※この作品はR-18です。

雨風奇譚   作:はたた

202 / 246
【 注意 】
 第五章のルチャブルは、「総排泄腔の個体」となります(現実世界の鳥類にとっては一般的な身体構造です)。
 ただし、本作はご都合主義の設定がばがば二次創作なので、(今更ですが)ゲッコウガは蛙なのに普通に男根がついてるし、ルチャブルの身体に関しても所詮は「総排泄腔とは名ばかりのファンタジーすけべ穴」であることに留意してください。


第十二話:ルチャブル/ゲッコウガ★

 慕情の告白を境にゲッコウガとの関係性は大きく変わったものの、日々の生活まで劇的に変化をしたわけではなかった。薬草を集めて、日干しして、薬包紙で小分けにして。時には互いを稽古相手に格闘の鍛錬をして。このように、ふたり旅を始めて以降ずっと続けてきた作業や生活習慣は維持されている。恋仲らしいことをやるにしても、ふとした瞬間にそっと肩を寄せ合ったり、触れるだけの口付けを静かに交わすくらいか。元から大して欲深くないルチャブルにとっては、毎日の暮らしの中でほのかに色付く瞬間が増えただけでも十分だった。燃え上がるような恋とはよく聞く表現だが、それは、燃え上がるのも一瞬なら燃え尽きるのも一瞬な気がして、何だか寂しい。だから、このまま穏やかにゲッコウガとの関係を紡いでいければそれでいいと考えていた。…だが、その慎ましさはルチャブルしか持ち合わせていなかったらしく、そう時を置かぬうちに、相方の蛙によって思いもよらぬ激しい熱の前に晒されることになる。

 

 ――就寝前に、ゲッコウガは、よく眠れるようにと茶を淹れてくれる。ラベンダーやレモンバーム、ヨモギ、ナツメ…素材は日によって様々だが、その夜は、菩提樹(リンデン)の花を用いた茶が出された。癖がなくて飲みやすく、芳しさが日中の疲れを溶かしてくれる。いつまでも味わいたいところだが、少量なのですぐに飲み終わる。飲んだら片付けて、寝る。いつものことだった。入眠時のルーティンである。

 口の中には、まだ、茶を飲んだ際の温もりと上品な香りが残っている。心を落ち着かせ、整え、優しく眠りに誘うハーブティーだ。今夜もゆったりとした気分で眠りにつくことができるだろう…、……、その、はず、…だったのだが、ルチャブルは今、落ち着くどころかときめいている。ゲッコウガの横顔に見惚れている。

 

 ゲッコウガが不意に『月が綺麗だ』と呟いたので、ルチャブルも空を仰いだ。それが発端だった。

 ルチャブルは、満月と新月以外の月の名を知らない。いま夜空に浮かぶ中途半端な形の月が何と呼ばれるのか分からなかったが、その月とてやはり月なのであり、満月ほどとはいかずとも暗闇の中でひときわ輝いて、世の端々にまで明るさを提供してくれる。

 月の美しさは今夜に限ったものではないと、ルチャブルは思う。ふたりで眺める月はいつだって美しかった。出来合う仲ともなれば尚のこと。月から視線を外してそっとゲッコウガを見遣れば、月明りに照らされるその横顔の、なんと凛々しいことか。このポケモンと想い想われる間柄なのだという事実が、ルチャブルの胸に切ないほどの幸福を宿した。

 キス、したい。と、思った。

 思ったから、少しばかり身を乗り出して、ゲッコウガの首に巻かれている舌に向かって甘噛みを試みたのである。

 

 

+++++

 

 

 番(ヨメ)からちゅうされたんですけどぉぉぉお!!!

 転生後も粘着してくる激重ストーカー…もとい、強火を自負するオタクが、推しからちゅうされて正気を保っていられるはずもなく。よって一時、くらりと酩酊するような状態に陥ってしまったため、無防備な表情を露わに呆然とルチャブルを見つめる羽目になった。

 

『いつも、…こういう、ことは、おまえからだよな。だから、たまには…って…』

 

 いざやってみたら、思ってた以上に照れるもんだな。そう言ってはにかむルチャブルは、どうやらゲッコウガの動揺には気付いていない。

 当のルチャブルは無自覚なのかもしれないが、その目つき口つきにはうっとりとした甘さがあって、ゲッコウガをたまらない気持ちにさせる。っとに、…マジでブチ犯(おか)案件なんだが…?「この小鳥は自分に惚れている」ということを分かりやすく示してくれるルチャブルの言動一つ一つが愛おしいあまりに、この場で押し倒してひんひん鳴かせたい欲が膨れ上がって理性にヒビを入れてくる。

 もっと、こう、ルチャブルは露骨に照れ隠しをするタイプで、突慳貪(つっけんどん)な態度をとることが多かったのだが、今世のルチャブルはその傾向が薄れている。これまで、ルチャブルとは友情や仲間意識を恋愛へと発展させて関係を築き上げてきた。しかし今回、関係作りの出発点が「ゲッコウガへの尊敬」に立脚しているためか、ルチャブルはざっかけない部分を決して見せなかった。かつてのつんけんしたところも可愛くて好きだったけれど、今世、こうも敬意と憧憬を直接的に明示されては身も心もでろりと溶けてしまう。ゲッコウガが薬師として生きてきたからこそ得られた副次的な効果であるのは間違いなかった。ならば、ルチャブルの隣に並ぶに足る雄であり続けよう。ルチャブルが好意を前面に出してくれるのなら、今後もきっちりと薬師の務めを果たしていこう。そんなことを思う。つい先日まで「ルチャブルと再会できたし、番になれたし、もう薬師辞めちゃってもいいんじゃね?」などと考えていたはずが、手のひら返しもいいところだった。この忍蛙も彩鷹が絡むと大概チョロいのである。

 

 で。現状を再確認しておこう。ちゅうされたんである。最愛の番から。いい感じの月夜に。これで「おやすみなさい」はないだろ流石に…、と、ゲッコウガは思うのだが、何せ相手はルチャブルだ。ちょろっとイチャつけたらそれで満足、みたいなところがあるのでしっかりと訊いておかねばならない。

 

『…ひとまず問うが…』

 

 ゲッコウガは、その長い舌でルチャブルを引き寄せ、敢えて色っぽい雰囲気を醸す。 

 

『誘ってるのか』

 

 まずは一歩、踏み込む。案の定、ルチャブルは染めた頬もそのままに『誘う、って…?』と小首を傾げる。もちろん、かまととぶっているわけではない。ルチャブルは本当に愛情表現以外の意図を口付けに含ませていなかったため、当惑しているのだ。

 んー…、これは分からせなきゃだな…。ってなわけで、ゲッコウガは『 交尾 』と明け透けに物を言い、ふたりにとっての爆弾をひょいと投下した。

 とっておきの声を奏で、ルチャブルの鼓膜をくすぐるように決定的な一言を囁いた。これで堕ちなかったらかなり手強いぞと内心で構えていたゲッコウガだったが、幸い、杞憂に終わる。性交渉を意味する単純明快な単語にも、その単語を紡いでみせた声音にも一定の破壊力があったようで、ルチャブルはぶわりと全身の羽毛を膨らませていた。

 

『こ、…交尾、とか、…そんな…雄同士で…』

 

 無理だろ、とは、ルチャブルは言わなかった。実際には言いかけたのかもしれないが、『…いや…おまえのことだ、方法を知ってるんだろうな…』という発言で上塗りし、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 ゲッコウガとしては、『そうだ、(御主の身体のことなら誰よりもよく)知っているぞ』と告げ、どうにかルチャブルをその気にさせて「本番」に至りたいのだが、さて…。注意深くルチャブルの様子を見守っていたところ、彼は背を丸めて膝を抱え、不安そうにしながらも『俺はどうしたらいい…?』と尋ねてきた。

 

『…情けない話かもしれないが、俺にはその手の経験がないし…、交尾の作法とか、そういうのも知らなくてだな…』

 

 かつて共に過ごしていた里のおとなたちは『そのときがくれば勝手に身体が動く』としか話してくれず、ルチャブルにとって、生殖に関することは謎のベールに包まれたままだったという。

 未知に対する戸惑い――…それを、ルチャブルは恥をしのんで打ち明けてくれた。しかし、ゲッコウガはルチャブルの胸の内を知ってなお『そうかそうかオレのために清らかな身でいてくれたんだな愛い奴め』とサイコホラーな発想をする。というか、ルチャブルから『俺はどうしたらいい』なんて返された時点で『つまりこちらが手取り足取り教えてあげたら応じてくれるってことですよねありがとうございます!!!』と食い気味になっており、そんなゲッコウガにとって童貞処女にありがちな悩みなどなんら障害にはならない。即座に取り去ってくれよう。

 

『安心してくれ、ルチャブル』

 

 今夜を初夜に変えたるぜという下卑た本音を抱えて意気込みつつも、ゲッコウガはルチャブルの肩を抱く己の手に努めて優しさを込める。

 

『交尾とはふたりでするものだ。今は互いの身体を知らずとも、触れ合って、愛し合って、…その上で、ふたりにとっての一番いい形を探っていこう』

 

 口八丁の蛙である。しかし、その巧みな言葉がルチャブルを励まし、顔を上げさせた。

 

『そう…だよな』

 

 肩に置かれたゲッコウガの手に自身の手を重ねて、ルチャブルは微笑む。

 

『おまえと一緒なら大丈夫だよな』

 

 くぁ~…ッ、…かわいい…!!!

 皆さん、よろしいでしょうか。耳かっぽじってよく聞けよ。世界でいっとう可愛いこの小鳥がオレの番なんです、手ェ出すなよ。幸福を噛みしめ、いっそ打ち震える想いでいるゲッコウガに、ルチャブルは『先立って頼みたいことがあるんだが』と言葉を重ねてきた。

 

『俺がおまえと交尾できる身体なのか診てくれるか。…どこをどう使って交尾するのか見当もつかないからな』

 

 えっろ。

 刹那、宇宙猫である。何それ。何なんだよそれ。…信頼してくれてるんだよな、分かってる。それにしたって無邪気に言っていい台詞じゃないぞルチャブル…。

 見当がつかないって、そんなことある?穴に棒を突っ込んでずっこんばっこんってこと知ってたら同性同士とはいえ何となくでも部位の想像はつかないか…?今までのひとり旅で他のポケモンの交尾を目撃したことくらい…って、…あー…見たことないのかもなあ…。ゲッコウガは転生前の記憶を保持しているため、人間じみた暮らしをしているこの世界のポケモンたちの在り方に違和感を覚えることがある。繁殖行為に関することも、その一つだ。かつて、野生のポケモンたちは、番を持てば横取りを防ぐためにその場で素早く交尾を行うことが多かった。獣であればこそ恥も外聞もなく、たとえ誰かに見られようが何だろうがお構いなしだ。ところが、この世界のポケモンたちの多くは集落をつくり、個々の住まいがあり、他者が容易には立ち入れない私的な空間を手に入れている。そこに番った相手を連れ込んで、巣籠り状態でじっくりと交尾できるようになったわけだ。ルチャブルが青姦に出くわすことなく性知識も性経験もぼんやりとしたままで今に至っているというのも、可能性としては割とありえることだった。

 じゃあ、何だ。ホントにいいの?AVみたいなことやエロ同人誌みたいなことマジでヤっちゃうよ?いいの?

 

 いいってことにしよう!

 

 自己完結を済ませ、『任せておけ』と力強く頷くゲッコウガ。鼻血を噴きそうになるのをこらえながらあくまでも薬師の顔つきを保ち、ルチャブルをそっと草の上に寝かせた。仰向けになるルチャブルの両脚に触れ、『開くぞ』と予告する。恥じらいながらも無言でこくりと首肯したルチャブルの様がゲッコウガの背徳感を高め、否応なく興奮させていく。

 

『御主の最も繊細な器官といって過言でないところだ。拙者に触れる許可をくれたこと、感謝する』

 

 表面上は精一杯紳士ぶって取り繕っているが、内心で湧き上がる淫らな期待で今にも心臓が弾けとびそうだ。この状態でルチャブルの性器を拝もうものなら間髪入れずにむしゃぶりついてしまうやもしれん…などとスケベなことを考えていた折、ゲッコウガの手が止まる。

 …あれ?

 あれれ?

 今からにゅくにゅく扱(しご)いていじめるつもりだった雄根(ペニス)は?それが格納されているはずのスリットは?柔らかく解したあとぐちょぐちょに掻き回してメスイキを躾けるための菊門(アナル)は?

 これまでルチャブルと過ごしてきたいくつもの生涯の中で、目に焼き付けてきた性器が、見慣れた性器が、素描せよと言われたら細部まで詳しく正確に描ける(くそキモい)自信のあるルチャブルの可愛い可愛い性器が…みつからない。羽毛をかき分けた先で隠れていたのは、外気に晒されて身をよじるように収縮する穴だけだ。

 

 男色が鶏姦と呼ばれることもあった由来――…鳥に一つしかついていない器官(あな)「総排泄腔」。その一点が、綺羅星みたいに、今まさにゲッコウガの視線の一切をひきつけてやまなかった。

 

 

+++++

 

 

 たとえば物を見る目。音を聞く耳。食べるための口に、滑空に使う翼。蹴り、駆け、突き、掴む四肢…。ルチャブルは、自分の身体のことをあ(・)る(・)程(・)度(・)は(・)理解している。獲物を狩ったとき、肉だけでなく臓器を喰らうこともあるので、体内の器官に関してもそ(・)こ(・)そ(・)こ(・)知っている。だが、「性器」となると、まるで分からなかった。理由は単純で、使ったことがないし、特別に意識することもなかったためだ。「自分にも性器が備わっているはずだが、どこにあるのか分からない」というのが、ルチャブルの本音である。

 だから、今回、交尾の話題が出たのはちょうどいい機会だったのかもしれない。ゲッコウガに調べてもらえばいいのだ。知識のある者に任せておけば問題ないと思ったからこそ、ルチャブルは恥じらいこそすれ抵抗なく仰向けになったし、開脚させてくるゲッコウガを止めることもなかった。そうか、股座(またぐら)から診ていくのか。そこに生殖にまつわる部位が…?落ち着かない気持ちでいると、ゲッコウガの指先がするりと撫でた箇所があり、瞬間、ぎくりと身を強張らせてしまった。

 

『なん、で、…そんなところ…!』

『なんでと言われてもな…、これが御主の性器だし…』

『はあッ⁉』

 

 混乱は必至だった。

 なぜなら、そこは排泄に用いるところだからだ。ルチャブルが身を屈めて覗き込もうとしても見えない位置にあるその穴は、生まれて此の方、排泄以外の用で活躍したことなど一度もない不浄のもの。性器だといわれたところで、にわかには信じられなかった。

 

『だって、そこは…』

『交尾経験のない御主にとっては、排泄でしか使わないところだったろうな。だが、一部の水鳥を除けば、鳥ポケモンのほとんどは御主と同様に「総排泄腔」と呼ばれる器官を有しているんだ。雌ならば排泄物と卵、雄ならば排泄物と精子が同じ穴から体外に排出されるような構造になっている』

『……、…冗談だろ…』

 

 新事実の衝撃で面食らっているルチャブルに、ゲッコウガはなだめるような声をかけてくれた。

 

『気持ちは分からんじゃないさ。いくら己の肉体とはいえ、そう簡単には受け入れられないこともあるだろう。…交尾にいたる前に、まずは御主がこの部位を性器と自認するのが先でござるな』

 

 ぬるり。

 その触感を拾ったのは他ならぬルチャブルの「穴」だ。刹那、経験したこともない快楽が全身を貫いて、ルチャブルは反射的に仰け反り、腰を浮かせてしまった。

 

『――…ッ、…あ…』

 

 ? ? ?

 頭の中が疑問符でいっぱいになる。息の仕方すら忘れるような感覚だった。電流を浴びた後みたいだ。

 ゲッコウガの手によって開脚を強いられたまま、ゲッコウガがルチャブルの股の間に顔を埋(うず)め、粘液をまとわせた舌で性器を舐めてきたのだと、そうしたこと一つ一つを理解するまでに随分と時間を要した。

 

『舐め、……、…は…?…正気か?』

『これ以上ないほど正気だ。御主の「性」を目覚めさせるためならどんな手伝いでもするぞ、拙者は』

 

 ルチャブルならもう分かるだろう?

 拙者は好いた者に尽くすタイプだ。

 

『性器を通じて得られる性的な快感、今ので思い知ったはず。…さあ、その新たな感覚を身体に馴染ませていこうな』

 

 次は射精できるまで頑張ってみよう、とゲッコウガは平然とした口調でとんでもないことを言い放ってくる。

 

『鳥の交尾は、性器を擦りつけることで行われる。発情の興奮と擦り合う際の性器周辺への刺激で射精が促されるというわけだ。だから舐めたんだ。不用意に手を使うより傷つける心配がないからな』

 

 ルチャブルを絶頂させることが目的だ。だから、ルチャブルも遠慮なく絶頂してくれて構わないぞ。

 そう言って、再び、ゲッコウガが舌を這わせてくる。綺麗な顔を歪めることなく積極的に奉仕してくるその様子はあまりにも目に毒だったが、しかし、蠱惑的な視覚情報によって興奮が増したのも確かだった。

 

 また、なめられる。

 さっき、あれだけすごかったのに、もっとながくなめられたら、どうなってしまうんだろう。

 

 …なんで、俺、…期待、してるんだ。

 これから起こることを想像して緊張しているはずなのに、心の内側で快楽の催促をしている自分に気付いて、はしたなさに眩暈がして、羞恥で身悶える。

 でも、…でも、ゲッコウガは、ぜ…絶頂、して、いいって…。

 千々に乱れる感情。考えがまとまらない。まとまるはずもない。快感の名残が消えていないうちから刺激を上乗せされるとどうなるのか、その答えはもちろん身を以て知ることになる。それはもう、嫌というほどに。

 

『あ、ん…っ、ぁ、げ、こが、…!』

 

 待ち望んでいた刺激が与えられ、心身がどうしようもなく悦んでいるのが分かる。自分が発しているとは思えない、甘ったるい響きを含む媚びた声が、勝手に口をまたいで出てくる。

 試しに舐められ、すぐに解放された先程とは違う。ゲッコウガの舌技は、明らかにルチャブルを一定の高みへと引き上げようとするものに切り替わっていた。不潔だから止めておけなんて言えなかった。『もっとシて』と欲していた。そして、その欲求は、ゲッコウガにきっと見抜かれていた。だって、時を追うごとに、舌使いが執拗になっていく。

 

『待っ、…あ、あ、ッだめ、おくが、――…』

 

 どうなってるんだよ、俺の身体。まるで別物じゃないか。排泄以外の用途がないと思い込んでいた穴が素直に愛撫を享受して、視界が白むほどの快感を生み、全身に浸透させていく。舐められているのは穴の入り口だけなのに、なぜか触れられてもいない身体の深部が疼く。気持ちのいいことが積み上げられて、腹の奥がどんどん熱くなっていく。腰が重たい。知らない。知らない、こんな感覚。内臓が収縮している。何か大きなものが押し寄せようとしていることを察知して、身構えているみたいだ。

 畳みかけられては追いつかない。待って、と、乞うたのだがゲッコウガは素知らぬ振りで舐め続けている。気持ちがいいのなら中止する道理はなかろうと言わんばかりで、わざとらしくぐじゅぐじゅと音を立てて、煽ってくる。このままじゃまずいと思って、ゲッコウガを遠ざけようと頭部を押してみたものの、快感に屈している腕には何の力も入らない。もはやなされるがままだった。

 

 大きく、下腹部がうねった。

 ついに決壊したそのとき、堪えようもなく吐き出したそのとき、声になり損ねた掠れた音が、引きつった喉から這い出てきた。

 快感を逃す術など当然知らず、ルチャブルはゲッコウガが寄越したものを馬鹿正直に丸ごと受け取って、そうして、生まれて初めて射精した。てっぺんにある冠羽の先に向かって突き抜けていくような快感が、ルチャブルの脳を焼く。理性が終わった、と、直感する。

 

『…上手にイけたな。いい子だ、ルチャブル』

 

 ゲッコウガがようやく顔を上げる。散々に穴を舐(ねぶ)っていた彼の舌の先から、白い粘液がつうと垂れていく。それを、見せつけられる。たぶん、今、意地の悪いことをされている気がする。だけど、そんなゲッコウガを目の当たりにして、なぜだか、胸に去来したのはきゅんとする甘酸っぱさだった。こんなにも惚けているのは、きっと、射精した所為。すっかり腑抜けてしまっている。

 

『まって、って、いったのに…』

 

 心の準備をさせてもらえないまま、沼に向かって突き飛ばされた気分だった。深みにはまるのも時間の問題だ。それくらい強烈で、依存性のある悦びだった。

 

『そうだな、…聞こえていたんだが、快楽に翻弄される御主がいじらしくて、つい、…加減がきかなくなった』

 

 ほら、ここも。加減を忘れて熱(いき)り勃ってる。

 ――それは、ルチャブルにはない、ゲッコウガの雄の証。いかにも臓物らしい赤黒い色味に、尖った形状。猛々しく血管が浮き、怒張する肉の茎。涎みたいに、先端からは透明な液体が零れて、精臭を撒き散らしている。圧倒的な剛直の存在感を前に視線が吸い寄せられて釘付けになってしまい、こくんと唾をのみこんだ。自分相手に興奮されているという紛れもない事実が、その性器の在り様が、ルチャブルを喜ばせた。

 

『次は、共に果てるとしようか』

 

 挑発するように、ゲッコウガは自身の雄根をルチャブルの雄穴(メスあな)に押しつけてくる。ゲッコウガの先走りと出したばかりのルチャブルの精液とが混ざり、くちゅりと淫猥な水音が滴った。 

 

『オレの魔羅を擦りつけたらおまえはどんな反応を見せてくれるのか、今から楽しみだ』

 

 ゲッコウガが密着してくる。ゲッコウガの重みを感じる分だけ、ルチャブルの穴が圧される。圧迫だけで甘く微細な痺れが生じて、ルチャブルをさらに敏感にしていく。

  

 本能が剥き出しになったゲッコウガの腰使いは、まさに獣のそれだった。神経を直接嬲られている、そんな錯覚をするほどの容赦のない鮮烈な刺激に襲われ、揺さぶられ、ルチャブルは性感帯から火がついて全身が燃え上がっていくような熱を味わっていた。

 これ、交尾だ。交尾してる。ゲッコウガと。

 心臓が壊れそうなくらいに脈打つ中、覆い被さってくるゲッコウガの背に腕を回して、縋りついた。ふたりして荒々しく息をして、こんなに顔が近いのにキスをしないはずもなくて、互いに舌を絡ませるように夢中で口付ける。

 

『すきだ、…すき、げっこぉが、っ、すき、…!』

 

 限界まで追いやられていく。考えるよりも先に感情が言葉になって、うわごとみたいに「すき」だと繰り返しているうちに、込み上げてくる想いと共にルチャブルは再び精を放った。

 やがて時満ちて、ゲッコウガも身震いをした。ルチャブルの腹の上にぶちまけられた白濁の粘液。どろりとして、熱くて、そのいやらしい匂いが鼻腔も肺も埋めてしまって、酔いそうになる。

 

『マーキングも済ませたし、名実共におまえはオレのものだな』

 

 艶然とするゲッコウガから、壮絶な色香が漂う。美貌が妖しく相好を崩せば、それは大層な迫力となった。

 

『これで今後とも気兼ねなく盛り合えるなあ、ルチャブル…?』

 

 ゲッコウガはひとしきりルチャブルの様子を眺めた後、そこに思い描いていたものを見出したように、満足そうに笑みを深める。

 

『早速、次の催促か?随分と物欲しそうな顔をしてくれるんだな。…愛しい番のためなら誠心誠意応える所存だ、好きなだけ善がっていいぞ』

 

 いったい自分はどんな顔をしているのだろう。その疑問を悟ってか、ゲッコウガはルチャブルを覗き込んで『オレの目を見ろ』と言ってきた。命じられるがままに見つめると、ゲッコウガの薄紅の目の中で、およそ自身だとは認めたくないほどに蕩けた表情を晒している鳥がいるのだった。己は覚えたての快楽に耽溺しているのだと、その事実を認めないわけにはいかなかった。

 催促、か。…その通りだ。今夜はこのくらいにしておこうと優等生気取りで切り上げるつもりなど、さらさらない。

 

『…もう少し手解きしてくれるか』

 

 問えば、ゲッコウガは『無論だ』と即答してくる。何なら朝まで付き合うぞ、と。

 

『言ったろう。好いた者に尽くすタイプだとな』

 

 平生のゲッコウガと比べれば、今の彼は幾分か荒っぽい。しかし、ルチャブルをリードするだけの余裕は忘れていない。だから安心していられる。全て委ねて、さらけ出してしまえる。未だ青いこの肉体を拓いてほしい。ふたりで官能を味わっていたい。

 ゲッコウガが身体を寄せてくる。ルチャブルの内腿あたりをかすめた彼の雄は元通りの臨戦態勢に入っていて、その立ち直りの早さが頼もしかった。続きを望んでいるのはルチャブルだけではない。それと気付くからこそ、鷹の口元には自然と微笑が浮かぶ。目を閉じて、束の間、重ね合う肌の熱に浸る。夜明けまでの時の長さが、ただ、嬉しかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。