「しゃーねーなあ!後ろの敵は俺様に任せろ!ちょこっとだけ本気を出してやるぜ!」
勇気凛々の英雄が道を切り拓く、その後押しをするなんざ柄じゃあねえんだがな。
面の下で不敵に笑うはイーガ団総長コーガ様その人である。王家への復讐心とガノン崇拝を原動力として成り立っていた組織が、長きに亘って対立していた者と手を組み、長きに亘って信奉していた者に反旗を翻す。そこに葛藤はなかった。戦いの末席に加えてもらうための土下座にしても、恥とは思わなかった。部下の弔い合戦ができるのならば、何だってよかったのだ。
いくら魔物をけしかけても、カースガノンを召喚しても、心を折ることなく乗り越えてくる同盟軍を前にして、アストルの顔も険しくなっていく一方だ。ざまァみさらせ似非占い師。
「ここまできたか…忌々しい奴らめ!! 私が貴様らを消す!…それが運命だ!!」
「こちとらなあ、そんな運命はクソくらえだってんで集まってんだよ」
面の中央に刻む叛逆のシンボルは、今やハイラル王家ではなく、眼前の怨敵に向けられている。
「赤き月の刻――そうさな、かの御方の魔力が満ちる刻だよな。…で?だから?調子に乗るのもここまでだぜ占い師さんよ。赤って色に関しちゃあな、俺様たちにも一家言あるんだ」
何を隠そうイーガ団が背負う色。
不吉の象徴ではない。赤は、イーガの者にとって、支えとなる色である。
「みんなで、かる~く遊んでやるよ。お得意の高みの見物がいつまで続くか見ものだな」
総長の煽りを皮切りに、戦闘が再開される。決して楽な道程ではない。だが、最終決戦に向けてハイラル平原に集結した精鋭たちは怯まない。大切なものを守るために鍛えてきた力だ。理不尽に抗うための力だ。逆境でこそ、鍛錬に裏打ちされた実力が、信念が、輝きを放つ。
「この私が…厄災ガノンに選ばれし私が…こんなところで負ける筈がないっ…!! …認めぬ。このような運命、認めぬぞ!」
「あ~らら、いつもの薄ら笑いが消えてるぜ。とうとうメッキが剥がれたなあ」
ほれ、見てみろよスッパ。
その発言に、そして、――いつの間にやら佇んでいる巨躯の男に、アストルは目を剥いた。
「なぜ、…貴様は…!!」
「俺様の右腕ってば超~最高だからよお。俺様が呼んだら地獄の底からだろうが何だろうが這い上がってくるんだなこれが」
「ッ…、…ならば再び地獄へ送り返すだけのこと!」
厄災ガノンよ!
アストルは取り乱しながらも声を張り上げる。
「今すぐにこやつらを食らい尽……」
「食らい尽くされるのはてめえだよ」
アストルが命令を終えぬうちに、総長が静かに言い渡す。奴の最期など、火を見るよりも明らかだった。憑依ガノンが持つ、生命体を瞬時に吸収するおぞましい異能を以て、もはや捨て駒と化したアストルは無惨にもその身を吸収されるという末路を辿る――…
「自身が生贄になるとは、…皮肉なものでござるな」
イーガ団員への所業を思い返したのだろう。スッパが吐き捨てるように呟く。
「こーゆーのを、悪因悪果ってんだ。ま、俺様だって人のこと言えねえけど!」
こきりと首を鳴らし、ぐるりと肩を回したあと、総長は印を結んだ。
禍々しく顕現した厄災ガノンと対峙しても、意外にも、心は凪いでいた。心酔していた相手と遂に相まみえたというのに、感動はない。今となってはもう、イーガ団としてではなく、ハイラルに生きる者として対峙している。
厄災とは、すなわち、打ち倒すべき敵なのだった。
かつては、確かに、自分たちが崇めるべき神であった。しかし今、信徒が己の手で神殺しをやるとなれば、イーガ団は今後、何を
――何って、コーガ様だよ。分かりきってるだろ。
「よーし、やってやるぜ!イーガ団一世一代の大勝負だ!」
スッパ!もう後れを取るんじゃねえぞ!
総長の檄に対して、万感の思いがこもった「御意」の一言が子飼いの部下から返ってくる。それは覚悟の宿る、力強い声音であった。
【 補足 】
・決戦後のイーガ団
①厄災後の混乱(多忙を極める復興作業、王政の立て直しなど)に乗じて王家に仇なす輩が出てくるので、イーガ団が裏で始末してやる。
②王家と和解したため、自分らの得意分野である汚れ仕事くらいは引き受けてやろう…というのは表向きの理由で、貸しを作るのが目的。ゼルダに対して阿漕なことはしないつもりだが、いつか「あのとき〇〇してやったんだから△△のことは融通利かせてくれよ」などと強請る材料は用意しておく。
③実は厄災後の混乱を利用したのはイーガ団も同様で、優秀な団員を密偵として王家に潜り込ませている。彼らは使用人や兵士に扮し、内部情報や貴族間の勢力図、機密を収集。その過程で地底の断片的な情報を掴み、コーガ様が嬉々として地底調査に乗り出すなど。
打倒ガノンで一時的に手を組み、助け合ったとはいえ、それで過去の所業が帳消しになるわけではないと王家もイーガ団も分かっている。だから、和解が成立しても、距離は置いたままで馴れ合ったりはしないのでは。個人的には、恩讐を超えた関係を新しく構築してほしいけれども、現実には、そう簡単にはいかないだろうなあ。
もしかしたら、年月が経つごとに、カリオストロの城みたいに「クラリス(公国)/伯爵(公国の暗部)」≒「ゼルダ(王家)/コーガ様(王家の暗部)」という関係になる可能性も?
しかし後年、代替わりして新たな王が即位したときに「王家の闇の歴史であるイーガ団を討つべし(内情を知りすぎているため)」とか何とか言われてちゃって、抹消の対象になるとか。再び対立するようなことがあってもいいかもしれない。当代のコーガ様が「歴史ってのは繰り返すもんだなあ」ってぼやきながら、王家からの刺客を部下たちと一緒に迎撃しそう。