『日頃の行動とか体型で変わるもんだよ。部分か全身か、部位によっても色んな違いが出るし』
換羽についてもう少し詳しく教えろとキリキザンが言うと、珍しく、ドンカラスは殊勝な態度を見せた。キリキザンの意図するところが、ルチャブルに関係があることを彼もまた承知しているがゆえである。
『飛ぶ能力を維持しながら少しずつ換羽する、…ルチャブルがこのタイプだ。飛翔と狩りが直結しているからこその換羽の仕方だな。渡りをする奴らなら、一時期は飛べなくなっても、風切り羽を一気に換羽してから旅立ったりするみたいだけど。
まあ、とにかく。何度も言ってるけど、換羽にはものすごく体力使うわけ。休息もばっちり、栄養状態も良好…って条件がつくなら、当然、換羽の完了も早まる。そういう意味では養生みたいなものさ。食べたいだけたらふく食べて、じっと動かずに、換羽促進だけに集中する。これが理想。
ただ、現状、ルチャブルはそうもいかないだろ。彼なりの任務もあるんだし、引きこもるのは無理。だから、食糧問題だけでも改善してやれたらいいよね』
『食い物に関しては、てめェで獲らせた方がいいな』
前足で顔をあらいながら、ブラッキーが口を挟んだ。
『こっちが肉を運んでやるという手もあるが…施しを嫌がるだろ、あの手合いは。自力での解決策がないと納得できねェ頑固もんじゃなきゃァ、ここまで拗らせることもなかったろうしな』
『できれば、それが一番だろうが…』
キリキザンは同意しつつ、『ふむ』と考え込む。
あいつ、要領が悪いくせにあれこれ考え過ぎたんだな。奔放に振舞えるほど馬鹿だったら楽だったろうに。
キリキザンは、進化前であるコマタナのときから突き出た刃物と共に生きてきた。切れ味鋭い生来の得物は、他者の肉を裂き、骨を断つ。野生であった頃は、敵と戦うときに使用するのみならず、仕留めた獲物を刃物で切り分けて食っていた。ただし、「肉も食える」だけのことで、木の実が安定して供給されるのなら、それは「不可欠」な要素ではなくなる。この点が、ルチャブルとは決定的に違っていた。彼の場合は「最低限、木の実で食いつないでいける」のであり、本来は「肉を食うべき」生き物なのである。
自分より他者の事情を優先するルチャブルの気質も、御庭番の輩とは相容れない。こちらは「いつだって己が最優先」だからだ。だが、互いに正反対だからこそ気になるし、惹かれる。実際、ルチャブルはいいやつだった。少なからず、助けてやりたいと思うほどには。
『ゲッコウガ』
肉を食うなどとんと縁がなく、どうすればルチャブルを根本的に救えるのか悩む蛙が一匹。彼がとるべき態度と、口にすべきセリフは、一つしかない。
『おまえ、何か言うことあるだろ』
「懇願」「謝罪」「感謝」に関し、ゲッコウガが自ら口を開くことなど絶望的なまでにありえないと知っているので、仕方なくキリキザンが水を向けてやった。
キリキザンの気遣い込みで諸々を理解してしまう頭のキレがあるからこそ、彼は眉間にしわを寄せつつ――渋々、言った。『なにとぞ』と。
たった一言。それきりだ。頭を下げて乞えたら何も言うことはなかったが、まあ及第点としておこう。ルチャブルが関われば、日頃ゴミ扱いしている同僚に協力要請をすることも致し方ない…背に腹は代えられないのだ。ゲッコウガにしても。
『お願いしますまで付けてこそだろうがデコ助野郎』
突っぱねるようなことを言いながらも、ブラッキーは満足げに笑っている。
『あたしらもキルリアの話を聞いちまったからねェ。盗み聞きの責任くらい取らにゃァ締まらねェ』
『食い物を手配すればいいんでしょ、了解。
狩場を用意してやるまでの御膳立てはオレたちでできるけどさ、…問題は時間帯だ』
どうすんの、とニューラが疑問を提示する。
『あいつ、目はいいんだろうけど元々夜行性じゃないみたいだし。夜猟は向かないんじゃない?』
『かと言って、昼間は動けないだろ。姫様の近くにいなきゃな』
ブラッキー、ニューラときて、合いの手を入れるヘルガーに、最後はドンカラスが反応を見せた。
『そのへんは何とかなるかもしれない。
彼が姫君の元を離れて問題なさそうな日中の時間、あるから』