【 全国図鑑番号0704:Numera 】
分類は軟体ポケモン。高さは0.3m、重さは2.8kg。タイプ、タマゴグループ共に「ドラゴン」。一般的な特性は「草食」か「潤いボディ」、稀に「ぬめぬめ」を持つ個体も存在する。
体表が乾燥すれば死に至るという虚弱さもあって、最弱のドラゴンと評されていることはあまりに有名である…が、あくまで通説だ。基本的な能力は、実は他の未進化ドラゴンたちと比べても見劣りはしない。成長と共に修得していく技には真っ当な攻撃力が備わっており、警戒心が強く臆病な彼らが攻勢に転じたら侮れない存在に早変わりする――…とはいえ、生来のポテンシャルを発揮できるかどうかは、個々の性格に依る。体格も無視できない。図鑑情報として掲載されている高さや重さは、集積されたデータに基づく平均値であり、当然、その基準から大小様々にはみだす個体は数多い。
このヌメラも、そうだった。
彼はあまりにも小さく生まれついた。一目で「遠からず淘汰される」と判断され、親から巣の外へ放り出されるほどに小さかった。一足先に孵化していた兄姉たちは過不足ないからだつきをしていたから、そちらへ優先的にリソースを割こうとするのは、親としての「正しい」選択だったのだろう。
見捨てられた末っ子ヌメラは、この世で産声をあげて幾ばくも無いうちから強制的な巣立ちを余儀なくされた。
麗らかな春の日に誕生したのは幸いだった。新鮮な若葉が生い茂る季節である。草を主食とする身なので狩りの巧拙などは何ら関係なく、よって、どんなに貧弱なヌメラでも食いっぱぐれる心配がなかった。
ひとまず飢えはしのげたが、無論、それでヌメラが生きやすくなったわけではない。
規格外の小柄な身ゆえ単純に筋力も火力も足らず、敵を退ける手段はほぼ皆無といってよかった。ひたすら縮こまり、日陰で息を潜めながら目立たないよう心掛けていた。
敵に遭遇しないこと、これが一番だった。ただ、どんなに気を付けようが探知能力に秀でたポケモンもいるため、襲われる場合はある。しかし幸いに、この小さなヌメラは「水鉄砲」と「竜の息吹」をものにしていた。威力は目も当てられぬほどお粗末なもので、かすり傷の一つもつけられやしなかったのだが、元よりヌメラは技を以て相手を倒そうなどとは欠片も考えていない。技を起点にして逃避することこそ肝要なのだから。
水鉄砲を敵の顔めがけて噴射し、目くらましに使う。竜の息吹による麻痺のデバフで敵を足止めする。その隙に逃げる。まさに、ヌメラの「生き残りたい」という願望に身体が応えたのだとしか思えないような技構成だった。
ヌメラは懸命に生きた。あっけなくくたばりたくはなかった。常に神経を尖らせ、索敵し、身を守っているうちに一日が終わる。その繰り返しだった。そういう生き方しかできないから、何も楽しくなかった。歯を食いしばるような毎日を消費するだけなので、幸せを感じたこともなかった。
暮らしにゆとりが欲しい。進化して肉付きや能力に変化が出れば困窮を打開できるかもしれない。そう考えても、小さな体の内側にはその日その日を生き延びるだけの力しか蓄えられていない。せめてもう少し肥え太りたいと思っても、栄養価の高い実は木の上部に生っているため届かない。小柄な己でも口にできる地表の草や苔、運が良ければありつけるコケモモやキイチゴは腹の足しになるだけで、成長を促すには及ばない。
分かっていた。
いくら頑張ろうとジリ貧なのだと分かっていた。その思いを強めた出来事が、つい先日、ヌメラの身に起こった。
隠れる場所を探そうとして洞窟の中に迷い込み、そこを住処にしていたユキワラシを驚かせたことで威嚇され、「凍える風」を受けてしまった。
生まれて初めてくらった氷の技。
想像をはるかに絶する痛みで意識が遠のいた。冗談抜きで、心底、死ぬかと思った。
命辛々逃げ出す経験を通して、本能で理解した。ドラゴンは氷雪に耐えられない。自分の身体は寒さに滅法弱いのだと。
ただでさえ貧相で体力がないのに、これからやってくる長くて厳しい冬をどう乗り越えろというのか。とてもひとりで対処できそうになく、ヌメラは挫けかけた。
しかし、物語は続く。続くったら、続く。
半ば絶望的な気持ちでいたヌメラは、このあと、あるポケモンと出会うことになる。それを契機に、自分自身の力だけで生きていくのではなく「生存戦略として人間を頼る」ことを思いつくのである。