夢でもし逢えたら 素敵なことね / RATS&STAR『夢で逢えたら』
「おばけの じゅぎょう なぞ とけた?
さすがの じつりょく!」
僕が笑顔でピースサインを作ったら結果を察してくれたようで、幽霊少女は手をたたいて喜んでくれた。
「ふむふむ…… スリーパーの さいみんじゅつ……」
あのこ まだ おぼえてた。うれしい。
六つ目の怪談『おばけの教室』の顛末を聞き終わった彼女は、柔らかく微笑んだ。「あのこ まだ おぼえてた」…この一言から分かることがいくつかある。彼女もまたスリーパーを覚えているということ。「あのこ」という呼び方から浮かび上がる親密さ。そして、随分と長い間、お互いが会えずにいたこと…。
「…君がこの学校に通っていたのは、ずっと前のことでしょう?それなのに、『今』の学校の心配をするんですか?」
なぜ、七不思議を解決したいと思ったのか――…この問いに、幽霊少女は明るい表情で答えてくれた。目の前で困っている人がいたから手を差し伸べたのだと、そんな、当たり前のことを語るかのように。
「わたし スクール だいすき。みんな こわい ふあん かなしくなる。
スクール みんな やさしい。わたし きた とおい ところから。ことば ちがう こまった。でも スクール かよった。みんな いいひと。みんな だいすき。スクール まもりたい よかった。
なぞ といた あなた すごい。とても ありがと!」
幽霊少女の願いが僕らを動かし、結果、学校の怪異は一掃された。始まりこそ完全な見切り発車だったけれど、今となっては手伝えてよかったという自己有用感が心を満たしている。
損得勘定抜きで他者の幸福を祈ることができる心映えは美しい。だから、次は、君自身が救われてもいいと思うんだよね。ここまできたからには、最後の謎も解いてみせるさ。
「君は七つ目の怪談を知らないと言っていましたが、実は、僕…知ってるんですよ…」
「ほんと!?」
勿体ぶった話し方をしたのだが、彼女は素直に目を丸くして、純粋に続きを待ちわびている。可愛いね。最後の怪談とその解決方法を知ったら、どんな顔を見せてくれるのかな。
「七つ目の怪談は、『はぐれた女の子』。学校にいって、それっきり、帰ってこなかった女の子の話です」
「……、……それって……もしかして……?」
「解決するのは簡単です。その女の子が、無事に、おうちに帰ること。そのための迎えだってきてるんですよ。…ほら」
ハッピーエンドでなくっちゃ、ね。
僕は、立てた親指で後方を指した。そこには、呆然と立ちつくすスリーパーがいる。会いたくて会いたくてたまらなかった相手を、いざ目の前にして、スリーパーはその大きな感動を持て余し固まってしまったようだ。
スリーパーの言を信じるならば、――忘れられなかったのだと、彼は話していた。大切な家族を迎えにいけなかったことを悔いて、大切な家族を失ったことが寂しくて、あの教室でひとり、「かつて食べた夢」を再現しては
少女の夢を目の前に広げて、彼女の幸せな思い出を眺めて、懐かしむ。既存の教室を利用して構築していた特殊な空間――…今回は、そこに部外者が紛れ込むことになり、本人の恐怖のイメージが混ざってしまったので、僕の教え子は殊更に恐ろしい幻覚を見る羽目になったらしい。申し訳ないことをした、とスリーパーは力なく肩を落として罪悪感を滲ませていた。
「スウちゃん!」
先に駆けだしたのは幽霊少女の方だった。抱きしめ合うのかと思ったけれど、少女の指先が届く前にスリーパーは膝をついて、両手で顔を覆い、感極まったのか肩を震わせて泣き出していた。…そうだね、考えてもみれば、抱擁は難しいか。むしろ、彼女に触れようとしたらそこに実体がないことが分かって余計に悲しくなっちゃうから、再会の喜びは、見つめ合う中で静かに噛みしめた方がいいのかもしれない。
『えー…帰るのぉ…?』
フワンテが恨めしそうな調子で呟いている。このまま水を差すのではないかと危ぶまれたが、ごねるフワンテを諫めたのはまさかのコウガくんだった。
『野暮な野郎だ、…物足らんというのであれば拙者が遊んでやるぞ』
絶対にお近付きになりたくない類の悪党面で凄まれたフワンテは、目元を引きつらせながら『遠慮しとくよ』とたじろいで、尻すぼみになった。そもそものタイプ相性からして悪いしな、うん。
幽霊少女が振り返って「帰っていい?」と律儀に尋ねてきたときも、フワンテは駄々をこねることなく『気が済むまで遊んだもんね。いいよ』と引き下がり、名残惜しそうではあったがしゅるんと姿を消した。相手に四の五の言わせないためにはビビらせるのが手っ取り早い。たまには役立つじゃないの、コウガくんの恫喝も。
緊急車両のサイレンが近付いてくる。きっと、目的地はこの学校だ。人伝ての通報になったが、どうやら上手くいったらしい。
「さて、と…。僕らもこの辺りで撤収ですかね」
『…一番の功労者はおまえだと思うんだが、この場に残っていなくていいのか。これから到着してくる警察や救急隊員に対して説明も必要だろう?』
ルチャさんが気にかけてくれたが、僕は軽く肩をすくめるにとどめておいた。
「いいんですよ。それに、これって下手したら新聞沙汰でしょ?これでも一応、僕は、世間的には雲隠れしてる身なので。メディアで取り上げられたら面倒です」
だから、僕らの出番はここで終わり。人だかりができる前に離れなきゃ。
後ろ髪を引かれる思いは、確かにある。特に教え子の容態は気になるところだし、できることなら見舞いに行きたい。彼女の近況も、ヌメイルとの馴れ初めも聞きたい。しかし同時に、彼女の人生に干渉しすぎることをよしとしない自分もいる。そして、後者の振舞いが正解であることが、何となく分かる。
今宵、僕らは三人の女の子に出会った。彼女たちがそれぞれ心休まる夜を過ごせますように、と、願うことが今できる精一杯。
恋々とするのは相応しくない。僕らは振り返らぬままに、下校する生徒よろしく校門を出た。
【 補足 】
ゲームに登場するスリーパーは首まわりの毛が少なかったので、今作のお騒がせスリーパーも「雄」として描写しています。