◆文化センター◆
「ゲッコウガ求む、ですって!性悪な君のバイト先を探すのが一番困難だと思っていたのにあっさり解決しちゃいました!」
呼吸をするように毒を吐きながら、男は嬉々としてバイトの依頼主に電話をかけている。
なんでピンポイントで募集されてるんだ。電話でアポ取りする前にどういう仕事内容なのか教えろよ。色々と言いたいことはあった。どう考えても怪しいのに、男はゲッコウガに口を挟ませず、「はい、はい、分かりました。明日の8時に、搬入口の方で。あ、大丈夫ですよ。僕が言うのもなんですけど、賢い子ですから。大抵の指示は通ります。ええ、大船に乗ったつもりでいてください。では」などとペラペラ喋り倒して即決したのである。ゲッコウガが苛立ち混じりに詰め寄っても「明日のお楽しみですよ」とのらりくらりかわす始末。男が何やらしょーもないことを企んでいることは分かっていたが、翌日、文化センターの看板を掲げる場所に連れてこられるとはさすがに想定外だった。素で『は?』と言葉がこぼれる。バイクのサイドカーから見上げたその施設は、美術館や博物館と評しても十分に通じるような美しい外観をしており、格式高い芸術の香りが漂ってくるような気さえする。間違いなくホールも図書館も会議室も併設されているような複合施設であり、明らかに「意識高い系」ではなくガチの「意識高い」空間だった。
ゲッコウガが一番最初にバイト先に送り届けられたため、同乗していたルチャブルもデデンネも「本当に此処でおまえが働くのか」と言いたげな面持ちをしている。ゲッコウガとて同感だった。てっきり闇バイトを斡旋されるのだとばかり。そう思い込んでいただけに、この健全な公的施設が猶更自分に不釣り合いな気がした(こういった場所が己にそぐわないということは一応自覚している)。それにも関わらず、男は平然とした様子で、運送業者や施設関係者が出入りするような裏側へと進入していく。そこではスーツ姿の若い女が待っていて、こちらを視認するや否やぶんぶんと大きく手を振ってきた。「本当だ!本当にゲッコウガだ!Oh my
「今日はよろしくお願いします!私たちも全力でサポートしますので!」
女がゲッコウガの手を握ってくる。華奢な手からは想像もつかない力強い握り方に、目一杯の感情が込められている。そこへ追加される縋りつくような眼差しを受けてしまえばいよいよ悪い予感しかしないわけだが、ルチャブルが『きっとおまえにしかできないことが待ってるんだ。頑張れよ』と背中を押してくれたので、何とかこの状況を受け入れる気になれた。
仲間と別れバイクを降り、女のあとに続いて施設内の通路を歩いていく。彼女は、やがて「出演者控室」の張り紙がひらめく扉の前で足を止めた。「ゲッコウガでなければならない」という限定的なバイト。「出演者」の文字。そして、先程の女の喜びよう。どんなに目を背けたくとも弾き出される答えは一つしかなく、ゲッコウガは思わず遠い目になってしまった。
「皆さん!代役の登場ですよ!!」
女が勢いよく扉を開けると同時に、室内を揺るがすほどの歓声が上がった。いかに周りが手振り身振りで喜びを露わにしていても、確かに聞き取った「代役」のワードがダメ押しとなり、ゲッコウガはひとり白ける羽目になった。直前の予想が当たってしまったために虚無顔をさらすゲッコウガを余所に、女の上司と思しき中年男が大きく手を広げて歓迎しながら近寄ってくる。
「突然の依頼にも関わらず、引き受けてくれてありがとう。戸惑いはあるだろうが、君は我々の指示に沿って動いてくれるだけでいいんだ。安心してくれ」
演者が体調不良に陥り、本日の公演を欠席せざるを得なくなった。急遽代役を探すことになったが、無事に見つかって一安心している。出番は10分ほどなので落ち着いて臨んでほしい。…ざっと聞かされた話はこの程度だった。
演者、公演、代役という単語からひとまず自分が舞台に参加することになったのは理解できたし、ど素人にまともな演技を期待されても無理なので、「言われた通りにやれ(意訳)」という中年男の雑な説明でもゲッコウガは許容した。簡素な状況説明は、土壇場で駆り出された部外者が混乱しないよう彼なりに気を遣った結果だろうとも察せられた。
「開演まであと2時間。君の舞台上の立ち位置、あとは登場と退場のタイミングを確認しよう。ステージが使えるか様子を見てくるから、君はここで待っていてくれ」
中年男が慌ただしく出ていった直後、『詳細を省いて簡単なお仕事を装うってさあ、…やだねえ詐欺みたいで…』と聞こえてくる。振り返ると、ニョロトノがいた。彼の周りには、他にも複数のポケモンがおり、一様にゲッコウガへと視線を送ってくる。ガマガルにフシギダネ、グレッグル、…あとは見慣れない黄色のオタマジャクシ(後々、自己紹介でズピカと名乗っていた)。いずれも表情はにこやかで、友好的な雰囲気を醸している。
『蛙ばっかりだな』とゲッコウガが呟くと、『見ての通りだよ』とフシギダネ。『あの人間の話だけじゃ何も分からなかっただろうし、僕らから少し補足させてよ』と申し出てきたが、正直、ありがた迷惑だった。数分の出番をこなしたら終了というのであればそれ以上のことはしたくなかったし、知りたいとも思えない。
しかしながら、ルチャブルに褒美をねだる条件は『真面目に頑張る』ことだ。作品に関する知識も舞台に立つ心構えもないまま淡々と指示に従い、最低限の力でその場しのぎをするというのは、ルチャブルから提示された条件とは一致しない行いだろう。
この場にルチャブルはいない。ゲッコウガが誠心誠意バイトに励んだのかどうかなんて知りようがない。それでもきっと、ルチャブルはゲッコウガの誠実を信じてくれている。その信頼には応えたかった。
ゲッコウガにとって、手を抜くことも嘘を吐くことも誤魔化すことも造作のないことである。罪悪感なくやってのけることができる。だが、ルチャブルだけには、いつでも真摯でありたい。あの高潔な鷹の隣に並び立つ者として。
だから、きちんと実を伴う振舞いをしようと決めた。
フシギダネに向き合い『話を聞かせてくれ。どんな役を担当することになるのか教えてほしい』と頼んだゲッコウガの耳元で、もう一度、『おまえにしかできないことが待ってるんだ。頑張れよ』というルチャブルの励ましが聞こえた気がした。
――この文化センターの大ホールで予定されているのは、アローラで人気の子ども向け教育番組『
アローラにおける知名度は抜群だが、そこに
コンサートも通常の番組構成と同じように、舞台上で歌やダンス、体操、寸劇が行われるプログラムとなっている。ポケモンたちの出番は寸劇パート。音楽と人間のセリフに合わせて、ポケモンたちがそれらしく演技する。劇中で彼らは「チーム・ポロカ*2」と呼ばれ、親しまれていた。
『で、僕らの中でも飛びぬけて子どもたちに人気のキャラクターがいてさ…』
それが、渦中のゲッコウガ。劇中では「マラマ*3」と名乗っており、時折チーム・ポロカの前に姿を現しては、助言を与えたり励ましたりする謎多くも心優しき蛙である。劇中での登場回数はメンバーの中で最も少ないが、それにもかかわらず、ミステリアスなキャラ設定と格好のいい外見も相まって熱烈なファンが多い――…
『今日のコンサートも、「マラマに会える!」って大々的に宣伝しちゃったからチケットがあっという間にプラチナペーパーになったみたい』
『……、拙者が代役予定のマラマとやらが目玉になっていると?登場するにしても数分で終わるのに?』
『その数分のためだけに大枚はたけるのがファンなのさ』
『鳴り物入りとなれば、当のマラマも決して欠席できないと分かっていただろうにな』
『もちろん。ただ、ドクターストップがかかったっていうならどうしようもないよ』
フシギダネが振り返り『あいつが何でダウンしたのか知ってる奴いる?』と尋ねた。
『僕、病欠ってしか知らないんだけど』
『昨日食った木の実に
ガマガルが身体を揺らす。スタッフが話しているのを小耳に挟んだという。
『マネージャーがさ、力が出せるようにって奮発して買ってきた木の実が原因らしい。食い慣れてないやつだったんだと。今は点滴打って寝込んでるってさ』
『あー…』
伸ばされた語尾の中に、遣る瀬無さが漂う。良かれと思って、という一方的な親切は大抵が裏目に出るものだ。『余計なことを…』とグレッグルが独り言のようにこぼした。
ゲッコウガは嘆息する。なるほど、事前に大々的な告知をしていたのなら当日のドタキャンは最も観客の印象を悪くするだろう。楽しみを胸に来場した子ども心とチケット代を二重に踏みにじることになってしまう。代役を立てる以外にも、例えばそれらしきシルエット映像を使うあるいは
『…まあ、もう起っちゃったことだからね。今は代役くんへの手助けに尽力しよう。具体的な段取りについてはこれから人間が教えてくれるだろうけど、僕らもマラマと一緒にずっと稽古してたから、同じ演者の立場として君に話せることもあると思うんだ。力を合わせて、いいコンサートにしようね』
頼もしいフシギダネの言葉に、ゲッコウガは頷いた。猫でも何でも被って精一杯にやろうと思った。コンサートを成功へ導く一助となったと伝えれば、ルチャブルも成果を納得してくれるだろう。子どもたちを裏切らぬようどれほど自分が努力したのか
後に幕が上がれば自ずと知れることであるが、チケットは完売しているため会場は満席状態になる。座席では、子どもたちが目を輝かせながらテレビで見ていた光景が目の前で繰り広げられる瞬間を待ち望んでいる。
だが、その中にあってなお、ゲッコウガが緊張することはない。大観衆の熱視線と声高な応援を受けながらバトルをした経験のあるゲッコウガだ、物怖じするはずもなかった。何なら子どもにウケのいい振舞いも心得ている。読者諸氏はお忘れかもしれないが、自身のトレーナーからクソ蛙と罵られること数万回はくだらず口を開けば一言目か二言目には『殺すぞ』などとぬかすこの蛙は、数年とはいえスクールで子どもたちの遊び相手として生活をしていたのだ。
だから、ゲッコウガは『どうにかなるだろ』と思っているし、このあと実際に「どうにかする」のである。
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――みんな、こんにちは!元気にしていますか。
あのね、もうすぐこの森で「きのみ開き」が始まるの。ポケモンたちが大切に育ててきたきのみが、今日から食べられるようになるのよ!
それをお祝いして、今日はチーム・ポロカのみんなが音楽隊になって、すてきな曲を聴かせてくれるそうよ。今はその練習中……
ナレーションが流れ、寸劇が始まる。
チーム・ポロカが思い思いに歌を練習している。自慢の美しい鳴き声でガマガルが主旋律を担当し、味のある低い声が特徴的なニョロトノが副旋律を歌う。グレッグルは頬の毒袋を膨らませて独特の音を奏で、ビートを刻むことになっている。
最も声量があるのはニョロトノなので、主旋律が負けてしまわないようフシギダネとズピカはガマガルと一緒になって歌う手筈になっていた。だが、華のあるパートだというのにズピカは浮かない顔をしている。
ズピカはおたまポケモンである。身体は小さく、声を出す器官だって他のポロカのメンバーに比べれば発達していない。何より、同じパートのガマガルが巧みに歌う姿を見て気後れしていた。途中までは頑張って練習していたのだが、委縮していたため上手くリズムにのることができず、失敗ばかり。皆の足を引っ張っていることが恥ずかしいやら悔しいやらで、ズピカは癇癪を起した。八つ当たりのように辺り一面に電気を放出して、その場を去っていく……。これが前半部の粗筋である。
いま舞台上で展開しているのは、ズピカがひとり森の片隅で泣いている場面だ。そこへ「どうしたんだ、こんなところで」と声をかけてくる者がある。ゲッコウガだ。彼がズピカに歩み寄ると、ふたりにスポットライトが当てられる。シリアスなシーンなのだが、やはり子どもたちにとってはゲッコウガが――つまりはマラマが登場したことの喜びの方が勝り、控えめながらも「わあ!」「マラマだ!」という声が飛び交った。
「もうすぐ音楽隊の出番だろう?」
「…だって、ぼく、…へたっぴなんだもん。みんなできるのにぼくだけできないんだもん。めいわくだから、いないほうがいいんだ」
「だが、おまえはずっと前から熱心に練習していたはずだ。諦めるのか?」
ズピカは黙りこくる。黙りこくる演技をしながら、目の前のゲッコウガを見つめる。
見れば見るほど
人間は、どうやらポケモン個々の見分けが苦手らしい。体格差や体色、模様など目に見えて明らかな身体上の違いを目印とするのでもない限り、同種族間の顔立ちの区別をあまり見分けられていない。だから、彼らにとっては、マラマと同じ種族である「ゲッコウガ」が代役に来てくれたらそれでよく、マラマと顔立ちが似ているかどうかは全く問題視されていなかった。テレビ画面を通じて観るのと実物を目の当たりにするのとでは印象も違うから多少のことは大丈夫などと言っていたが、ズピカたちポケモンの視点からしてみれば似ても似つかない…いや、マラマも比較的整った容姿をしているのだけれども、代役のゲッコウガの競争相手にもならなかった。次元が違っていたのである。ポケモンの顔面偏差値に疎い人間だからこそこれほど見目麗しい彼をはした金で雇おうとしているわけだが、その悪意なき図々しさに慄いてしまう。後から法外な値段を吹っ掛けられてもしらないからな。そう思っていたのに、代役のゲッコウガは、曇りなき
人間の指示では、この代役のゲッコウガは「ズピカの前で立っているだけ」でいいことになっていた。腕を組み、斜に構えて立つ。クールな雰囲気が出せればいい。いきなり本番を迎えたのだから緊張は避けられないにしても、その場で立っているだけなら何とかなるだろう。打ち合わせではそうなっていた。
ところが、今、ゲッコウガは浮遊するズピカと視線が同じ高さになるよう片膝立ちをして、親身な様子で体を寄せている。騎士のような振舞いだ。
ズピカからは、舞台袖の様子がよく見えた。人間たちは打ち合わせと異なる行動を取るゲッコウガの姿に驚きを隠せず、口を開けて何か言いたげにしている。しかし中断できるわけもなく、そのまま成り行きを見守っていた。
なんだよ、そんなに驚かなくてもいいじゃないか。
『本当はね、マラマはぼくのところにやってきた後に片膝をつくんだ。そうして、丁寧に、ぼくの話を聞いてくれるんだよ』
本番前に、ズピカは演技の変更を頼んだ。
人間が代役を慮って提示したクールな立ち姿は、確かにマラマのイメージを損なうことはない。しかし、本物のマラマであったなら、泣いている子どもを前にして見下ろしたりしない。必ず身を屈める。元の脚本でもそうなっている。そのことをゲッコウガに伝えたところ、彼は『先輩の意見を信じよう』と言ってくれた。ズピカの方がうんと年下なのに、番組内における実績を尊重してくれたのだ。それが嬉しかった。
「お祝いの歌を歌った後でないと、きのみを食べられない決まりになっている。おまえがいなくなると森の皆も困るんじゃないのか」
「…でも…」
「……、かえって緊張させたな。すまない」
ゲッコウガはそっと両手を差し出し、てのひらの上にズピカを乗せる。
ズピカがチカチカと瞬いているため、客席からは、ゲッコウガがまるで星の欠片を大事に捧げ持っているように見えることだろう。幻想的な光景と切なげに響くオルゴール調のBGMが抜群にマッチしており、観客たちが固唾を呑んで見入っている気配が伝わってくる。
「歌うのは嫌いか」
「…ううん。すきだよ。だけど、ほんとうに、ガマガルのこえはきれいなんだ。フシギダネだっておおきなこえでうたえる。みんながんばってる。みんなじょうずにできてる。ぼく、くやしい。くやしい、けど、じゃましたくない」
「誰も邪魔だなんて思ってないさ。本当は歌うことが好きだというおまえが、いま悔しいと思うのは、それだけ一生懸命にやってきたからなんだ。それは、音楽隊の皆も認めている」
ズピカを中心に話が動く寸劇は、今までになかった。だから、このコンサート用に書き下ろされた脚本を読んだときには心の底から喜んだし、そんなズピカと共に、自分のことのように気持ちを分かち合ってくれたのがマラマだった。
今このとき、寝込んでいるマラマはコンサートのこともズピカのことも気にかけて、胸を痛めているはずだ。自分を責めているはずだ。マラマというキャラクターを離れても、彼は変わらず心優しいポケモンだったから。
この舞台を無事にやり遂げて、マラマに報告するのだ。一緒に稽古をしてきたから、急なアクシデントがあっても何とか踏ん張れたよ。一緒に稽古をしてきたから、(ちょっと生意気だったかもしれないけど)代役相手にも共演者としてアドバイスできたんだよ。何も無駄にならなかったよ。ねえ、マラマ。
「上手くできる必要はない。楽しくやるから音楽なんだ」
「たのしく…?」
「そうだ。楽しさは伝わる。おまえが楽しく歌えたら、それだけで、音楽隊の皆も、おまえの歌を聴く者たちも、楽しくなるんだ」
ズピカとゲッコウガは、こつんと額を合わせた。
「ぼく、みんなのところにもどるね。とちゅうでにげだしてごめんなさいっていってくる。もういちど、がんばってみるよ」
「努力家のおまえなら、きっとやれる。もっと自信を持っていい。おまえにしか出せない声や歌い方があるはずだ。それでも悩んだら、素直に周りに話してみろ。力になってくれるから」
応援してるぞ。
最後にそう言い残して、軽やかに地を蹴るゲッコウガ。華麗なムーンサルトで退場するのだった。
その後、無事に音楽隊に合流したズピカはチーム・ポロカの面々に謝り、気分を一新、晴れやかな顔で本番に臨んだ。確かにか細い鳴き声ではあったが、朗らかな笑みを浮かべて歌うその様は観ている者の心を弾ませた。また、リズムに合わせてピカピカと明滅する独自の演出を披露し、きのみ開きの場を大いに盛り上げるのだった。
ナレーションが「さあ、みんなも手拍子しましょ!」と案内したこともあり、会場内の観客たちも手をたたきながら寸劇に参加し、賑やかなひとときを過ごした。
コンサートのエンディングを飾るのは、定番曲の「ガオガオ・オール●ター」。観客との斉唱である。また、このとき、ステージ上に人間ポケモン問わず全てのキャストが集結して歌とダンスを披露する。特に「たくさん笑って ポーズ決めて」という歌詞が流れると同時に、各々がポーズを取ることになっている。
満を持してとでも言おうか、「ポーズ決めて」のところではまさかのゲッコウガが颯爽と登場し、指先にいたるまで隙のない渾身のポーズで魅せてくれた。奇抜なポーズではなく、ポケモン図鑑に登録されているお馴染みのスタイルだったが、それが最適解だった。子どもたちの興奮がひときわ高まり、会場内の熱が上がっていく。通常の番組内でもマラマがエンディングに参加することはなかったので、これは完全なサプライズだった。
事前の指示や思惑とはずれたアドリブが挟まり、演出に関わる人間たちには心配をかけただろうが、総じて文句のつけようもない出来栄えだった。代役によるキャラクターの解釈違いも起こらず、全ては許容の範疇。称賛の声こそあれゲッコウガを非難する者は誰もいなかった。
こうして、のちにファンの間で伝説の神回と言われるようになるコンサートは、最初から最後まで緊急事態が発生した舞台裏の気配を漂わせることなく華やかに幕を閉じたのである。
で。もひとつおまけに付け加えておくと、バイトを終えて会場に駆けつけ、変身能力を以てしれっとスタッフに成りすました