団員同士の性交描写があるので「★」をつけております。
肝心のゲコルチャ初えっちは次話の予定です。
「他人の情事の見学」なんて大胆なことを提案した蘇芳であるが、言ったからには見切り発車ではないし、実のところ心当たりもあった。
あれは、イーガ団のアジトで世話になることが決まった頃。自分の寝床を作りたくて、適当な場所を探して回ったことがあった。色々とつまみ食いできることを魅力に感じて最終的には厨房の隅に腰を落ち着けることになるわけだが、それと決定するまでには随分と様々な場所を巡った。
当初は、なるべく静かな場所がいいと思っていた。それは自動的に、
目的を持って探してみれば、案外、条件に合う場所は複数あった。で、そのうちの一つで、偶然にも目撃してしまったんである。
団員の、男同士の、密やかなまぐわいを。
視認した瞬間、蘇芳は素早く身を翻したから行為の真っ最中だった彼らには気付かれていないはずだ。
あー、はいはい、そういうことですか。そんなふうに納得して、現場を離れた蘇芳である。ガン見する気なんてさらさらなかった。ただ「なるほど」と思っただけである。ニンゲンが大っぴらに交尾をしない生き物であることは知っていたし、その生態に照らし合わせれば、日常的に集団で生活を送り、しかも個室のないイーガ団の構成員たちが事に及ぼうとする場合、人目を忍ぶ必要があろう。蘇芳が探していた「人気のない場所」というのは、肉欲を持て余した恋人たちにも需要があったというわけだ。その後、数回、蘇芳は不本意ながら逢引の場に遭遇してしまって、…だから、諦めた。静かな場所、人気のない場所を寝床に定めることを。自分の寝床を空けているときに勝手におっぱじめられたらかなわんし、安らぎたい私的な
その当時の記憶が、まさか参考資料になる日がくるとは思わなかった。
あのとき巡った場所を一つ一つ辿っていけば、誰ぞ盛っているかもしれない。そう思って、今、蘇芳と朧は密かにアジト内をうろついている。
朧にはニンゲンのやり方を学ばせよう。それが蘇芳の目論見であった。ニンゲンは魔物のような頑健な肉体を持たないためか、合体に至る前に結構時間をかけて互いをほぐしている気がする。準備運動、みたいな(要は前戯である)。性器をいきなり相手のナカにブチ込むようなこともままある魔物のやり方ではなく、もう少し紳士的なやり方があると知れば、互いの肉体を傷つけずに済むだろう。蘇芳にせよ朧にせよ同性交尾が初めてなのだから、尚更だった。不慣れゆえの怪我を極力減らすには、技術の向上を焦るよりまず知識を得ることが重要であるからして。
イーガ団のアジトは、収納スペースを少しでも増やそうという工夫なのか壁面上部に簡易なウォールシェルフが数多く設置されており、他にも、天井付近には梁が張り巡らされている。つまり、ニンゲンたちの背丈よりはるかに高い場所に陣取って、身を潜めながら眼下の様子を観察するには適した構造になっているのだった。
俯瞰すれば、目当ての二人組を発見するのも容易だった。
周囲を警戒しながら、そそくさと移動する男たち。彼らは都合のいい死角に入り込むや否や、もどかしげな手つきで乱暴に個々の仮面を剥ぎ取り、性急に口付けを交わし始めた。いかにも、我慢からやっと解放されたという有り様で欲望が迸っていて、口付けの最中にも、互いの身体をまさぐり興奮を高め合っている。
『ちゃんと見てるか』と小声で隣の朧に確認をとれば、彼は頷きを一つ返すだけで、実に神妙な面持ちで男たちの行為をひたと見据えていた。秘め事を覗き見している背徳感や恥じらいを一切感じさせない横顔――…一つと漏らさず学び取ろうと「観察」している様は真面目そのものだが、それ以上に、朧の気迫を感じて、蘇芳はやや圧されてしまう。
そんなにシたいのか、交尾。
当たり前か。
当然、学んだあとは実践しよう、所作を再現しようということになるのだろうから、ここで怯んでいる場合ではない。蘇芳も気合を入れ直して、眼下の逢瀬に再度視線を向けた。
二人のうちの片割れが、壁に手をついて相方に尻を突き出している。「準備はしてきた」と切羽詰まった声で告げ、下半身の団装束を脱いで素肌を晒したあと、自分から尻たぶを割って挑発するように見せつけた(できればその準備とやらの手順も知りたかった)。
痴態に煽られたもう一人の方も忙しない動きで局部を勃たせながら、懐から取り出した小瓶の中身を指にまとわせ、その指で自身の愚息や相手の穴に液体を塗付し、あるいは穴の具合を確かめるように抽送を始める。小瓶の中の液体は、指につけても床に滴らなかったところから察するに、かなり粘度が高いものであるようだ。あれを塗ると摩擦が減ってスムーズに動きやすいのかもしれない。その対処法は、いつだったか、団員が動きの鈍い機械を分解し、いくつかの部品に油をさして修繕していたときのことを思い起こさせた。
ぬち、ぬち、と湿った音がして、指によって受け手の尻穴が拡張されていく。異物が出し入れされているにも関わらず、なされるがまま荒い息を吐いていた。痛みを堪えているような様子はない。興奮した獣にも似た息遣いだ。
やがて、攻め手は何度か予備動作のように竿を相手の尻に擦りつけたあと、狙いを定めて尻穴から体内に侵入し、一物を埋め込んでいく。しっかりと挿せているのだから、陰茎に芯が入っていることがよく分かった。
少し時間を置いて馴染ませたあと、攻め手は律動を開始する。二つの肉体がぶつかり合う音に、体液由来の卑猥で粘着質な水音も混じって、男たちの周りに淫靡な雰囲気が醸成されていく。このあたりは、蘇芳のイメージする交尾の動きそのままだった。
長丁場とならなかったのは、若い二人がそれだけ溜まっていた所為か。彼らはすぐに射精して、余韻に浸ることなくすぐに飛び散った精液を片付けた。濃厚な絡みは持続せず、あっさりとしたものだった。他者に見つかりにくい場所とはいえ、それでもアジト内であるからにはいつ誰が通りかかるか分からないし、端から男たちに時間をかける気はなかったらしい。「ほら、後処理」と言いながら、攻め手が受け手の中に放った白濁を掻き出している。受け手が拒んでいないところを見ると、必要な手順の一つか、マナーということになるのだろう(精液を残したままでは腹を下しやすくなるという理由を知らなくても、蘇芳は自己完結で済ませてしまう)。
『…粗方は把握した。行くぞ』
団員たちが身なりを整えて立ち去り、彼らの気配が完全に遠のいたことを確認してから蘇芳は朧に声をかけた。
基本が分かれば、応用もきく。自分たちに合うようなアレンジも追々可能になるはず。残る問題は、どちらが何を担うのかという役割分担だ。
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話に聞いて自分が想像していたものと随分違う。それが、朧の感想だった。想像と現実の乖離をなくせたのは「見学」のおかげ。百聞は一見に如かずということわざは真理である。
魔物同士の荒々しい交尾より、ニンゲンのそれを真似た方が互いに怪我も少なくて済むだろうと蘇芳から提案されたわけだが、概ね同意である。朧とて、蘇芳を傷つけたくはないし、できることなら気持ちいい思いをしてほしい。だから、少しでも多くを学び取れるよう「手本」を凝視した。彼らは興奮こそしていたが手慣れていて、全ての動作に無駄がなかったし、回数を重ねていることが容易に見て取れた。拙さのない動きを模倣すれば、行為においてもより安全だろう。次は、実際にアレを自分が試すことになる――…俄かに現実味を帯びた蘇芳との交尾に、朧は高揚する。
団員たちの秘め事を覗き見たあと、そのまま蘇芳の巣へと向かっているが、彼は到着したらすぐに始める気でいるのだろうか。胸を高鳴らせていると、不意に、蘇芳は振り返ってきた。
『おまえさ、…』
初めてなんだよな。
無論、交尾経験の有無について訊かれている。改めて確認されたので頷き返すと、蘇芳は何事か決意したように短く息をついた。
『おまえが選んでいい。…ほら、…身も蓋もない言い方になるが、その、…抱きたいのか抱かれたいのかっていう…』
『抱きたい』
蘇芳が言い終わらぬうちから光の速さで即答する。弾丸のように返答が飛んでくるとは思わなかったのか、少しだけ間があいた後、蘇芳は『おまえは本当に素直だな』と応じてくれた(すん…としていたようにも見えたが、おそらく気のせいだろう)。
『俺に突っ込みたいと』
『突っ込んで喘がせてみたい』
『……、そうか…』
蘇芳は適当な岩に腰かけて足を組み、一方の朧には『正座』と端的に命じてきた。
たとえ踏ん反り返ろうが横暴な言動を取ろうが蘇芳の美しさは少しも損なわれない(むしろ様になるまである)。時折顔を覗かせる蘇芳の尊大な一面に慣れっこの朧は、これまた素直に、素早く身を屈め、砂道の上で居住まいを正す。
『俺、結構自分の身体気に入ってんだよな。綺麗だろ』
『それはもう、目も眩むばかりでござる』
『バランスよく鍛えてきた自信もある』
『うむ。これほど均整のとれた体躯にはそうお目にかかれない』
『俺を目当てに観戦にきてた奴らだって大勢いた』
『然もありなん。何を隠そう拙者も御主に脳を焼かれたひとりでござるゆえ』
『で、だ。その俺の身体をおまえに抱かせてやるわけだが、どう思う』
『光栄です』
『腹から声出せや!蛙だろうが!』
『 光栄です!!! 』
『当然だ』
満足そうに蘇芳は一つ頷いて、朧に『合格』と言い渡した。
『…かつての嫁も子どもも知らない、誰にも晒してない、…何なら俺だってどうなってるのか分からないところ…、おまえだけが見れるんだぞ。よかったな』
フ、と笑う蘇芳がやけに蠱惑的で、色香が匂い立つほど。
朧は、己の心臓が爆裂せんばかりに振り幅激しく収縮したのを感じる。胸の中を、流星のように、甘やかな激痛が駆け抜けていった。規則正しさを忘れた鼓動は今やしちゃかちゃであるが、しかし、ここでくたばるわけにはいかない。せめて、蘇芳との交尾をやり遂げるそのときまでは。
『少しでも俺を不快に思わせたら遠慮なくおまえをぶん殴るし、二度と交尾しない。分かったか』
それはもう言を
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蘇芳は、他者からの注目を浴びたり、称賛されたりすることを好んでいる。更には、尽くされることだって大好きだ。尽くされ、甘やかされれば、自分の価値の高さを繰り返し確認できる。つまり、自分のことが好きだから、自分のことを好きになってくれる者を気に入る傾向にある。最終的に
その一方で、世話を焼くことだって嫌いではない蘇芳なのである。与えられた愛情に報いたい気持ちは、当然、ある。自分を大事にしてくれるから、お返しに、朧のことを大事にする。俺を満足させてみろと思う同等の熱量で、朧のことを満たしてやりたいと思って行動する。自分の働きかけで朧が幸せになれば、それは蘇芳の甲斐性の証明になる。愛情を示して番の心身をしっかりと自分に繋ぎとめておく――…蘇芳にとっての、雄の矜持だ。
尽くされたいし、尽くしたい。交尾に当てはめていうならば、快感の授受。
蘇芳は朧の希望により「抱かれる」立場となってしまい、であれば、自分の身体は傷の一つもつかぬよう朧から丁寧に扱われて然るべきであり、そして、朧の頑張りが認められた暁には、自分の身体で以て朧に奉仕せねばなるまいと考えている。
「雄同士で事に及ぶのは初めてだから」という言い訳を免罪符に使うつもりはない。初心者なりに誠意の示し方というものがあるし、互いに気持ちよくなれるよう思い遣るのが対等で健全な関係であるはずだから。
蘇芳にとっても、朧にとっても、「番と交尾してみたけれど別に気持ちよくなかった」という結果になるのは御免だった。蘇芳の沽券に関わる。ヤると決めたからにはとことんヤってヤる、と、蘇芳は勢い任せに決意を固め、まるで戦いに赴く武人がごとき勇ましい足取りで巣を目指していく。