嗚呼、腹が立つ。腹が立つ。腹が立つ!!!
眉間に皺を寄せ、怒りを隠しもせずに歩くフォクスライ。その視界に、偶然にもツツジの花が映る。濃緑の葉に映える花弁の鮮烈な赤は、否応なくルチャブルを想起させた。
よりにもよって。
フォクスライは荒々しく舌打ちをした後、苛立ちに任せて前脚を振ってはツツジを落とし、ぐちゃぐちゃになるまで踏みつけた。
本来ならば、私にも、とっくに相手が決まっているはずだったのに。とびきりの雄を手に入れるつもりだったのに。その「とびきりの雄」はルチャブルが盗っていってしまった。
どうして!!?
馬鹿の一つ覚えみたいに修業ばかりして、恥ずかしげもなく汗と土にまみれている、…そんな野暮ったい雌がどうして選ばれるの⁉
黙々と格闘の世界に浸って技を磨く彼女には、どこにも雌らしい可愛げがない。評判の雄とか、おいしい木の実とか、綺麗な花飾りの話、そうした雌たちのお喋りの輪に入ってこない。いつ見かけても砂埃を平然と羽根にくっつけている薄汚い鳥。だから、歯牙にもかけていなかった。
ルチャブルは、きっと、最後まで誰にも言い寄られることなく余るだろう。果てには、同じく余りものとして売れ残っていたうだつが上がらない雄とくっつくしかないのだ。
うふふ、それって、どんなに惨めな光景なのかしら。見ものね、と、思い描いては嗤っていたのだ。実際に、モモンの宴が始まるまでは。
今でも信じられない。
ルチャブルを番に望む雄が大勢いたことも、「これぞ上物」と誰しもが納得するような美丈夫がルチャブルを真っ先に口説きにかかったことも。
そして、あろうことか、…ルチャブル狙いの集団にいたポケモンの何体かが、ルチャブルと番になれないと判断した後に、「意気消沈しながら」「仕方なさそうに」求愛対象をフォクスライに変えて近付いてきたのだ。
こんな屈辱ってないわよ。
私がルチャブルのおこぼれをあてがわれるなんて!おかしい。おかしいわ、こんなの間違ってる。憤慨するあまり、フォクスライは宴の会場を飛び出してきてしまった。
格下だと思っていた相手の良縁が許せない。あのルチャブルに自分が嫉妬しているなんて認めたくない。…現実と向き合わない者は、プライドが傷つかなくて済むように事実を歪める。そうなると、あらぬ曲解がまかりとおるようになる。
――あの雌鷹。とんだ蓮っ葉だったわけね。格闘技に打ち込んでいるように見せておきながら、その実、鍛錬場に集まっていた雄たちにせっせと媚を売っていたんだわ。ニッチな需要に応えるための色仕掛けなんて容易かったでしょうね。なにせ、周りは雌に免疫のない脳筋ばかりなんだもの。
そう思わなければ、フォクスライは自尊心が保てない。「あの程度の雌がなぜ」と言う思いに囚われてしまい、その理由を何かしらこじつけないと怒り狂いそうになる。
ざわめきを耳にしたので、ふと足を止めた。音がした方を見遣り、視線を向けた先には、一群れの雄たちが
しかしながら、この時点で番がいないという点において、フォクスライとあれら下っ端たちは同じ境遇ということになる。
…いいえ、違う。同じわけない。私は誰もが羨望の眼差しを向ける美狐。選ぶ側。まだ相手を選んでいないだけ。あいつらは私と比べるのも烏滸がましい落ちこぼれよ。無価値だからそっぽを向かれたの。
反吐が出るわ。
見つかると厄介なので、フォクスライは踵を返す。さりとて向かう当てなどなく、不機嫌なままむやみにうろつく羽目になり、そのうちに新たに成立した番たちの嬌声なども聞こえてきて、フォクスライは叫びだしそうになった――まさにそのとき、偶然にも、遭遇したのだ。唾棄すべき例の雌鷹に。
フォクスライもルチャブルも、ふたりして立ち止まる。互いを見つめて様子を探り、黙したままとなる。
ルチャブルは、枝やら草やらを腕いっぱいに抱えていて、見るからに巣の材料を集めている最中だ。…相手から漂ってくるのは手折ったばかりの草木の青臭さだけ。雄の性臭がしない。バカめ、交尾よりも巣作りの方を優先したのか。
じゃあ、まだ「本当の番」になってないってことじゃない。
…そうよ。どうしてあなたがあんな優良株を引き当てるのよ。ちゃんとわきまえて身を引くべきだわ。自分なんて不相応だって思ってくれなくちゃ。
あなたにお似合いの雄は、他にいるわよ。
何事にも釣り合いというものがあるわ。そうでしょ?
フォクスライの口元に、歪んだ笑みが浮かんだ。
【 補足 】
「嫉妬の炎」やら「鬱憤晴らし」やらを覚えるフォクスライ。
高飛車な女王のように振舞い、取り巻きもいます(気の弱いポケモンを強引に従わせています)。彼女もまたモモンの宴には初参加で、以前から「早く参加したい。大勢の雄から注目を集めたい」と思い続けていました。理想の王子様と出会い、その彼をきっと虜にしてみせる。それが叶うだけの美しさがあると自負していたのです。悪事を働くことに躊躇いのない彼女には、どうやら乙女な部分もあるようです。だからといって、作中における行為が許されることは全くないのですが。