の世界はフェアじゃない、…奇しくもおまえが言ったことだったな』
手に握る水刀の切っ先から、血が滴っている。
『たとえこちらに影縫いの技が使えずとも、おまえの四肢の自由を奪う術など幾らでもある』
蛙は、刀をすらと肩に担ぎながらしゃがみこみ、目線をあわせてきた。
小鳥の敵討ちとばかりに、感情任せに突っ込んできたかつての浅慮なポケモンと同一だとはとても信じられない変貌ぶりに、唖然とする。
『こちらは依頼を受けた身だ。オーダーは「無限暗夜への
汚れ仕事などいつ以来だろうな。腕がなるでござるよ。
恐ろしいことに、その言葉には虚栄が含まれていない。起伏なく淡々と語り、ゆえに、こいつは殺しが身近にある奴なのだということが分かってしまう。こうした荒事に慣れているのだと。木の実をもぎとるみたいな自然さで、他者の命をもぎとることができるのだと。
殺意を突きつけられている現状において、誰からの依頼なのかを聞き出す余裕は身の内のどこにもなかった。
立て直さなくては。
立て直さなくては。
立て直すって、どうやるんだっけ?
時間の経過と共に知性が削られていく。
何も考えつかない。この状況を確実に打破する方法が見つからない。もはや思考を放棄して闇雲にでもなるより他にないか。どれほど不様だろうと見栄や体裁を気にかけてなどいられないし、ここで悪足掻きの一つや二つをかましてやろうか。そうだ、リーフストームは?視界を緑一色に塗り潰して、目眩ましにして。ひとまず周りのやつらを吹き飛ばして。それで。…それでどうするのかは分からないけれど。行き当たりばったりだけれど。目論見のない稚拙な攻撃でもしないよりはマシだと翼を広げかけた、が、狙いすましたかのようなタイミングで、さくり、と、切断音。
翼が軽くなる。
自分の一部なのだから見なくても分かる。鳥としての致命傷───風切羽をやられたのだから。
もう飛び立てない。どこにもいけない。
翼を用いた技をふるうことも不可能だ。
どうか殺してくださいと懇願を始めてからが本番だ、と、これから幕開けとなるのだろう惨劇に関して、蛙は脅し口調ではなくあくまで事務的に予告する。
おまえの過去を知らない。事情も知らない。そして、それらを汲んでやる義理もない。拙者の番を泣かせた落とし前をつけてもらおう。報いは受けさせる。きっちりとな。
『おまえ、楽に死ねると思うなよ』
冷たく光る瞳の色は、薄紅の
この棘こそがやがてボクの胸を貫通し、心臓の鼓動を止めるのだろうという確かな予感があった。