逢った直後、有無を言わせず抱きかかえたが抵抗されなかったし、こちらを待たせた負い目を感じているのか、もはや情交の場と化しているいつもの納戸に連れ込んだって文句の一つも言ってこなかった。
この部屋に入ってしまったからには、このあと何をされるか身に染みて分かっているはずだ。証拠に、やや俯き気味のルチャブルは、何かしら言いたいこともあろうがぐっと呑み込んで、羞恥に耐えている様子だった。
『…御主の問題は解決したのか』
緊張を解きたくて頬を撫でると、僅かな頷きが返ってくる。
『悪かったな。勝手に巻き込んで』
ブラッキーが言っていた内容に偽りがないのだとすれば、それは本当に喜ばしいことなのだけれど、至福の言葉は是非ともルチャブルの口から贈ってほしい。
言いやすいように誘導する思惑もあり、ゲッコウガは、敢えてふわりと笑ってみせた。
『拙者はこれといった協力ができなかったからな、…気がかりだったでござるよ』
和らげたこちらの雰囲気につられて、少しほっとしたように、ルチャブルの表情も柔らかくなった。悩みが氷解したことに対する安堵、気の緩み、ついでにこういうときには口もすべりやすくなる。
『今なら、何を悩んでいたのか訊いてもいいだろうか』
『…大したことじゃ、』
『いやいや、…数日にわたって思い煩ったことだ。御主も大変だったろう』
『別に、…ただ、おまえのことがどうしてこんなに好きなのか分からなかったから、ずっと、…考え、……て……』
ほんと。
そういうとこ。きれーに手のひらの上で転がされちゃうとこ、すき。
無防備・無意識・無自覚、それでいてこちらの心を根こそぎ奪っていくなんて、まったく、どうしてくれようか。可愛いが過ぎるぞルチャブル…そのうち己の心臓が破れて吐血するやもしれん。
無垢なままに心を開いて九割方語ったも同然だったが、途中で我に返った彼は、瞬く間に頬を染め上げていく。
羽がぶわりと広がって、全体がいっそう丸みを帯び、たいそう愛らしい。
『ち、…ちがう、』
ぱっと身体を離して、ルチャブルが遠ざかった。
『違う、今のは、』
あわあわと慌てふためく彼と対峙しつつも、ゲッコウガは、身に余る誉れを反芻していた。噛みしめていた。話が見えぬままに距離を置かれ、逢うこともできず、不安なままに過ごした数日間の憂鬱は、嘘のように消えていた。
今はひたすらに、押し殺すように、己に言い聞かせる。乱暴に抱いてはいけない、彼はまだそれほど行為に慣れていないのだからと、いやらしい時間を共有することはとっくの大前提で、自律の言葉を脳内で繰り返している。
ゲッコウガの中では、点として独立していた情報がようやっと線で繋がっていた。
ブラッキーからどこが好きなのか尋ねられ、咄嗟に答えることができなかったのだと仮定すれば大筋が見えてくる。ルチャブルの性格上、「言えなかった」という事実だけが殊更に膨らんだのではないか。「好きなのに」「ちゃんと言えなかったなんて」――最低だ、くらいは考えていてもおかしくない。誠実で真面目で融通が利かなくて、だから、自分の中で「言語化された答え」が用意できるまで考え続けてくれた数日間だったのだろう。
そして、釣り合いを心配し、一方的に甘やかされてはならぬと、…そうした不器用さが「触れるな」という発言ではなかったか。
だとしたら。
そうだとしたら、過剰な恋慕によって、きっと情動基盤の神経回路が焼き切れてしまう。
『…何が違う?』
問いかけて、にじり寄る。その分だけルチャブルは後ずさって、視線を彷徨わせてばかりだ。
焦るからこそ視野が狭まる。
たぶん、今の彼は、壁際に追いやられていることに気付いていない。
『拙者を想って過ごした時間であったのなら、これほど嬉しいことはないのに』
『…ッ、俺は、おまえのことなんて、…』
その先を、ルチャブルは黙す。
嘘でも「嫌い」だとは決して言わない、言えない、…その純粋な心根が愛しい。
もう、…これ以上は、こちらとて耐える必要もなかろう。
逃げ場がなくなった小鳥を引き寄せ、恥ずかしさのあまり熱い息を零している彼に、そっと口付けた。