※この作品はR-18です。

雨風奇譚   作:はたた

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仲直りしよう②★

『妙に慌ただしかったな』

 

 ルチャブルが困惑している。ゲッコウガも同感だったし、もっと言えば辟易していた。露骨な段取り臭に三文芝居、これで呆気にとられない方がどうかしている。いつから企てていたのか知らないが、何がどうすっ転んだら花風呂を野郎にあてがうという結論に至るのだろう。

 

 ――しかし。

 しかし、である。他者から交尾を促されるのは気色悪いが、奴らの案に乗っかれば労せずしてここをラブホ化できるのも確かだった。

 

 あとは一択、ヤるだけ。こちらのために膳立てしたというのなら、何をためらう必要があろう。

 

 さてどうやって仕掛けたものかと隣のルチャブルを見遣れば、彼はのんきに『あいつら、たまに突拍子もないことするよな』などと言っている。三十路男やデデンネに対する信頼からだろう、ルチャブルは首を傾げながらも眉をひそめるようなことはしなかった。

『妙に慌ただしかったな』と、つまり『妙』だとは思っているらしいのだが、ルチャブルはその性格上、そこから先をあまり気にしない。だから、目の前の花風呂が何のために用意されたのか真意を理解することはないし、花風呂そのものには興味がなくとも『ちゃんと入るべきなんだろうな。あとからデデンネに感想を伝えるのが筋だろうし』なんてセリフが出てくるし、この期に及んで『どうする?おまえから入るか?』という問いかけが事もなげにできてしまう。

 

 このように、ルチャブルは深読みせず善意を受け取ろうとする。実に単純で、それゆえに騙されやすく、危なっかしい。それでも結局、ゲッコウガはルチャブルの天真爛漫なところに惹かれている。そう、当の小鳥はあるがままに振舞うだけだ。勝手に振り回されているのはゲッコウガなのである。

 

 ゲッコウガは、浴室に立ち込める花の香を嗅いでいるうちに、鬱屈としていたことが急に馬鹿馬鹿しく思えてきた。

 同じものを見ていたとしても、感じ方は違う。この花風呂にしてもそう、昨日の星空だって例外ではない。デートと聞いて思い浮かぶ内容さえ双方まるきり違うはずで、その差異を埋めようとしなかったのはゲッコウガの落ち度だった。

 察しのよさが愛情のバロメーターになるわけではない。物事の捉え方がルチャブルと自分とでは異なっている。そんな当たり前の話でしかなかったというのに、何をつまらないことでいじけていたのだろう。「言わなくても分かるはず」「察してほしい」という身勝手な甘え――それを嫌っていたのは、他ならぬ己ではなかったか。

 

 分かってほしいのなら、小細工を弄せずストレートに言葉にすればいい。たとえルチャブルが物事の裏に隠された別の意味に気付かなくたって、その分は自分が補ってやればいい。そのための第一歩として、ゲッコウガは口火を切った。

 

 

 一緒に入ろう、と。

 

 

+++++

 

 

 ゲッコウガがしゅるりと首回りの舌をしまうのを見て、ルチャブルは、てっきり彼が先に入浴するものとばかり思っていた。そうだな、舌を湯に浸すのは熱いだろうからなと取り留めのないことを考えていたところに、投下されたのは『一緒に入ろう』の誘い文句。無防備そのものだったルチャブルには、あまりに強烈な一言だった。全く予期せぬカウンターだったので、ルチャブルはまともにくらってしまい、ぶわりと羽毛が膨む。

『な、んで、そうなるんだ』と狼狽も露わにしどろもどろの返答をすると、対するゲッコウガは不思議そうにルチャブルを眺めて『なんでそうならないんだ』と訊き返してきた。

 

『せっかくのふたりきりなんだ。蜜月を楽しまずしてどうする』

 

 ゲッコウガは身を屈めてルチャブルの顔を覗き込み、目を見つめながら一言一言を擦り込むように語りかけてくる。

 

『今回のアローラ、拙者は新婚旅行のつもりでいるんだぞ』

 

「蜜月」「新婚旅行」という単語で立て続けに追撃され、ますますルチャブルはたじろいだ。

 番(つがい)からの甘い誘惑には応じてやりたい、が、なにせ心の準備ができていない。ここですぐに気の利いたことが言えたらもっと雰囲気をよくできるだろうに、ルチャブルは、咄嗟の機転が利かない自分に嫌気が差した。

 

 これまで、ゲッコウガのように口巧者ではないルチャブルは、代わりに行動で示すことが多かった。今回もそう、きっと、どう格好つけるか思案するより先に思いきって動いた方がいい。あとのことは入ってから考えよう。入浴に誘われた直後こそ立ち尽くしてしまったが、黙りこくったことでゲッコウガの提案を拒絶したのだとは思われたくなかった。だから、どうにでもなれという気持ちで、ルチャブルはぐいとゲッコウガの手を取って引っ張り、湯船に向かっていく。

 

 しかし、そんな不器用なやり方は長く続かなかった。見切り発車で動いたルチャブルをフォローするつもりだったのか、ゲッコウガが背後からひょいと抱きあげてきたためである。 

 

 熱い吐息交じりに、耳元で『少しは意識してくれたか』と囁かれる。頭の中が蜂蜜漬けになって思考力が消え失せるような、…そんな馬鹿げたことが浮かんでしまうくらいの、いっそ怖いくらいの美声だったから、ルチャブルは思わずぎゅうとゲッコウガの首に腕を回した。ルチャブルの反応に気をよくしたらしいゲッコウガは、くつくつと笑っている。

 

 やがて、ルチャブルはゲッコウガに抱えられながら湯船に身を沈めた。湯加減はちょうどいい。まずは心地よさが先立ち、心身のこわばりがほどける。恥じらいを忘れさせてくれる湯の温かさがありがたかった。喉元過ぎればなんとやらで、直前まで慌てふためいていたくせに、たまにはこういうのも悪くないかもしれないなどと思い始めているのだから我ながら現金な奴だと呆れてしまう。

 この場に漂う上品な香りにも助けられたことで気持ちに余裕が出て、ルチャブルは改めて浴室内を眺める。ふたりが入浴すると同時に湯船から流れ出た花びらが散らばり、タイルの上を鮮やかに染めている。この湯船といい床といい、まるで花園で湯浴みをしているみたいで、その華やかさに自然と笑みがこぼれる。

 

『…機嫌がいいな』

 

 ゲッコウガの指先が頬を撫でる。そういえば、横抱きにされたままだ。この体勢ゆえに、視線を上げればすぐそこにゲッコウガの顔があった。薄紅の目が細められ、じっとルチャブルを見つめてくる。湯煙の向こう側で妖艶に笑うゲッコウガは、どうやったって太刀打ちできない色香を纏っており、ルチャブルはなす術もなく惑わされるしかなかった。

 ゲッコウガから目が離せない。色とりどりの花びらに飾られていた視界は、一転、今やゲッコウガによって占められていた。エキゾチックでカラフルなものに囲まれながらも、ルチャブルの双眸を捉えるのは夜空のような紺青色の表皮である。

 ポケモンであるという括りを除けば、外見も生態も似ても似つかない相手だ。しかし、全く異なる種族であったとしても、相手の顔立ちが端正であることは分かる。普段は長い舌によって隠されている首筋は筋肉質で逞しく、そこをつつと水滴が伝う様がやたらと艶めかしく映った。今更のように己の番う相手が美丈夫であることを思い知らされ、眩しかった。

 

『風呂よりもいっそ、御主からの視線の方が熱く感じるでござるな』

 

 拙者に見惚れたのか。

 尋ね方にからかいが含まれていると分かっていたが、あまりに真っ直ぐ図星を突かれたため、反射のようにルチャブルは首肯する。そして、はたと我に返る頃には、既に事がなされた後だった。『調子にのるな』などの照れ隠し抜きで素直に頷いたことを恥ずかしがる間も与えられず、ゲッコウガから口付けられていた。

 

 口と口が触れ合ったその瞬間、俺は今からこいつに抱かれるんだなということが唐突に理解できてしまって、ルチャブルの心臓が不規則に波打つ。

 

 

+++++

 

 

 何気ないふうを装って、しかし賭けるような気持ちで『一緒に入るか』と言ってみたが、ルチャブルから思っていた以上の反応を得られたためにゲッコウガは胸を撫でおろす。

 最初こそ動揺していたルチャブルだったが、実際に湯につかればその温かさに和らぎ、揺蕩う花びらや立ちのぼる香りを楽しむように微笑を見せ、機嫌よく入浴している。くるくると変わる表情一つ一つが、ゲッコウガの目に愛おしく映った。

 

 ポケモンであるという括りを除けば、外見も生態も似ても似つかない相手だ。しかし、全く異なる種族であったとしても、相手が普遍的な美しさを持っていることは分かる。彩りあふれる花びらさえも、贅の限りを尽くしたようなルチャブルの極彩色の羽を前にしては引き立て役に過ぎない。外見がただ華麗なだけではなく、猛禽類らしい鋭い鼻面や爪から漂う野性味も十分にスパイスが利いていた。小柄ではあっても、格闘タイプの名に恥じぬ鍛え抜かれた身体は雄々しく、凛とした雰囲気を纏って――…嗚呼、この至福をどう謳えばいいのだろう。一目惚れした小鳥がどこにも飛びたつことなくこの腕におとなしく抱かれている状況に、眩暈を覚えそうだった。

 指先でルチャブルの頬を撫でると、彼はくすぐったそうにしながら顔を上げ、ゲッコウガを見つめてくる。とろりと溶けた琥珀の瞳、その目つきの意味に気付いた途端ゲッコウガの内側で興奮が膨らんでいく。見惚れたのかと戯れに尋ねてみれば迷いなく頷いてくるのだから、これはひとえに雄冥利に尽きるというものだろう。

 

 抑えようとしても抑えられなかった衝動が、欲望が、ぶり返す――…さんざっぱら我慢してきたのだから、そろそろ褒美をもらっても構わないはずだ。心の中で結論づけ、ルチャブルに口付けた。

 

 このときばかりは、ルチャブルは動じなかった。それどころか身じろぎして、横抱きだった体勢から改めて向き直り、ゲッコウガにしなだれかかってきた。キスに集中してくれるつもりなのだろう。可愛い。ならば遠慮なくいただこう。相手の寛容に付け入ってがっつくのは品がないけれど、ゲッコウガにはすまし顔で気取っていられる余裕など残ってはいない。だから、軽い触れ合いは早々に切り上げ、彼の小さな口に無理矢理舌を押し込んだ。

 

 パンケーキに垂らされたシロップみたいに、ルチャブルの唾液が己の舌先に染みこんでいく。ほのかに甘いその味を味蕾が感知したことで、砂漠のようだった心が急速に潤っていく。堪えていた反動のためかいつも以上に美味く感じられ、中毒性が増していた。やべ、止まんねーなコレ。ゲッコウガはどこか他人事のように頭の片隅で呟きながら、ルチャブルの口内をくまなく舐めまわしていく。勢いづくゲッコウガの舌使いによって、ルチャブルの口の端からは、受けとめ損ねた水音がちゅぷちゅぷと滴り落ちた。ついていくのもやっとという有り様で、しかしルチャブルは、自分の舌を絡ませたり、ゲッコウガの舌を甘噛みしたり吸ってみたりと何かしら試みようとしており、翻弄されておきながらなお健気な対応が劣情を煽った。少し苦しげな酸欠の表情すら色っぽくて、…はー…脳汁びしゃびしゃなんだが。最高。

 

 気が付けば、図らずも対面座位になっている現在。キ(・)ス(・)か(・)ら(・)先(・)を想定した体位――無論、己とて口付けだけで終わらせる気は毛頭ない。

 

 後ろに意識が向いていない今のうちに解すか。

 ルチャブルとのキスを楽しみつつ、ゲッコウガはやわやわと小鳥の尻を揉みしだいて感触を堪能しながら、孔のふちをなぞる。身体も温まって弛緩している今なら負担にはならないはずだと踏んで、つぷりと指を挿れた、…ら。

 

 ルチャブルはびくりと大きく震え、ゲッコウガから咄嗟に顔を離したばかりか胸元に腕を立てて遠のこうとする。その動きに合わせて水面が揺れ、水のはねる音が浴室内に響いた。

 え゛、ちょ、…中断⁉ ここまできてお預けをくらったらさすがに立ち直れない。ぴしりと固まるゲッコウガをよそに、ルチャブルは浅い呼吸を繰り返しながら目を伏せている。

 

『…湯、が、…ナカに…』

 

 未知の感覚と、今更ながら風呂場で事に及ぼうとしていた状況に羞恥を募らせたらしいルチャブルは、目元を潤ませながらおずおずと打ち明けてきた。蚊の鳴くような弱々しい声量だったにもかかわらず一字一句を拾い上げ、彼が何を言ったのか把握したそのとき、ゲッコウガのテンションは一気に振り切れる。すうと息を吸ってしばし天井を仰いだものの、脳内では『っしゃァァァッ!!!』と声にならない雄叫びが木霊しており、大変騒がしい。

 

 湯がァァァ!! ナカにィィィ!! 風呂場でヤるなら絶対に聞いておきたい定番のセリフいただきましたありがとうございます!!!!

 

 早とちりで愕然としていたところから無事に解凍され、雲を突き抜けんばかりの急上昇で機嫌を好くしたゲッコウガは深々と悦に浸る。別に直接的なエロい単語を並べられたわけでもないのに、シチュエーションと相まって数段ギアが上がっていた。更には『ここだと落ち着かない』と追加の申し入れ。落ち着けるところでじっくり愛し合いたいんですね承りました!!!!!という気持ちでルチャブルを再度抱え上げ、意気揚々とベッドに向かう。考えてもみれば、長湯をすればルチャブルがのぼせて交尾取り止めという(これまた最悪の)パターンだってあり得たため、適当なところで浴室を出たのは正しい判断だったと思う。

 

 部屋に戻ると、残るふたりが不在のため当然ながら照明はついていないのだが、開けっ放しになっている窓からホテルの外灯や街の灯りが入ってくるため、夜だというのに思いのほか明るく感じられた。目が慣れてしまえば尚更で、ルチャブルを抱く分には何の支障もない。ふと気付けば、テーブルの上には軽食と水が用意されている。あのお節介組らしい気遣いだったが、情事の雰囲気を維持するために余計なことは避け、とりあえず互いに水だけを飲み、邪魔な掛布団を乱暴に床へと落としてシーツの上になだれ込む。視界の端で、風を受けたカーテンが膨らんだ。窓から吹いてくるそよ風が花風呂の残り香を散らし、火照った肌に心地好い。そういえば、ふたりしてろくに身体を拭きもしないで出てきてしまったが、南国らしい暖かな夜風がそのうちに乾かしてくれるだろう。

 

『抱いていいか』という確認ではなく『抱くぞ』という言い方でルチャブルに迫ると、返事の代わりにバードキスが寄越された。「ちゅ」という擬音の幻聴。ゲッコウガの理性がメルトダウンするには、それだけで十分だった。

 

 

+++++

 

 

『―――…ッ』

 

 ルチャブルはきゅうとクッションを抱きしめ、顔をうずめた。声を押し殺し、尻穴を弄られている快感を耐え忍ぶための苦肉の策である。

 自分には牙がある。爪だって鋭い。だから枕を噛んだり爪を立てたりしてはいけないと頭では分かっているのだが、高級ホテルの寝具を丁寧に扱う余裕もなく縋りついている。噛んでいる箇所は、まだ辛うじて損傷していないものの、ルチャブルの口から垂れ流される唾液を吸ってぐしゅぐしゅに濡れてしまっていた。きっと、後ろも、同じくらいにはしたなく濡れていることだろう。なにせ、先ほどからじゅぷじゅぷと聞くに堪えない淫らな粘液の音が鼓膜を犯してくるのだから。

 

 久しぶりの交尾だからという理由で、ゲッコウガはルチャブルの後ろを解すことにかなりの時間を費やしてくれていた*1。気遣いはありがたいのだが、ルチャブルは後背位の体勢をとらされ、それどころか腰を高くするように――尻を突き出すように仕向けられており、このみっともない格好からして心臓が破裂してしまいそうだった。ゲッコウガはどんな顔でこの痴態を眺めているのか想像するだけで、耐えがたいほどの羞恥に襲われた。抗いようのない辱めによって脳みそが煮崩れている所為で、いよいよ視界が白んできている。

 

 まるで見せつけるような有様になっているすぼまりはゆっくりと広げられ、にゅくにゅくと緩やかに指を抜き差しされる。とうにスリットから勃ち上がっているルチャブルの雄茎は、同時進行でしごかれてはいるものの、握り込まれる力は控えめだ。ゲッコウガはそれぞれの性感帯へ並行して刺激を与える器用なことをしながらも、しかし、決定的な絶頂へは誘導してこない。

 

 沸騰する直前で火を止められているみたいな、緩慢で、終わりの見えない不完全燃焼の甘イキが続く。射精したくてもできない、この状態はいつまで強いられるのだろう。

 

 いつまで経っても不鮮明な愛撫のままだから、ナカのより深い箇所がじれて、疼き始める。ゲッコウガによって拓かれ、快楽を刻み込まれた前立腺や精嚢、その奥…いずれもゲッコウガの剛直を埋めてもらわないことには届かない。こもった熱が発散されない。だから…だから、はやく擦って。突いて。圧し潰して。もっと激しく乱暴にしてくれたって構わないのに、と、誤魔化しの利かない卑しい欲がふつふつと湧いてくる。

 

『ゲッコ、…ガ、…』

 

 どれほど力を込めてクッションにすがったところで、今や全身にいきわたる快感は行き場をなくして彷徨うばかりだ。抱き枕の効果も薄れてきたので、後ろを振り返りながら必死に声を紡ぐ。

 

『まだ、…挿れな、い、のか…?』

 

 

+++++

 

 

 ルチャブルをうつ伏せにしたので枕元のクッションが彼にとっての逃げ道になってしまい、快楽をいなすためか顔を押しつけてしまっている。だが、所詮はその場しのぎ。結局こらえきれなかった声がくぐもって響き、かえって色っぽかった。好き勝手にナカを掻き回されて悪戯される度に肉壁が切なくうごめき、その淫靡な感触が指先を通じて伝わってくる。美しい一羽を穢し、敏感な箇所を暴き、他の誰も知らない一面を拝み、いやらしい手つきで嬲ることを許されているのは世界広しといえど己が唯一である。

 

 実際のところ前戯なしでぶち込みたかったのがゲッコウガの本音だが、いつもは凛々しいルチャブルをとろとろに屈服させることで征服欲が満たされ、卑猥な仕打ちを受けて身を震わせている小鳥の姿に嗜虐心をくすぐられたためについ準備を長引かせてしまった。もどかしいほどのゆったりとした責めが相手を焦らすことに繋がったばかりか、後ろもぐずぐずにとろけて美味そうに仕上がったのでよしとしておこう。

 

 指を引き抜けば、埋めるものがなくなった孔が寂しそうにひくついて誑しこんでくる。性器に成り果てた排泄器官の収縮がどちゃくそにエロくて己の毛細血管が今にも千切れてしまいそうだった(そろそろ鼻血を噴く気がする)。嗚呼そんなに虐められたいのか、お望みとあらば最奥まで捩じ込んでやろう。舌なめずりをするゲッコウガが怒張した自身の切っ先を突き入れようとした――…そのとき。

 まだ挿れないのか、と、儚げな涙声で問われた。

 息を乱して、頬を染めて、物欲しげな顔を隠そうともせず、ルチャブルがゲッコウガを振り返ってくる。

 

『おまえの、が…、…ほしい…』

 

 はい犯す。決定。

 いっそ憐れなほどに、媚びて許しを請う目。蠱惑的な表情を前に興奮と愉悦がないまぜになって、凍てつくような甘い震えがゲッコウガの背筋を駆け抜けていった。

 勢い任せにルチャブルを仰向けにして下腹部を見遣れば、あえて意地の悪い触り方しかしていなかったルチャブルの雄は先走りの蜜をたらたらと垂らすだけで、肝心の精液を吐きだせず苦しそうに膨らんでいる。

 

『そうだよなあ、…出したいよなあ可哀想に』

 

 可哀想にと言うその口を歪ませて悪辣な笑みを浮かべながら、予告なく一気に、ルチャブルへ向かって腰を沈めた。

 

『あ゙ッ、―――ぅぁあああッッ!!!』

 

 予想外の暴挙に打ちのめされた相手から、濁音交じりの嬌声が上がる。ルチャブルの性器からは爆ぜるような力強さで大量の白濁が放出され、腹部から胸元にかけての白い羽毛をしとどに濡らした。

 ルチャブルはすっかり発情しきって、どこもかしこも出(・)来(・)上(・)が(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)らしかった。その証拠に、彼の孔はゲッコウガの一物を難なく根元まで咥えこんでいる。

 

『…はは、挿れただけでイったな。わかるか?こんなに出して…』

 

 腹の上の精液をねっとりと塗り広げてやると、『ひ、ッぁ』と悲鳴のような引きつった声を伴いながらルチャブルが身震いをした。撫でただけで軽く達した様子にそそられ、ゲッコウガは己の愚息が更に膨張して固さを増したことを自覚する。ッとに正直者だなコイツは。まあ、勃起が継続されるのならば重畳。というのも、終始ルチャブルの羞恥を煽るような言動をしておきながら、実はルチャブルの絶頂に伴ってゲッコウガもまた思いきり暴発しており、あえなく吐精しているのである(ルチャブルが前後不覚に陥らずもう少し余力があったなら、『おまえだって挿れただけでイってるだろうが』と強気なことを言えたかもしれない)。

 当のゲッコウガは、早々に出しちまったなと思いつつも、特に苦々しくは感じていない。いや無理だからふつーに。絶頂と連動する締めつけの強さなめんな相手ごりっごりの武闘家なんだぞ。ごっそり絞り尽くす気満々でうねってるトロマンに吸い上げられるとかマジ御褒美でしかないから。あれをくらったらどんな雄でも耐えられないに決まってる云々…うん、しゃーねえな。いかに情けなくともゲッコウガは割り切ってしまえる。

 ルチャブルのナカでしか得られないあの刺激は、ゲッコウガにとっても待ちに待ったものだった。渇望したものを摂取して過剰に興奮するのは必然。一度(潤滑油代わりに)吐き出しておけば二度目の射精に至るまでは相当に時間がかかり、その分だけ長くルチャブルを可愛がってやれることを考えれば、むしろ一発抜いておくのが最適解という気すらしていた。

 ならば、鉄は熱いうちに。余韻にひたって恍惚とするルチャブルを現実へ引き戻すため、容赦なく抽送して追い打ちをかける。

 

『ンっ、あ、ぁ、…ッむり、待っ―――ッ…!』

『コレが欲しかったんだろう?遠慮するな』

『でも、こんな、の…っ、また…!あ、あ、あ゙ぁッッッ!』

 

 奥まで突き入れてナカの隙間をなくし、執拗に捏ねて責めたてれば、案の定、ルチャブルは敏感になった粘膜に上書きされていく快楽に怯えて――そのくせに期待しているような顔を、するから、…鳴かせるしかないだろ。

 

『上手にねだられて俄然ヤる気が増したでござるよ。…ルチャブルが好きなところ全部責め(フルコース)*2で、朝までハメ倒してやるから楽しみにしてろ』

 

 …などとルチャブルを追いつめるような鬼畜攻めムーブをかますゲッコウガなのだが、何を隠そう「朝までコース」を楽しみにしているのは他でもないこの蛙なのである。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

【 おまけ 】

 

 はい、朝ですよー。Bonjour(おはようございます).

 カロスではどこかしらで聞こえてくるヤヤコマの美しいさえずりが朝の訪れを伝えてくれるのだが、ここアローラではツツケラが木をつつく小気味好い音がトントンと木霊している。

 すっきりと晴れた早朝の空の下、ゆったりを羽ばたきながら部屋に戻ったバタフリーあらため僕メタモン。すンごいことになってんだろうなーと思いつつ、昨夜と変わらず開けっ放しの窓から入れば、予想通りの光景が広がっていた。

 

 部屋のあらゆるところに散り落ちている花びら。とりわけシーツなんて目も当てられやしなかった。ンまー!純白のシーツに色とりどりの花びらが映えますこと!風呂上がりに直行したんですね分かります。この場で何が行われたのか一発で判明する仕様、三十路のおっさんにはだいぶエグい絵面だった。

 

『おや、花筵(はなむしろ)*3』

 

 欠伸交じりで、お姫様が顔色一つ変えずに平然と発言する。

 

『止むに止まれぬ欲の発露とは斯くも激しいものか…』とか、Oh …、うそォ…?一晩中無我夢中で貪り合ってましたってのが丸分かりの生々しい現場を前にして何でそんな文学的なこと言えちゃうのォ…?尊敬しちゃう…。

 

 いかがわしい空間を作り出した野郎共はどうなっているのか見渡すと、いました、過程がよう分からんが床の上で眠こけている。といっても、大の字になっているのではなく、見るからにふっかふかの高級羽毛布団にくるまっていた。ふたりして寄り添い眠るその様は、ともすればクルマユみたいで微笑まし…くはねーな全然。事後だもんね。普段なら早起きのルチャさんが未だに寝ているその横で、先に薄目を開けてこちらを窺ってきたのがコウガくんていうのもね、アレだね、「あー小鳥ちゃんはマジで『(ヤりすぎて)もう疲れちゃって全然動けなくてェ…』になったんだそっかー」って感じ。朝からどぎついぜ全く。

 まあ、ルチャさんが起きたら起きたで、この部屋の現状を見たら卒倒してもう一回寝込んでしまいそうだけれども。

 

 で?さっきから何なのさ、コウガくんの不機嫌そうな顔は。寝起きだからというより、何でおまえらがいるんだ空気読めという気持ちが透けている。「ボクたちのために気を遣ってくれてありがとうございました」なんて殊勝な言葉が聞けるとは思ってないけど、もう少し適切な態度ってもんがあるでしょうよ。ホントさあ、このクソ蛙。そういうとこやぞ。

 

「また派手にやらかしましたねえ…」

『こうなることは織り込み済みだったはずだが』

「…そうだけどさあ…程度の問題というかさあ…」

『知ったことか。別にてめえが掃除するわけじゃねーだろうがガタガタぬかすな』

「客室清掃の人が大変でしょ!」

『仕事のやり甲斐が増して結構なことだ。支払ってる側が気にすることじゃない』

「支払ってるのは僕だっつの!」

*1:
焦らされているだけです

*2:
各体位ごとに繰り返し

*3:
花の散り敷いた様を筵に例えた語





【 追記 】
 肌が薄そうなゲッコウガですが、お風呂に入って大丈夫だったのでしょうか。
→ 勝手な設定ながら、本作のゲッコウガは「目覚めるパワー」が炎タイプなので生来の耐熱性は高いと判断しました。
 ゲームにおいても、ゲッコウガは(世代によりますが)技マシンで「熱湯」を覚えられるので、体内で熱湯を生成して吐き出す以上、内臓、皮膚ともに熱にはある程度強いはずだと解釈し、入浴させております。
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