※この作品はR-18です。

雨風奇譚   作:はたた

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幕間
破れた世界


 

 この世の裏側へようこそ、蛙くん。

 時間は流れず、空間も安定しない、まさに掟破りの世界さ。現に私から見た君は逆さまだし宙ぶらりんになっているわけだが、まあ、直に慣れる。互いにね。今は、このまま話を続けるとしよう。

 

 改めて自己紹介をしておくよ。

 私はギラティナ。一応、冥界を管理する立場にある者だ。普段、現場は優秀な部下に任せているんだが、彼らは今回も、忠実に任務をこなしてくれたようだね。こうして、君を私のもとへ寄越してくれたから。

 実は、予てから部下に頼んでおいたんだよ。次に君が冥界にやってきて、あ(・)る(・)条(・)件(・)を(・)満(・)た(・)し(・)た(・)場(・)合(・)、転生門をくぐらせる前に私のところへ連れてきてくれと。

 なぜか。

 単純にね、君に会ってみたかったんだ。話すこともあったし。

 君が私のところへ案内されたということは、つまり、君(・)は(・)今(・)回(・)も(・)当(・)た(・)り(・)く(・)じ(・)を(・)引(・)い(・)た(・)ん(・)だ(・)ね(・)。全く、その豪運には呆れるばかりだよ。これで何回目になるだろう。君が記憶を保持する権利を獲得するのは。

 そう、…君は、冥界関係者の中では少しばかり名の知られた存在なのさ。死ぬたびに冥界のくじに挑戦し、当たりを引き続け、その回数がトータル二桁に到達するというのは前代未聞なんだ。今回、またしても記録が更新されてしまったからこそ、…君に告知すべきことが生じてね。せっかくだから、以前から興味を持っていた君に直接会って話そうと思い立った次第なんだ。

 

 こうして君を眺めてみると、うん、なんて悍(おぞ)ましいんだろうね。君の保持してきた記憶のほとんどは、番(つがい)の鷹で占められている。愛という一言では到底片付けられない、禍々しいほどの執着の結晶――…何度転生を繰り返しても君の狂気にさらされ続ける鷹が哀れでならないよ。

 一つ、ずっと君が知りたがっていた答えを教えてやろうか。あの鷹はね、この冥界で一度もくじを引いたことはないよ。君とふたりで育んだ絆は、確かに本物だったろう。だが、その絆は現世でのみ輝くものであって、死後はおろか来世にまで引きずっていくものではないと彼はきちんと心得ていた。死んだ時点で彼にまつわる全ては終わり、次に生まれ変わることがあれば、それはもうかつての彼ではない。だから、彼は「今の自分とは異なる存在の中に前世の記憶を入れておく必要がない」と、…そういう潔さを持っていた。どうして君はかの鷹のように割り切れないんだろうね。尤も、終わりにできないがゆえの君であり、その常軌を逸した執念が当たりくじを引き寄せる豪運の糧となっているのだろうけれど。

 だが、ここで残念なお知らせだ。いよいよ君に告知しようと思う。

 それはね、君は今回も記憶を保持する権利を得たけれど、実質的に意味がないということなんだ。

 どういうことなのか順を追って説明するよ。

 想像してみてほしい。魂の中に、シャボン玉が浮かんでいる様を。そのシャボン玉の中には、君の一生涯の記憶が詰まっている。冥界の当たりくじを引くと、そのシャボン玉を壊すことなく来世に持ち越せるということだね。

 シャボン玉が一つ二つ程度なら許容範囲なんだが、…そもそもの話、魂は複数のシャボン玉を保持することを想定していない。だからすぐに限界がくる。君のように、二桁に到達する個数のシャボン玉なんて完全に埒外なのさ。

 ところが、今回も君は当たりくじを引き、記憶のシャボン玉を追加してしまった。謂わば、最後の藁ってやつだね。駱駝(ドンメル)の背を折る致命的な最後の一本だ。

 

 魂の中で密集を余儀なくされながらも辛うじて距離を保ち、独立して浮遊していたそれぞれのシャボン玉は、遂に過密を超え、接触し、割れて、中身を零すことになる。

 

 君はこれまで、本棚から自由に本を取り出すように、様々な世界線の記憶を思い出すことができていたはずだ。君はかつて御庭番の一員であり、ポケモンリーグで殿堂入りを果たしたチャンピオンであり、平穏な暮らしを謳歌したパン屋のポケモンであり…、他にも、君は数えきれないほどの多様な役割を担ってきた。どの世界線であろうと繰り返し繰り返し鷹を恋い慕い、死してなお思い出を持ち越し続けてきた。

 それも、今このとき、終わりを迎える。

 君が抱えてきた全ての記憶が混ざり合う。絵筆を洗い終わったあとのバケツに残る、汚らしい色水のように。もうそれぞれの色に分離できない。個別のエピソードを思い出すことは、二度とない。

 魂の中に前世の記憶がとどめられていても、それが「記憶の集合体が織りなす無秩序(カオス)」であるのなら、もはや対処の仕様がない。だって、記憶を選ぶことも取り出すこともできないのなら、何かを思い出すという行為そのものが不可能になるんだから。忘却と同意、ってこと。

 今後、また君が冥界にきて、くじを引き、当たりが出たとしても、持ち越すはずだった記憶は君の魂の中に巣食う混沌に吸い込まれていく。混ざって、はいお終い。これからは、何度当たりを引こうが事実上「無効」になるということだね。

 

 嗚呼、なんという憤怒の形相。ご理解いただけたようで何よりだよ。

 

 あとに残るのは、君の残穢。呪いの残滓。君は檻としての機能を強制され、これからも中に捕らえるべき相手を探し続けることになる。

 

 さあ、説明は以上だ。

 お待ちかね、転生の時間だよ。次の生を歩みにいっておいで。

 …やあやあ、聞くに堪えない罵詈雑言をよくもまあそこまで滑らかに口にのぼらせることができるものだ。私を面と向かって貶せる者はそういないからね、新鮮だな。

 

 果たして、君は、何一つ思い出せなくなっても、また鷹を愛するのか。己の檻に囲うべき相手だと気付けるのか。…私も物語の続きには関心があるんだ。引き続き、この異次元の空間から静観させてもらうよ。

 

 

 では、いってらっしゃい。Bon voyage!

 

 

 







― アイディアの提供および執筆の許可をくれた友人に、心からの感謝を ―


【 第九章に関する説明 】
◆形式
 ポケットモンスター×ゼルダ無双 厄災の黙示録( ゲコルチャ×イーガ団 )のクロスオーバー

◆舞台
 ハイラル:任天堂『ゼルダの伝説』における架空の王国

◆設定
・ハイラルに、ごく少数のポケモンが生息している状態。
 作中では「ポケモン」とは呼称されず、あくまで「魔物」の分類となる。
・里で共生できるような穏やかな気性のポケモンが多い。
・確認されているポケモンは五十種程度で、大型のポケモンはいない。太古には大型の種もいたが、他の強力な魔物(ライネルなど)に討たれ、淘汰された。生き延びたポケモンの小型~中型でとどまる体格が、結果として人と共に暮らしやすい要因となった。
・ポケモン側も、人の知恵や技術、戦術を借りることで生き残ろうという思惑があり、人と手を組むのは生存戦略の一環。
・分類は「魔物」であるものの、ポケモンは対魔物としての貴重な戦力となっている(ボコブリンを追い払ってもらうなど)。
・毛皮や内臓、角、鱗など身体の一部が重宝されるポケモンもいる(薬や武器、防具、特殊な衣類への利用)
・原作では進化するポケモンであるにも関わらず、ハイラルでは進化前・進化先が存在しない場合も(例:ギアルもギギギアルもおらず、ギギアルのみが作中世界に存在するなど)

[ 各一族で伝統的に養育しているポケモンの例 ]
(〇〇族なら△△が有名というような、傾向もはっきりとしている)
・ハイラル王家:ブリガロン(騎士として)
・シーカー族(カカリコ村):マフォクシー(そのほか、ギギアルなど研究・技術を想起させるポケモン)
・イーガ団:ゲッコウガ
・リ ト族:ウォーグル
・ゴロン族:タンドン(そのほか、マグカルゴなど火山地帯を彷彿とさせるポケモン)
・ゾーラ族:ナミイルカ
・ゲルド族:サダイジャ(そのほか、シンボラーなど:ゲルド族の集落を巡回してもらい、侵入者を防ぐ)

◆キャラクター
・朧(オボロ)
 ゲッコウガ。今回は「前世に関する記憶を保持しているのだが、実際には何も思い出せない」という複雑な状態になっている。

・蘇芳(スオウ)
 ルチャブル。今までと同様、前世に関する記憶を持たない。
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