ケロマツと出会ったその場で、イチゴは「ルチャブル」を強く感知した。ルチャブルが傍にいるときの心の安らぎを、確かに感じ取った。理屈を抜きに、目の前に現れた存在が「ケロマツの器にルチャブルの魂が入っているポケモン」であることを了知する。
そうか、…そうだよな。どうしてその可能性が頭に浮かばなかったのだろう。「己がルチャブルに成り代わった所為で、この世から本来のルチャブルそのものを消してしまった」とばかり決めつけて、絶望して。誤解したまま今の今まで生きてきたのだから、思い込みとはかくも恐ろしい。しかしながら、…この遠回りがあったからこそ再会が叶ったともいえ、結果オーライということでひとまず納得しておくとしようか。再会の感動に比べれば、全ては些末なことに過ぎない。
さて、改めて整理してみればなかなか面白い状況になっているじゃないか。イチゴは
――惚れたな。そうだろ?オレには分かるぞ。
こんなに美しい彩鷹だものなあ、当たり前だ。心の中では後方彼氏面である。蛙の器には、ルチャブルへの恋慕が染みこんでいるのだ。無論、骨の髄まで。そんな雄の身体が実物の鷹を前にしてどんな反応をするかなんて分かりきっている。さぞやイチゴが光り輝いて見えていることだろう、これは間違いない。で、肉体の反応に魂が引っ張られる形で(半ば強制的に)恋に落ちてくれたわけか。元来、ルチャブルはそう惚れっぽい
まだ昼食をとっていないし、「主人を助けてくれた」という強カードもある。言葉だけの礼では不足だからせめて食事でもどうだと誘えばいい。…すると、イチゴの思惑を読み取ったわけではなかろうが、女の方が先んじてケロマツにランチを提案したので、内心でガッツポーズを決める。どうしたパン娘。気が利いてるじゃねーか。…おいおいおい、勢い余って家族宣言まで?どこまでナイスアシストする気なんだ。いいぜ、今日のMVPはあんたにくれてやる。
サクラが家族の一員となってからは、楽しいばかりの毎日だった。
出会う以前の空白を埋めるように、ふたりで大いに語り合った。笑い合った。サクラがどんどん
肉体が魂に作用する。魂が肉体に作用する。イチゴは、そのどちらをも体験している。イチゴの見立てによれば、サクラの場合は肉体の方が魂よりやや先行している。肉体の方が影響力が大きいということだ。だから、サクラは出会って間もないイチゴに対してもすぐにクソでか感情を向けてきた。
しかし、サクラと暮らすうちに最も痛感したのは「中身の差が如実に出ている」ということだった。サクラが纏うのは知り尽くした自分の肉。見飽きた容貌。しかし結局、サクラはかつての己とは「似て非なるもの」だったのである。
思い起こせば、自身がケロマツだったときもゲコガシラだったときも、見るからに生意気な目つきをしていたはずで、事実、紛うことなき悪たれであった。だが、サクラは違う。作為のない、純粋な善性が表情にも所作にも表れていて、何というか、もう、只々爽やかな男前なのだ。所詮、イチゴは意図的にルチャブルの模倣をしていたに過ぎず、本物が現れたら敵うわけもなかった。案の定、サクラがパン屋で働くようになってからはすぐさまイケメン店員としての噂が町中を駆け巡り、興味津々の客共が押し寄せてくる始末。万事がこんな調子だったので、サクラがいよいよ最終進化を果たしてゲッコウガになったとき、周囲が大騒ぎしたのは言うまでもない。
東国の古典に、こんな男が出てくる。その輝くばかりに美しい姿から「光る君」と呼ばれてもてはやされた貴公子。まさしく、サクラはそれだった。イチゴですら…えぇ…オレここまで絶世だったっけ…と戸惑いを感じずにはいられなかった。あまりの眩い美貌を前に思わず目を細めてしまったほどなのだ。世界一美しいポケモンとされるミロカロスも彼に見惚れるのではあるまいか。町中の雌を堕として侍らせることなど造作もなかろう有り様だった。
大昔も大昔、まだ現役の忍蛙として御庭番に所属していた頃、
――だから、早い段階でサクラを自分の
出会ったときからイチゴに夢中で、可憐な花を愛でるように接してくれたサクラだが、いざ番になってからはそのスパダリっぷりにも更に磨きがかかった。パン屋の営業中でも、(接客はこなしつつ)イチゴを見つめて笑いかけてくる。サクラの持つ優しさを全てイチゴにつぎ込んでくれる。それはルチャブルからベタ惚れされているということでもあり、イチゴの心はとろんとろんに蕩けてしまうのだった。
サクラの表情からは「イチゴが愛しくて仕方ない」という恋慕が駄々洩れで、周囲の目などまるで気にしていない。今では客から「あら~(恵比須顔の絵文字)」と微笑ましく見守られている始末。番…とまでは見抜けていないかもしれないが、普段からぽやっとしているパン娘もさすがにイチゴとサクラの間にある「ただならぬ関係」を察したらしく、だからといって何か咎めてくることは一切なかった。「ふたりは仲良しさんなんだね」という一言を以て総括し、好きなようにさせてくれている。こうしてふたりの仲が公認となっていくにつれ、「うちのポケモンと縁組しませんか」「卵だけでも作らせてください」などと気色の悪いことを要求してくる客や、ふたりに言い寄ってくるポケモンもいなくなった。雌共にいたっては、イチゴにせよサクラにせよ互いの匂いをべったりと漂わせていたから、負け戦を悟るのも早かったことだろう。あからさまなイチャつきは最大の虫除けである。
「…じゃあ、いってきます。お留守番をよろしくね」
はにかみながら手を振り、女が出かけていく。例によって、あの青年からディナーに誘われたらしい。ディナー…とは言っても、ピケタウンでそう値の張る店はないし、トラットリアに毛の生えた程度の場所だろうが。なるべく早く帰ると言い残していった女だが、そんな気を遣う必要はない。食事と酒を楽しみ、ほどよく酔って、二次会の流れを作ってバーにでもいけばいい。モーテルになだれ込むならもっといい。とにかく、できるだけ長く家を空けておいてほしいというのがイチゴの本音である。そうすれば、サクラと官能的な一夜を堪能できるというものだ。
下心が一致していたのか、扉の施錠音がしたそばから、イチゴの胴にサクラの長い舌が巻きついてくる。背後を見遣れば、そこには熱っぽい眼差しを向けるサクラがいた。
『久しぶりだな、こういう時間は』
肉欲剥き出しにして「
ふたりきりになった部屋で、口付けを交わす。互いに番の関係を結んで以降、数えきれないほどキスしてきたおかげで、今ではふたり揃って上達し、情熱的なひとときを分かち合えている。当初は口の大きさや舌の長さが違い過ぎて口付けようにもうまくいかず、拙いばかりで、随分ともどかしい思いをしたものだ。イチゴとしては「ゲッコウガの肉体でキスをする」のであれば何千何万とやってきたことなので目を閉じていても容易くやってのけることができるのだが、「ルチャブルの肉体でキスをする」のは想像以上に勝手が違い、思いのほか手こずってしまった。今となっては笑い話である。
パン屋のポケモンであるからには朝が早く、日中は営業、…だから番らしい睦み合いをするなら主人が寝静まったあとになる。とはいえ、イチゴもサクラも翌日に仕事が控えている身。客商売である以上、寝不足で店に出るわけにもいかない。女の眠りを妨げることがないよう一旦部屋を出て、階段の踊り場で談笑し、おやすみの代わりにキスして、また部屋に戻る。その繰り返しだった。日頃から触れ合えない分、翌日が休みと確定している水曜の夜はふたりして
壁に背を預け、フローリングに腰をおろすサクラ。イチゴはその上にまたがって向かい合う。座位で密着し、互いの舌を絡ませる。そのうちに、ふとイチゴは口角を上げて『元気で何よりだ』と悪戯っぽくサクラを煽った。キスを済ませたばかりの序の口だというのに、反り立って性臭を撒き散らすサクラの性器がイチゴの太腿に触れていた。
挑発的な視線を投げかけたあと、イチゴは身を滑らせ、サクラの
……、デカいんだよな…。
イチゴ視点では、眼前のイチモツにはかなりの迫力があるように見える。ゲッコウガだった頃は大して巨根とも思わなかったのだが、…イチゴが小柄な分、余計に誇張されて見えるのかもしれない。生々しく臭い、赤黒く、蔦のように這う血管を浮かび上がらせ、怒張する雄の証。凶悪な見た目をしているこいつをルチャブルに否応なく突っ込んで犯しまくっていた
ちゅく。じゅぷ。イチゴの唾液とサクラの先走りがぐちゃぐちゃに混ざり合って、聞いているだけで赤面するような卑猥な水音が響く。
『ン…、…っは、……、…気持ちいいか?』
気持ちいいに決まっている。元は勝手知ったる己の肉体だ、イかせるのは容易である。はー…
イチゴにしてみれば、かつての自分に奉仕しているに等しく、特殊な自慰行為と言えなくもない。だが、サクラによる「自分がゲッコウガであったときには決して見せることのなかった表情や言動」が興味深くあるのは事実だし、あくまでもイチゴの認識は「ルチャブルを愛撫している」のであって、サクラの痴態はそれすなわちルチャブルの痴態であり、サクラの嬌声はルチャブルの嬌声である。見てくれこそゲッコウガだが、イチゴは常にその奥にいるルチャブルを捉えている。ルチャブルが悦んでくれるのなら、それでいい。
『口の中に出していいぞ。全部飲んでやるから』
艶然と笑って、イチゴは行為を再開する。ルチャブルの口淫なんてものをくらったらゲッコウガの陰茎なぞ
『ご、…ごめん!俺ッ、……、…苦しい思いをさせた…』
目に見えて狼狽えているサクラがかえって可愛らしく思えて、イチゴは思わず微笑を浮かべてしまう。『オレがしたくてやったんだ』とフォローした上で、 口元を拭いながらすり寄って甘えてみせると、堪りかねたように、サクラは両手で顔を覆ってしまった。『どうした?』と尋ねると、彼は『感無量だ…』と震える声を絞り出している。分かる~、オレだってイラマまでルチャブルに許容された日にはその場で昇天だわ。おまえが相手だからやってるんだぞ、愛い奴め。『上手に
射精した直後にもかかわらず既に固さを取り戻しているサクラの雄根は、まさに剛直と呼ぶに相応しい。次は、サクラの裏スジと自身の性器を擦り合わせることができるように位置取りをする。見た目には騎乗位に近いが、挿入を伴うことなく互いで互いの性器を擦りつけるだけなので、言うならば素股である。
――サクラと番になったあの日、イチゴはすぐさま交尾について考えを巡らせた。当時、サクラはまだゲコガシラだったが、性的接触に慣れさせ、快感を覚えさせ、更に「雄同士の交尾とはこういうものなのだ」と刷り込むなら早い方がいいと判断した。だから、イチゴが主導し、ハグもキスも初夜も早々に済ませている。特に、初夜のときは、サクラにきちんと説明した。オレは雄だが竿も玉もない。単孔なのだ、と。
イチゴ自身は、とうに自分が総排泄腔であることに気付いていた。だからといって、何がどうなるわけでもなかった。交尾の相手は生涯いないと思っていたためだ。ところが、今世でも
『オレの孔がどれほど小さいか身を以て分かっただろ?おまえがゲッコウガになったら、もう、ここに招いてやれなくなる。だから、今のうちにたらふく貪っておけよ』
そう言って、サクラを妖しく
それにしても、この身体の感度ときたら…ッ!!!
抱かれる度に、イチゴの視界は強烈な快楽によって白んだ。こんな現象、ゲッコウガのときに味わったことはなかったのに。サクラをその気にさせるため意図的に嬌声を出したこともあったが、実のところ、(不覚にも)本気でイった挙句ガチ媚びで甘ったるく鳴いてしまったのも一度や二度ではなかった(拷問の方がまだ耐えられると思う)。このオレがこんな声を…!とある種の敗北感を覚えなかったと言えば嘘になるが、ルチャブルからの甘い責め苦と思えばそれもまた一興。しっかし、…ろくに開発もしてない段階でこの高感度ってどうなってんだよ…どスケベすぎんだろ…。そりゃあ快楽責めで気絶するはずだよなあとかつてのルチャブルを振り返ることもしばしばだった。
『
閑話休題。回想終了。さあ、集中しようか。
互いの好いところに当たるよう角度を調整する。密着して体温を分け合いつつも、イチゴの下半身は蠱惑的な動きでグラインドを繰り返していく。この艶技をやるとイチゴ自身の孔周りも刺激されてトびそうになるのだが、自分の身体を使ってサクラを射精に導くのだという気概は忘れていない。ふたりの間から立ち昇る、むせかえるような雄の臭い。嗅ぐとイチゴの奥底が熱く疼く。理性が溶ける。ルチャブルとしての肉体がいやらしく猛って、性に貪欲になっていくのが分かる。
やがてサクラがぶるりと震えて白濁を吐き、そのぬめりが更に淫らな潤滑油となって、ふたりを高みへと押し上げていく。イったばかりで敏感になっているサクラの性器に、容赦なく、続けざまにイチゴの蜜孔を押し当てて扱く。『今夜も最後の一滴まで搾り取ってやる。覚悟しておけ』と言い放ってサクラの欲を搔き立ててやれば、愛しの
『おまえの弱り顔にはいつもそそられるな…』
色香をたっぷりと滴らせた声音。「これで即堕ちだろ」的な自信でサービスした甲斐もあり、当然のようにサクラは三度目の射精を果たすのだった。
***
窓を開けて換気しておくのはマナーだ。栗の花にも似た事後の匂いを夜風で掻き消して、あとは自分たちの身を清めておけばよし。時を忘れて互いを慰め合い、賢者タイムを挟み、こうして後処理を終えた今は深夜といって差し支えない時間帯なのだが、まだ女は帰宅してこない。サクラは探しにいってみようかと心配を始めたが、イチゴは「あっちもお楽しみ中ってことなんじゃねーの?」と思っているし、そう過保護になる必要もあるまい。もう少し様子をみようと提案して、彼を宥めておく。
その後、日付が変わろうかというときになって鍵の開く音がした。聞き慣れた足音が、階段を上ってくる。
「明かりがついてたから、もしやとは思ったけど…」
眉尻の下がったしょげた表情。「ごめんなさい」の謝辞。ただ、遅くなったことへの言い訳はなかった。聞こうとも思わない。イチゴはそう野暮ではないつもりである。
女は「もう寝なきゃね」と言って、ふたりを一度ぎゅっと抱きしめたあと、着替え、照明を消し、ベッドにもぐりこむ。無駄がない。他ならぬ本人が一番眠たかったようだ。
朝帰りでなかったことがむしろ意外だったが、どこか色っぽい場所に立ち寄ったのは間違いないようだ。抱きしめられた際、この家にはないボディソープの香りがしたし(だからシャワーも浴びずに寝たのだろう)、その香りでは誤魔化せない