【 恐怖の放送 】
よる 2かいの しょくいんしつ あのよからの ほうそう きこえてくる
きいたら もう ダメ! へや でれない あなた おしまい
おねがい かいけつ してほしい!
でも きをつける…… あなた あぶない わたし かなしい
『順調そうだな』
「ええ、今のところは難航せずに済んでますね。この調子で、次の怪談もさくっと解決できるといいんですが…」
『…何せ「あの世からの放送」だからな…』
「あなた おしまい…なんて言われたら腰が引けちゃいますよね。…とにかく、『実は「滅びの歌」が放送されます☆』みたいな呪殺系のオチじゃないことを祈りましょう」
幽霊少女にべちゃりさま関連を報告した後、次のお題…もとい次の怪談を教えてもらい、再び校内へ戻る。今回も今回とて不穏な内容なので、道すがら、ルチャさんと他愛もない雑談を交わしながら互いに気を紛らわせた。
可憐なミニスカートから一転、今の僕はくたびれた作業着姿。――そう、さっき出会った清掃員さんに変身して潜入を続行しているわけだ。偶然だったとはいえ、生徒に扮するよりもっと適切で都合のいい存在と遭遇できたのは運が良かった。本人と鉢合わせることだけは絶対に回避しなきゃだけど(そうしないとドッペルゲンガーだ何だで新しい怪談が発生してしまう)、仕事を理由にすれば夜間に堂々と歩き回ることができるし、他の職員に怪しまれることもない。何より、未成年の姿を借りる後ろめたさもないしさ。
「…ただ、話によると、今は職員室に入れないらしいんですよね。どうしたもんかな…」
一応、二階の職員室を訪ねてみたが、やはり扉の前には「入室禁止」の立て札が出ている。誰か職員が出てきてくれたら、すれ違いざまに成り代わって職員室内に入るという手も使えるんだけど…。
『職員室に入ることは絶対条件なのか?』
「…たぶん…」
『だが、放送を聞いたら危ないんだろ?怪談を調査するなら放送の内容を知っておいた方がいいんだろうが、事前に分かっている危険は回避すべきだと思う』
「ですね…、なにも僕らが怪談を追体験する必要はない…。その放送を阻止する方向で動けばいい。だって、危険なものを取り除いて事態の解決をはかることが目的なんですからね』
じゃあ、職員室よりも、隣接している放送室の方が重要なのでは?
扉についている小窓からは明かりが漏れており、どうやら使用中だった。室内の様子を窺いたいところだが、扉の前ではヤドンが丸くなってぷうぷうと眠っており、近付くのが躊躇われた。なぜこんなところにヤドンが…という当たり前の疑問が浮かぶのだが、まるで自宅でくつろいでいるかのような緊張感のなさから察するに、この学校で養育されている個体なのだろう。
「少し様子を見ましょうか」とルチャさんに話しかけたちょうどそのとき、天井部に設置されたスピーカーから「かしゅっ」と掠れた起動音が流れ、直後、ほとんど不協和音に成り果てている薄気味悪いチャイムが鳴り響いた。…わーぉ…、もしかしてこれが「あの世からの放送」ってやつ?三番目の怪談タイトル『恐怖の放送』を飾るにふさわしいファンファーレだ。それにしてもさあ…こんな時間に調子外れのキンコンカンコンはヤバいって…クソ怖いじゃんか…。シャレにならんぞという気持ちになりつつ、ふと隣を見遣れば、ルチャさんも不快感を露わにし、眉間にしわを寄せて顔をしかめていた。
『…どうする?このあと本当に「滅びの歌」が聞こえてきたら』
「寿命は3ターンですね」
『笑えないこと言うなよ』
これから何が放送されるんだろう?聞いてしまったらどうなるんだろう?僕ら、職員室の外にいるんだけどな。やはり何かしら害を被ることになるんだろうか。
現在、職員室内で残業している教師が複数人いることは確認できているわけだが、彼らはどうなるんだ?全滅?…それは流石に凶悪すぎない?
…あら?そういえば、今この瞬間、放送室に黒幕がいるってことになるよね?扉を蹴破って元凶を現行犯逮捕したらいいのかな?あれこれ思案していると、チャイムを吐き出しきったスピーカーからは、次なる刺客――耳障りなノイズが聞こえてきた。おお、『サイレ●トヒル』やら『P.●.』やらのプレイヤーになった気分。不安を煽る演出がこれでもかってくらいに効いてるわ、メンタルがかき氷みたいに削られてSAN値直葬って感じだ。
……、うーむ…、まいったな…、これはビビるべき場面なんでしょうけどねえ…。こっちだって真っ当に怯えたいんだけれども、「はあ⁉ ちょ、おまえ寝てんの⁉ 何で扉の前にいるわけ⁉ 出られないんだけど!おい!ヤドン!!?」という焦った声と共に放送室の扉が内側からガタガタ揺すられてるのを目の当たりにしたらね、…ごめんなさい…こういうときどんな顔すればいいのかわからないの…、…笑えばいいと思うよ…(というか、笑うしかないと思うよの方が状況的には正しいかも)。
しかも、放送室内で発言がなされるたびに、マイクに拾われて「……ちょ、…ま…、……ねて……ヤド……」などとスピーカーから垂れ流されている。マイクの電源が入りっぱなしなのに、当の本人は気付いていないらしい。
『…とりあえず、助けてやるか…』
明らかに笑いを噛みころしながら歩み寄り、ルチャさんが放送室前で爆睡するヤドンをひょいと持ち上げる。自分の体重より更に重たい相手だというのに、まるで空箱をどかすような仕草だった。ヤドンの方も、鈍感というかなんというか、ふてぶてしく眠り続けている。この熟睡ぶりでは、耳元で爆竹を鳴らしたって起きないかもしれない。
「いやあ、焦った…。開けてくれてありがとう」
放送室から出てきた男性はこの学校に勤める教師の一人だ。清掃員さんの記憶にある限りでは、顔見知りである。だから、男性教師の方も僕に向かって気さくに話しかけてきた。
「今夜の相棒はルチャブルなのかい?いつものベトベターは?」
こういうときにこそ、ただの外見上の成りすましではなく記憶もコピーしていることが活きてくる。違和感と不信感を抱かせないよう、僕は何食わぬ顔で会話に応じた。
「ベトオくんですか?もちろん連れてきてますよ」
ほら、と僕は腰元のホルダーにつけたモンスターボールを指さした(本当はルチャさんのモンスターボールだ)。
「今夜は、通常業務に加えて、ロッカーや棚の裏も清掃する予定になっていて。力仕事を手伝ってほしくて格闘タイプのポケモンも同伴させてるんです」
「頼もしい助っ人で何よりだ」
和やかに話していたのだが、そのうちに、相手は何かを思い出したかのようにはたと表情を変えた。
「そういや、放送ちゃんと聞こえたか?最近スピーカーの調子が悪くてな!直しにいってたんだ」
「…修理を試みた方を前にして申し上げにくいことなのですが、流れてきたチャイムは音程がはずれてました。おまけに、マイクを通した音声はノイズ混じりで聞き取りづらかったです。専門の業者に頼むことをお勧めします」
「そうか…、やっぱり素人でやるには限界があったな。実のところ、スピーカーだけじゃなくて、放送室内の機械はほとんどが年代物なんだ。寿命がきてるのかもな」
「でしたら、業者に修理を頼むにせよ、部品の製造販売が終了している可能性もありますね」
「そのへんも業者に問い合わせてみるよ。いざってときは新品の入れ替えを管理職に掛け合うさ」
ひとしきり会話を交わしたのち、「では仕事に戻ります」と切り上げて、僕はルチャさんと共にその場を後にした。職員室からも放送室からも離れ、周囲に誰もいないことを確認してから、僕らはとうとう声をあげて盛大に笑うのだった。
緊緩、ってね。緊張状態から解き放たれたときに人は笑うのだと聞いたことがあるけれど、まさにその通り。不気味な放送が聞こえてすわ一大事かと思いきや、単なる故障だと判明したときの落差。これが笑わずにいられますかって。
不具合を起こしている放送機器の所為でおどろおどろしい音声が学校中に響き渡ることになり、結果、「あの世からの放送」なんて曲解されてまことしやかに囁かれるようになったんじゃないのかな。で、連れていかれるとか、戻ってこられなくなるとか、出られなくなるとか、そういう具合に後付けで尾ひれがくっついちゃったのかも。
怪談や噂は伝言ゲームみたいなところがあるからね。話が広まっていくほどに事実と乖離していく。人間は受信した情報を自分に都合のいいよう解釈するし、流布の過程で内容が盛られていくのもよくあることだ。ゆえに、怪談は眉唾物なのである。本当は、誰もが心の奥底で「情報源が不明」ということも「正確に広がった情報ではない」ということも分かってるはずなんだけど、…それでも、面白いからシェアしたくなるし、安易にリポストしちゃうんだよねえ…。
きょうふの ほうそう かいけつ!? これで あんしん ありがと!
ふむふむ…なるほど…
スピーカー こわれてた… そう こわいこと ちがった! よかった!
【 補足 】
作中、特殊フォントを用いた個所があります。
表示されない場合は、お手数ですがご一報ください。
【 個人の戯言 】
ホラーゲーム「P.T.」は個人的に最恐の作品だと思っております。
「