一口に御庭番と言ったって、色々だ。
領地内の視察、敵国への間諜、城内警備…全部が全部「忍」として暗躍するわけではない…が、それでも、重要な任務に就くことが多いので、身を守り敵と競り勝てるような戦闘力が求められる。必要ならば、迷わず対象の息の根を止めることまでやってのけないといけない。
早い話が――身軽で、武力に秀で、血生臭かろうと心を壊さない奴こそ大歓迎ということだ。
そして、そういう奴らは、お分かりかと思うが世間からのはみ出し者ばかりである。
この部署にはポケモンだけでなく、当然ながら人間も所属しており、基本はそいつらが指令役だ。で、御庭番の人間共というのもまあ何かしら欠落している輩が多く、ポケモンと人と、似た者同士で上手く付き合って今に至っている。
気性の荒い連中揃いなので喧嘩が絶えないが、人間側に直接的な害が出ない限り、実はどれだけ激しく争っても咎められることはない。喧嘩沙汰で死ぬならそこまでだと、人間たちはあっけなく切り捨てる。弱い個体は不要、互いに間引く分には好きにしろという滅茶苦茶な発想がまかり通っているのだった。
だから、てめェはいつから氷型になったんだよとからかってやりたいほどに底冷えした空気を引っ提げて『表に出ろ』とゲッコウガが言ってきたところで、誰も止めたりなんかしない。『お!血祭りか!』とはしゃぐ、どうしようもない奴らの掃き溜め。果てには、どちらが死ぬのか賭け事まで始める馬鹿野郎共だ。不謹慎極まりない、とことん性根の腐った、大事な仲間たちである。
御庭番最後の良心と言われるキリキザンですら『嬉々として踏み抜いた地雷なら、同じく嬉々として死んでいけ』とおっしゃる。なんとも御尤もなことで。
細い蝋燭を一本立て、「これが燃え尽きるまで」という制限時間付きの喧嘩。
いかんせん、対戦相手どころか自分自身、外野を含め丸ごとクズばかりなので、複雑なルールなんぞあろうはずもなかった。お好きにどうぞ、死んでも恨みっこなしよときたもんだ。
『ブラッキー!おまえが生き残る方に賭けたぞ!首尾よくいったら大吟醸で祝杯あげようぜ』
明るい口調で投げかけられるクソみたいなヤジには『あいよ』と応えておいた。
『おい、あたしがくたばる方に賭けた奴らァ覚えとけ。今度てめェらの飲み水に毒汗ぶちこんであの世へ送ってやっからよ。あたしの代理で閻魔様に会ってきな』
悪しざまに罵ってやれば『やべ、俺たちじゃねーか』と愉快そうに笑っていやがる。こうでなくっちゃァ、面白くない。
『てめェからは何かねーのかいゲッコウガさんよ』
苛立ちを隠しもしない蛙を見遣れば、盛大な舌打ちが聞こえてきた。
『ねえよ。それとも何だ、ルチャブルと何を話したのか訊けば口を割るのか』
『馬鹿言いなさんな。それを素直に喋っちゃァ、悪単一型の名折れさね』
『だろうな。去ね』
――と、心躍る殺し合いをしたのが一昨日の夜だ。
目を潰しにかかってきた相手の攻撃を何とか躱したまではよかったが、それは眼に直撃しなかった分、代わりに左耳を吹っ飛ばしていった。仕方ない。獣の身ではあるが、自分は嗅力より視力の方が秀でている。失明して視界を狭めることの方が今後の厄介事は大きい。むしろあのゲッコウガと本気でタイマンを張り、この程度で済んだのなら上等だった。
『寒風が傷にこたえるねェ』
あんな奴の隣にいたって、心が浮き立つことはない。落ち着かない。いつか寝首を掻かれるんだろうと思うと、安心なんて、もっとできない。だが、ルチャブルは一緒にいたいと言う。ゲッコウガはきっと、誰にも見せない一面を、彼の前でならさらけ出せるのだろう。ルチャブルが相手なら、つまらん意地を張ることなく気軽な雑談ができてしまう自分と一緒で。
嗚呼、…それにしても。
なんと愛おしげに想いをさえずるのか。つくづく天晴れな鳥である。
不器用なりの甘やかな吐露を受けてそのまま胸を温めてしまったことが我ながらくすぐったく、あたしも焼きが回ったもんだと独り言つブラッキーだった。