※この作品はR-18です。

雨風奇譚   作:はたた

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【 概要 】
 以下のアニポケ2話分パロ
①XY編第76話 『 風とタマゴとオンバット! 』
②XY&Z編第17話『 サンダーとオンバーン! 怒りの雷撃!! 』


第二話:①

 天上の召し物は唯一色――白雲のかけらとて混じりけない、澄んだ真空色で染め抜かれている。

 

 本日は、お日柄もよく。

 ルチャブルは己が主人である姫君に付き添って、高名な寺院へと足を運んでいた。彼女は数日の間ここで世話になり、読経をして過ごすのだという。

 

 本堂に籠りきりになる前にと、主人は住職に勧められるがまま庭に出る。

 鑑賞するは見頃となった藤の花――花見を目的とする参拝者もいると話には聞いていたが、なるほど、眼前の光景は言葉を失うほどに美しい。

 例にもれず、姫君も感嘆を隠さない。証拠に、「ほう」と口にされた吐息の中には、「なんと見事な藤棚だろう」という称賛が込められている。

 

 濃淡の多様が織りなす紫の瀑布。

 咲き誇る花の下をくぐると仄かな芳香に包まれ、地に着かんと垂れ下がった柔らかな花弁が、ルチャブルの頬を撫でた。

 

 あいつは上から、この藤を眺めているのだろうか。

 

 此度の外出に同行しているものの索敵に徹して姿を見せていない、忍蛙を想う。

 俯瞰するつもりなら、今は本堂の屋根瓦をのぼっているところかもしれない。実に罰当たりだが、そういうことに頓着しないゲッコウガならやりかねないし、実際、合理を選ぶのが彼のやり方である。

 

 叶うことなら共に見たかったと、その面映ゆい本音は、胸の奥にしまい込む。

 

 少し離れたところでは、艶やかな吊るし飾りを愛でるように、主人が藤の花へ手を伸ばしている最中だった。仮にも護衛、彼女の元へ戻ろうとルチャブルは踵を返す。

 

 ひるがえされた羽にあわせて、不可視の勘が、揺れる。

 何気ない瞬間、…その背を引きとめた第六感があった。

 

『――…?』

 

 振り返った理由は、今でも分からない。しかしみとめた先の藤の老木の根元に、何かが転がっていた。その発見が全てだった。

 

 近寄り拾い上げたのは、つるりとすべらかな卵である。

 

 辺りを見回すが、巣と思しきものも、親らしき存在も見当たらない。

 かといって見つけてしまった以上は捨て置くことも躊躇われ、薄紫の殻に覆われたそれを、ひとまず姫君に届けることにした。

「いったい何処から」と問われたので素直に翼の先で指し示すと、彼女は面白そうにころころと笑った。

 

「樹齢にして数百年は経つ藤の巨木だ。…見なさい。根が、あんなに太く絡み合って地を這っている。まるで龍が寝そべっているようだと称されるその様に由来して、この藤は『臥龍の藤』と呼ばれているんだ。

 だから――ねえ、おまえ。もしや、これは龍の卵かもしれないぞ」

 

 着物の袖で覆うように、姫君は卵を胸元に抱えた。

 

「神聖な敷地内にあって、よもや悪しき化生は孵るまい。

 ここは私が預かろう。ありがたい経を聞かせてやるうちに産声を上げるやもしれぬ」

 

 そうして、そっと、彼女はルチャブルの方へ顔を寄せて囁いた。

 

「鳥だからとおまえに孵化を任せてしまうと、身動きが取れなくなろうよ。

 残念だが本堂は鳥獣の類にとって禁踏の間でもある、…私の修行が明けるまで、一時、任を解こう。花の君にはよろしく伝えておくれ」

 

 任務も卵も気にするな。惚れた相手と好きにしろ、と言われている。

 思わずルチャブルが頬を染めれば、「愛い奴め」と主人は麗しく微笑んだ。

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