お待たせいたしましたァ、つって。
あとは、にっこり。スマイルゼロ円。このくらいの愛想はあってもいいと思うの。
相手から反応があったら報われた気がして嬉しいじゃん?実際、狂喜乱舞だったからね。
…耳を塞ぎたくなるような甲高い奇声とか、アンプが故障してるとしか思えないとち狂った声量あたりは、スルーしてあげよう。オーバーなテンションとリアクションはご愛敬ってことで。何にせよ、子どもらが目一杯にはしゃぐ姿はいつの世も可愛らしいものだ。
ただし、これほど元気でやんちゃ盛りのちびっこたちから寄ってたかられ、マラサダマラサダ言われ続けたら、…うん…、お疲れ様です、って感じ。いくらお孫さんとはいえど、それとこれとは別かな。オーロットのおばあちゃんが『これで安眠できる…』と噛みしめるように呟いて空を仰ぎ、疲れきった当事者の顔を隠そうともしないのだって、然もありなんといったところか。
で、対するコウガくんはというと、感情は死に絶えましたといわんばかりの無感動な線目面をさらしていた。この温度差よ。
喜びを分かち合うような馴れ合いはせず、運び手を全うした達成感すら反芻せず、『きっちり届けたぞ、出すもん出せや』とやくざなことを言って急かしている。なんてお行儀が悪いんでしょ、この反社野郎め。
…気持ちは分からんじゃないけどね。
まさかここにきて反故にされるってことはないだろうけれど、鉄は熱いうちに打っておいた方がいいのは確かだ。
というか、常識外れの依頼をこなして行動で示したんだし、時間も金銭も手間も労力もかけて入手条件クリアしたんだから、クエスト報酬はゲットできなきゃウソだよ。そうでしょ?
こうしてハッピーエンドのための欠片を一つずつ集め、僕らは、物語の最後のページをめくる。
───黄金様式。とあるアーティストの作風を指した言葉だ。一流の装飾芸術家であった彼は、絵の具で金色を表現するのみならず、本物の金箔をふんだんに用いた華やかな作品を次々と発表し、一世を風靡した。もし彼が存命であったとして、たとえば「眼」を手掛けたらどんなふうに表現しただろう。そんな疑問に対する答えが、瞼の下から現れたかのようだった。
だって、ほら。
ゆるりと開かれたルチャさんの双眸は、絢爛でありながらも温かみのある黄金色をしている。
糸車の針やら毒リンゴやらで眠りについてたお姫様たちの蘇生シーンみたい。立ち会えてよかったよ、ステキな
映画なら、ほどなく暗転してエンドロールに入る頃合いだろう。
僕は、基本、途中退席はしない主義。最後の最後にボーナスカットがあることを期待しているからだ。
CDの隠しトラックを聞くために じーっと待てるタイプだから、映画館でも辛抱強く座っていられる。流れてくるテーマソングで退屈を埋めつつ、延々続くおびただしいスタッフ名や協賛各社のロゴに耐えるのも慣れてるんだ。
見届けたい場面があるからその場に残る。そういうスタンス。…なんだけど、今回は妥協してあげるよ。
「ジョーイさん、呼んできますね」と一言を残し、部屋を出る。誰に促されるまでもなく、お姫さまも無言で僕の肩に乗ってきた。はい、さすがの一言。ばっちり心得ていらっしゃる。
室内からもナースコールできるけどさ、言わせんなって。そりゃあ、空気読みますよ。僕はスマートな三十路だからね。